続きです。
今回から、少し箸休め的なお話。
陽介達が少しずつ前に進んでいる事+作者が妄想する彼らの今後の進路や未来などをおぼろげに描いています。
Step by Step 1
・・・
魔術師side
「なるほど、そんな事があったのかよ。」
『ああ。ところで、『愛屋』は大丈夫だったか?』
「とりあえずな。そっちはイザナギさまが何とか上手くやったんだろ。今は落ち着いてるぜ。一時は、商売どころじゃなかったみたいだからなー。」
『そりゃ、一人娘が突然行方不明になったなら当然だろうな・・・。』
「しかし、あいかちゃんが行方不明で焦ったぜ。まさか、相棒のいる世界に行っちまってたなんてよぉ〜。」
『俺もビックリしたよ。イザナギが言うには、俺達が時空を超えた影響だろう、って事だ。それと、彼女の神出鬼没っぷりが、変に絡み合った結果らしい。そっちの方は、すでに対処してるらしいから、あいか以外が“次元の狭間”に落ちる事はもうないみたいだがな。』
「そっか。なら安心だな。ま、正直言えば、俺も一度はそっちに行ってみてぇ気持ちもあんだがよ。」
『色々と落ち着いたら、俺もこっちの仲間達を陽介達にも紹介したい気持ちはあるな。』
俺は今は、相棒との定期的な報告会を電話で交わしていた。
元々何もなくても、共に一年間を過ごした大事な仲間である相棒とはこうして連絡を取り合うつもりだったが、今は相棒関連のあれこれもあって、定期的な情報の共有が必要だったからなー。
しかし、最近行方不明になっていたあいかちゃんが、まさか今相棒のいる世界に迷い込んじまってたなんてなぁ〜。
『・・・ところで少し話は変わるが、そっちは例の半グレ集団の後は、特に何事もないのか?』
「表向きはなー。イザナギさま曰く、色々と裏では状況が進行してるみてぇだぜ。ま、一介の高校生には分からん話だろうがな。」
『そうか・・・。あ、そういえば、例の交通事故の犯人が捕まったらしいって・・・。』
「ああ、堂島さんの奥さんの件だな。ああ、偶然にも、その半グレ集団のリーダー格のヤツがそうだったみてぇだ。もっとも、事件の当事者である堂島さんは捜査から外されたみたいだけど、一応これで、例のひき逃げ事件は決着がついた、って事だな。堂島さんも、最近は憑き物が落ちたみたいになってるぜ。」
『そうか・・・。良かったよ。』
聞いた話によると、目撃情報の少ないひき逃げ事件は迷宮入りする事も珍しくないらしい。
所謂“逃げ得”ってヤツだな。
しかし、こっちはイザナギさまやマリーちゃんの“カミサマチーム”に、りせっつー、情報収集のバケモンが存在した事で、堂島さんが長年追っていた犯人がアッサリと捕まった訳だ。
ま、あくまで偶然だったらしいけど、案外イザナギさまがそれを知ってて、あえて捕まるようにした節もあるな。
なんだかんだ、イザナギさまも、堂島さんや菜々子ちゃんに特別な感情を抱いてるのかもしれないな。
ま、相棒と共に一年間堂島家で過ごしたんだから、それも当然っちゃ当然だけどな。
「もちろん、それで奥さんが戻ってくる訳じゃねぇ〜けど、堂島さん的にはようやっと一区切りだろうし、菜々子ちゃんにも犯人が捕まったって報告できるし、万々歳だろ。それにヤツは、他の件でも色々やらかしてるみてぇだから、刑によっちゃ、一生出てこれねぇかもなー。」
『まぁ、冷たいようだがそれは自業自得だろう。むしろ、別の意味で新たなる被害者が出なくなるなら、捕まって良かったよ。』
「だな。」
・・・美姫ちゃんみたいな、な。
そうした意味では、その件じゃあんま活躍できなかったけど、少しはそれに貢献できた事を、俺は誇らしく感じていた。
それは、他の仲間達も同じだろう。
『・・・ところで、また話は変わるんだが、例の市来美姫さんとはどうなんだ?』
「な、なんだよ、藪から棒に。」
相棒の声色には、珍しく含みがあった。
『いや、別に他意はない。ただ、陽介の親友としては、小西先輩の事を吹っ切って、新たなる恋に邁進しているなら、これほど嬉しい事はないからな。』
「・・・。」///
お見通しかい。
っつか、他の連中がしゃべったんだな。
・・・もしかしたら、イザナギさま、って線もあるが。
確かに、俺の中では、美姫ちゃんの存在は日に日に大きくなっている。
初めは、それこそ小西先輩にちょっと似ていたから、ってのもあるんだけどな。
けど、今は、小西先輩の事は関係ない。
当たり前だけど、美姫ちゃんと小西先輩は全く別人だからな。
「・・・正直、まだ分からん。確かに、美姫ちゃんに好意を抱いてる事は事実だが、それがどういうモンになるのかは、俺自身もまだ分かんねぇんだ。」
『・・・ふむ。』
「けど、ま、正直二度と恋なんてできねぇかも、なんて思ってた時期もあるから、これがもし新たなる恋なら、どういう結果になるにせよ、今度はちゃんと相手にこの思いを伝えるよ。」
『そうか。陰ながら応援してるよ。それと、何か相談事があれば、いつでも連絡してくれ。』
「・・・サンキューな。」
相棒の心遣いを感じるぜ。
なんだかんだ言っても、俺達もちょっとずつ前に進んでるんだよなぁ〜。
・・・
戦車side
小西早紀と死に別れ、変な失恋のしかたをした陽介だが、新たなる出会いによって前向きな気持ちが芽生えていた頃、他の仲間達も少しずつ前に進んでいたのであった。
里中千枝も、その内の一人である。
元々彼女、正義感が強く、他者に頼られる事を誇りに感じていた女の子であった。
まぁ、それが変な方向にこじれた結果、“マヨナカテレビ”にて自身の影と遭遇。
雪子に対するほのかな嫉妬心と、ある種の優越感が形となり、彼女の内面を攻撃した。
と、言っても、これはあくまで雪子を本当に大切に思っていたからこそ発露した事でもあり、そして、彼女の所謂「自信のなさ」が現れた形でもある。
(彼女の中で)完璧な存在である雪子に比べ、人として女性として自分は劣っている、と思い込んでいた一方で、そんな雪子が自分を頼ってくる事に対して、ある種の優越感を感じていたのだ。
当たり前だが、そもそも女性としては全く別のタイプである二人の、どちらが優れている、などという事はない。
それに、自分自身にもそういう嫌な部分が存在する事を受け入れて、それでも親友である雪子を助けたい、という思いから彼女は自分自身の影をペルソナへと昇華した。
そして、番長や仲間達との交流を経て、その思いが更に拡大して、皆を助けたい、という思いが生まれ、彼女は警察官を志望するようになったのである。
と、ここまでがこれまでの経緯であるが、当然警察官になるには、気持ちだけではダメである。
警察官になるには「国家・地方」公務員どちらかの試験に合格する必要がある
千枝の場合は、おそらく地方公務員となるだろう。
そして、試験に合格したら、次は警察学校に入校する。
高卒の場合は、ここで10ヶ月過ごす事となる。
その後、晴れて警察官となり、まずは交番勤務から始まるのである。
つまりは、当面の彼女の目標は、警察官採用試験に合格する事なのである。
だが、残念ながら、彼女の学力はとても高いとは言えない状況だ。
(もっとも、これは他のペルソナ使いも同様なのだが、彼らは所謂“集合的無意識”と繋がっているので、それを上手く活用できれば、あるいは陽介同様に、以前とは比べ物にならない速度で学力を向上させる事も可能である。もちろん、本人のやる気次第ではあるが。)
そんなこんなで千枝は、仲間達との修行の傍らで、慣れない勉学に励んでいたのであるがーーー。
「あ〜ん、もぉ〜、訳わかんないよぉ〜!」
「・・・少し休憩しようか、千枝?」
「そうだねぇ〜・・・。」
机に突っ伏した千枝に苦笑いをしながら、雪子はそう提案していた。
先程も述べた通り、千枝は慣れない勉学に励んでいた。
しかし、当然ながら一人でやっても埒が明かないので、こうして雪子に家庭教師を依頼していたのであった。
「はい、千枝。」
「ありがとぉ〜。うう、いつもすまないねぇ〜。」
「それは言わない約束でしょ?」
「っつか、家庭教師も、無茶言ってゴメンねぇ〜。雪子は結局大学行かないのに・・・。」
「ううん、楽しいよ。それに、勉強は無駄にならないもん。ま、旅館の手伝いがあるから、今までみたいに頻繁には時間は取れないけど。」
流石は親友だけあって、勝手知ったる他人の家、ではないが、まるで自分の家かのようにお茶を雪子が差し出しながらそんな会話を交わす。
「ここままじゃ、私、採用試験に合格できないんじゃないかな?雪子はともかく、いつの間にか花村にすら勉強で置いてかれてる印象あるし。」
「そんな事ないよ。前にイザナギさまも言ってたんだけど、“ペルソナ使い”って、ある意味裏技が使えるんだって。人々の“集合的無意識”?、ってモノに繋がってるから、って。」
「へぇ〜、そうなんだぁ〜。」
「例えば私達は“マヨナカテレビ”で戦い抜いた訳だけど、これって“戦い方”ってモノをその“集合的無意識”から引き出していたからなんだって。そうじゃなきゃ、それこそ千枝や完二くんでもないのに、普通の高校生が“シャドウ”なんて化け物と戦える筈がないよね?」
「・・・考えてみれば確かに。」
以前にも言及した通り、“ペルソナ使い”は人々の“集合的無意識”と密接に繋がっているので、様々な知識・経験などを引き出す事が可能であった。
これによって、ただの高校生に過ぎない彼らが、“シャドウ”などという化け物と戦う事ができたのである。
もちろん、“ペルソナ能力”そのものも強力な武器ではあったが。
ただしこれは、あくまでも“他者”の知識や経験に過ぎない。
つまり、“戦い方”を知る事はできても、それがそのまま身に付く訳ではないのである。
結局のところ武術でも勉学でもそうであるが、自らのモノとする為には長い研鑽や反復練習が必要となる。
ただ、他の者達に比べて、“ペルソナ使い”は、そのコツを早く掴めるので、結果としていつの間にか“一般人”から“逸般人”になっていた、なんて事になるのであるが。
「ま、結局何が言いたいかと言うと、千枝もちゃんと成長してる、って事だよ。鳴上くんはちょっと特別だったけど、千枝と同じぐらいの学力だった花村くんも、いつの間にか大学合格が狙えるくらいにまで成長しているけど、これは花村くんが千枝より先に受験勉強を始めていたからだし。だから、焦る事ないし、このまま続けていけば、きっと合格できると思うよ。」
「・・・ありがと、雪子。ちょっと希望が見えてきたかも!」
思わず弱気になっていた千枝であったが、雪子の励ましでやる気が出てきたようである。
「よぉ〜し、じゃ、休憩終わり終わり!も一回、家庭教師よろしくね、雪子!」
「うん!」
そして、その勢いのまま、再び勉学に励むのであったーーー。
「・・・ところで雪子。さっきの私や完二くんはともかく、ってどういう事?」
「・・・えっ?」
「私は、ただのか弱い女子高生なんすけどっ!?なんで元々武闘派の完二くんと同列にあげたのかな?」
「あ〜、アハハハァ〜!」
「ごまかすなっー!」
と、思ったが、先程の会話で気になっていた部分を千枝が突っ込んだ事で、再び勉学の手が止まる。
ま、まぁ、それでもやはり彼女も前に進んでいるのであろう。
・・・
女教皇side
「わざわざありがとね、雪子。」
「ううん、いいよ。けど千枝、一人でも大丈夫?」
「大丈夫大丈夫!・・・多分。それに、旅館の手伝いもあって、あんまり時間も取れないでしょ?」
「・・・うん、まあね。」
「だったら、一人でも何とかしてみるよ。次に雪子に来てもらった時に、ビックリしてもらうんだ。」
「フフフ、楽しみにしてるね。じゃ、また。」
「うん、また。」
あれから数時間して、雪子は千枝の家庭教師を終え、帰路に着いていた。
天城雪子は、「天城屋旅館」の一人娘である。
見た目も美しく、大和撫子然とした物腰、知的でクールな印象から、男女問わず人気も高い。
いわば、「稲羽市のいいとこのお嬢様」であり、町では「旅館の女将の娘さん」として顔が知られているのである。
ただ、本人としては、その境遇を「籠の中の鳥」「敷かれたレール」といった風に考えており、生まれた環境から生き方、死に方まで自分で決めることができないのでは、との思いを抱えていたのであった。
誰にも漏らすことのできない鬱積した感情は、やがてテレビの世界で「お城に閉じ込められた逆ナン目指すお姫様」と自身の環境を皮肉る影として顕在化したのである。
もちろんこれは、他の影達と同様で、彼女の内面の一部を過剰に誇張した表現に過ぎない。
自分自身ではどうにもできないけれど、誰かに自身の環境を変えてほしい、との思いが、変な形になってしまっただけなのである。
結局のところ、それを受け入れて、雪子も影をペルソナに昇華する事ができた。
と、同時に、今まで不満を持ちながらも、何もしてこなかった自分自身を変えるべく、様々な事に奮闘し始めたのである。
「次期女将」という敷かれたレールを自ら外して新しいレールを敷こうと試みる彼女なりの生き方の模索していたのだが、やがて実家の旅館を切り盛りする人々、それを通じて知り合った人々、そうした触れ合いの中に今の自分が在ることに気付く。
最終的には、実家の旅館を通じて続く「人の絆」を受け継ぐ覚悟を決め、今度は自分自身の意志で次期女将として生きることを決意したのであった。
ある意味では、まわり道をしただけで、結局そういう結論に至った訳だから周囲にとっては無駄とも思える行為かもしれないが、しかしそこはそれ、ある種の儀式のようなモノであるし、彼女自身が納得できなければいずれ悪い形で噴出した可能性もあるので、これはこれで彼女にとっては必要なプロセスだったのであろう。
こうした訳もあって、高校卒業後は大学には進学せずに、次期女将として本格的に修行を開始する予定なのである。
まぁ、もっとも、彼女が思う以上に周囲の者達は彼女を大切に思っているので、見聞を広める上でも勉学に励む事は否定しないかもしれないし、ある意味では「女子大学生」かつ「次期女将」の二足の草鞋を履く彼女の存在は注目される要素ともなるので、旅館経営の為には良い結果となる可能性もあるが。
ま、それはともかく。
ただ、もちろん、彼女の中で変わった部分も存在している。
ご承知の通り、雪子は一見完璧に見えるが、その料理の腕は壊滅的である。
もちろん、女将が料理を振る舞う訳ではないが、しかし旅館経営をする以上、業務として色々な方面でも手伝いをする必要は出てくるだろう。
そんな訳もあって、彼女は実は料理の勉強を始めていたりする。
先生方は、母親に板前の皆さんだ。
彼女にとっては、ある意味では大学に行く以上に難しい難題かもしれないが、こうして新たなる目標ができた彼女は、やはり以前よりも輝いているように見える。
「さて、買い出しして戻らなくちゃ。」
そう呟く雪子も、確実に前に進んでいるのであったーーー。
誤字・脱字がありましたら御指摘頂けると幸いです。
後、私事で恐縮ですが、「小説家になろう」さんや「カクヨム」さんにて「『英雄の因子』所持者の『異世界生活日記』」というオリジナル小説を執筆&投稿しておりますので、もしご興味がおありでしたら、本作共々チェックして頂けると非常に嬉しく思います。
よろしくお願いいたします。