P4GS   作:笠井裕二

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続きです。


迷宮

 

・・・

 

女帝side

 

「ところで美神さん。鳴上さんの言っていた“シャドウ”と“ドッペルゲンガー”って、何か違いがあるんでしょーか?」

「何よ、おキヌちゃん。やぶからぼうに。」

 

私の蔵書から引っ張り出してきた本から顔を上げて、おキヌちゃんがそんな事を聞いてくる。

・・・なるほど、状況から見るに、知識の勉強中に“ドッペルゲンガー”の項目が出てきたのかな?

 

「鳴上さんの話では、自己の抑圧されていたもう一人の人格が表面化したのが“シャドウ”との事ですが、それって“ドッペルゲンガー”も同じですよね?」

「うぅ〜ん、結局は鳴上くんの話からの又聞きになるから断定はできないけど、確かに両者には共通する部分も多いわね。一般に“ドッペルゲンガー”を見た者は死が近いとされているわ。専門的に言えばこれは、元の肉体から切り離された霊体が何かしらの要素で実体化した為だから、当然っちゃ当然ね。霊体がなければ肉体はただの肉の塊だもの。ここら辺はおキヌちゃんの方が詳しいんじゃないかしら?」

「そうですね。魂がなければ肉体を維持できませんからね。なるほど。だから“ドッペルゲンガー”を見た者は死期が近い、と言われているんですね?」

「おそらくね。また、両者は元の人間と入れ替わろうとする性質もあるようね。前に“ドッペルゲンガー”に会った時に、例の『ドリアン・グレイの絵の具』のヤツね。あの時の“ドッペルゲンガー”もオリジナル本人に成り代わる事を望んでいたわね。他に悪さをするつもりはないとも言っていたけど、結局オリジナルにとっては死に直結する可能性があるから、全く害がないワケじゃない。」

「・・・。(ふむふむ)」

「けど、“シャドウ”の方はもっと直接的よ。鳴上くんの話だと、あえてオリジナル本人に自身の存在を否定させ、元の人格から独立を果たし、最終的にはオリジナル本人を殺そうとしてしまうもの。そうした意味では、“シャドウ”と“ドッペルゲンガー”は似て非なるモノ、なのかもしれないわね。」

「なるほどー。」

 

自分なりの分析を聞かせると、おキヌちゃんは納得の表情を浮かべていた。

 

「では、こちらの世界で“シャドウ”が発生する可能性はあるんですかね?少なくとも私は、今まで聞いた事がないのですが。」

「うぅ〜ん、それについては私も分からないわねー。イザナギさまの話じゃ、そもそもこっちの世界は霊的に活発らしいから、あえて精神世界とか異界でしか存在を維持できないような存在が発生する事自体が少ないのかもしれないわ。そうなる前に、現実に表面化するからね。だから、おキヌちゃんの言う通り、私でさえ“シャドウ”の話を聞いたのは鳴上くんが初めてに近いしねー。」

「ふむふむ。」

「そうした意味では、鳴上くんの世界だからこそ、“シャドウ”という存在が成り立つのかもしれないわね。ま、さっきも言った通り、ほとんどが憶測でしかないけど、ね。」

「なるほどなぁ〜。」

「もし仮に、こっちの世界で“シャドウ”が発生するとしたら、それはかなり特殊な状況なのかもしれないわねー。」

 

 

などという会話が美神の事務所で繰り広げられている事など露知らず、悠と横島らはまたしてもワケの分からない事態に巻き込まれていたのであったがーーー。

 

・・・

 

魔女side

 

「お待たせ致しましたぁ〜!ようやくラストオーダーが終わったんですよぉ〜、って、あれ・・・?」

 

パーティールームに締めのデザートを持って来た私が目にしたのは、ガランとした光景であった。

まるで、“神隠し”にでもあったかのように、明らかにそこに誰かいた痕跡ーーー、例えば、食べかけの食事が皿に置きっぱなしになっていたり、引き出したままのイスがそのままになっていたりなどの痕跡が見て取れる。

 

ってか、普通に考えれば、横島さん達がいたのだからそれも当たり前の話だ。

ただ、そこには誰の姿もなかったのである。

 

これが、一人、二人なら、トイレにでも行っているのかな?、と思うところだが、それが全員となると、これは明らかに異常事態だ。

 

私は、すぐに“窓”を確認する。

開け放たれたままの“窓”の外の景色は、普通に都内の様子を映していた。

 

「まさか、また・・・!?」

 

以前にも、横島さん達は私が繋いだ異世界へ飛び込んでしまい、空間が一時的に閉じてしまった事があった。

しかし、そこに違和感があった。

 

あの時は彼らはその危険性を知らなかったが、今回は違う。

すでに経験した事であるから、“窓の外に出る”、という事が何を意味するかは理解している筈である。

 

と、なれば、あえてそうしなければならない理由があった事になる。

私は冷静にそう判断していると、ふと、テーブルの上にキラリと光るモノの存在に気が付いた。

 

「これは・・・、横島さんの“文珠(もんじゅ)”、ですね・・・。」

 

ビー玉のような不思議な物質を手に取り、その表面に浮かび上がっていた『通』という“文字”を見て、私はすぐに察する。

・・・これは、横島さんが残した“通信手段”だ、と。

 

「もしもし、横島さん?聞こえますか・・・?」

『・・・魔鈴さん?よかった、気が付いてくれたんですね。』

 

私がそれに声をかけると、一拍遅れて横島さんの返事が返ってきた。

やはり、私の考えは当たっていたようだ。

 

「・・・一体何があったのですか?」

『すんません、実は俺らにもよく分からんのですよ。魔鈴さんが出て行った後、しばらくは何事もなく過ごしていたんですが、“窓”の外を眺めていたあいかちゃんが突然、“わ、わたしっ・・・!?”って言って外に飛び出していっちゃったんすよね。あまりに突然の事で、咄嗟に制止する暇もなかったっすよ。で、確かに俺らも“窓”の外に誰かいたのは確認できたんすけど、吹雪が凄くで誰かまでは分からなかったんすよね。ところが、鳴上が言うには、その人影はあいかちゃんそっくりの何者か、ヤツの言葉で言えば、“シャドウ”らしいって事で、鳴上のヤツもあいかちゃんを追い掛けるって言い始めたんすよ。あいかちゃんが外に出た影響で、すでに空間がおかしくなり始めていたし、鳴上の主張が正しければ、あいかちゃんの身が危ないって事で、俺らもあいかちゃんを追う事にしたんすね。ただ、やっぱり魔鈴さんに事情は説明しておくべきだろう、って事で、一応保険で文珠(もんじゅ)を一つ残しておいた、ってワケっす。』

「なるほど・・・。」

 

横島さんはまくし立てるように一気に説明する。

しかし、大体の要点は押さえていたので、私はこの場で何があったのかを大体把握していた。

 

もちろん色々と疑問もあるが、横島さん達の判断自体は間違っていないと私も思う。

あいかちゃんが飛び出してしまった以上、それで横島さん達だけ残って空間が閉じてしまったら、その間、あいかちゃんが危険に晒されるのは目に見えているからだ。

少なくとも、その“シャドウ”云々はともかく、彼女を排除しようとする存在に心当たりがあったからである。

 

それに加えて、事情を説明する為の“文珠(もんじゅ)”を残していってくれたのもありがたかった。

 

当然異空間に電波は届かないので、いくらスマホを所持していたとしても連絡の取りようがない。

その間、私が事情を全く分からなければ、こちらも対処のしようがないからである。

 

とりあえず、空間の再接続をするとしても、事情が分からず悶々としていたところを、横島さんの機転によってそれが回避されたのである。

知ってると知らないでは心の持ちようも変わってくる。

・・・なるほど、横島さんは以前にはなかった冷静な判断力を身に着けているようですね。

 

『とりあえず、こっちは多分何とでもなるんで心配しないで下さい。魔鈴さんは、お手数ですが空間の再接続の準備をお願いします。ま、最悪、俺の“文珠(もんじゅ)”で脱出する手もありますけど、成功するかどうかは五分五分ってトコっすからね。』

「分かりました。と、言っても、かなり時間がかかるとは思いますが・・・。」

『それについちゃ、特に問題ないっすよ。どうやら、あいかちゃんを探すだけでも、こっちもかなり時間がかかりそうっすからね。』

「何か問題でも?」

『どうやら、異空間が迷宮化してるみたいなんすよ。鳴上が言うには、これも“シャドウ”のしわざじゃねーか、って事っすが。』

「なるほど・・・。なら、そこまで急ぐ事もありませんね・・・。」

 

不幸中の幸いなのか何なのか・・・。

以前の時は、おキヌさんが残っていたので、私とおキヌさんの二人分の霊力を使う事で、比較的迅速に空間の再接続ができたが、今回は私一人だ。

 

しかも、以前に比べても横島さん達の霊力は格段に上がっているので、更に時間がかかる可能性が高かった。

 

しかし、横島さんの話だと、向こうは向こうであいかちゃんの捜索に時間がかかる可能性が高いとの事で、ある意味焦る必要がなかったのであった。

 

『あ、すんません。そろそろ通信も保ちそうにないっすね。そんな訳なんで、お手数お掛けしますが、よろしくお願いするっす。』

「分かりました。その、あいかちゃんの事、お願いしますね。」

「うっす!任せて下さい!!」

 

力強い横島さんの言葉に、私はホッしていた。

やはり、それなりに共に過ごしていたので、私もあいかちゃんに対する情が生まれていたからである。

 

今の横島さん達は、まだ年若いがGSとしてはトップ層と比べても遜色ないレベルだ。

彼らが揃っている以上、最悪の可能性は回避されている事が約束されたも同然なのである。

 

その後、通信が切れたのを確認すると、私は私で再接続の準備に取り掛かるのであったーーー。

 

・・・

 

番長side

 

「あっ・・・、切れちまった。」

「空間そのものが別次元ですからね。連絡が取れただけでも良しとしましょう。」

「だな。時間がなかった事もあって、全員で飛び込んじまったが、そうなると魔鈴さんが事情も分からず悶々としちまうからなー。」

 

横島の機転によって、とりあえず魔鈴さんに連絡が取れたようだ。

 

「じゃ、後は中村を救出するだけなんだが・・・。」

「一筋縄では行かないみたいですケンノー・・・。」

 

一難去ってまた一難。

俺達は目の前に広がる中華風の建物を前に、溜息を吐くのだった。

 

「こん中にあいかちゃんがおるんか?」

「・・・間違いない。ヒミコのサーチがそう指し示している。」

「なら間違いないな。しかし、何だってこんなところにこんな建物(モン)があるんだか・・・。」

「俺の経験的には、これはあいかの“シャドウ”が作り出したものだと思うが・・・、しかし、ここは“マヨナカテレビ”ではないからな。その原因までは分からない。」

「確かに謎だが、今はそれは後回しにしよう。あいかちゃんがヤベーかもしんねぇーだろ?だったら、こんなところで油売ってるヒマはねぇ〜だろ。」

 

横島の言葉に俺達は頷いた。

 

「ああ、そうだな。行こう。」

「はい。」「ああ。」「はいですケン。」

「あっと、ちょい待ち。その前に確認しておきたい事があるんだが、この中がどんな事になってんのか分からんが、多分俺の霊感的には戦闘になる可能性がかなり高いと思う。」

「何だ横島。ビビってんのか?」

「実はちょっとな・・・。」

 

雪之丞の挑発めいた言葉に、横島がおちゃらけてそう言った。

言った当の本人である雪之丞も、それにピートもタイガーも目を丸くする。

 

確かに、横島の話が本当なら、以前の彼がこういう場面で臆病風に吹かれたとしても不思議ではないのだが、しかし、今の彼は、俺の体感的にも間違いなく強者の部類に入る存在だ。

そんな彼が、今更そんな事を言い始めるとは思わなかったのだろう。

 

「ってのは半分冗談だが、もう半分は当たりだ。基本的に俺は、今回は戦闘には参加しないからそのつもりでいてくれ。」

「・・・何故だ?お前の実力は俺が一番よく分かってる。貴重な戦力が削られるのはあまり好ましくない状況だと思うが?」

「や、別に戦えない訳じゃないぞ?ただ、“文珠(もんじゅ)”の関係で、なるべくなら戦闘は避けたいんだ。」

「「「「???」」」」

「あぁ〜、つまりだなぁ〜。皆も知っての通り、実は“文珠(もんじゅ)”って誰でも使えるのよ。ただし、“使える”のと“使いこなせる”のは全く別物でな。少なくとも、もちろん皆の実力は俺も分かっているが、こん中なら俺以上に“文珠(もんじゅ)”を“使いこなせる”奴はいない。」

「そりゃそーだ。そもそもそれは、お前の能力だからな。」

「んで、これは万が一の事も考えての結論だが、もしかしたら魔鈴さんの再接続にかなりの時間を要する可能性がある。もちろん、なるべく無傷で助けるつもりだが、もしかしたらあいかちゃんを助けた時に、一刻を争う可能性がないワケじゃねぇ。となれば、さっさとこの場から脱出する為にも、切り札は取っておきたいんだよ。」

「それは・・・、もちろんそれでも構いませんが、それで戦わない、ってのは何だが結び付かない気もしますが・・・。」

「いやいや、“文珠(もんじゅ)”の複数制御って、実はめちゃくちゃ難易度が長けぇんだ。少なくとも、戦闘で傷付いていたり、疲労したりして集中力が散漫だと、上手く行くモンも上手く行かない可能性もあるからな。だから、今回は俺はなるべく戦闘には参加しない方向で行きたいワケよ。」

「なるほど・・・。確かに“帰り”の事にもまでは考えていませんでしたからね・・・。」「・・・。」「フム・・・。」

 

横島の説明に皆納得の表情を浮かべていた。

 

そういえば以前に聞いた事がある。

文珠(もんじゅ)”は同時に複数の文字を使うと応用範囲が劇的に広がるそうだ。

ただ、その分コントロールに相当な集中力と超人的な霊力が必要になる、とか。

 

すでに魔鈴さんに連絡は取れている状況だから、一応はこの空間から脱出する事は可能だとは思うが、確か横島の言う通り、状況によっては一刻も早くこの空間を脱出する必要に迫られる可能性もある。

 

そうなった時、横島を温存しておけば、魔鈴さんの再接続を待つ必要もない。

ま、運良く魔鈴さんが間に合う可能性もない事はないが、それは希望的観測になってしまうからな。

 

常に最悪のケースを想定して最善の手を打っておく。

そうしなければ、最悪、全滅する恐れもあるからだ。

それは、俺も“マヨナカテレビ”にて嫌と言うほど体験した事でもあった。

 

「そういう事なら了解した。横島は今回は待機という事で。」「ええ。」「だな。」「はいですケン。」

 

俺の発言に、ピート達も賛同した。

 

「ま、お前らなら、俺抜きでも全然問題ないだろ?戦闘に参加できん分、俺も精一杯応援してやっから。」

「・・・任せておけ。」

 

横島の何気ない鼓舞に、俺達は力強く頷く。

確かにこの中で最高戦力は横島で間違いないが、それでも皆そんな奴に並び立てるほどの逸材ばかりだからな。

 

突入前にある程度の方向性が決まり、俺達は改めて目の前の建物を見据えた。

 

「・・・行こう。必ずあいかを救出するぞ。」

「ええ!」

「任せろ。へへ、腕が鳴るぜっ・・・!」

「皆の足を引っ張らないように頑張りますケン!」

「頑張れよー。」

 

俺の号令に、皆で一斉に建物に突入するのだったーーー。

 

 

to be continued




誤字・脱字がありましたら御指摘頂けると幸いです。

後、私事で恐縮ですが、「小説家になろう」さんや「カクヨム」さんにて、「『英雄の因子』所持者の『異世界生活日記』」というオリジナル小説を執筆&投稿しておりますので、もしご興味がおありでしたら、本作共々チェックして頂けると非常に嬉しく思います。
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