続きです。
世界side
桐条美鶴。
世界有数のホールディングカンパニー『桐条グループ』の現総帥である。
高校卒業後は傾いていた桐条グループの経営を立て直し、桐条本家の血筋ではなく自らの実力でまだ20代前半ながらも桐条グループの中心人物としてその辣腕を振るっている。
また、桐条がかつて行っていた表に出せない実験などの贖罪として、シャドウ関係の事件に秘密裏に関わって解決する『シャドウワーカー』を組織し、自ら前線に立って事件解決に尽力している、か。
彼女が、本日のボクの会談相手である。
まぁもっとも、向こうは多忙の身であるし、ボクや同じ“ペルソナ使い”とは言えど、悠くん達と面識がある訳ではない。
つまり本来ならば、いきなりやって来て、桐条グループの総帥に会わせてくれ、と言ったところで門前払いが関の山な訳だが、ま、そこはそれ、少しばかり裏技を使わせてもらう事とした。
・・・と。
「お待たせいたしました、久須美様。総帥がお会いになるそうです。こちらにどうぞ。」
「どうも。」
美人な秘書風の女性が、神妙な面持ちでボクにそう声を掛ける。
どうやら、第一関門は突破したようである。
ボクは軽い調子でそう答え、彼女の案内に従い席を立つのであったーーー。
「・・・あの大きな男の人、何者かしら?」
「ええ、そうね。いきなりやって来て、“総帥に会わせてくれ。”だなんて、普通ならアポなしであの総帥がわざわざ時間を作る必要もないでしょうに。」
「・・・きっと、あの手紙に何か書いてあったのよ。“見せてくれれば分かる。”だなんて、一体何が書いてあったのかしら?」
「さあ・・・?現総帥は清廉潔白な方だけど、やっぱり大企業の代表ともなると、隠しておきたい事の一つや二つはあるのかしらねぇ〜?」
「えぇ〜?それってスキャンダル?勘弁してよぉ〜。せっかく桐条グループは持ち直したばっかりだと言うのにさぁ〜。」
「例えばの話よ。けど、現総帥はお若い方だし、それも女の私から見ても美しい方だわ。男の人の一人や二人、いたとしても不思議な話じゃないわよねぇ〜?」
「えぇ〜!」
桐条グループ本社ビルの受付の女性が、そんな会話をヒソヒソとしていた。
先程、イザナギを迎えに来たのは、総帥付きの秘書であり、まさかいきなりやって来たイザナギと会うとは思っていなかった彼女達は、そんな憶測を話していたのである。
が・・・。
「おほん。貴女達?今は勤務時間中よ?」
「こ、これは主任。」
「あ、アハハハァ〜。な、何でもないですぅ〜。」
流石に企業の窓口たる受付嬢が、そんなところでそんな会話を交わしていたら外聞に関わる。
30そこそこくらいの女性の言葉に、慌てて折り目を正した。
「結構。貴女達は、ある意味桐条グループの顔よ?発言には気を付けなさい。・・・せめて、勤務時間中くらいは、ね。」
「は、はいっ!」
「すいませんでしたっ!!」
しっかり釘を差しながらも、割と親しみやすい微笑みで返した女性。
どうやら桐条グループは、かなり有能な女性社員が揃っている様であったーーー。
コンコン。
「どうぞ。」
「失礼します、桐条総帥。久須美様をお連れいたしました。」
「ありがとう。さあ、入って頂きなさい。」
「ハッ。どうぞ、お入り下さい。」
「失礼致します。」
通されたのは、面談室とか応接室、会議室のような場所ではなく、どうやら桐条美鶴個人の執務室のような場所であった。
ちなみに、いくらボクとは言えど、今は普段の軽い調子ではなく、それなりに“大人”としての態度で臨んでいる。
相手に失礼にならないように、入室時に会釈も忘れない。
が、その一瞬、本当に僅かながらではあるが、彼女のこちらを値踏みする視線をボクは感じていた。
ま、その反応の当然の事だろう。
彼女にとってはいきなりやって来て、しかも少々強引な手段を用いてきた相手だ。
一体どんなヤツなのか、と思ったとしても不思議な話ではない。
ただ、やはり彼女も女傑と呼ばれるほどの人物だ。
それは本当に僅かな時間であり、おそらく普通の人間では感じる事ができないだろう。
彼女はその若さで分かっているのだ。
どんな些細な事でも、相手に付け入る隙を与えてはいけない事を。
大企業を率いる者なら、それは当然持っていなければならない資質であろう。
その後、促されるまま、彼女の対面に腰掛けるボク。
すると、先程の秘書風の女性がお茶を持ってきて、ボクと彼女の前に置いた。
その後、
「失礼致します。」
と会釈して、その場を辞していった。
どうやら、彼女の方も、一対一で話し合うつもりのようだ。
「さて、まずは自己紹介を。私は久須美薙輔と言います。わざわざお時間を頂いてありがとうございます。それと、その為に少々強引な手段を用いた事を心より謝罪申し上げます。」
会話を切り出したのはボクの方からだった。
いや、別に
まさか彼女の方は、ボクがそう打って出てくるとは思っていなかったのか、若干困惑したように返事を返した。
「桐条美鶴です。どうやら、貴方とは腹の探り合いをするのは無意味のようだ。では、単刀直入にお聞きします。
もっとも、手紙と言うにはあまりにも短いメッセージをしたためたものでしかない。
そこには、こう記されていた。
【“シャドウ”と“ペルソナ”について。】
普通の人からしたら、何の事かよく分からない内容だろう。
いや、何かしらの隠語か暗号と判断するかもしれない。
ただ、知ってる者からしたら、実際にはそのものズバリのワードなのである。
そして、少なくとも彼女にとってそれは、絶対に見逃せないワードでもある筈だ。
「その前に・・・、わざわざ聞くまでもありませんが、こちらのセキュリティに何か問題は?」
「ありません。盗聴や盗撮などへの対策は万全ですし、いつもならば運用している監視カメラなどもOFFにさせています。つまり、この場での会話が外に漏れる事はありえません。」
「なるほど・・・。流石は女傑とうたわれる御方だ。では、お答えさせて頂きます。はじめに断っておきますが、私は貴女と事を構えるつもりはありません。もしかしたらこの内容が、貴女にとっては“脅し”のようにも映っているかもしれませんが、こちらにそうした意図はない事をこの場で明言しておきます。」
「はぁ・・・。」
彼女はやや当惑した表情を浮かべる。
それはそうだろう。
彼女からしたら、こちらの出方が一切分からないのだから。
「そうですね・・・。お話するに当たって、まずは私の
「正体、ですか?」
彼女はオウム返しに言葉を返した。
おそらく彼女は、常識的にこちらの素性を明らかにすると理解したのだろう。
しかし、残念ながらその判断は間違っていた。
ま、そもそもボクのような特殊な存在は中々いないので、彼女が予測できなかったのは無理もないのだが。
コクリと頷いた後、ボクはおもむろに人間形態からペルソナ形態に戻った。
「っ!!!???ま、まさか、ペ、ペルソナ、なのかっ!?」
「ええ、その通りです。」
ペルソナ使いでもある彼女は、一目でこちらの正体を察したようだ。
それに次いで、キョロキョロと周囲を伺う素振りを見せる。
「ああ、ご心配なく。こちらには私しかおりません。お探しの“ペルソナ使い”は同行していないのですよ。」
「何だとっ・・・!?」
彼女からしたら信じられない事だろう。
普通は、ペルソナとペルソナ使いはセットだからである。
ま、そもそもの話として、ボクのように好き勝手に動き回るペルソナの方が特殊なのだ。
「な、何がなんだか・・・。」
「返って混乱されてしまったかもしれませんね。では、改めてご説明させて頂きます。」
すぐに人間形態に戻ったボクがそう続けると、彼女は戸惑いながらもコクリと頷くのだったーーー。
「・・・そんな事があったのですか・・・。いえ、ニュースで『稲羽市連続逆さ吊殺人事件』の事は承知しておりましたが、まさかシャドウやペルソナが関与していたとは・・・。」
「それも無理はありませんよ。確かに貴女は、『シャドウワーカー』を秘密裏に組織していたようですが、これはあくまで桐条が関わった事などを念頭に置いている。更には、それは警視庁と共同の組織みたいですが、あくまで警視庁は東京都内が管轄です。流石に地方の事までは、とても手が回らないでしょうからね。」
「と、すると、そちらのペルソナ使いは、桐条とは全く無関係である、と?」
「直接的には、ね。実は、間接的には関係があるのですよ。」
すでに調べて知っていたが、やはり彼女は稲羽市の事件の事は、少なくとも表向きの事しか知らなかったようである。
これは当然だ。
ボクの独自の調査では、『シャドウワーカー』の人員は決して多くない。
もちろん、調査員などの人材はいるのだろうが、シャドウに対抗できるのはあくまでペルソナ使いだけである。
で、当然ながら、ペルソナ使いは、誰もが簡単に成れるようなものでもない。
実際、彼女の組織した『シャドウワーカー』に在籍しているペルソナ使いは、十名にも満たないみたいだしね。
その数の人員では、当たり前だが、とてもじゃないが、世界、どころか日本全土をカバーする事すら到底不可能である。
そこで彼女は発想を逆転させる。
少なくとも彼女の中では、シャドウやペルソナに関わる事=桐条関連である、という構図が出来上がっていたのだ。
だから、それらを中心に調査員達に情報収集などは任せ、実働が必要な時にだけ、ペルソナ使いを派遣する、というシステムにしたのである。
少なくとも彼女には、『シャドウワーカー』以外にも桐条グループを切り盛りする仕事がある。
故に、そちらにかかりきりになっている訳にも行かないのである。
で、そうなると、稲羽市のようなケースでは、彼女達は動かない。
正確には、シャドウやペルソナが関連している事に気付かないケースも出てくる訳だ。
故に、稲羽市のケースでは、『シャドウワーカー』が出張ってくる事もなかったのである。
「間接的に・・・?それはまた、どういった意味ですか?」
「詳しく説明すると長くなるので割愛しますが、その稲羽市の事件の黒幕は“イザナミノミコト”。つまりは、
「あっ・・・!!!」
「・・・もうお気付きのようですね。本来、ボクや彼女のような原初に近い存在は、すでに現世から姿を消しているものです。今は、なんだかんだ言っても人の世の時代ですからね。ですから、本来彼女が目覚める事もなかった、筈でした。ところがおよそ三年前、この世界にとてつもない存在が降臨しかける、という事態が起きた。」
「・・・ニュクスッ・・・!!!」
「そうです。もっとも、ギリシャ神話に語られる“ニュクス”は、原初の神の一柱に過ぎず、その役割も“夜の女神”、つまり“夜”の神格化した姿に過ぎない。しかし、貴女の知っているそれは、太古の地球に現れて、生命に“死”を与えた存在だ。」
「・・・同じく“死”を司る存在として、ニュクスの強烈な存在感によって、その“イザナミノミコト”が目覚める事態となった、と?」
「その通りです。もっとも、そちらのニュクスに関しては、貴女のお仲間の勇気ある行動によって、再び封じられる事となる。故に、この世界は今日まで存続する事ができた訳ですが・・・。」
「流石にその影響までは打ち消せなかった、と。」
「そうです。ニュクスの強烈な気配に当てられて目覚めたハニー、失礼、“イザナミノミコト”は、その“奇跡”を目撃すると共に、不可思議な願望なんかも同時に目撃する事となる。」
「・・・願望?」
「ええ。一種の“破滅願望”ですよ。」
「あっ・・・!!!」
「結構勘違いされがちなんですが、少なくとも
「・・・なるほど。それで、“マヨナカテレビ”、ですか・・・。」
「ええ。つまり彼女は彼女なりに人々の“願い”を見定めようとした。そして、それを叶えるべく事を起こした訳なんですよ。」
「そんな繋がりがあったのですか・・・。」
そうなのである。
そもそも、いきなり“イザナミノミコト”が目覚め、例の事件を起こすとは考えづらい。
であるならば、その“キッカケ”があった筈なのである。
その“キッカケ”が彼女が関わった事件だったのだ。
もちろん、稲羽市の事件は桐条とは直接的には無関係なので、結果的に彼女が気付かないのも無理はない話なのだが、そんな訳で間接的な関わりはあったのである。
「もちろん、悠くん。私の宿主ですが、が“イザナミノミコト”と接触した事で私、つまり“イザナギ”のペルソナに目覚めた事も当然無関係ではない。日本神話をご存知ならば、私と彼女に深い関わりがある事はお分かりでしょう。おそらく彼女自身も、自身の暴走を無意識に自覚しており、その防衛措置として、自身に対応できる人材を無作為に選び取っていたのでしょう。そして、悠くんを中心に仲間達が次々にペルソナ能力に目覚めた事によって、最終的には彼女を退け、その事件は一応解決を見ました。と、このように、こちらのペルソナ能力者達は、あなた方とは全く異なる経緯でペルソナ能力に目覚める事となったので、当然ながら桐条とは無関係なのです。が、その根底には桐条の影響もあります。だから、
「・・・・・・・・・。」
一通りの説明が済むと、彼女は険しい表情を浮かべていた。
まぁ、無理もない。
彼女は桐条の人間だからな。
自身の一族の起こした行動によって、数多の人々に良くない影響を与えた事には思うところがあるのだろう。
もちろん、彼女自身に落ち度はないし、それを罪と思う必要はないのだが、結果として彼女は、桐条がかつて行っていた表に出せない実験の贖罪として、こうして『シャドウワーカー』なる組織を立ち上げた経緯があるからな。
「ああ、もちろん、流石にこの件で貴女を責めるつもりはありません。そもそもの話として、『タルタロス』も『影時間』も“ニュクス”にしても、貴女がやった事ではないですしね。ですから、本日私がやって来たのは、その件に関する抗議の為ではありませんよ。いえ、むしろ“お願い”にうかがった次第なんです。」
「・・・そう言って頂けると若干救われます。ですが、やはり私も桐条の一員としては、一族のかつての暴走による責任はあると思っていますよ。」
「・・・お節介を申し上げますが、真面目さは美徳ともなりますが、時に欠点ともなりえますよ?まぁ、年寄りの戯言と受け流して頂いて結構なんですがね。」
「・・・肝に銘じておきます。」
しかし、個人的なお節介からボクは彼女にそう忠告する。
彼女はまだ若い。
しかも、いくら一族の犯した過ちだとしても、本来彼女が全てを背負う事ではない。
少なくとも、一人で抱え込むのはナンセンスだろう。
その真意が正しく伝われば良いのだが・・・。
ボクはそう思わずにはいられなかったーーー。
to be continued
誤字・脱字がありましたら御指摘頂けると幸いです。
後、私事で恐縮ですが、「小説家になろう」さんや「カクヨム」さんにて「『英雄の因子』所持者の『異世界生活日記』」というオリジナル小説を執筆&投稿しておりますので、もしご興味がおありでしたら、本作共々チェックして頂けると非常に嬉しく思います。
よろしくお願いいたします。
さて、P3から桐条美鶴さんの登場です。
P3とP4は、公式的にも直接的に繋がりのある世界線ですから、話の都合上出演させてみました。
ただ、イザナミが事件を起こした経緯は、当然独自解釈・独自設定ですので、その点はご了承下さい。
後、先に明言しておきますが、P3の主人公、キタローが本作に出演する事はありませんし、番長が彼を救う展開もありません。
そちらは、やはりエリザベスが奮闘するべき事案だと思いますしね。
ただ、その他のP3キャラは、今後の展開次第では出てくる、かも?