続きです。
・・・
人には様々な側面があるものである。
他人から見れば、強そうな印象を持たれたとしても、実際には弱い部分が存在したり、またその逆も然り。
当たり前だ。
様々な葛藤などがあるからこそその人間の深みになる訳であるから、逆に言えば全く悩みがない、という事は、浅い人間であるか、あるいは狂信的に何かを信じている人間であるから、それはそれで怖い訳で。
まぁ、それはともかく。
中村あいかはちょっと浮世離れした感じの美少女である。
・・・少なくとも、周囲にはそういう印象を持たれている事であろう。
しかし、当然ながら彼女も年頃の娘であるから、そうした飄々とした態度とは裏腹に、その内面には、人には見せないような悩みもあったのであった。
具体的には彼女は、“青春”に対するある種の憧れと、将来に関する漠然とした不安と不満を抱えていたのであったーーー。
以前にも言及した通り、彼女の実家は『中華料理屋 愛屋』である。
家族が商売をしているとなると、当然ながら普通の家庭環境とは変わってくる。
具体的には、彼女は幼い頃より家業の手伝いを余儀なくされたのである。
もちろん、それが嫌という訳ではなかったが。
実際彼女の将来の夢は、料理人として家業を継ぐ事であった。
その為に、アニメ本編でもあったように、学校行事中であっても家業に勤しんでいたり、修行に邁進していたり、神出鬼没の出前っぷりを披露していたりもする。
だが・・・、だがしかし、それに対する不満はなかったとしても、やはり年頃の娘としてはチラッと思ったりもするのである。
もし・・・、もしも自分が他の
普通の
それを“羨ましい”と思ったとしても、何ら不思議な話ではないだろう。
もちろん、再三述べている通り、家業を継ぐのが嫌とか、普通でない事が本心から嫌ではないのだが、それでもやはり、ある種のコンプレックス、みたいなものは感じてしまうのであった。
ここら辺は、雪子とどこか似ている部分かもしれない。
ただ、それは彼女の中で処理できる程度の事柄でもあった。
・・・番長に出会うまでは、であるが。
普通ではない、という意味では、番長もあいかに負けず劣らず普通ではない環境だろう。
少なくとも、高校の途中で地方に編入してくるのは、結構珍しい事であろう。(まぁ、ここら辺は陽介も似たようなものではあるが)
しかし彼は、そんな事は意にも介さずに、全力で自分なりの“青春”を謳歌してみせた。
転校してすぐに友人を作り、部活動にも参加し、勉学にも励み、バイトにバンドにバイクと、これでもかと言うくらいありったけの“青春”を詰め込んだ高校生活を送っていたのである。
少なくともあいかには、そういう風に映ったのであった。
(もちろん、その傍らで、“ペルソナ使い”として“マヨナカテレビ”関連の事もやっていたのであるが)
それは、普通の“青春”を送る事を諦めかけていたあいかにとっては、衝撃と共に眩しく映った事だろう。
そして思ったのである。
自分にも、自分なりの“青春”というものを過ごす事ができるのではないか、とーーー。
長いようで、あっという間の1年が過ぎ去り、番長は都会へと戻っていった。
もちろん番長は、大変お世話になった『愛屋』やあいかにも挨拶を忘れてはいなかった。
陽介達ほどではないにしても、結構頻繁に顔を合わせていた事もあって、あいかにとっても番長との別れは淋しいものであった。
ただ、彼が体現していた“青春”を全力で謳歌する、という事が、彼女の心に残ったのであった。
番長との出会いと別れ、そして春となり高校最後の1年となる。
あいかはそれを契機に、今までとは違う行動を起こそうとしていたのであった。
あいかわらず実家の手伝いはしていたのだが、せっかくの高校生活を灰色の“青春”で終わらせる事はないと思ったのだろう。
友人と遊んだりと、それまであまり見られなかった光景が稲羽市で見られるようになったのであった。
ただ、これは運命のいたずらか、番長とイザナギの影響によって生じてしまったわずかな“綻び”、言わば時空の歪みに偶然にも彼女は落ちてしまったのである。
(もっとも、彼女が出前によって方々を駆け回る立場であったが故の偶然でもある。
不幸中の幸い、と言うのも何だが、あいか以外にそうした“神隠し”に遭遇した者は存在しなかった。)
当然ながら彼女も、これには当惑する。
いきなり見ず知らずの場所に飛ばされてしまったのだから、それも当然と言えば当然なのだが。
しかし幸いにも魔鈴に拾われた事で、生活に困る事はなかったのだが。
ただ一方で、帰る手立てがなく、その事が彼女の中に不安を募らせる事となったのである。
ここで一旦話は変わるのだが、以前にも言及した通り、GS世界は霊的に活発な世界であった。
一方で、あいかは番長達の友人ではあるが、しかし“マヨナカテレビ”関連の事に直接関わった訳ではない。
つまり当然ながら、彼女には“ペルソナ能力”は備わっていなかったのだが、偶然にも時空間を移動するという経験を経て、なおかつ魔鈴というGS世界でも珍しい“魔女”に関わった事などがキッカケとなったのか、急激に“霊能力”に目覚め始めていたのである。
もっとも、彼女にはその自覚はなかったのだが、知らず知らずの内に備わった“霊能力”が、番長と再会を果たした事で最悪の方向で開花してしまったのである。
御存知の通り、番長はあいかわらず普通ではない環境ながら、GS世界にやって来てからも、変わらず“青春”を謳歌していた。
友人に恵まれ(もちろん、横島らの事だ)、学校ではピートと人気を二分するほどの人気者であるし、それだけでなく、この世界においては非常に人気の高い職業である“GS資格”をすでに取得しているほどだ。
もちろん、あいかがそうした事実を知っている訳ではなかったのだが、再会した時に、やはり稲羽市時代と変わる事はなく、友人の輪の中で穏やかな表情を浮かべていた番長の姿がそこにはあったのである。
一方のあいかは、もちろん彼女の意思とは裏腹に巻き込まれた事もあるし、不幸中の幸いで魔鈴という良き出会いがあった事で路頭に迷う事もなかったのだが、元の世界に戻れないのではないか、という漠然とした不安もあったし、その環境柄、もはや“青春”どころではなかったのである。
故に、それは“嫉妬”だったのかもしれない。
自分が望んでも手に入れられないものを、番長はアッサリと手にしていた事に対する。
もっとも、その一方で、あいかにとっては番長との再会は安心感と共に、元の世界に戻る為の希望でもあったのだが。
あまりに眩い光は、時として影を濃くしてしまう。
そうした複雑な心境が、“霊能力”に目覚めかけていた事で、あいかの身に不可思議な現象を引き起こしてしまったのである。
それが、彼女の“ドッペルゲンガー”の“シャドウ化”であり、偶然にも番長らが“マヨナカテレビ”にて体験したような事が、あいかの身にも起こってしまったのであったーーー。
・・・
「・・・ここは・・・?」
不可思議な空間で目覚めたあいかは、周囲を見回しながらそう呟いた。
一瞬記憶が混濁するが、すぐに何があったのかを思い出していた。
「・・・そうだ、私は私そっくりの人影を追って、そして・・・。」
「あらぁ〜、お目覚めかしらぁ〜?」
「っ・・・!!??」
ふいに声をかけられて、あいかはビックリしながらそちらの方に目を向ける。
そこには、大事な部分くらいしか隠していない、という違いはあるまでも、あいかとそっくりな人物が蠱惑的な笑みを浮かべていたのである。
「わ、わたしっ・・・!?」
「そうよぉ〜。アナタはわたしで、わたしはアナタ。何だ、分かってるじゃなぁ〜い。」
「・・・。」
当然、あいかがその事を真に理解していた訳ではない。
ただ、単純に自分と同じ顔をした人物が立っていたから、反射的にそう言ったまでだ。
しかし、それがその“ドッペルゲンガー”の琴線に触れたのか、御満悦の表情で腕を振る。
すると、まるで映画館のスクリーンのようなものが出現し、とある映像を映して始めたのである。
「なら、わたしがこれから何をするかも、理解できるわよねぇ〜?」
「な、鳴上くんっ・・・!?」
そこに映し出されたのは、本当の映画などではなく、番長や横島らの姿であった。
そしてそれは、そんな彼らが、あいかがこれまで見た事のないような異形の存在と対峙する姿でもあった。
「な、何、これっ・・・!?」
「私達の可愛いペットよぉ〜。本当は、鳴上くんを彼らから分断させて、私とアナタで直々に八つ裂きにするつもりだったけどぉ〜、あのニヤケ面の男に阻止されちゃったからねぇ〜。だから、残念だけどペットにその役目を任せる事にしたわぁ〜。直接鳴上くんを殺せないのは残念なんだけどねぇ〜。」
「・・・えっ・・・?な、何を言っているのっ・・・???」
ナルカミクンヲ、コロス・・・?
言葉の意味は分かる。
しかし、それが理解できるかはまた別物であった。
少なくとも、あいかには番長を殺したい気持ちなどないからである。
しかし、あいかの“ドッペルゲンガー”は違った。
「あらぁ〜、嘘はダメよぉ〜。アナタにとって鳴上くんは、目障りな存在じゃなぁ〜い?」
「っ!!!???」
「だって、彼さえいなければ、“アナタの世界”が脅かされる事もなかったわぁ〜。アナタは何の疑問も感じずに、素直に家業を継ぐ事だけを考えていられたわぁ〜。けど、彼が現れて、彼が体現した“青春”なんてものに魅せられて、アナタは悩まなくても良い事で悩む事となったのよぉ〜?アナタにとって、これほど目障りな存在もいないんじゃなぁ〜い?」
「ち、ちがっ・・・、私はそんな事っ・・・!」
思わなかった、・・・といえば嘘になる。
少なくともあいかの“ドッペルゲンガー”が言う通り、番長との出会いは、良いか悪いかはともかく、あいかの価値観に大きな変化を与えたからである。
もちろん、番長が特別だった訳でもない。
少なくとも番長の半年前には、魔術師こと花村陽介が
古来より、閉鎖的な環境においては、
実際、イザナミもそれを見越して、生天目太郎、足立透、鳴上悠の“よそ者”3名に“マヨナカテレビ”にアクセスする力を与えている。(もっとも、ペルソナ能力に目覚めたのは彼女の力ではないが。)
そしてそれは、場合によっては良い事でもあり、悪い事でもある。
少なくとも、新たなる価値観を持ち込む者は、人によっては迷惑極まりない事であろう。
もちろん、保守的な考え方を否定するつもりはないが、人、というか生物の生存競争においては、常に新しい事だったり環境に適応出来なければ滅ぶだけの話だ。
そして、あいかにとって番長の来訪は、少なくとも彼女のこれまでの価値観を、良い意味でも悪い意味でも破壊した訳である。
もちろん、あいかにとってそれは、新しい視点が追加された訳であるか良い部分も存在したのだが、一方で“ドッペルゲンガー”の言う通り、彼女のこれまでの考え方を否定する事でもあった。
故に、心の奥底では、番長に対するある種の羨望と共に、またある種の嫉妬が彼女に生まれていた訳であった。
そして、チラッと思った事もあるのだ。
もし、番長がいなければ、“自分の世界”が壊れる事もなかったのではないか?、と。
まぁ、だからといって、番長を殺したいとか、そうした過激な発想にまで至っていた訳でもない。
それは、“ドッペルゲンガー”が勝手に拡大解釈した結果でしかないからである。
しかし、確かにあいか自身、そうした負の感情を持っていたのは事実であるから、本当は自分は、番長を排除したかったのではないか?、という疑念が浮かび上がってしまったのである。
故に、あいかは、“ドッペルゲンガー”の発言を強くは否定できなかったのであった。
「・・・まぁ、何でも良いわ。アナタがどれだけ否定しようとも、私は私で好きにやらせて貰うもの。アナタの、本当の心の、代弁者として、ね。」
「っ!!!」
あいかの“ドッペルゲンガー”は、感情の抜け落ちた表情であいかに興味が失せたのか、表示された映像の方に目を向ける。
それにつられて、あいかもそちらに目を向ける。
そこには、今まさに、絶賛ピンチに陥っている番長達が映し出されたのであったーーー。
to be continued
誤字・脱字がありましたら御指摘頂けると幸いです。
後、私事で恐縮ですが、「小説家になろう」さんや「カクヨム」さんにて、「『英雄の因子』所持者の『異世界生活日記』」というオリジナル小説を執筆&投稿しておりますので、もしご興味がおありでしたら、本作共々チェックして頂けると非常に嬉しく思います。