続きです。
・・・
運命side
「色々と骨を折って貰ってすまなかったな、白鐘。」
「いえ、お役に立てて光栄ですよ。」
沖奈署を出た白鐘直斗と堂島遼太郎はそんな会話を交わしていた。
二人は、例の半グレ集団の後処理の為に訪れていたのである。
事件自体はイザナギと陽介らの活躍によって素早く解決してはいるが、犯人達を逮捕すればそれで終わり、というのはあくまでテレビの中だけの事であり、現実的にはその後、起訴やら裁判の為の引き継ぎなどの手続きもあるのだ。
二人はその為に、沖奈署を訪れていたのであった。
(まぁ、こうした面倒な事柄が発生する事を見越して、イザナギはあえて堂島と直斗に仲介を頼んだ側面もあるのだが。)
そして今、それらが全て終わり、後は沖奈署と検察、裁判所に引き継がれる事となったのであった。
「一服、いいか?」
「ええ。」
堂島は直斗に一声かけた後、車に寄りかかり、タバコに火をつける。
ゆっくりと煙を吐き出した後、ややあって堂島はポツリと呟いた。
「・・・これで、ようやく一区切りつけるな。」
「・・・それは、奥様の事ですか?」
「ああ。もちろん、悠のヤツと色々あって、ひき逃げ事件に執着するのは止めたんだが、千里を引いた野郎を追うあまり、菜々子の事をぞんざいに扱ってるんじゃないか、ってな。痛いトコ突いてくるヤツだよ。」
「鳴上先輩らしいですね。」
「ああ。いつの間にか心の中に入り込んできやがる。ま、元々親戚ではあるんだが。」
「・・・。」
「んで、個人的な復讐の為じゃなく、あくまで
「イザナギさまが言うには、あくまで偶然だったらしいんですが、彼の在り方を鑑みれば、もしかしたら神様からのご褒美、だったのかもしれませんね。」
「ふ、あるいはそうかもな。これで千里にも良い報告ができる。もちろん、だからって千里が戻って来るワケじゃねぇけど、これでようやく前を向いて歩いていける様な気がするよ。」
「・・・。」
日本の交通事故の件数は年々減少傾向にある。
これは、様々な機関や団体による交通安全への啓発活動が実を結んだ結果でもあるし、もちろん自動車メーカーの技術力が上がった為でもある。
しかし一方で、ひき逃げ事件の件数は残念ながら増加傾向にあり、なおかつ、その半数ぐらいは未解決となっているのが現状であった。
つまり、“逃げ得”、というヤツである。
実際、現役の警察官である堂島が懸命に追い掛けたにも関わらず、犯人に繋がる手かがりが出て来なかった。
この様に、交通事故は一瞬の出来事であり、運良く目撃者や監視カメラなどの証拠が残っていないと、それらの犯人を検挙する事は困難を極めるのである。
もちろん、昨今ではドライブレコーダーの普及によって、以前よりも証拠が残る可能性はかなり高まっている訳でもあるが。
「しかし、その“ペルソナ能力”ってヤツか?、は、めちゃくちゃ便利な代物だな。まさか、俺が必死で追い掛けたにも関わらず、足取りを掴めなかった証拠なんかをアッサリと掴んじまうなんてよ。」
「いえ、あくまで凄いのは久慈川さんの能力です。もちろん、僕達も“困難に立ち向かう力”としての“ペルソナ能力”を有していますが、それは戦う力に特化していますからね。もっとも、“マヨナカテレビ”においては、これが非常に重要となります。“シャドウ”などの化け物には、まず話し合いが通用しませんから、それらを撃退する為の術となりますからね。しかし日常生活においては、あまり使うべき力ではありませんね。危険過ぎますし。そうした意味では、様々な応用に優れた久慈川さんの能力は、非常に利便性が高いですよね。」
「探偵のお前にとっちゃ、喉から手が出るほど欲しい力だな。」
「正直、羨ましいと感じる事もありますよ。彼女の能力があれば、様々な困難な事件に立ち向かう事が可能でしょうからね。しかし、それに慣れてしまったら、僕は僕の存在意義をまた見失ってしまうかもしれません。そうした意味では、僕ではなく久慈川さんにその能力が顕れたのは、なんだかんだで上手くバランスが取られているのかもしれませんね。」
「・・・ふむ。」
今更語るまでもないが、りせの能力は非常に有用な能力であった。
もちろん、番長達の能力がりせに劣っている訳ではない。
所謂“方向性”が違うのである。
ご承知の通り、番長達が“ペルソナ能力”に目覚めた場所は、当然ながら“マヨナカテレビ”内での事である。
そしてそこは、“シャドウ”という化け物達が跋扈する世界であった。
彼らには話し合いなど通用しない。
いきなり有無を言わさず襲いかかってくる存在であった。
故に、彼らに対抗する為には、所謂“戦う力”が必要となってくるのである。
それが、“ペルソナ”である。
これによって、番長達は、“マヨナカテレビ”での激闘を乗り越えたし、真の黒幕すら撃退できたのである。
しかし、それが現実世界ではどうか?
現実世界では、戦う事自体あまりない世界である。
もちろん、戦争やら犯罪などの暴力が存在する世界ではあるのでそうした力が必要となる場面もあるかもしれないが、普通に生活する分には、むしろ戦う力など危険でしかない。
実際、イザナギのあれこれのせいで番長の身に危険がなかったとしたら、イザナギは彼らの前に姿を現す事もなかったし、“ペルソナ能力”を現実世界でも行使可能である事実を伝えなかった事だろう。
何故ならば、それは逆に、彼らを犯罪者としてしまう可能性もあったからである。
もちろん、番長達が所謂善良寄りの人間であるはまず間違いないだろう。
しかし、仮に市来美姫とのあれこれのような、目の前で誰かが危険な目にあってたとして、その場面に番長達が遭遇したとしたら、善意から助ける為にも立ち向かうかもしれない。
そして、その時に、“ペルソナ能力”を使えると知っていたら、それを使ってしまう可能性もなきにしもらあずなのである。
当然ながら、“シャドウ”という化け物にすら通用した力が人間に向けられたら、それはひとたまりもないだろう。
そしてその結果、番長達が誰かを傷付けたとしたら、それは、理由はどうあれ立派な傷害であるから、現実的には犯罪者の仲間入りなのである。
つまり、危機に立ち向かう為には必要であった番長達の力であるが、現実世界では非常に使いにくい力でもあったのである。(もちろん、陽介が実践してみせたように、相手を直接傷付けないようにする方法もあるので、使い方次第によっては有用な事には変わりないが。)
一方のりせの能力は、戦う力に特化した番長達とは違い、支援、サポート向きの能力であった。
彼女の力は、相手の弱点を看破したり、その攻撃が有効かどうかを判断したり、時にはバフやデバフ、回復まで支援してくれる、非常にぶっ壊れた能力であった。
これだけでも非常に有用なのであるが、彼女の持つ能力の本質的なところは、つまり“情報”を操る能力に等しいところである。(そもそもの話として、本来相手の弱点などの情報は、色々と試行錯誤して理解していくものなのであるが、彼女の能力にはその必要がない。)
これは、彼女の能力が、ある意味では人々の集合的無意識との親和性が高いからであり、これによって、本来知り得ない情報などを瞬時に理解できる為であった。(インターネットをイメージしてもらえると分かり易いかもしれない。これに繋がっているものの情報は、世界中どこにいても閲覧可能となるが、人々の意識の集合体である集合的無意識には、つまり全世界全ての情報が集約されているに等しいので、それを掌握できれば、この世界で分からない事はないに等しいのである。もちろん、何の対策もなしにそれらに突っ込んでしまったら、その情報量の多さにあっという間に廃人と化す事請け合いであるが、りせの場合は、ペルソナであるヒミコを介してアクセスできるので、そのデメリットが“頭が痛い”程度で済む。)
情報の重要性など今更語るまでもない事だろう。
これがあれば、軍事からビジネスまで、様々なシーンで優位性を確保する事ができるからである。
そして、りせの関係者の中で、特にこの能力の恩恵を受けられるのが、捜査機関に属する堂島であり、探偵である直斗なのであった。(もちろん、これを悪用しようとすれば、それこそ犯罪や違法行為にも使えるが、幸いな事にりせにはそうした意思はないし、そもそも彼女にはそうした発想がない。まぁ、だからこそ彼女にこんな能力が発現したのかもしれないが。)
もっとも、その“出し方”には細心の注意が必要でもある。
先程も述べた通り、彼女の能力は、つまり有無を言わさず様々な情報を取得できてしまう訳だが、逆に言えば科学的根拠がある訳でもない。
もちろん、ペルソナ関連の事を知っていれば納得もできるだろうし、イザナギの説明からも、人々の集合的無意識から情報を取得している、という明確な理由が存在するので根拠があるにはあるが、世間一般からしたら、それはオカルト的な類の話でしかない。(もっとも、個人的に扱う分には、他者に説明する必要がないので何の問題もないのであるが。)
つまり、いきなりそんな事を話し始めたとしたら、まず間違いなく頭や精神を疑われるのである。
もちろん、そういう話ではなく、目撃情報や監視カメラから情報を得た、と言えばまだ納得できる話でもあるが、しかし、いくらアイドルとは言えど、あくまで一般人でしかない彼女が、そうした捜査をするのはあまりに不自然過ぎる。
つまりりせは、様々な情報を取得する事はできても、それを上手く活用できる立場にないのである。
しかしそこに、“探偵”である直斗が出てくれば、あら不思議、ただの妄言だった話が、重要な証拠へと早変わりするのである。
彼女の立場からすれば、様々な調査をしていても不自然ではないし、すでに警察とのパイプも持っているので、その話にも信頼性が出てくるのだ。
ただ、直斗自身も語っているが、りせの能力は彼女にとっては便利過ぎるので、これに依存してしまったとしたら、彼女は自分が探偵である存在意義を見失ってしまう恐れもあるだろう。
それに、りせにも負担が全くない訳ではないので、事情が事情だったので今回は仕方ないにしても、個人的に直斗がりせの能力に頼るつもりは毛頭ないようである。
「それがいいかもしれんな。便利な力は、人を豊かにしてくれる反面、人を不幸にする側面もあるからな。それこそ、交通事故みたいに、な。」
「・・・。」
車の利便性など今更語るまでもないだろう。
しかし、その反面、これによって交通事故が多発してしまった事実も無視してはいけないのである。
どんな事にもメリットとデメリットが存在する。
それを忘れてしまうと、不幸の連鎖が続いてしまう事となるかもしれないのである。
「さて、帰るか。」
「ええ。」
携帯灰皿にタバコをねじ込むと、遼太郎がそう言った。
直斗がそれに同意すると、二人は車に乗り込み、稲羽市に戻っていくのであったーーー。
・・・
歌姫side
人との出会いというのは不可思議なものである。
場合によってはこれは、自分に幸福をもたらしてくれるかもしれないし、自分を不幸にしてしまう事もあるからである。
夢を追い掛けるあまり、不幸な出会いを果たしてしまった市来美姫であったが、しかしそれがあった為に、陽介らと出会うキッカケとなった彼女は、ある意味では数奇な運命を辿っていると言っても過言ではないだろう。
半グレ集団とのあれこれを解決してもらい、無事に日常へと戻っていた彼女であったが、しかし彼女には、これまで見られなかった光景が広がっていたのであった。
バイトやレッスンの為に人付き合いの悪かった彼女であるが、友人達と雑談を交わす、という光景が見られるようになったのである。
「ほんとーっにごめんなさいっ!」
「え・・・?と、突然どうしたの?」
「いや、私が何気なく言った事で、市来さんを危険な事に巻き込まれたんでしょ?」
「ああ・・・。」
初手謝罪を受けた彼女は困惑するが、しかし事情を聞けば納得できた。
そう、目の前の彼女は、美姫が半グレ集団に関わるキッカケとなった者の取り巻きだったのである。
もちろん、彼女が悪い訳ではない。
美姫に半グレ集団を紹介したのは、彼女ではないのだから。
それに、彼女らくらいの普通の高校生ならば、半グレ集団の危険性をしっかりと認識していなくとも不思議な話ではない。
むしろ、簡単にお金を稼げるバイトを紹介してくれる人達、程度の認識でいる者も多い事だろう。
もちろん、世の中そんな甘いものではない。
当然ながら、簡単にお金が稼げるハズもないし、もし本当にそんなものがあるとしたら、それは所謂“裏”の仕事に他ならないからである。
故に、親切心からそういう話をしただけに過ぎない(と彼女は思っていた)のである。
もっとも、目の前のクラスメイトに悪気はなくとも、美姫がその見た目が良かった事を嫉妬したリーダー格の者が、彼女にそう意図的に吹き込んだ可能性も否定はできないのであるが。
「いいよ。これに関しては、私にも落ち度があったからね。簡単に稼げる仕事なんてない。そんな簡単な事に気付かなかったんだから。」
「市来さん・・・。」
サッパリとした表情で謝罪を受け入れた美姫に、目の前の女子高校生は彼女の顔をマジマジと見る。
「市来さん、どこか雰囲気変わった?何か、前より良い表情してるように見えるかも。」
「え?そ、そうかな?」
彼女に指摘に、多少思い当たる節のあった美姫は、若干戸惑ってしまった。
それにピンと来た彼女は、
「ねえねえ、市来さん。今日の放課後って時間ある?お詫びって訳じゃないけど、何かおごるよ。それに、市来さんとはゆっくりお話してみたかったし。」
「え・・・?」
「あ、もしかして忙しかった?」
「ううん、今日は特に予定はないけど・・・。」
例の半グレとのあれこれの結果、落ち着いたとは言えど、またバイトなんかで家を開けると家族に心配をかける。
そうした事で、今の美姫はレッスンやバイトをセーブしていたのであった。
故に、ある意味では高校生活に入って、初めてとも言える“暇”な状態であった。
「じゃあ行こうよ!」
「・・・うん!」
・・・
「市来さんって、本当に歌が上手いんだね!」
「美姫でいいよ。椎名さんこそ、凄く歌い慣れている感じ。」
「私も貴子でいいよ。まぁ、よくカラオケには来るからねー。」
二人がやって来たのはカラオケであった。
高校生が遊ぶような場所の定番と言えば定番であろう。
「けど、やっぱり歌手を目指しているだけあって、上手いとかそういう次元とは違う感じ。相当レッスンをしてるんだね。」
「まあね。まぁ、それで学校では付き合いが悪い、って言われるんだけど。」
「・・・何かゴメン。」
「貴子さんが謝る事じゃないよ。それも事実だしね。」
話してみれば、貴子は気の良い女の子だった。
ただ、問題なのは、彼女のグループのリーダー格である。
「けど、半グレってそんな事もやってたんだね・・・。」
「私も知らなかったよ。最初は、本当に割の良いバイト、って話だったし。けど、本当のところは、お金を払うなんて嘘っぱちだったし、それについて文句言ったら、いきなり襲われそうになったし。」
「こわっ!」
「けど、私は運が良かったよ。その時に助けてくれた人がいてね。しかも、その人の知り合いに刑事さんや探偵さんもいたりで、何か知らない内に、全て解決してたんだよね。」
「へぇ〜。」
実は美姫は、詳しい事を知らなかった。
まぁ、それも当然と言えば当然だ。
詳しい話をするにしても、どうしても“マヨナカテレビ”やペルソナ関連の話に言及しなければならないからである。
仮にそれらを話したとしても、おそらく彼女は陽介達に理解を示してくれた事だろうが、しかしその場合、今度は半グレどころか、もっとヤバい連中に狙われてしまう可能性もなきにしもあらずなのである。
世の中には知らなくても良い事があるものだ。
もちろん、知識が身を助ける事もあるだろうが、同時に余計な事を知っているせいで危険な目に遭う可能性もある。
それ故に、イザナギはあえて彼女に詳しい事情は説明しなかったのであった。
「・・・もしかしてだけど、その人が、美姫さんの雰囲気を変えた人、だったり・・・。」
「えっ・・・!?」
しかし、年頃の彼女達にとっては、そうした危険な話や小難しい話よりも、やはり色恋沙汰の方が気になる訳で。
貴子は、先程クラスで話していた時にピンと来ていたのである。
もしかしたら、美姫に意中の人ができたのではないか、と。
それ故に、お詫びと称して(もちろん、それも嘘ではないが)その辺りを詳しく聞きたいと思ったのであった。
美姫も美姫で、話の流れから陽介の事を思い浮かべていた事もあってか、大袈裟に慌ててしまう。
いや、まだ明確な恋心とは断定できる状態ではないが、しかし、確かに美姫は陽介に直接危機を救ってもらっていたし、何ならその後の事も含めて、多大な恩義は感じていた。
それに、生来の人当たりの良さや(まぁ、陽介の場合はそれが“チャラい”とこれまでは捉えられていたのだが、“マヨナカテレビ”でのあれこれや番長達との絆によって、良い意味で落ち着いていたのである。)、話しやすい事もあいまって、彼女自身、陽介を憎からず思っていた事は事実である。
「ち、違うよ。陽介くんとは、
「ふぅ〜ん、ヨウスケくん、って言うんだぁ〜。それに、
「あぅ・・・。」
語るに落ちるとはまさにこの事だろう。
焦りから、言わなくてもいい事を口走ってしまった美姫に、貴子は鋭いツッコミを入れる。
「ほれほれ、詳しく話してみんさい。」
「・・・うぅ。」
その後、カラオケそっちのけで二人は恋愛トークで盛り上がるのだったーーー。
to be continued
誤字・脱字がありましたら御指摘頂けると幸いです。
後、私事で恐縮ですが、「小説家になろう」さんや「カクヨム」さんにて「『英雄の因子』所持者の『異世界生活日記』」というオリジナル小説を執筆&投稿しておりますので、もしご興味がおありでしたら、本作共々チェックして頂けると非常に嬉しく思います。
よろしくお願いいたします。