聖杯合戦絵巻   作:Roku左衛門

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聖杯合戦 3日目
玖ノ巻 声東撃西


一条強士の人生は最悪だった。

強士が幼い頃に両親が離婚し、母親が1人で姉と強士を育てた。

家計が苦しかったので中学生の頃からバイトをして家計を助けた。

私立の大学まで進学は出来たが学費は奨学金で賄った。

単位ギリギリだったが何とか3流大学を卒業する事が出来た。

しかし彼が卒業した年は就職氷河期であり,彼もなかなか就職することは出来なかった。

何とか就職することができたがその会社は所謂ブラック企業であった。

度量なるサービス残業と上司のパワハラで彼は鬱病

1年でその会社退職することになった。

その後はいろいろな職に就いたが長続きせず,現在は無職である。

だがそんな彼に幸か不幸か転機が訪れた。

聖杯合戦のライダーのマスターとして選ばれたからだ。

 

 

 

皇紀2680年 平成32年 7月24日 午前 7時00分

江戸川区 一条強士のアパート

 

 

 

郊外の小さなアパートの一室。それが彼の住居である。所々剥がれた壁紙、色褪せた畳、錆と油がこびり付いた台所。

全てがこのアパートの年月の経過を現していた。

そして家の主はというと押入れの中で格闘していた。

 

「ここを開けないさい!出てきなさい!」

「嫌だ!絶対嫌だ!」

 

強士は汗だくになりながら内側から襖を必死に押さえる。

だが善戦虚しく襖はあっさりと開けられてしまう。

強士は扉を押さえて勢い余って押入れのから転がり落ちてしまった。

強士が頭を上げると目の前に少女が立ってこちらを覗き込んでいた。

水干(すいかん)の上から鎧を見に纏い、手には薙刀を握っている。

すらりと長く水色の長髪を束ねてポニーテールにしている。

凛々しく整った顔立ちをしており、瞳は強い意志を感じさせるように凛としており正に大和撫子といった美貌をしていた。

だがその表情は憤怒の表情で強士を見下ろしていて、まるで仁王のようだ。

 

「いい加減にしなさいよ!いつまで引き篭もっているのですか!さあ!出かけますよ!」

 

少女は強士のTシャツの襟首を掴んで玄関の方向に引きづって行く。

可憐な少女とは思えないほどの力だ。

 

「いやだ!なんで俺も行かなきゃならないんだ!初日みたいにお前らだけで戦えばいいいだろ!」

「ええい!何を情けない事を!それでも日本男子(やまとおのこ)ですか!」

 

少女が更に力を加えて引っ張ろうとすると強士の着ているくたびれたシャツはビリッと音を立てて破れてしまった。

あっと少女が気を取られた瞬間、強士は素早く四つん這いになりながら駆け出し、先程までいた押入れに再び閉じこもってしまった。

 

「はあ…本当に情けない…最近の若者ときたら…」

 

深くため息をつきながら少女は呟く。

ちなみにこのやり取りは本日3度目だ。

 

「ねえねえ、姉ちゃん暇だよ。一緒に遊ぼうよ。」

 

少女の袖を引っ張りながら少年が話しかけてきた。

年齢は8才くらいだろう。

膝丈のまでの長さの木綿の着物を着た元気な少年だ。

首元には緑色の小さな蛇を巻きつけていて、その蛇も少年と一緒に少女を見つめていた。

 

「ごめんなさい。今忙しいから後にしましょう。」

「ちぇ、つまんないの!じゃあいいや!」

 

そう言う【坊】は台所に走り出し、料理器具を引っ張り出して遊び始めた。

少女は小さくため息をつくと。

 

「【やかた殿】、本当に主を戦場に連れて行くのですか?」

 

少女は部屋の隅に居た男に話しかけた。

その男は小さな部屋に似つかわしくないほど大きい男だった。

身長も高く肥満気味で身体的に大きい事もあったが、何より無視できない存在感を放っている。

そこに存在するだけで相対した者は畏怖の念を覚える。

彼が只者で無いことは素人でも分かることであろう。

部屋の中でも紅い兜と鎧を身に付けており、面頬を付けているためその表情を伺い知ることはできない。

唯一見えるのはギョロリと大きい目だけだ。

 

「ん〜【おつる】よ。主はまだごねておるのか?」

 

だがその威厳在る姿とは対照的に気の抜けた返事が返ってきた。

【やかた殿】は大きな背中を丸め、手に持った小さな機械のボタンを押すことに集中しているようだ。

【おつる】が召喚された時には既に彼は先に召喚されていたが、その時から今のように小さな機械をいじり倒していた。

 

「引きづり出してもすぐに押入れに戻ってしまいます。目の前にいたのに見ておられなかったのですか?」

「すまん、すまん。忙しくてのう。」

 

口では悪いと謝っているが、機械を弄る手は止まっていない。

 

「あれでは戦場では足手まといですよ。本当に連れて行くのですか?」

「今度の策は頭数がいるでのう。アヤツの役割で命落とす心配は無し。それに今のうちに戦場の空気を味わせておく必要があるからな。」

 

【おつる】と話している最中も【やかた殿】の目線は機械を見ていて、指は忙しなくボタンを押している。

 

「それ、そんなに面白いのですか?」

「面白いのぅ。」

 

【おつる】は少々呆れ気味だ。

だがそれでも【やかた殿】に対する信頼は少しも揺るがない。

【やかた殿】も【坊】も強力なサーヴァントだ。それこそ自分とは格が違う。

現に初日の時点で【やかた殿】は鮮やかな手腕でバーサーカー陣営から一領地奪い取ってみせた。

私達の主は幸運だ。これほどのサーヴァントを従えているのだから。

間違いなくこの聖杯合戦を勝ち抜くだろう。

 

 

 

皇紀2680年 平成32年 7月24日 午前 9時12分

台東区 ビジネスホテル

 

 

「もしもし、練矢。ニュースは見てる?」

「ああ、確認した。予想通りライダー陣営は動いたな。」

「椿ちゃんの所にはもう応援に向かってもらったから。」

「手筈通りだな。じゃあ準備ができ次第合流しようぜ。じゃあな。」

 

手短に要件を伝えると練矢はすぐに電話を切った。

昨夜、松陰に支援する旨を伝え、バーサーカー陣営とは同盟こそ結んでいないが協力関係を築いた。

その後バーサーカー陣営と別れた後、密かにセイバー・アーチャー陣営のみで話し合いを行った。

その内容を司は思い返した。

 

 

 

皇紀2680年 平成32年 7月23日 午後 20時22分

台東区 同ホテル

 

 

 

「バーサーカー陣営はエサにする。」

 

正成は事もなげにそう言った。

 

「おいおい、いきなり見捨てるのかよ。」

 

練矢が正成の発言に疑問を投げかける。

 

「まあ聞かんかい。今もっとも弱い陣営はバーサーカー陣営なのはみんな知ってる。高確率でバーサーカー陣営を攻めてくる。

ほんで逆にワイらが攻め込んできた陣営の領地に攻め込むんや。」

「他の陣営は我らがバーサーカー陣営と協力関係とは知らないでござるからな。囲魏救趙という訳でござるな。」

「囲魏救趙?」

「中華の戦国時代のこと魏に攻め込まれた趙を救うために斉の国が行った作戦でござる。ガラ空きの魏の首都に攻め込むことで趙への攻撃を中止させたのでござる。」

 

司の疑問に十兵衛が答える。

 

「で具体的にどうするんデスか?」

 

【シスター】の問いに正成はこう答えた。

 

「バーサーカー陣営が隣接しとんのはワイら以外やとランサー・ライダー陣営や。

どちらかの陣営が攻め込んできたらワイらは部隊を二つに分ける。

バーサーカー陣営の救援隊と攻め込んできた陣営の領地に攻め込む侵攻部隊や。

救援部隊はバーサーカー陣営の支援し、侵攻部隊はガラ空きになった敵の領地を攻め取るちゅう策や。」

「松陰先生ん危機を放ってはおけん。救援にはおいが行っど。」

 

桐野が1番に手を上げたので救援部隊はすんなり決まった。

侵攻部隊は【ナナシ】、十兵衛、正成、教経の4名。

【シスター】は他の陣営の侵攻に備えて防衛で残ることになった。

「正成殿!ランサー陣営とライダー陣営はどちらが先に侵攻してきますかのう!」

 

教経が正成に詰め寄りながら質問する。

 

「暑苦しいわ!まあそやな…おそらくライダー陣営や。

初日にバーサーカー陣営とはやり合ぉて手応えの無さに気がついておるやろうしぃ。

ランサー陣営は昨日今日で攻めてくる可能性は低いやろ。」

 

段取りは決まったため、その夜はこれで解散した。

 

 

 

皇紀2680年 平成32年 7月24日 午前 9時13分

台東区 同ホテル

 

 

 

果たして正成の予想通りに事は進行した。

 

「じゃあ、みんな作戦通りに。」

「オイは松陰先生んとことこに向うぜ。」

「我らも急ぎ合流しましょうぞ。」

 

すでに司は準備万端。身支度と食事を済ませ、睡眠も十分に取れている。

 

「待て。」

 

部屋を出ようとする司を【ナナシ】が制止した。

 

「外に誰かいる。」

【ナナシ】の言葉に全員が身構える。

「じゃっおるな。2は。」

「魔力の気配は無い。サーヴァントではなさそうだが。」

 

全員が扉を見つめる中、外から扉をノックする音が聞こえる。

 

「朝早くすいません、高城さん。警視庁の者です。お話伺ってもよろしいですか?」

 

その声に反応して4人はそれぞれ目配せをする。

警察がなぜ?

どうする?返答するか?

居留守が得策か?

だが名前も知られて場所までバレている。厄介だ。

無視するのは得策ではない。

素直に従い穏便に帰って貰うのが良い。

練矢たちと早く合流するにはそれが1番早そうだ。

いざとなれば押し通るまで。

結論は出た。

 

「出るよ。」

 

司の言葉に3人とも頷く。

扉を開けると男が2人いた。

 

「朝早くからすいません。警視庁の折田と申します。」

「同じく川道です。」

 

あいさつをしつつ2人は一瞬だけ警察手帳を見せすぐに懐にしまった。

川道たちが司を発見できたのは運によるものがあるが、司の顔と名前が分かっているのことが大きかった。

セイバー陣営の領地は4つある。

その中に根城があるのは確実なので、宿泊できる場所を一つ一つシラミに潰しに聞き込みと防犯カメラの確認で調べたのだ。

それでもこの東京で青年1人を見つけることができたのは幸運と呼ぶできだろう。

 

「えと、あの…何ですか?」

 

司はなぜ警察が自分を訪ねてくるのか分からなかった。

サーヴァントの戦闘による器物破損?

ホテルの無銭飲食?

だがそれらは聖杯合戦の参加者なら権利として許されているはずだ。

 

「都内で最近行われている連続殺人事件の調査をしておりまして、7月12日はどちらにいましたか?」

 

10日ほど前だ。

 

「その日は部活で学校にいました。」

「なるほど、それではサーヴァントを召喚したのはいつですか?」

「一昨日です。」

 

何故そんなことを聞くのか?

事件には関係ないだろうに。

 

「一ついいですかな?」

 

中年の方の刑事、川道が話しかけてきた。

 

「今近くにサーヴァントはいるのですかね?いやねえサインの一つでも書いて貰おうと思いましてね。」

へらへらと笑いながら川道はそう言った。

【ナナシ】たちはドアを開ける前に霊体化していて姿は見えない。

 

「あの…事件とは関係ないなら話は終わりにしたのですけど…忙しいので。」

 

なんだこの刑事はと思いながら司はドアを閉めようとした瞬間、川道は素早くドアの内側に足を入れ閉めるのを阻止した。

 

「おっと、関係は大いにありますよ。事件の犯人かもしれないのですから。」

「そんなことを聞いたら、黙ってはいられないな。」

 

その発言と同時に【ナナシ】たちが霊体化を解除して姿を現した。

司の隣に【ナナシ】が、十兵衛と桐野が川道と折田の後ろに出現した。

刑事2人を囲むような形だ。

 

「おー英雄様が雁首揃えてお出ましだ。手間が省けたぜ。」

「川道さんやめてください。あくまでその可能性があるというだけです。そのために我々は捜査しているのですから。」

 

川道の挑発的な言葉を折田が諫める。

折田は連続殺人事件の情報を少しだけ司たちに話した。

 

「そんなまさか。人間が犯人じゃないんですか?」

「それを含めて調査中ですが、この事件は不可解な点が多すぎるのです。私たちもサーヴァントという超常現象な存在を

犯人と決めつけるのは捜査を放棄しているようなものだから疑いたくは無いのだが。」

「でもサーヴァントたちは英霊なんですよ。そんなことをするはずが…」

「いや、無いとは言い切れない。」

 

司の言葉を【ナナシ】な遮る。

 

「バーサーカーとして呼ばれた場合は正常な判断はできぬだろうし、令呪で殺人を命令された場合は抗えぬでござろうな。」

「単純に呼ばった英霊が外道ん可能性もあっな。」

 

桐野の発言に【ナナシ】と十兵衛も頷く。

 

「あんたらは得意だろ人殺しが。」

「川道さん。」

 

川道は直情的な性格であり、相手が誰であろう歯に衣を着せない発言をすることは折田も短くない付き合いで重々承知している。

だがここまで挑発的な物の言いようは一緒に仕事をするようになってから初めて見る。

【ナナシ】は黙って聞いてが、ゆっくりと川道の正面に立ち真っすぐに川道を見つめた。

 

「なんだい?嬢ちゃん。さすがに腹が立ったかい?」

「アンタは随分とオレたちが嫌いらしいな。久しぶりだよ。そんなに憎しみが籠った目で見られるのは。」

「はっ!なんも間違っちゃいないだろ!何十人も何百人もぶっ殺したんだよな!そうやって英雄様になったんだろ!

今更1人2人殺すのも変わらねぇもんな!あんたらからしたら虫けら踏みつぶすのと大して変わらねぇだろ。」

 

突然爆発したかのように川道は【ナナシ】たちを捲し立てる。

憎悪。

殺意。

厭悪。

それらがありありと込められているのが分かる。

司や折田はその迫力に息をのむほどだった。

だが【ナナシ】たちサーヴァントは川道の憎悪をぶつけられても平然と受け止めていた。

川道がひとしきり捲し立て終わると【ナナシ】は言った。

 

「アンタが言ってることは結果だけ見れば正しい。大抵の英霊は人殺しだ。

中には外道なヤツらもいる。それは否定しねぇよ。」

【ナナシ】は淡々と冷静な口調で話しを続ける。

 

「だがなオレたちはその行動に対して後悔はねぇよ。オレたちにもやらなきゃいけないことがあった。

例えその過程で外道、非道を行ったとしてもだ。それが英霊ってもんだ。」

 

十兵衛も桐野も【ナナシ】の言葉に頷く。

 

「アンタに何があったかは知らん。好きなだけオレたちを恨めばいいさ。

英雄ってのは恨まれ慣れているもんだからよ。」

 

真っすぐに川道の目を見て続ける。

【ナナシ】の瞳には一点の曇りも無かった。

川道はその目に少しだけ気圧された。

 

「…そんな言い分で戦いに巻き込まれた奴らはたまったもんじゃないぜ。」

そう吐き捨てるように川道は言うと踵を返してエレベーターの方へ歩き出した。

「川道さん!待ってください!これ我々の連絡先です。またご連絡しますので。」

 

折田は司に電話番号が書かれたメモを渡すと川道をの後を追いかけて行った。

その後ろ姿を司は見送っていった。

 

 

 

皇紀2680年 平成32年 7月24日 午前 10時04分

中央区 道路

 

 

 

「はあ。そんなことがあったのか。朝から災難だった。」

 

錬矢と合流すると司はさきほどおきたことを話していた。

 

「本当だよ。おかげでここに来るまえにもう疲れたよ。」

「おいおい、今からが本番だぜ。頼むぜ。」

 

彼らは今、ライダー陣営の領地である江戸川区の葛西臨海公園に向かってる。

桐野はバーサーカー陣営の援軍のため豊島区に向かい、【シスター】は拠点の守備のため残ることになった。

今この場にいるのはマスターである司と錬矢。

【ナナシ】。

十兵衛。

正成。

教経の6人だ。

率いる霊兵の数はセイバー軍1万5千とアーチャー軍1万。合計2万5千の軍勢。

1陣地で龍脈から1万の霊兵を作成することが出来るが、実際にはサーヴァントの魔力も陣地から補給しなければならないため、

定石では1領地で作成する霊兵は5千が最適である。

4領地を保有している司は2万5千。

3領地の錬矢は1万5千が彼らが運用できる霊兵の実際の数だ。

加えて桐野の援軍で1万、【シスター】が5千を率いて行ったため、この2万5千はセイバー・アーチャー同盟の持てるすべての兵力である。

対するライダー陣営は4領地有していおり、恐らく運用できる霊兵は2万5千。

だが今はバーサーカー陣営の豊島区で戦闘を始めている。

江戸川区方面は手薄なはずである。

豊島区攻略部隊が戻ってくるまで江戸川区を奪い取らなければならない。

陣地さえ奪い取ればライダー陣営の兵力を削ぐことができる。

速さが肝要だ。

そのため正成はどこから手に入れたのか、ワゴン車を用意していた。

 

「セイバークラスやったら騎乗スキルで運転できるやろ。」

 

とのことだったが…

 

「なかなか面白いな!これは!」

 

【ナナシ】に運転を任せたのが間違えであった。

面白がって【ナナシ】は車の速度をドンドン上げ、人気の無い大通りを疾走する。

付いてきていた兵士達はすでに遥か後方だ。

 

「アホ!!飛ばしすぎや!止めや!止めや!」

「バカ!ハンドルつかむんじゃねぇ!!」

 

…………………………………………………………

 

「ふむ、中身は見た目ほど壊れていないようでござるな。問題なく動くようでござる。」

「さよか。まあ運転は十兵衛はんに任せるで。あのアホより安心やろうからな。」

「いや、本当に申し訳ない。」

「十兵衛はんのせいとちゃうやろ。おいそこのアホ!なんか言うことあるやろ。」

 

運転手の【ナナシ】と助手席に座っていた正成でハンドルの奪い合いになり、運転操作を誤り電柱に正面衝突。

とっさにブレーキをかけたおかげで車の損傷は思ったより少ないが、フロントガラスは粉々になっていた。

助手席に座っていた正成がシートベルトをしていなかったため、ぶつかった衝撃で車外に投げ出されたためである。

 

「あぁ?おまえがハンドル掴むからこうなったんだろうが…ギャア!」

【ナナシ】が言い終わらぬうちに正成の拳骨が炸裂する。

「このアホタレ!少しは謝らんか!」

「やんのか!てめぇ!」

「まあまあ!ご両人!喧嘩で力を使うよりこれからの戦で使うべきでござろう!」

 

取っ組み合いが始まる寸前、教経が2人の間に割って入り仲裁を行う。

 

「せや、こないなとこで無駄に油売っとる暇はあれへんさかい!」

「覚えとけよ。正成。」

 

運転手は十兵衛に代わり、不貞腐れた【ナナシ】は後部座席に座る。

再び助手席に座った正成は今度はしっかりとシートベルトを締めた。

 

 

 

皇紀2680年 平成32年 7月24日 午前 10時32分

江戸川区 葛西臨海公園近辺

 

 

 

霊兵たちが駆け足くらいで進む速度で車を走らせていても、すぐに目的の場所の近くまできた。

大きな観覧車が見える。

葛西臨海公園。

面積は約80haを誇る東京でも三指の大きさに入る大規模公園である。

本来ならば駐車場に止めて園内に入るべきだが、十兵衛は車のまま園内を進む。

それを咎める人間はひとっこ一人居ない。

 

「いやに静かだな、おっさん。なんか気になるのか?」

 

錬矢は助手席に座っている正成に後ろから話しかける。

いつもは饒舌が正成が江戸川区に入ってから言葉数が減っている。

 

「…石像まで後少しのところにまで来とるのに敵兵とまったく出会わへん。」

 

十兵衛はその言葉に反応して車を止める。

 

「確かに妙でござるな。」

 

その陣地を所有しているマスターやサーヴァントを石像が感知した場合、自動で防衛用の霊兵を出現させる。

だが今の所それは無いようだ。

 

「全部の兵士で豊島区に攻め込んでいったからもう兵が残っていないのだろう!がはは!」

 

教経の言う通りこちらの作戦に見事ハマって陣地ががら空きという可能性もある。

 

「こっちの策がハマったのか敵のなんらかの策なのか、どちらにせよ石像まで進むしかないぜ。

敵の朱引陣に入った時点で感知はされてるんだ。ここで留まっているていう選択は無いぜ」

 

自身の所有している朱引陣に敵のマスター、サーヴァント、霊兵が侵入した場合、マスターの令呪で感知できる。

バーサーカー陣営に攻め込んだライダー陣営が急いでこちらに引き返しているかもしれない。

 

「…せやな。行くしかあれへんな。」

 

十兵衛はゆっくりと車を動かす。

しばらく進むと開けた場所に出た。

 

「あっ!石像があったよ!」

 

ガラスで出来た展望台に続く道の真ん中に石像が立っているのを確認できた。

形的に虎の石像のようだ。

車がそのまま石像に近づこうと瞬間、展望台の裏から何かが空に飛んでいった。

それを何かか司たちは認識できなかった。

何故ならその瞬間、司たちが乗った車は凄まじい衝撃と光に包まれていたから

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