P4GS   作:笠井裕二

102 / 103
続きです。


騒乱

 

・・・

 

ーーーそこに映し出された映像は、“アシュタロス事件”の時の映像であった。

もっとも、全ての記録と記憶は、ドクター・カオスらや各国政府、神魔族の手によって抹消、あるいは改ざんされているハズなので、本来ここで出回るのはあり得ない代物のハズなのであるが。

 

「はじめにお断りしておきますが、これは映画でもフィクションでも何でもありません。実際にこの世界に起こった記録映像です。もちろん、信じられないと思われるかもしれませんが、その内()()()と思いますよ。」

 

あいかわらず映像を流しながらも、只野の声が響いた。

一体どういう事であろうか?

 

「ど、どうしてこんな映像がっ・・・!?」

「・・・横島の様子から察するに、これは本当にあった事なんだな?」

「あ、ああ。俺は関係者、っつかモロに当事者だからな。」

「私達は知らんでござるよ?」

「っつか、私は、その時はまだ目覚めてなかったし。」

「タマモは“アシュタロス事件”後に転生したからな。知らないのも無理はない。シロ達に関しては、俺も詳しい事は知らんが、おそらくアシュタロス一派による“チャンネル遮断”の影響だろう。人狼の里は人間達の迫害を逃れる為に位相のズレた場所に存在してるから、その時の影響がモロに出たんじゃねぇかな?」

「なるほど・・・。」

「(まぁ、実際には長老達は把握してたんだろうが、シロは里脱走の前科があるからなぁ〜。あえてコイツには教えてなかった可能性も否定できん。)」

「(あぁ〜・・・。)」

「(いかにもありそうな話だな・・・。)」

 

横島達はシロを見ながら小声でそんな事を話していた。

 

シロは性格的に、良くも悪くも真っ直ぐであり、場合によっては猪突猛進、勝手に突っ走る可能性がある。

以前はそれが良い方向に作用したが、“アシュタロス事件”はハッキリ言って人狼が介入したとしても焼け石に水、どころか、最悪、貴重な女性の人狼を失う事にもなりかねない。

 

そんな訳で、シロには何も知らせずにいた可能性がある。

知れば彼女なら、まぁ、横島が言う通り“チャンネル遮断”の影響によって里を出られない可能性も高かったが、それをどうにかしようとして無茶をやらかす可能性もあるからである。

まぁ、それはともかく。

 

「けど、こんな映像があったとしても、大半の人間はこんなものはでっち上げだと思うハズよ。もちろん、陰謀論の好きそうな人間達はこぞって飛び付きそうなネタだけどね。」

「・・・確かに。そもそも彼らは、今日、初めて(おおやけ)に名乗りを上げた程度の組織でしかない。少なくとも、どうやってこんな映像を入手したのか、って話になるしな。場合によっては、むしろ非合法なのは自分達の方である、と宣伝してしまう事にもなりかねない。」

「しかし、彼ら、ものすごい自信でござるよ?何か勝算があるのではござらんか?」

「ふぅ〜む・・・。」

 

それが事実だったとしても、結局信じるか信じないかは個人の判断でしかない。

この映像にしても、当事者である横島は()()()()()からこそ事実だと分かった訳であるが、しかし他の者達、すなわちドクター・カオスらに記憶の改ざん、改変を施された者達は別だ。

 

普通の感覚の持ち主ならば、大抵は映画か何かと考えるのが普通であるし、仮にこれを信じる側の人間、要はタマモが言った通り、陰謀論なり社会に不満を持っている者達は乗っかるかもしれないが、そうした者達はあくまで少数派に過ぎないのである。

 

逆に彼らの主張する政治を普通の人々に取り戻す、という観点から見れば、これはある種の対立を、しかも“特権階級者”と“そうでない者達”という対立構造ではなく、“自分達を信じる者達”と“そうでない者達”とに分けるだけに過ぎないので、むしろマイナス要素にしかならない可能性もあった。

 

実際、この配信を見ている者達のコメント欄(チャット欄)も、大半は否定的、というか、一周回ってネタとして扱われる始末であった。

 

・・・しかし、その流れも、いつしか変化してくる。

 

〇〇 妄想乙。

✕✕ 陰謀論きたーーー!!!

△△ なん・・・だと・・・!?

□□ ワイトもそう思います。

## 私もね、うすうすそれは勘づいていましたよ。

 

◇◇ っつか冗談はともかく、流石に俺ら全員の記憶を改ざんするとか、絶対に無理だろ・・・。

▲▲ それな。

☆☆ ま、ぶっちゃけ、映画か何かって言われた方がまだ現実味のある話だな。

★★ ね。パフォーマンスとしては面白いけど。

〇〇 むしろ、新作の映画の宣伝なんじゃね?

✕✕ あ、新党結成、ってのも全部“釣り”、ってコト?

△△ ・・・ありえん話じゃないな・・・。

 

「あいかわらず、好き勝手言っとるなぁ〜。」

「ま、結局は他人事だからな。」

 

コメント欄(チャット欄)を眺めながら、横島と鳴上はそんな感想を言い合う。

ここら辺までなら、まぁ、ネタなのかはともかく、この話題に対して肯定的な意見、そして否定的な意見が入り混じって、ある意味健全な感じだった事だろう。

しかし、

 

〇〇 ち、ちょっと待ってくれっ!思い出したぞっ!!

✕✕ 思い…出した!

△△ いや、ネタはもういいから。

□□ い、いや、確かに何か鮮明に思い出せるぞ・・・?何だ、これ???

## あ、あぁぁぁぁぁぁぁーーー!!!

 

「な、何か、様子がおかしくなっているでござるよ?」

「どういう事だ・・・?」

 

その内、記憶を思い起こした事を示唆する様なチャットが増えていったのである。

 

もちろん、これも仕込みである事は否定出来ないが、続く只野の言葉に事態は一変していった。

 

「どうやら()()()()()方もチラホラ見受けられる様ですね。そう、あくまで皆さんに施されたのは“記憶の改ざん”でしかない。しかし、人間の脳機能というのは、そんなにヤワなものじゃないんですよ。ふとしたキッカケで蘇る可能性もありますし、“魂”に刻まれた記憶は消しようがない。まぁ、とは言えど、それこそ詳細な“当時の記録”でも見ない限り、そうなる可能性は極めて低い。故に、それらの記録は徹底的に削除された訳です。一部の“特権階級者”達によってね。では、何故そこまで大掛かりな仕掛けを講じたのか?答えは簡単です。都合が悪いからですよ。皆さんに自分達の失態を知られている、というのは、ね。こちらを御覧下さい。」

 

「ど、どういう事だっ!?」

「分からん・・・。分からん、が、俺も聞いた話だと、前世の記憶を持っていた、らしい。今の俺は思い出せんが、“魂に刻まれた記憶”、ってのは、何かのキッカケで思い起こされる事があるみたいだな・・・。」

 

横島が言っているのは、横島の前世である“高島”の記憶の事である。

 

以前、ヒャクメの調査(半分知的好奇心)に巻き込まれる形で平安時代にタイムスリップしてしまった美神と横島は、その時、自分自身の前世と邂逅していた。

美神はアシュタロスの部下の魔族、メフィストフェレスとしての前世を持ち、横島はメフィストと契約を交わした陰陽師の高島としての前世を持っていたのである。

 

んで、紆余曲折を経て、アシュタロスに殺されてしまった高島は、それをキッカケとして横島の中に眠っていた高島としての前世の記憶を思い出していたのである。

 

まぁその時は、横島自身死ぬ間際の事だった事もあり、その後生還を果たした時には綺麗さっぱりそれを忘れ去ってしまっていたが、この様に何かのキッカケで封印された記憶が蘇る事もあるのである。

 

そして“アシュタロス事件”自体は本当にあった事であり、あくまでドクター・カオスらが施したのは全人類の()()の改ざん・改変でしかない。

流石に起こった事はまるまる無かった事にはできなかったのである。

(もっとも、アシュタロスが利用しようとした“コスモプロセッサ”ならばそんな無茶も可能なのだが、“エネルギー結晶”が失われた今、これを使う事は不可能なのである。

まぁそもそも、“コスモプロセッサ”自体が崩壊しているのであるが、そこから掘り起こされた“宇宙の卵”によって、“()()改変”は無理でも、“()()改変”は可能と分かったので、今の形に落ち着いた訳である。)

 

つまりこちらも、“当時の記録”を見せられた事により、“封印された記憶”が呼び起こされてしまったのである。

もっとも、最初からその懸念や可能性は考えられていたので、先程も述べた通り、それらの記録や映像などは全て、抹消されたり改ざんされていたワケであるが。

 

しかしそれでも、()()()()()()()“普通の人々”ならばそれらを入手する事ができたワケある。

 

何故ならば、当然それらの抹消なり改ざんを、流石にドクター・カオス一人でできるワケではないからである。

となれば、そこに協力した人々が確実に存在し、多数の者達が関われば、その中から“内通者”が現れる事もある、かもしれないのである。

 

「思った以上に厄介な連中だな・・・。」

「ああ。所謂“スパイ”とかじゃなくて、最初からそこに存在してる奴らがそうなる、ってコトだからな。」

 

その事に思い至った横島と鳴上も、背中に薄ら寒いものを感じながらそう呟いた。

 

と、

 

「何だか知らんでござるが、すごい映像が流れているでござるよ?花火でごさるか?」

「ん・・・?」

 

一瞬、画面から目を逸らしていた横島達は、シロの発言で再び画面に注目する。

 

・・・そこには、核弾頭ミサイルが発射される映像が映し出されていた。

 

「え゛っ・・・!?」

「こ、これって・・・、ミサイルか・・・?」

「あ、ああ。しかも、ただのミサイルじゃねぇ。核弾頭を搭載した、れっきとした核弾頭ミサイルだ・・・。」

「い、いやいや。・・・え?この世界では、第三次世界大戦でもあったのか・・・?」

「似たようなもんかもしれんが、違う。が、確かに核弾頭ミサイルは発射されたな・・・。」

 

今度こそ、映画だろう、と思う者達が多い事だろう。

しかし、これも実際にこの世界で起こった事であった。

 

アシュタロスが、“美神令子暗殺計画”を牽制する為に、この世界を滅ぼせるだけの核弾頭ミサイルを強奪したのである。

これによって、美神の暗殺計画は破棄され、何としてでもアシュタロスを倒す必要ができた事で人類は(後ろ向きに)一致団結した訳である。

 

こうして、美神達GSチームは、アシュタロス討伐を目的として、彼が指し示した南極へと赴いた訳であった。

 

が、残念ながら奥の手を使ってもアシュタロスに対抗する事はできずに敗走。

だが、横島の機転によって、アシュタロスの頭の中を覗き見る事ができた訳であった。

 

これにより、美智恵を蝕んでいた妖毒の解毒方法を持ち帰り(ルシオラから作れる)、美神の中に眠っていた“エネルギー結晶”も奪われずに済んだ訳であるが、横島に出し抜かれたアシュタロスは、核弾頭ミサイルの発射スイッチを押してしまった訳であった。

 

そして、あわや人類滅亡か、思われた訳であるが、核弾頭ミサイルはパピリオの眷属が掌握していた事もあり、そのコースが各国ではなく南極に引き戻された結果、確かに核弾頭ミサイルは発射されたものの、各国に降り注ぐ事は回避された訳であった。

(ちなみに、南極にいた横島達も、結界のおかげで核弾頭ミサイルの被害に遭う事はなく無事であった。)

 

しかし、ここで重要なのは、先程のアシュタロス事件の映像とは違い、これらの事実を知っている者、関わった者は非常に少ない点である。

それらの記録映像が残っているだけでも驚きであるが、それを入手する事が可能となると、本当に“普通の人々”は何処にでも入り込んでいる、あるいは元々そこに存在していた人々がそれらに合流する、という恐ろしさが内在していた。

 

改めて横島と鳴上は、この政党、というか裏に存在する“普通の人々”という組織の恐ろしさ・厄介さを感じていたのであるが、当然ながら問題点はそこだけではなかった。

 

核弾頭ミサイルが使用されたものの、その被害が世界に影響を与えなかったのは不幸中の幸いではあるのだが、その前の時点、神や魔族すら手玉に取ったアシュタロス一派が関わったから、という免罪符はあるものの、“核弾頭ミサイル”の様な超重要な戦略兵器をアッサリ奪われている事が問題となるのである。

 

当然ながら、それらの管理責任はそれらを所有している国にある訳であるが、アッサリ奪われている以上、ちゃんと管理していたのかは甚だ疑問となるのである。

 

いや、もちろん先程も述べた通り、相手が悪過ぎた事も大きな要因とはなるのであるが、穿った見方をすれば、自国の利益を優先した結果、実際には裏取引をしてわざと核弾頭ミサイルをアシュタロス一派に売り渡したのでは、という疑念が生まれかれないし、少なくとも核保有国への風当たりが悪化する事は避けられない事態となる。

 

それは、当然ながら各国政府はなるべくなら隠しておきたい事であるから、様々な思惑が複雑に絡んだ結果、ドクター・カオスらの手による“記憶改変”が支持される大きな要因となっていたのであった。

 

しかしそれが、今まさに(おおやけ)にされてしまった訳である。

しかも、通常であれば、所謂“フェイクニュース”として切り捨てる事ができたかもしれないが、再三述べている通り、これは実際に起こった事であり、なおかつこの映像をキッカケとして、かなりの人数の記憶が呼び起こされる、蘇るという想定外の事態が起こっている。

 

これらの事から、この先起こり得る事はーーー。

 

「こりゃ、暴動が起きるぞ・・・。」

「そう、だな。少なくとも、各国政府や世界GS協会に対する信頼は地の底に落ちる。それに成り代わる形で、彼らがその受け皿になる、ってところか。しっかりと考えられた計画のようだな。」

「ああ、油断ならねぇ奴らだよ。・・・こうなってくると、このタイミングで美神さんが原因不明の昏睡状態になっているのも、何らかの意味があるようにも思えるな・・・。」

「・・・やはり彼らが裏で糸を引いている、と?」

「確証はねぇけど、多分な。西条も霊能者としての勘が働いたからこそ、わざわざ俺らにこの事を知らせたんだろうし。」

 

横島と鳴上は、神妙な顔をしてそう結論づける。

 

が、問題はこれからどうするか、である。

 

「で、これからどうする?」

「どうもこうもねぇよ。悪霊退治だとか、魔族とやり合うならともかく、政治的な話を一介の高校生である俺らには何とかする手段なんかねぇし。成り行きを見守る他ねぇだろ。」

「そう、だな・・・。」

 

歯がゆい気持ちを持ちつつも、それが現実であった。

 

客観的に見て、横島と鳴上は確かに“英雄”である。

かたや、魔神アシュタロスの野望を打ち砕いた煩悩魔人。

かたや、“マヨナカテレビ”に関する事を解決し、真の黒幕すら打ち砕いた鋼のシスコン番長。

 

規模や影響力はそれぞれ違うまでも、下手したら世界の破滅すらあり得た事象を解決した以上、“英雄”と呼ばれるにふさわしい功績をあげているのはまず間違いない。

 

しかし、あくまでそれは、ある意味()()を使って解決した、とも言い換えられるのである。

もちろんそれは、どちらも絶望的なほどの力の差があったので、それに打ち勝つ事自体奇跡に等しい事柄でもあるのだが。

 

つまり何が言いたいかと言うと、逆に言えば、彼らには政治的な事を解決する(すべ)が一切ないのである。

 

少なくとも、()()で“普通の人々”なり“OP党”を潰す事はできても、それはただの暴力でしかなく、むしろそれをして咎められるのは彼らの方でしかない。

 

そうなると、合法的、かつ理知的に解決すらならば、確実に何らかの権力なり、国家機関が必要であり、そしてそれらを動かす権限など、当然彼らにはないのである。

 

彼らの知り合いで、そうしたツテを持つ者と言えば、美智恵か西条くらいであろう。

(もちろん、神族やら魔族の知り合いもいるにはいるが、当然ながら人間の問題に力を貸すとは考えづらい。

まぁ、そこに神魔が関わっているとしたら話は別かもしれないが。)

 

そうしたワケで、現時点で彼らにできる事は、状況を見守る事だけ、なのであるーーー。

 

 

こうして、特大の火種が投下されたワケであるがーーー。

 

 

to be continued




誤字・脱字がありましたら御指摘頂けると幸いです。

後、私事で恐縮ですが、「小説家になろう」さんや「カクヨム」さんにて、「『英雄の因子』所持者の『異世界生活日記』」というオリジナル小説を執筆&投稿しておりますので、もしご興味おありでしたら、本作共々チェックして頂けると非常に嬉しく思います。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。