聖杯合戦絵巻   作:Roku左衛門

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捌ノ巻 清風明月

皇紀2680年 平成32年 7月21日 午後13時24分

豊島区 サンシャインシティ付近

 

 

 

未だ戦闘の渦中で対峙した彼女はビルの上から司を見下ろしていた。

 

その姿は日頃の見慣れている学生服ではなく、上から下まで茶褐色の軍服に身を包んでいた。

 

軍帽を被り軍刀を腰に挿し、マント羽織っており重々しい雰囲気を纏っている。

 

唯一女性らしい要素といえばスカートを履いているくらいだろうか。

 

普段の彼女からは考えられない姿をしている。

 

そして何より普段の彼女とは決定的に違った事は瞳だった。

 

司が知っている彼女は常に微笑みを絶やさずまるで穏やかな春の日差しを感じさせるよな暖かな目をしていたが、

今の目の前にいる彼女は氷のように冷たい目で司を見ている。

 

司が一瞬、別人と感じてしまうほど冷酷な瞳である。

 

見下ろしていた彼女だったが、ビルの上から飛び降た。

 

まるで重さがないように、フワリと着地して地上に降り司を見据えこう言った。

 

「セイバーのマスター直ちに戦闘を中止しなさい。今ならこちらに投降すること許します。」

「投降?ふざけんな!するわけねぇだろ!」

 

安那は反論してきた【ナナシ】を横目で少し確認し、すぐに目線を司に戻して話を続ける。

 

「セイバーのサーヴァント 。私は貴方とは話していません。マスターと話しています。」

「綾部さんどうして…」

 

どうして君がマスターなんだと言おうとしたが言葉に出てこない。

目の前の光景が信じられずあまりにもショックだったからだ。

だが安那は司が何を言いたかったのか察したようで静かに答える。

 

「それは私が魔術師でランサーのマスターだからです。それで返答は?投降するのですか?しないのですか?」

 

取りつく島もない冷徹な声色である。

 

「し しない!」

 

吃りながらだったが司は何とか声を振り絞って答えた。

 

その返答を聞いて安那は目を瞑ってかぶりを振る。

 

呆れた様子のようだ。

 

「勘違いしているのかもしれませんが、投降を勧めているのはいちよう顔見知りだから善意で言っているのです。

聖杯合戦は遊びではありません。一般人の貴方では間違いなく死にます。今のうちに合戦から降りた方が賢明です。

ああ、もしかして聖杯が欲しいのですか?投降に応じるのでしたら聖杯とまでいきませんが私のツテで政府からお金を…」

「違う!そうじゃない!」

 

矢継ぎ早に捲し立てる安那を制するように司が声を張り上げる。

 

「聖杯のためにこんな殺し合いするなんて間違ってる!」

「それが聖杯合戦ですから。必要とあれば行うだけです。」

「綾部さんにそんな事して欲しくない!」

 

その言葉を聞いた安那は少しだけ目を見開いた。

司の言葉にほんの少し驚いているようだった。

しかしすぐに表情を戻した。

 

「呆れました。素人とはいえ、誉れ高き聖杯合戦のマスターに選ばれた者の言葉とは到底思えません。

言葉で止まらない以上は力づくでいかせて頂きます。ランサー!」

「承知。」

 

安那の言葉に反応して忠勝は再び臨戦態勢に入る。

 

「最初っからやめねえって言ってんだろうが!来やがれ!」

 

【ナナシ】も戦闘態勢に入る。

 

再び戦端が開かれようとした瞬間、南方向から鬨の声が上がる。

 

予期せぬ場所から音に【ナナシ】も忠勝も構えを崩さず、横目で確認する。

 

既に戦闘している司や安那の軍勢では無い。

 

かと言ってバーサーカーの陣営側からでも無い。

 

第4の陣営がこの地に現れたのだ。

 

「間に合いませんでしたか…」

 

安那だけはその新手の軍勢の正体を知っているようだった。

 

新手の黄色の旗を掲げた兵士たちがランサーの軍勢と衝突する。

 

その中から一騎、飛び出してこちらに走り

 

その姿は司たちには見覚えがあった。

 

「やあやあ!遠からん者は音に聞け!近くば寄って目に物見よ!我こそは平能登守教経!

平中納言教盛の子にして、平常陸介維衡が末なり!腕に覚えのある者よ!いざ尋常に勝負せん!」

 

戦場に響き渡るほどの大音声に司たちは呆気にとられる。

 

「バカ野郎!自分で真名を名乗ってるんじゃねえ!」

 

追いついた練矢が教経の頭を叩く。

 

かなりの勢いで叩かれたが教経は何事も無かったかのように平然としている。

 

「だが御主君!名乗りも上げずにいきなり斬りかかるのは卑怯者でござろう!」

「そういう問題じゃねえ!」

「aspettato!2人とも敵の前で喧嘩しないで!」

 

【シスター】が慌てて2人の仲裁に入る。

 

「敵を目の前にして随分と余裕ようですね、岸 練矢。」

「あんたが秋津の魔術師さんかい?俺の事もよく調べてるようだな」

 

安那は懐から手帳を取り出し読み上げる。

 

「岸 練矢、18歳。都内私立大学の一回生。家は没落した元魔術師の家系。多少、魔術の知識が有りそうなのはそのためですか。

ですがその程度で勝ち抜きけるほど聖杯合戦は甘くありません。命を落とす前に投降しなさい。」

「ライバルを減らしたいんだろうがそうはいかないぜ。教経!」

「御主君!某にお任せあれ!」

 

練矢の合図に合わせて教経は自身の大弓を引き絞り狙いをつける。

 

「平家随一と謳われた教経の弓を受けてみよ!」

 

引き絞った弦から矢が解き放たれる

 

サーヴァントが放つ矢である。

 

当然だが人間が放つ弓矢とはわけが違う、矢の速さは音速を超える速度で標的に突き進む。

 

だが忠勝は少し体を捻るだけでその剛矢をあっさりと避ける。

 

万全の状態でのサーヴァント同士の戦いではこの程度の攻撃では戦いの決定打になることは無いのだ。

 

忠勝が避けた矢はそのまま突き進みランサー側の霊兵に命中した。

 

しかし矢は兵士に命中したにも関わらず勢いが落ちずに兵士ごと引きずりながら吹き飛ばし、そのまま後方の兵士も貫いた。

 

「ほう」

 

流石の忠勝もこれには目を見張る。

 

矢の命中率や弓の精妙さを売りにする射手は数多見てきたが、一本の矢で2人の兵士を貫く程の剛腕の射手は見たことが無かったからだ。

 

「よくぞ避けた!だが一矢で終わると思うな!それそれそれそれぇい!!」

 

一射、ニ射、三射。

 

教経は続けて矢を放ち、敵の兵士たちを射抜いていく。

 

忠勝には命中しないが、一矢で2人ずつ敵兵を射抜いてい時には三人を団子のように射抜いた。

 

「…撤退します。ランサー、後は任せます。」

「御意。殿はお任せあれ。」

 

当初はバーサーカー陣営のみを相手にする予定であったが、セイバー陣営とアーチャー陣営も参戦した現状は流石に分が悪い。

 

既に陣地は得ている以上早々に撤退するべきと安那は判断した。

 

安那は忠勝に後を任せ、まるで煙のように姿を消した。

 

「もの共!退却だ!」

 

忠勝の合図共にランサー陣営の兵士たちは整然と撤退していく。

 

その姿にある種の美しさのようなものを感じるほどである。

 

「待てぃ!逃げるか!」

「追うな教経!オッサンにも追撃はするなって言われただろ!」

「ぬう…」

 

追撃飛び出して行こうとしていた教経はその言葉で止まる。

 

正成の言葉は流石に無視できないようであった。

 

ランサー陣営の兵士たちが撤退していくのを見送りながら、練矢は司たちと合流した。

 

「たく、飯食ってる途中で飛び出していくなよ。」

「練矢どうして?」

 

練矢たちとは同盟を結んでいるが、まさか援軍に駆けつけてくれるとは思いもよらなかった。

 

「同盟組んでいきなり敗退されたらこっちとしても困るんだよ。それにランサー陣営のヤツらの情報も欲しかったしな。」

「ありがとう。来てくれて安心したよ。」

「よせって、もういいよ。」

 

練矢は照れ臭そうに頭をかく。

 

「それよりも早くバーサーカーのマスターとご対面と行こうぜ。向こうは戦う気は無いみたいだしな。」

 

バーサーカー陣営の兵士達は武器も構えずに立ち尽くしている。

 

少なくとも敵対するつもりは無いように見える。

 

バーサーカー陣営の兵士をかき分けて司たちは奥へ奥へと進んでいく。

 

この兵士たちの最奥に指揮官がいるからだ。

 

しばらく進むと壁が崩れたビルの中から人影が現れた。

 

「助けて頂きありがとうございます。お陰で最後の領地を失わずに済みました。」

 

現れた男は体は細身だが身長は高く、小袖の上に羽織を着て、袴を履いている。

髪は総髪で髷を結っている。

目は細いが表情は柔和で人好きのする顔立ちであり、声色も穏やかであり人を安心させるような柔らかさだ。

 

「あんたが指揮官か。」

 

練矢の言葉にサーヴァントはうなづくと

 

「バーサーカー、吉田松蔭と申します。」

 

と穏やかに答えた。

 

 

 

皇紀2680年 平成32年 7月21日 午後17時41分

豊島区 廃レストラン

 

【挿絵表示】

 

ランサー陣営との戦いからすでに数時間が経過していた。

 

夏で日が高いとはいえ、太陽は傾きつつあり夕暮れになっていた。

 

松陰に導かれ、司たちは彼らの拠点に招かれていた。

 

そこはビルの一階ですでに閉鎖されたファミレスチェーンの店舗であった。

 

店を閉めたのはつい最近らしく店内は埃も無く綺麗であり、電気も水も使えるようであった。

 

彼らの拠点に着き、松蔭のマスターと対面した司たちは彼らがなぜ戦いに消極的だったのかを理解することができた。

 

「入江くん、ご挨拶しなさい。」

「はーい!せんせー!入江椿です!よろしくお願いしまーす!」

 

手を挙げて元気よくあいさつするこの子こそバーサーカーのマスターなのだ。

 

年齢は10歳くらい、髪型はハーフアップのロングストレート。

髪は茶色味がかかている黒色。髪を結んでいる大きな赤いリボンも特徴的だ。

目はクリっとしていて大きく、何よりも天真爛漫な笑顔がとても可愛らしい。

 

だがこんな小さい子が戦いの指揮など取れるはずもない。

 

それどころか自分が置かれている状況すら理解していないだろう。

 

「こら!まてまて!」

「きゃ!きゃ!」

 

当人はそんな状況知ってか知らずか、教経と追いかけっこを楽しんでいる。

 

「ねえねえ。お姉ちゃんも遊ぼやぁ。」

 

部屋の隅で椅子に座っていた【ナナシ】に椿が声をかける。

 

声をかけられた【ナナシ】はというと短く舌打ちをするとそっぽを向いて椿を無視した。

 

「ねえねえ!遊ぼやぁ!」

 

だがその程度で椿はめげない。

今度は【ナナシ】の服を引っ張って先程より大きな声で声をかける。

 

「やかましい。ガキは嫌いなんだ。」

「やだやだ!遊んでくれんやぁやだ!」

 

無視する【ナナシ】にごねる椿。双方一歩も譲らない。

 

「椿くん、その辺りでやめてご飯にしましょう。」

 

厨房から出てきた松陰が睨み合ってる椿に声をかけた。

 

両手には料理が乗った大皿を持っている。

 

椿はそれを見るやいなや、あっという間にイスに着席する。

 

【ナナシ】との遊びはもうどうでもいいらしい。

 

肉だんごのトマトソース煮とサラダが椿の前に置かれる。

 

出来立ての肉だんごから湯気が立ち、食欲を刺激するトマトソースの匂いが部屋中に広がる。

 

「ミートボール♪せんせぇのミートボール♪」

「椿くん、ダメですよ。食べる前にすることは?」

 

上機嫌で箸を持って料理に手をつけようとする椿を松陰は嗜める。

 

「はい、せんせぇ。いただきまぁーす!」

 

椿は行儀よく手を合わせていただきますをしてから食べ始めた。

 

「ほう。上手いものですな。お手前が作られたのですかな?」

「はい、召喚されてから作り方を調べました。なにせ僕の時代には肉を食べることは稀でしたから。」

 

十兵衛の質問に松陰は答えた。

 

「しかし今の世は勉強になる事ばかりだ。どれから学ぼうか目移りしてしまうほどですね。」

「流石は松蔭先生!勉強熱心じゃな!長州のヤツらから先生んはなっはよく聞いおいもした。」

「今世において高杉くんや桂くんの話ができるとは思いませんでしたよ。しかし伊藤くんが大成するとはね……」

 

同じ時代に生きたもの同士、桐野と松蔭は和気藹々と会話している。

 

「じゃっどん敵は本多忠勝か。徳川ん犬とは腐けっされ縁があっな。」

「それを言ったら拙者も徳川の犬でござるが。」

「んにゃんにゃ!十兵衛殿は十兵衛殿じゃっで!」

 

必死に訂正する桐野を十兵衛は面白そうに笑った。

 

2人の会話を聞いていた司だったが、急に腹からグゥーという情けない音が鳴った。

 

そういえば昼飯を食べる前に店飛び出してしまったから食事は朝しか食べて無かった。

 

緊張が溶けたせいか今頃になって空腹感を感じ始めていた。

 

司の大きなお腹の音に反応したのか、椿がこちらををジッと見てからフォークで突き刺した肉団子を司に差し出した。

 

「お兄ちゃんも食べる?」

 

本当は絶対に上げたくないのだが仕方ないなと言う心の声が漏れてきそうな絶妙な表情である。

 

とても優しい子なのだろう。

 

差し出された肉だんごからは湯気が立ち登り、ミートソースの匂いが堪らない。

 

空腹の司には抗い難いものがあった。

 

しかし椿の表情を見ているとここで肉だんごを取り上げてしまうのは可哀想だと司は感じてしまった。

 

「僕は大丈夫だから椿ちゃんが食べなよ。」

 

そう司が言うと椿の表情は先程とは一転して、満面の笑顔になり肉だんごを再び頬張り始めた。

 

よほどこの料理が好きなんだろう。

 

「司、俺たちも腹ごしらえしようぜ。近くのコンビニに行くから【般若】と【シスター】も一緒に来てくれ。」

「御意。」

「Ricevuto.」

 

練矢たちと一緒に司は玄関に向かう。

 

「いってらっしゃ〜い」

 

椿は大きく手を振って司たちを送り出してくれた。

 

建物から外に出て、周り角を曲がり十分に建物から離れると練矢は司に話しかけてきた。

 

「どう思う?」

「どう思うって…椿ちゃんと松蔭さんのこと?」

 

練矢はそうだと言う代わりにコクリと頷いた。

 

司は少し考えてから

 

「悪い人には見えなかったし、嘘は言って無いと思う。」

「なるほどね。十兵衛は?」

「松蔭殿以外でもう一騎サーヴァントの気配を感じました。最初の話通りなら辻褄は合いまする。」

 

店に移動するまでの間に松蔭からこれまでのバーサーカー陣営の動向の話を聞いていた。

 

松蔭たちが召喚されてすぐ後にライダー陣営が攻めてきて陣地を奪い取られた。

10歳の椿にが指示を出すことは勿論出来ずし、松蔭たちは命からがら逃走。

その過程で初日から仲間のサーヴァントを1人失ってしまったのだと言う。

松蔭以外のもう1人のサーヴァントは狂化のランクが高いため意思疎通が取りづらく、加えて陣地が減り魔力の消費を抑えるため霊体化して大人しくして貰っているそうだ。

 

椿の親を探しているのだが、この地区にはいないようで自分たちも自陣以外は迂闊に移動出来ない上に椿がいないと困るということで

あの店を拠点にして静観していたところをランサー陣営に襲撃されたとのことだった。

「どっかに隠れているんじゃねぇか?」

 

練矢は松蔭の話を信じておらず、3騎目サーヴァント が何処かにいると考えているらしい。

 

「tuttavia、最後の陣地が攻撃されている最中でもsignore吉田以外のサーヴァントは姿を表しませんデシタ。これは動かさなかったと言うよりは動けなかったと言う何よりの証拠では無いデスカ?それにいくら腕に自信があると言っても別の陣営のサーヴァントが5騎も自分のマスターの周りを彷徨くなんて気が気ではありまセン。やはりバーサーカー陣営は2騎しかいないのデハ?」

 

陣地を失えば全て終わる。通常なら自分たちの持てる戦力全て戦うだろう。

 

司たち援軍がくるなんて予想もしていなかったなら尚更だろう。

 

「いっそのこと脅して聞いてみるか?」

「No, non si può!あんな小さい子を脅す何てひどいデス!」

「だが何か隠しているような印象は受けまするな。信用するのは危ういかと。」

「まあ、そうだわな。」

「ちょっと待って。なら椿ちゃんたちはどうするの?」

 

司の問いに錬矢は答える。

 

「正成のおっさんに相談してからにするが…たぶんバーサーカー陣営とは組まないし手を出すことも無い。」

「僕は反対だ。あんな小さい子をほっておく事なんて出来ないよ。せめて親御さんが見つかるまでは守ってあげないと。」

 

おそらく椿は自分がいかに危険な状態に置かれているかを理解していないであろう。

 

このままほって置けば他の陣営に餌食になってしまうであろう。

 

「あの子が危険じゃなくても松陰は何を考えているのかわからねぇ。味方に引き入れるのは危険だ。爆弾を抱え込むようなもんだぞ。」

 

確かにその通りだ。

 

だが。

 

「もし次にランサー陣営が攻め込んできたら…綾部さんは椿ちゃんを殺すかもしれない…。」

 

あの凍るような視線をしていた秋津の魔術師なら躊躇なく実行するだろう。

 

「certamente、可能性はありますネェ…。」

 

錬矢も【シスター】と同じ意見のようだ。

 

「そうだ!椿ちゃんが聖杯合戦をやめてもらえばいいんだ!」

 

聖杯合戦は何も1度参加したら絶対に辞めることが出来ないわけではない。

 

各地区にある教会で辞退を申し込めば聖杯合戦の参加を辞める事ができる。

 

「No. No.それはやめた方がいいと思いマス。」

 

【シスター】はいつになく真剣な表情だ。

 

「なんでさ。」

「perché、聖杯を求めているのは何もマスターだけではありまセン。

ワタシたちサーヴァントもまた聖杯を求めてこも戦いに参加しているのでデス。」

 

聖杯という万能の願望機を魅力的に思うのは今を生きている人間だけでは無いということだ。

 

過去の英霊達がサーヴァント(召使い)という枠に収まってでも聖杯を欲するのは至極当然と言えよう。

 

「もし松蔭殿が聖杯合戦に降りることに納得がいかなかった場合、どう行動するか分かりかねまするな。」

「マスターとサーヴァント との関係が拗れて自滅したやつらなんか、過去の合戦にも山程いたんだぜ。」

「それに加えて相手がバーサーカーという事が問題にござるな。彼らの行動原理は読みづらい。どう動くか皆目見当がつかない。」

 

バーサーカー

 

7騎あるサーヴァントの基本クラスの一つ

 

特徴としては狂化クラス特性を保有している。

 

狂化によってサーヴァントのステータスを底上げする事ができる。

 

反面、狂化の特性によりサーヴァントは理性や思考能力、技術や言語能力を失う。

 

また魔力消費量が膨大になるという短所を持っている。

 

あまり強くないサーヴァントを強化して使うのが基本になる。

 

総じて扱いづらく、聖杯合戦を勝ち抜きづらいクラスである。

 

「それじゃあどうすれば…」

 

見捨てれば敗北は決定的。

 

かといって同盟を結ぶには信用できる材料が無い。

 

司たちだけ同盟を結ぶという手もあるが万が一があった時に自分が泥を被るのはしょうがないにしても

 

練矢たちまで迷惑を掛けてしまうかもしれない。

 

合戦を降りることも出来ない。

 

八方塞がりである。

 

司は暗然とした気持ちだった。

 

「…練矢殿。この件、拙者に預けてくださらぬか?」

 

全員が静まる中、十兵衛が発言した。

 

「おいおい、どうするつもりだ。」

「バーサーカー陣営が信用出来ない以上同盟を結ぶことは出来ませぬ。

そこで彼女たちは我らセイバー陣営のみで保護しまする。彼女らが危機の時は我らのみが援軍として向かいまする。」

「あんた達だけでケツ拭くってわけか?」

「左様。アーチャー陣営には迷惑はかけませぬ。もし仮にバーサーカー陣営が裏切った場合、

彼女らは我らの陣地を通らなければ練矢殿たちのところまでは行けませぬ。」

「in altre parole、セイバー陣営が壁になるということデスネ。

しかしsignore柳生。あなたの口ぶりからは彼女たちと付き合うのは反対なように読み取れましたが、何故そのような提案ヲ?」

「拙者としては反対にござる、が主君の意向を組むのもまた侍の務め。

であるからこそ妥協案を考えてみたしだいにござる。いかがにござるかな?」

 

練矢は少しだけ考えるようなそぶりをみせ

 

「おっさんがなんて言うかだが、まあそれでいいぜ。」と言った。

「十兵衛さん、ありがとうございます。無理を言ってすいませんでした。」

 

司は十兵衛に頭を下げて感謝を述べた。

 

「主殿を頭を上げてくだされ。たいしたことはしておりませぬ。義を見て成さざるは勇なきなりと思ったまでのこと。」

と笑って十兵衛は答えた。

 

「oops、少し時間がかかりすぎましたネ。早く食事を買って帰りまショウ。」

【シスター】に促され3人はコンビニに向かって歩き始める。

 

「しかしよぉ、あの子の親は何やってんだよ。子供がいなくなって心配じゃないのかねぇ」

「今も必死に探しているのかもよ。」

 

その後コンビニで食べ物を買い、店に戻り食事をとった。

 

振り返ればこの時が聖杯合戦中で一番穏やかな夜だった。

 

司はまだ何も知らなかった。

 

目の前の小さな女の子のことも。

 

同じクラスの同級生のことも。

 

サーヴァントのことも。

 

聖杯合戦の意味も

 

そしてこの世界のことも。

 

まだ何も。

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