続きです。
今回で幕間話は終わりです。
次回から、また番長sideの話に戻ります。
カランコロンッ!
「いらっしゃいませ。」
武弥の存在に苦虫を噛み潰したよう表情をしていたマスターであったが、そこはそれ、流石にプロであるから、お客さんの来店ににこやかに接していた。
「お二人様ですか?」
「はい!」
「では、よろしければそちらのテーブル席をお使い下さい。」
「分かりました!マリーちゃん、行こ。」
「ちょっ、菜々子。引っ張らないでよ。」
と、言いつつ、満更でもない様子の
そんな二人の仲よさげな様子に、荒んだ心が洗われるように感じるマスター。
一方、詩乃と美姫を待ちわびていた武弥は、待ち人でなかった事に落胆しながらも、しかし二人の存在に目線が奪われてしまう。
この好色な男が(まだ幼い菜々子はともかく)、控えめに言っても美人のカテゴリーに入るマリーの存在が気にならない訳もないからである。
普段なら、軽い感じで声をかけ、上手い事言いくるめて店の奥に連れ込み、後は拉致からのホテルからの薬物漬け&恥ずかしい写真を撮っていつものパターンに持ち込むところだが、残念な事に彼に先約があったので、泣く泣くそれを諦めて、引き続き詩乃と美姫を待つ事としたのである。
もっとも、チラチラと未練がましく二人を目線に追いつつ、であったがーーー。
一方のマリーと菜々子が、何故隣町である沖奈にやって来たかと言うと、
「美姫ちゃん、ビックリするかなぁ〜?」
「菜々子、強引すぎ。それに美姫に会いに来たんなら、ちゃんと連絡を取っておかないと。」
「それじゃあサプライズにならないよぉ〜!」
「それはそうだけど・・・。美姫にだって用事があるかもしれないじゃん。」
「あっ・・・!」
そうなのだ。
例の事件の折に、一時的に堂島家にて保護される事となった美姫は、そこでマリーと菜々子と仲良しになったのである。
その後、別れ際に再び遊ぶ約束をした彼女達は、特に菜々子がその事に乗り気であり、こうして会いに来てしまったのであった。
もちろん、事前にしっかりと約束を取り付ける必要があるのだが(当然、美姫にも色々と都合があるからである)、しかし、しっかりとしていてもまだ小学生低学年てある菜々子は、“いきなり来て、美姫をビックリさせてやろう”という考えが先行した結果、その事を完全に失念していたのである。
もっとも、そこはそれ、まがりなりにも“カミサマ”の一柱であるマリーが、今日ここに、美姫が来る事を謎パワーで察知していたのだが。
それ故に、一応は菜々子の言うサプライズは成功する事となるのだが、しかし、この事によって、詩乃らの目論見が完全に外される事となったのである。
〈・・・ミキ?・・美姫!?〉
一方、二人の会話を聞くともなしに聞いていた武弥は、“美姫”というワードに反応する。
当然ながら、詩乃から事前にターゲットの名前くらいは聞いておいたからである。
そして、この二人連れが、ターゲットの知り合いである事を察する。
武弥は内心ほくそ笑んだ。
本来のターゲットは美姫であるが、この二人連れが美姫の知り合いならば、そのまま計画を実行すると下手に騒がれてしまう恐れもある。
ならば、この二人もついでに今回の計画に巻き込んでしまおう、という考えを思い付いたのだ。
普通ならば、難易度が上がった事に対して焦るところであるが、武弥の中では気になっていた美人も思わぬ形で“味見”できる可能性にむしろ興奮していた。
言うなればの、一粒で二度美味しい、という訳である。
そうと決まれば話は早い。
武弥はワクワクしながら、詩乃と美姫の到着をいまかいまかと待ちわびるのだった。
そして、
カランコロンッ!
〈ーーー来たっ!!!〉
再び店の入口から、客の来店を知らせるベルが鳴る。
「ここだよ、市来さん。」
「わぁ〜、オシャレな喫茶店だねぇ〜。」
そんな会話を交わしながら、とうとう詩乃と美姫が現れたのであった。
「いらっしゃいませ。」
「・・・あっ!!!」
「えっ・・・?あれ、菜々子ちゃんっ!マリーちゃんもっ!!」
さして広くないその喫茶店は、人の出入りがすぐに分かるようになっていた。
入ってきた人物をなんとなしに見ていた菜々子は、それが自分がサプライズを仕掛けようとした人物であった事にすぐに気付いたのである。
「美姫ちゃん!」
「わぁ、どうしたの、こんなところで。」
笑顔で手を振る菜々子にニッコリ微笑みながら、美姫はそう問いかけた。
「菜々子と美姫に会いに、ね。私は、美姫に約束しておこう、って言ったんだけど。」
若干要領を得ない説明であったが、それなりにマリーの性格を知っていた美姫は、何となく言葉の意味を察していた。
「へへへぇ〜、美姫ちゃん驚いたぁ〜?」
そして、イタズラが成功したような表情の菜々子に、美姫は全てを察していた。
おそらく菜々子が、自分を驚かせる為にわざと自分に知らせずに、こうしてわざわざやって来た、という事に。
もちろん、今日ここにやって来る事は先程決まったばかりの事であるから、ここで会えたのはただの偶然に過ぎないのてあるが、詳しい事情は知らないまでも、美姫の方も陽介達が所謂“普通の人”ではない事を何となく察していたので、その事に特に疑問を抱かなかったのである。
さて、焦ったのは詩乃である。
まさかこのような場所にて、美姫の知り合いがいるとは思わなかったからである。
彼女の目論見は、始まる前に終わる事となった訳だ。
本来ならば、ここで仕切り直しなり、やはり美姫を貶める事を考え直せば、その後、彼女の身に起こる不幸を回避できたかもしれないが、もちろん、彼女はそんな殊勝な人間ではなかった。
すがるような気持ちで武弥に目線を送り、彼がニヤリと頷いたのを見て、ホッと胸を撫で下ろしたのである。
「あれぇっ!?詩乃じゃねぇ〜かっ!!」
菜々子、マリー、美姫の会話によって気が付いた、という風を装い、武弥がそう詩乃に声をかけたのである。
「偶然だなぁ〜。そちらお友達?」
「あ、うん、そうなんだよね。」
武弥は見た目こそチンピラ風であるが、それを覆い隠す術を心得ていた。
そうでなければ、かなりの数の女性が、彼にホイホイとついていく訳もないからである。
一方、声をかけられた詩乃も、内心驚きながらも、そこはそれ、何とかアドリブで対応する。
こうして、偶然知り合いに遭遇した美姫達、そして、武弥達、という構図に持っていったのである。
「そちらの二人連れも、君のお友達かい?」
「え、あ、はい。」
急に話をふられた美姫も、何となしにそう対応する。
すると、ニコリと笑い、武弥はこう切り出した。
「そうなんだぁ〜。あ、俺、益戸武弥って言います。詩乃の友達で、それなりに親しくしてるんスよ。」
「あ、そうなんですね。」
「武弥、こちらは市来美姫さん。えっと、そちらは・・・。」
「あ、私は堂島菜々子です。」
「久須美鞠子。よろしく。」
空気を読んで、菜々子も話を合わせる。
それに、若干嫌そうな顔をしながらも、マリーもそう名乗った。
「よろしくな。」
見た目は怖いが、気の良い兄ちゃん、風を装った武弥。
もちろん、本来ならば菜々子くらいの年頃の女の子が、武弥みたいなチンピラに話しかけられたら怖がるところだが、そこはそれ、彼女の知り合いには、完二というどう見てもカタギではない見た目の友達もいるので、彼女的には平気なようである。
若干、菜々子の将来が心配なところであるが、好感触を得たと
「ここで会ったのも何かの縁だ。よかったら、ご一緒しないか?おごるよ。」
「えっ・・・、でも・・・。」
「俺、ここでは顔が効くんだよねぇ〜。何なら、奥のVIPルームにも案内できるぜ。ね、マスター。」
「あ、ああ・・・。」
急にそんな事を言い始めた武弥に、美姫は当然ながら遠慮した。
人によっては“特別”という文言に惹かれてしまうかもしれないが、美姫はそういうタイプではなかったのである。
それに、元々ここに来た目的は、詩乃と交流を深める為だ。
彼女の知り合いとは言えど、今会ったばかりの人に対する遠慮や警戒感もあったのである。
難色を示す美姫に軽く焦った武弥であったが、ここで懐わぬ助け舟が現れる事となった。
「いいんじゃない?せっかく誘ってくれたんだから、断るのも失礼だよね。」
「ま、鞠子さん・・・。」
マリーの発言に、ポカーンとした武弥と詩乃。
「私達もいいよね?」
「あ、ああ、もちろんさっ!」
遠慮なくズケズケとものをいうマリーに、しかし渡りに船とばかりに調子をあわせる武弥。
「お友達もこう言ってるし、せっかくならご一緒しない?当初の予定とは変わっちゃったけど、また機会はあるだろうし。」
「あ、うん・・・。」
マリー達が乗り気な以上、ここで断るという選択肢は美姫にはなかった。
人付き合いがあまり得意ではないとは言えど、その程度の空気は読めるのだ。
「んじゃ、行こうぜ!」
「ええ。」
そうと決まれば話は早いとばかりに、そう音頭を取る武弥とそれに頷く詩乃。
彼らを先頭に奥の部屋へと三人もついていくのであった。
マスターの溜息を後ろ手に聞きながらーーー。
・・・
奥のVIPルームも、やはりかなりオシャレであった。
マスターご自慢の調度品の数々に、若干高級感のある雰囲気。
通常であれば、デートスポットとしては申し分ない空間であろう。
しかし、ここで武弥は態度を急変させる事となる。
「へっへっへぇ〜!ようこそ、子羊ちゃんたちぃ〜!!」
奥まった部屋である事もあって、ここはあまり物音が他に漏れない。
それも相まって、犯罪染みた行為をするにはまさにうってつけな場所でもあるのであった。
「・・・何のつもり?」
武弥の態度にマリーが詰め寄る。
普通なら、菜々子も美姫もそれを止めるところだろうが、二人は
それに気付かなかった武弥と詩乃は、不敵な笑みを浮かべたまま会話を続ける。
「簡単な事さ。アンタらは罠にハマったんだよ。」
「逃げ場はないよ。こんなところで助けを呼んでも、誰も来ないからね。」
「ふぅ〜ん。けど、いくら男だからって言って、私達を簡単にどうこうできるとか思ってるワケ?」
「ああ、思ってるね。なんせ俺には、
そう言うと、武弥は
これが、武弥のいつもの手であった。
人一人をさらうのは、思いの外大変な作業である。
なんせ相手にも意思がある訳で、敵わずとも暴れる可能性があるからである。
しかし、スタンガンを使えば、相手を簡単に無力化する事が可能なのである。
もっとも、一般に流通しているスタンガンは、相手を気絶させたり死亡させたりするほどの威力はない。
しかし、そこはそれ、武弥は裏社会の住人であるから、違法に改造し、相手を気絶させる事ができるスタンガンを所持する事ができたのである。
これを用いて、これまで散々悪事を働いてきたのである。
言うなれば、スタンガンは、彼にとってもっとも信頼する武器だった訳である。
バチバチッ!
「ほれ、痛い目に遭いたくなけりゃ、大人しく言う事を聞いた方がいいぜ?」
「ふふふっ・・・。」
「・・・。」
電源を入れて、目の前でスパークの実演を見せる武弥。
大抵の場合は、これだけでビビるものだ。
しかし、マリーは、そんな事は意にも返せず、無表情を貫いていた。
「へっ、想像力の足りない女だな!」
「っ!!!」
流石にそれが気に食わなかったのか、武弥は躊躇なくマリーにスタンガンを押し当てる。
これでおしまいだ、と考えていた武弥だったが、しかし残念ながらそれは全くの無意味であった。
「・・・何かした?」
「「・・・・・・・・・へっ???」」
普通なら、少なくとも電撃によって、神経が一時的に麻痺して痺れるところだ。
しかも、先程も述べた通り、武弥の持っているスタンガンならば気絶させる事すら可能なのである。
だが、マリーは見た目こそ可憐な美少女であるが、その正体は所謂“カミサマ”である。
故に、電撃程度を無効化する事など造作もない事であった。
事態が飲み込めない二人は混乱するが、彼らが冷静さを取り戻すまで待つほどマリーも優しい性格ではなかった。
「ま、暴れられても面倒だし、貴方達はここで寝ててね。」
「「っ!!!」」
逆にマリーが手を振ると、武弥と詩乃は痙攣したまま意識を失ってしまったのであった。
「・・・終わった?」
「うん。この二人は意識を失ったよ。」
「このお兄さん達は、悪い人だったの?」
「そうだよ。少なくともこの女は、美姫を連れ去るように言ってたみたいだからね。」
「ふぅ〜ん。」
事が済むと、これまで沈黙を貫いていた菜々子と美姫が、マリーにそう確認した。
実はこの二人、事前にマリーから“カミサマ的なパワー”によって、何が起こっても騒がないように言われていたのである。
もちろん、所謂ナイショ話をしていた訳ではない。
テレパシー的な力によってであった。
(故に、詩乃と武弥はその異変に気付かなかった。)
菜々子は、すでにマリーを全面的に信頼しているし、不思議な事があってもあまり驚かない耐性を持っていた。
むしろ戸惑ったのは、不可思議な事とはこれまで無縁で生きてきた美姫の方だった。
しかし、そこはそれ、ここで自分が騒いでも仕方ないと考え、空気を読んだのである。
さて問題は、マリーがどのようにして情報を得たのか、という事であるが、元々彼女は、この二人に関する情報は持ち合わせていなかった。
それも当然であろう。
この二人に出会ったのついさっきであるし、ここで出会ったのもただの偶然だからである。
しかし、やはりここでも“カミサマ的なパワー”を使って、美姫がここに来る事が分かっていたように、彼女にとっては、その人の情報を得るのに大して手間取らないのである。
人々の集合的無意識にアクセスすればすぐだからである。
(実際、『
これによって、マリーはこの二人が美姫をハメようとしていた事に気付いたのである。
そして、逆にその事に気付いていないフリをしながら、彼らを捕える機会をうかがっていた、という流れであった。
「・・・この後、二人をどうするの?」
美姫は、まだ事態を飲み込めないままであったが、気になっていた事を率直に聞いた。
「特に何もしないよ。ただ、この二人、人間の法律に色々引っかかってるみたいだから、警察に突き出しておくけどね。」
「・・・そう。」
「美姫が気にする必要はないよ。これは、この二人がそう選択した結果だからね。」
「そうだよ。悪い事をしたなら、ちゃんと謝らないと!」
「そう、だよね。」
一応は事態をしっかり把握しているものの、しかしまだ子供特有の無知故に、屈託のない笑顔を浮かべる菜々子に、美姫は軽く救われるのだったーーー。
番長が、陽介が、千枝が、雪子が、完二が、クマが、直斗が、遼太郎が、菜々子が、マリーが、そして美姫が、“未来”に向かって歩を進める中、武弥と詩乃は、“過去”の栄光にすがる選択をしたのである。
当たり前だが、時は常に前進している。
それ故に、良いか悪いかはさておき、起こってしまった事を何とか受け入れて、それでも力強く前に進む事こそ、人として大事な事なのである。
ここでは深く語らないが、選択肢を誤った男女がその後どうなったかというと、あまり良い“未来”ではなかったようであったーーー。
to be continued
誤字・脱字がありましたら御指摘頂けると幸いです。
後、私事で恐縮ですが、「小説家になろう」さんや「カクヨム」さんにて、「『英雄の因子』所持者の『異世界生活日記』」というオリジナル小説を執筆&投稿しておりますので、もしご興味がおありでしたら、本作共々チェックして頂けると非常に嬉しく思います。
よろしくお願いいたします。