原作最初から最後までネタバレ全開です。というか知っていること前提です。
転生者が主人公というより群像劇な所があります。
また最初と最後以外は会話のみとなっています。
突然だが、紙に一本直線を引いてもらいたい。それが出来たら、始点の同じ直線を角度をつけて引いてもらいたい。二つの直線が全く違う道を行くことが分かるだろう。
次に同じように直線をもう一本引いてもらいたい。ただし今度は最初の直線に対してほとんど角度をつけずに、できれば10度、いや5度もないくらいに。今度はほとんど同じ道であることが分かるだろう。その距離は大きい角度の時に対してほとんど離れないことに。
一つの物語があったとする。その物語が辿る道をAとしよう。
続いて、この物語に何らかの要素が加わり、変化が訪れたとしよう。こちらの辿る道をBとしよう。さて、と角度をつけたこのAB二つの物語は、二つの直線のように違う道を辿っていく。だがそれがどのくらいの違いになるかというのは様々なケースがある。
語られる物語の種類として、「転生モノ」がある。ある物語、Aと、その知識を持つことを前提として、その世界に本来いるはずでなかった何者かが転生し、関与することで話が変化していく、Bとなるというものである。
巷でよく語られる物語では、ある程度の角度の違いがあり、AとB、かなり異なる物語となっていく。だが語られていないだけで、そうでないケースも世界にはある。おそらく、語り継がれる冒険譚の内容が変わらないだろうケースが。
本来ならば記憶が失われる所を、たまたま持ったまま彼が生まれついたのは、前の世界で「ドラゴンクエスト ダイの大冒険」と呼ばれる漫画やアニメ作品の世界であった。
この世界で彼がなったのは「主役」と呼ばれる人物ではなかった。より言うならば、「人間」でなかった。さらに言うと魔族や獣人という、文明を持つとされる種族ですらなかった。
彼は「あくまのめだま」と呼ばれるモンスターに転生していた。
そして付け加えるのならば。彼はその作品を最後まで見ていなかった。彼は「読者」と言えるほどの立場にはいなかった。「勇者ダイが魔王(正確に本来の言葉を用いると大魔王)を倒す物語」との認識はぼんやりとはあったものの、その詳細は、特に後半にかけては知らなかったのである。
故に彼は積極的なる干渉を避けることにした。安全を第一として慎重に行動し、出来れば仲間たちをそこそこ守る程度にとどめることにしたのだった。
あくまのめだま達は交信が出来る。その交信を用いて遠くにいる仲間たちと連携をとり、視覚や聴覚を共有、場合によっては通信機としての活躍をすることが出来た。
その為転生者である彼が仲間たちに情報を伝えることは容易であった。
ここからしばらくは、その通信の様子を通じて見ていきたい。
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「てことで魔王軍やられちゃうから皆気をつけて。信じられないだろうけど。取り合えず確か最初だったと思うロモスからはなるべく大勢離れた方が良い。ザボエラが何か言ってくるかもしんないけど無視無視」
「正直信じられないけどハドラー様が警戒する勇者の名前、ダイつったっけ。あてたもんな。てことは本当な感じだよな。でもクロコダインさんならやっつけてくれるんじゃない?」
「気持ちは分かるけど、ハドラー様退けたやつだからありえないことも無い気がする」
「素人質問で恐縮ですが、あなたがそうやって私達に伝え、干渉することにより『漫画』では通るはずであった道を外れるということはないでしょうか。それこそザボエラ氏の命令を誰かが受ける所を背くと、先が変わってくるのでは」
「おれ達大役はしてないから大丈夫と思うけどなあ」
「おっこの際バーン様に進言して全軍団長さんでやっちゃうとか」
「おお兄者天才」
「私達の言うことを聞いてくださる可能性は大変低いかと思われます。そもそも謁見自体が無理でしょうし」
「そもそも……わたし達の言葉……通じるんでしょうか……」
「確かある程度は伝わったと思うんっスけど、あんまり聞いてくれないっスからね。どこまで通じてるかs」
「だめだった」
「がっかりしすぎだよ兄者」
「その点は心配無い。俺残る」
「え、危ないって。うろ覚えだけどやられる感じあったと思うんだよ」
「そうっスよ、やめておいた方が良いっスよ先輩。」
「俺いるのロモス。俺直接見た。女の戦士。僧侶戦士。物凄く良い体形。俺ロモス行く。ザボエラに従う」
「おおお、兄弟」
「もし無事だったらおごりまくるっス!」
「本当男子ってサイテー」
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「まさかの軍団長全員集合」
「あたっちゃったね兄貴」
「ウチ招集の時直接バランさん話しかけた。めっちゃ緊張したわー」
「あ、でも……バランさんは今回の作戦不参加みたいです」
「らしいね。まあ勇者一行はそんなこと知る由もないけど」
「そう言えばだいまほしいとか言う奴のとこに勇者いるらしいっすね」
「大魔導士な、大魔導士」
「ええそうですね。実を言うとお姿を拝見しました」
「マジで?マジで?どうだった?」
「興奮しすぎだよ兄貴」
「実に聡明そうな方ですね。大変気があいそうです」
「だったら話しかけるべきですわ。ご縁は大事にするべきですもの」
「向こうは人間、こちらはモンスターです。リスクのある行動は避けます」
「けど勇者勝つって本当?これマジで詰んでるよ」
「勝っちゃうんだよなあこれが。先に言っちゃうとね、復活するの」
「本当っスか?記憶違いじゃなくて?」
「勝つのは確かだよ。そんな人間負けて終わりじゃなかった。詳細知らないけど、友達話してるた覚えてるもん。良いとこ狙いすぎだって」
「誰?」
「ヒュンケルさん」
「あー」
「納得してしまいましたわ」
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「これは現実味帯びてきたな」
「フレイザードさん始めとする軍団長の皆さんそろって行ってダメで」
「今回バラン様が戦われても倒せませんでしたからね」
「…………」
「そんなに落ち込まなくたって良いと思いますわ。あなたのせいではありませんもの。いくらバラン殿下や勇者ダイが強いと分かっていても、あそこまでとも誰にも予測をつけることは不可能と思われましてよ」
「そうそう。離れてりゃ大丈夫って誰だって思うよ」
「兄貴に同意。それにこの前くらいからいよいよ読むのやめてたんでしょう?だったら仕方ないって」
「けどさ。それこそ読んでたら分かってたはずだし」
「こういうのも失礼かもしれませんが、私達が物語において重要位置にいるとは思えません。どこまで描写されていたか怪しい所です」
「けどさ、強いってのは分かってたもん。離れるべきだってちゃんと強く言って……それこそ引きずってでも離せてたらさあ」
「そんなに御自身を責めないでください。……わたしに言う資格があるか分かりませんが、どうかもっと自信を持って……」
「何か話の流れぶったぎるようで悪いけど、オレ、オーザムに行くことにするっス」
「オーザム……これはまた寒い所へ行かれるんですね」
「寒いけど人間も魔物も全然いないから戦場になる心配ないって判断したっス。知り合いのマーマンに頼んで連れて行ってもらうっス」
「それもまた一つの戦略ですね。懸命です」
「言ってる本人はまだ大魔導士さんのスートーカーしてるん?」
「今何と?」
「んー、ああ、ごめんごめん気のせいや」
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「ああ、まだ興奮冷めない」
「本当にすごかったね兄貴」
「またその話ですか」
「だって本当に凄かったんだもん。ミストバーン様操る鬼岩城がドシーンドシーンってさ」
「んで、それを勇者がズバーンとね、兄貴」
「なー」
「全く。前から指摘しようと考えていましたがあなた達兄弟はベッタリすぎですよ。今も一緒に行動しているんでしょう?」
「そ、そんなこと」
「言わなくてもなあ、兄貴」
「私達は伝達係。本来はより広い地域に広がり行動していくべきなのに」
「まあまあ。そんなピリピリした雰囲気で問い詰めんでもいいやん」
「そ、そうですよ……。あの……そう思います。えっと、オーザム暮らしの調子はどうですか。不都合無いですか」
「オーザム寒いけど何もなくて平穏っス」
「それは何より」
「ってアレ。何、人影。明らかに勇者一行っぽい恰好なんスけど」
「え?え?ダ、ダイ一行はオーザム何か行ってへんやんな」
「とにかくどっか隠れ、隠れるっス……隠れる所ないいいいい!あ、見つかっ」
「おい、おい返事しろって」
「返事ないよどうしよう兄者」
「ど、どうしましょう。助けに行くのも無理ですし……」
「……あれ、明らかに勇者~な恰好をしてたんだよな。だったらもしかして……」
「あの」
「え」
「おや」
「無事っス。話の分かる御一考だったっス。せっかくだから協力し合うことになったっス」
「ご無事ならなりよりでしてよ」
「ところで何か心当たりのある言動をしていましたが」
「うん、まあ序盤にちょっとね」
「取り合えず大所帯で出発したし、いよいよ最終決戦って感じかな」
「おれ達の出番も終わりかな兄貴」
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「どうしよう……どうしよう……」
「やばいやん。やばいやん」
「全世界爆撃とは……果たしてバーン様の目的は何なのでしょうか」
「このままだと何時かおれ達も……」
「皆には悪いけれど、オーザムに来てて正解っス。へくし寒いスけど」
「えっと……」
「あのさ、何回も聞くけど」
「本当だよ。勇者ダイとヒュンケルさんの武器が飛んできた」
「ロンだったけ。武器職人の人が持って行ってたよね兄貴」
「そうか。まさか主人公負けると思えないんだけどな……。でもおれ達の行動で変わってるかもしれないし」
「へくし。あー今日は脂多いのとれるといいっスねー。あ、すいませんこっちの話っス」
「あの、す、すいません」
「はい、ストップ!何か言いたいようでしてよ。どうぞ」
「いえ、その、微妙なことなのですが……。わたしも兄弟さんと同じくパプニカにいるのですが、賢そうな人間の皆さんのお話をこっそり伺っていると、思うことがありまして」
「ん?何?」
「リンガイアっていう、バラン様が滅ぼされたところも爆撃されてるようなので……」
「そやな。ほんで?」
「だからその、オーザムも……」
「やっほー帰ってきた帰ってきたあざーっす!ぶえっくしょん!げほ。あー風邪気味。魚とれたっスか。それは良かった!あ、通信……。て何スか。あれ。………………やばいやばいやばいやばい逃げ、あっ」
「言ってるそばからあああああ!」
「って兄貴、あれ!あれ!」
「ん?何?」
「ロンっていう人とお爺さん!何かお城出て動き出した!」
「本当だ何か荷物持って。よし、追いかけるぞ」
「うん!」
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「なあ、お前ら、聞いてた?」
「聞いた」
「聞いた」
「聞きました」
「聞きましてよ」
「聞いたで」
「地上が、破壊される。飛ばされる」
「あ、兄貴、ヒャドで止められるって!」
「え!……あああウチら使われへんやん」
「決めた。突っ込む。あの女王とかいう人たちと協力できないかやってみる」
「うん、行こう兄貴。どっちみちこのままだったらあの世行きだもんね」
「そうや通信、向こうがOKしてくれたらウチら通信したらええやん」
「でも危ないですよ。そこにいらっしゃる方はともかく、各王国にいる人たちは何もしらないですから……」
「おれはテランの王様の所に行く。転生者として責任はたさないと」
「俺ロモスの人と話す」
「よし、行けた。これで通信できるはず」
「ここの人たちとは兄貴が繋ぐから。おれはじゃあ北の勇者と一緒に行く」
「女王様曰く6つ凍らせないといけなくて。今いる人たちで無理で探さなきゃいけないのがパプニカ方面2つとオーザムで……」
「だったら私はベンガーナの方々の元へ行きましてよ」
「大変優秀な大魔導士にもこちらで交渉をさせて頂きましょうか」
「……わたし、パプニカの人たちと会ってみます!」
「問題はオーザムやんな」
「大魔導士だったら……ん?」
「--」
「あれ?」
「あああ良かったあ、繋がった!話は聞こえてたっス!安心するっス!ねえ?」
『こんな北の果てにもちゃんと勇者サマはいるから安心しろいっ!!!…ニセ者だけどなあっ!!!!!』
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先に結末から言おう。物語は変わらなかった。最終的に勇者ダイは大魔王バーンを倒す。夜明け、喜ぶ一行の所へ死神が現れ、勇者は皆を守る為に姿を消す。悲しむ仲間たちに、勇者の剣は彼の生存を示す。
映像としては、喜ぶ一行の中にあくまのめだまが混ざる形となるかもしれないが、主役でない為焦点は当たらない。歌われていくかも微妙な所である。
物語に大きな変化は起きていない。
現時点では。
少し、話を戻そう。物語に大きな変化は起きていない。彼らは、あくまのめだま達はすぐに行動を起こせたわけではないし、行動にも時間はかかる。勇者は一度絶望に沈み、親友の言葉で立ち上がっている。時を待たずに起爆しようとする大魔王の動きを止める為に瞳は動き、神の涙は破壊されている。
結果の変化は起きていない。しかし、少しだけ変わった箇所がある。
神の涙が破壊され、勇者ダイと神の涙が姿を変えた「ゴメちゃん」の2人は最後の時を過ごした時、最後の願いは言われている。
だがこの時点で、あくまのめだま達は行動を起こしていた。世界に情報が伝わっていた。
その為に勇者は「世界中の人々のこころを一つにする」という願いを言う必要は無かったのである。
果たして、勇者は何を願ったのか。
現時点では分からない。誰も知らない。だがそれは確かなる「違い」としてこの後の物語に影響を及ぼしていく。
最初に2本の直線を引いた。角度が小さいとほとんど差は出ていなかった。
だがそれは、あくまで紙の上の範囲の話である。そのまま線を伸ばしていけば、その差は少しずつ、だが着実に開いていく。全く違う場所へと進んでいく。
「ダイの大冒険」という物語は終了した。だが彼らの世界は続いていく。線は伸びていく。
どのような未来が待っているのか。それは誰にも分からない。