聖杯合戦絵巻   作:Roku左衛門

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拾壱ノ巻 百人斬り

 

 

 

合戦において最も難しいことは何か?

古来よりそれは撤退戦であると言われている。

撤退を決めるタイミングは難しく、また敵と対峙している状況では

敵が追撃している来るのは必定である。

ではそのような状況の場合どうするか?

答えは戦いながら逃げるである。

軍の最後尾の部隊を本隊から切り離し足止めとして敵の追撃部隊と戦い

追撃部隊をひるませるもしくは追撃部隊の攻勢が止んだ隙に足止め部隊が逃げる。

これを繰り返す。

この最後尾の足止め部隊を殿と呼ぶ。

殿は敵の追撃を少しでも送らせねばならない。

敵の追撃が逃げている軍の本隊まで届いてしまった場合、全軍崩壊してしまう

からである。

そのため殿の部隊を率いる指揮官は必ず実力者が選ばれる。

殿に選ばれることは侍にとって最大の名誉とされる。

だがこの殿の仕事は口で言うほど簡単では無い。

味方を逃がすために最後まで戦場に残った殿の部隊が玉砕することは珍しく無い。

撤退戦が決まった時点で血みどろの死闘になることは決定されていることなのだ。

 

 

 

皇紀2680年 平成32年 7月24日 午前 10時42分

江戸川区 首都高速道路

 

 

首都高速道路は車は1台も見えず徒歩の人、いや霊兵たちで溢れ帰っていた。

彼らは一様にセイバー・アーチャー陣営の兵士たちであり、声一つ上げずに

無言で退却していた。

その遥か後方の軍団の最後尾では熾烈な追撃戦が行われていた。

 

「オラぁ!」

 

気合の掛け声と共に【ナナシ】が馬上から剣を振り下ろす。

しかし赤備えの1人を狙ったそれは空を切る。

赤備えの武者は【ナナシ】の斬撃に合わせて乗っている馬を巧みに操り

回避したのだ。

 

「ハエみたいにブンブンとうっとおしいヤツらめ!」

 

【ナナシ】は吐き捨てるように悪態をつく。

武田の赤備えたちの個々の戦闘力はサーヴァントには及ばない。

だが【ナナシ】たちに対しては常に4人一組での連携と囲い込み、馬術の巧みさで

互角の戦いを演じていた。

前後左右から【ナナシ】たちの馬を囲い込み、誰か1人対して集中して攻撃しようと

するとすかさず周りの赤備えが攻撃を行い、お互いの隙を補い合っている。

見事な連携と言わざる負えない。

それに加えて赤備えたちの狙いは【ナナシ】たちでは無かった。

彼らの狙いは霊兵たちであった。

【ナナシ】たちサーヴァントを複数人で足止めし、その間に他の赤備えたちが霊兵たちを

次々と討ち取っていた。

単独ではサーヴァントに勝てない赤備えたちでも霊兵たちなら易々討ち取れた。

せめて霊兵たちに連携させ迎撃態勢を取らせることができればここまで易々と負けることは

なのだが、体制を整えさせないように赤備えたちは猛烈な攻勢をかけ、まるで雑草ように

霊兵たち刈り取っていった。

隊列を離れる者、勝手に単独で戦おうとする者、動けなくなった者を打ち捨て、ひたすら

逃げに徹する。

 

「あかんな。このままじゃジリ貧や。」

 

霊兵たちは朱引陣の魔力から生成している兵隊だ。

言わば魔力そのものと言っていい。

霊兵が倒されるということは朱引陣からその分だけ魔力が消滅するということだ。

すなわち陣地から魔力を供給されているサーヴァントの魔力の枯渇にも繋がるという

事になるのだ。

追撃部隊の赤備えたちの人数はせいぜい200騎ほどだが、その200騎にセイバー・アーチャー

連合軍は蹂躙されつつあった。

【ナナシ】はチラリと両側で戦っている正成と教経の様子を見た。

どちらも自分と同じ状況で赤備えたちに取り囲まれて身動きが取れないようだ。

霊兵たちを助けねばならないが、それにはこの囲みを突破しなければならない。

敵の連携は完璧と言って良い。

だが。

 

「あっちが完璧ならこっちは滅茶苦茶をやるだけだ。」

 

完璧というものは時としてあっさりと崩れてしまうものである。

付け入るならそこしか無い。

【ナナシ】は霊馬の手綱を左手でしっかりと握り直し、ゆっくり鞍の上に立った。

確かに馬上に立つことによって左右どちらにも攻撃を行える利点はあるが、

それ以上に足場が不安定な馬上であることと、騎馬同士戦いでは攻撃される場所

が増えるという欠点の方が大きい。

四方から【ナナシ】を囲んでいる赤備えたちはその行動に対しても冷静に槍を構え直し。

合図も無しに四方から【ナナシ】の体を目掛けて一斉に槍で突いた。

槍が【ナナシ】の体を貫く瞬間、【ナナシ】の姿が突如として消えた。

【ナナシ】は飛び上がりながら槍を避け、馬を飛び降り後方の赤備えの一人に

斬りかかったのだ。

 

「でいやあああああ!!」

 

抱きつくように赤備えの首元に剣を突き立て、崩れ落ちる赤備えと共に地面落ちていく。

地面スレスレのところで着地し、態勢を整えた。

 

「【ナナシ】!!」

 

それを見ていた正成と教経が同時に叫んだ。

 

「先に行け!オレはこいつらと遊んでから行く!」

 

走り去っていく仲間たちを見送りながら【ナナシ】は叫ぶ。

赤備えたちもさるもので、仲間がやられて時点で残り3人はその場で反転して【ナナシ】に

突撃してきた。

古来より騎兵というものは戦場の花であり、名将と呼ばれた人物は騎兵を重用した人物が多い。

現代なら戦闘機や戦車に相当するであろう。

馬上からの精神的威圧感と高低差から攻撃、そして馬という動物の圧倒的な力と速度を生かした

突撃による衝力に人間は勝てない。

歩兵が騎兵と戦うには、長柄の武器を集団で構え突撃をけん制する。

障害物を利用して戦う。

飛び道具を使う。

以上のような対策が必須と言える。

単独の歩兵が騎馬突撃を止めることは自殺行為に近いのだ。

ただしそれは人間の常識である。

突撃してきた3騎の赤備えに対して【ナナシ】は。

 

「うおおおおおおおおお!!」

 

すれ違いざまに馬ごとすべて叩き斬った。

一騎当千のサーヴァントに人の理は通用しない。

両断された赤備えたちは粒子となって消滅していく。

他の赤備えたちは異常気づいたようで追撃を取りやめ、【ナナシ】の近くに集まりだした。

良し。

一旦はこれで追撃を止めることはできた。

集まってきた赤備えたちは一定の距離を取り【ナナシ】に攻撃を仕掛ける気配は無い。

 

「どうした!武田の赤備えは雑兵狩りしかできない臆病者ばかりか!

 かかってこい!」

「…」

 

【ナナシ】の挑発を無視して赤備えたちは無言で徐々に徐々に包囲を【ナナシ】の後ろ

まで伸ばしていた。

そして赤備えたちの後方からも後詰が続々と到着しているようで赤備え以外の

徒歩の霊兵たちも姿を現していた。

首都高のど真ん中で【ナナシ】は完全に包囲されようとしていた。

 

「仲間のために己を犠牲にして敵軍を一手に引き受ける。泣かせるのう。」

 

赤備えたちの後方からのっそりと大柄な男が現れた。

金色の角に頭頂部から肩にかけて施されたヤクの白い毛が印象的な諏訪法性兜。

朱色の鮮やかな赤糸威 二枚胴具足。

愛馬の黒雲。

そして右手に持った鉄軍配。

 

「お前が武田信玄か。」

「左様。こんにちは、お嬢さん。」

 

【ナナシ】は素早く信玄の周囲を確認する。

信玄の正面に槍霊兵と刀霊兵を全面に押し出している。

両脇には赤備えを配置している。

【ナナシ】は心の中で舌打ちする。

備えが硬すぎる。

大将であるサーヴァントを倒しさえすれば指揮している霊兵たちはすべて消滅し

朱引陣の魔力に戻る。

この危機的状況を逆転できる。

だが敵もそれは重々承知のようだ。

無理矢理に切り込んで行っても、兵士たちを盾にして逃げられるのがオチであろう。

 

「おいおい、女1人に御大層なことだな。武田信玄はとんでもなく臆病らしい。」

「ほほほ、わしは臆病者なのでのう。厠に行くにも部下がついて

 こねば用も足せぬのよ。」

 

ダメか。

直接対決だけは絶対にしないつもりのようだ。

 

「では臆病者らしく数に頼るとしよう。嬲り殺しせい。」

 

信玄が軍配を振ると同時に全面の刀、槍兵が一斉に【ナナシ】に襲い掛かってきた。

 

「やれるもんならやってみやがれ!」

 

【ナナシ】も同時に切り込んで行く。

一斉に突いてきた槍を搔い潜り、最初の横一文字斬りで5人もの兵を切り倒す。

袈裟斬り

左逆袈裟斬り

真向斬り

左一文字斬り

逆袈裟斬り

左袈裟斬り  

次々に襲いかかってくる兵士たちを切り裂いていく。

その麗しい見た目に反して、猛獣のような荒々しい野性味溢れる戦い方だ。

脛を切り、倒れた相手の喉元に剣を突き立てる。

防御した相手の槍ごと真向から叩き斬る。

右手の剣で相手を突き殺し、左手で別の兵の襟元を持って相手を掘り投げる。

敵の槍を奪い取り、投げつけて3人まとめて団子刺しにする。

ひたすら目の前の敵を斬る。

切る。

伐る。

截る。

剪る。

切って伐って斬り捲る。

最後の一人を兜ごと叩き斬る。

この間わずか数分の出来事である。

 

「97、98、99、100。おお、ちょうど百人じゃ。見事な百人斬りじゃったぞ。」

 

自身の兵たちが倒されてにも関わらず、信玄は楽しそうに手を叩いて【ナナシ】

を称賛する。

 

「ぜえ…ぜんぜん…大したこと…無いな…はあ…」

 

眼に見えての負傷こそ無いものの、明らかに【ナナシ】は体力を消耗している

ようで肩で息をしていた。

 

「いやあ、大立ち回りを楽しませてもらったわい。だがここらでお開きとしよう。」

 

信玄が左手を上げ合図すると【ナナシ】を包囲していた兵士たちが一斉に弓と鉄砲

を構えた。

先程までと違い、アリも這い出る隙間も無いほどの完全包囲である。

どうやら【ナナシ】が戦っている間に信玄は兵士の配置を済ませていたらしい。

 

「信玄、お前…」

「いくら強かろうと個人の武勇などせいぜい百人斬るのが限界であろう。まあ、宝具

 でも使えば話は別であろうがな。」

 

誘っている。

宝具を使うことを。

信玄はこちらの正体を知りたいのだ。

確かに絶対絶命のこの状況、宝具を使えば切り抜けられるだろう。

だが使えない。

まだここで使うわけにはいかない。

 

「だんまりかね?まあ、わしはどちらでもでもいいがね。」

 

信玄が手に持った軍配を頭上に掲げる。

一か八か兵士たちの一斉射撃が始まると同時に信玄に切り込むしか活路は無い

そう覚悟すると【ナナシ】は息を整えるのに専念して神経を研ぎ澄ます。

信玄が軍配を振り下ろそうとした瞬間、一条の矢が信玄の近くの霊兵を貫いた。

 

「御屋形様!」

「何やつ!」

 

信玄の両脇の赤備えが信玄の前に割って入る。

矢が飛んできた後方を【ナナシ】が振り向くと遠方には見知った2騎の

姿を確認した。

 

「やあやあ!我こそは平能登守教経!義によって助太刀致す!」

 

遠くからでも十分に聞こえる声で教経が名乗り口上をあげている。

正成たちは霊兵を先に逃がし、僅か2騎で【ナナシ】を助けにきたのだ。

この一瞬だけこの場にいる者が正成たちを見ていた。

 

「【ナナシ】!走りや!」

 

正成の叫び声の意図を瞬時に理解して【ナナシ】は動いた。

包囲していた兵士たちが【ナナシ】から目を離している隙に後ろから切り倒し

包囲の一角に穴をあけた。

そこから包囲をすり抜け、全速力で正成たちの方向に向かって走り出した。

【ナナシ】を援護するため、正成と教経は馬上弓で兵士たちを射抜く。

 

「放て。」

 

突然の援軍にも全く焦らずに信玄は兵に命令を下す。

乱入者のせいで態勢を崩された兵士たちもすぐに3人に向かって一斉射撃を始めた。

矢と弾丸をギリギリで弾き落としながら防御し【ナナシ】は突き進む。

 

「掴まらんかい!【ナナシ】!!」

 

【ナナシ】とあと少しで合流するというところで正成は馬の速度を落とさず

に左に急旋回しながら、【ナナシ】に向かって手を伸ばす。

【ナナシ】の体ごと右腕でがっしりと掴むと正成たちは馬を車線を区切っている

防護柵の方向に向かわせる。

そのまま防護柵を跳躍して飛び越え、反対車線に着地して反転。

速度そのままの状態で走り去っていった。

この間僅か数十秒の出来事である。

 

「御屋形様。いかがいたしますか?」

「すぐに追撃を!」

「まあ、待て。」

 

すぐにでも追いかけようとする赤備えたちを手で制止ながら信玄は何か考えているようだ。

 

「…殺れんか。」

 

あれだけ有利な状況にも関わず、敵サーヴァントを取り逃がし、

赤備えを4騎、霊兵を100人以上失った。

やはり霊兵たちのみでサーヴァントを討ち取ることはよほどの事が無い

限り無理なようだ。

それほどまでにサーヴァントと霊兵の戦闘能力の差は隔絶しているのだ。

戦は数だが箸にも棒にも掛からなければ意味が無い。

今回は実験的に無造作に霊兵たちを突撃させてみたが、その価値に見合うだけの

の結果は十分に得られたと言える。

陣形を組み兵士たちを連携させより洗練された指揮をしなければサーヴァントは

殺せない。

 

「隊列を整えたのち前進、追撃する。」

 

 

皇紀2680年 平成32年 7月24日 午前 10時56分

江東区 首都高速道路

 

 

 

 

首都高速の車線を逆走する2匹の霊馬に3人のサーヴァント

それを咎めるものは誰もいない。

 

「追うてきてるか?」

「ああ、だいぶ遠くだが、来ている。」

 

教経が後方を確認すると、遠目にもライダー陣営の兵士たちがこちらに向かっている

のが分かる。

 

「…何で来たんだ。信玄の首取り損ねたじゃねえか。」

「アホたれ、死ぬ寸前やったがな!おおきにくらい言えんのか!」

 

【ナナシ】は正成の後ろに共に乗馬していた。

助けられたのが不満なようでぶうをたれていた。

 

「全く、1人であの数に突っ込むなんて無謀がすぎるわ!」

「いやいや、実に胸のすくような活躍であったぞ!感服いたしましたぞ!【ナナシ】殿!」

「まあ、お陰で兵士たちを逃がすことが出来たから良しとしたるわ。」

「おい、方向が違うぞ。こっちに石像がは無いだろ。」

 

正成たちは首都高速を降り料金所を通り抜けて、右に曲がっる

【ナナシ】の言う通りの石像はこちらには無い。

てっきり石像のところまで退却するものと思い込んでいたが。

 

「こっちで合ぉてる。ワイに任せとかんかい。」

 

しばらくの間、まっすぐ進むと道の真ん中に障害物のように

車が横一列に並んでいた。

 

「ナナさん!こっち!」

 

車と車の隙間から司が顔をだして【ナナシ】たちに声をかけた。

 

「無事で良かったマスター。」

 

【ナナシ】は馬から飛び降り、司の元に駆け寄る。

 

「おっさん!教経!無事か!」

「おお!我がマスターも壮健の様子!十兵衛殿のお働きに感謝致す。」

「いえ、拙者は何も。」

 

錬矢たちが無事合流できたことを喜びあう中、正成は後方を確認していた。

 

「【ナナシ】!追手は見えるか?」

「まだ見えないがすぐにここに来ると思うぜ。さっきまで追って来てたからな。」

「ボウズ!手筈はどうなっとる?」

「おっさんの指示通り配置完了済みだぜ。」

 

錬矢の言葉と共に兵士たちがぞろぞろと車両の前に出てきた。

弓兵と鉄砲兵が車両の全面や車上や車と車の隙間から得物を構える。

 

「よっしゃあ!ほな反撃と行くか!」

 

【ナナシ】たちはその言葉に驚く。

命からがら逃げ帰ってきたばかりだ。

ここはまずは守りを固めるのが定石であろう。

 

「敵影確認でござる!」

 

十兵衛の言葉と共に全員が前方に注目する。

赤い兵士の一団が真っすぐこちらに向かってきているのを確認することができた。

 

「まあ、ここはおっさんに任せとけって」

 

錬矢たちは車両の後ろに移動する。

正成のみは車上に立ち、霊兵たちを指揮する。

 

「ええか!ワイが合図するまで絶対に撃ちなや。敵を引きつけい!」

 

正成は大声で兵士たちに指示する。

敵兵はすでに肉眼でも確認できるほど近づいて来ている。

 

「まだや!まだ撃ちなや!」

 

すでに射程圏内だがまだ正成は撃たせない。

敵の顔が確認できるほど肉薄するかしないかというその瞬間。

 

「今や!撃て撃て撃てぇい!!」

 

正成の合図と共に兵士たちは一斉に矢と弾丸を放った。

それだけでは無い。

道路を挟んだ両側の建物からも射撃音が同時に響き渡ったのだ。

 

「あんなとこにも兵士を隠していたのか!」

 

この両側の建物に配置した兵士たちは陣地防衛用に残していった兵士たちだ。

 

「おまけや!こいつも持ってけ!」

 

轟音と共に敵兵がいた場所が爆発した。

これは宝具による砲撃。

これこそが【シスター】の宝具。

獅子を讃えし大砲聖歌(イオ ラモ イル シィーニョオーレイ)である。

前列の車両による防御陣地と配置せれた兵士たちは本命では無い。

両側の建物に伏せていた射手による側面から射撃。

正成たちよりさらに後方の建物の上からの宝具による砲撃。

これこそが本命の攻撃だったのだ。

 

「よーし!撃ち方やめぇい!」

 

正成が合図すると霊兵たちは攻撃をやめる。

硝煙と砲撃と土煙で敵軍の様子は確認できない。

だが前列の射撃と合わせて4方向の攻撃である。

敵兵は完全に消滅しているだろう。

 

「最初からこうなる事を分かっていたのか?」

 

攻撃が止むと【ナナシ】は正成に話しかけた。

ライダー陣営もある程度は反撃は想定していだろうが、ここまの罠が用意

されているとは思ってもみないことであっただろう。

 

「まあな。【シスター】にはワイらが逃げ込んできたら、侵攻作戦は失敗やさかい

迎撃に作戦変更。この場所に兵士を配置しとくように事前に伝えとった。

でこの場所に敵を誘い込むのがワイらの仕事ってわけや。

負けた時のことを考えておくのも武将の務めや。」

「その話聞いてないんだが?」

「敵を欺くには先ずは味方からちゅうやろ!上手ういったんやさかい許さんかい!ガハハ!」

 

正成は大げさに【ナナシ】の肩を叩く。

【ナナシ】は不快そうな態度をとっているが、内心この策に舌を巻いていた。

この男が味方であって良かったと。

攻撃による煙は徐々に晴れてきていた。

少しだけ早く十兵衛が気が付くのが早かった。

 

「皆!まだ戦闘態勢は解くな!」

 

十兵衛の言葉に全員が身構える。

煙が晴れた場所から赤い兵士たちが出現したのだ。

それも無傷で。

 

「何と!これは一体どういう事だ!?」

「まさか今の攻撃が効いていないのか!」

 

練矢と教経が慌てて霊兵たちに戦闘態勢をとらせる。

 

「…いや、敵兵は確かに倒した。あれは囮やったんや。」

 

正成は敵兵の足元に注目していた。

砲撃による着弾により道路は穴が空きボロボロになっていた。

しかし今、敵兵いる位置の道路は綺麗なままでボロボロな道路より後ろなのだ。

そう最初の一斉射撃で倒したのは先兵部隊。

信玄は全軍で追撃しても良い場面であえて本隊を停止させ、先兵として霊兵

300人を威力偵察として突撃させたのだ。

先兵部隊を捨て石にすることで兵の損失を300人で抑えたのであった。

セイバー・アーチャー連合とライダー軍の兵士たちはそのまま睨みった状態で

どちらも動かなかった。

ライダー側としては先ほどの攻撃を見せられては迂闊に飛び込むことは出来ない。

一方、セイバー・アーチャー連合もライダー軍の布陣している位置はギリギリ射程圏外

なるのだ。

建物からなら射程圏内だが有効打にはなり絶妙な場所だ。

ライダー軍はそれを完全に見定めているようだ。

【シスター】の宝具なら射程圏内だが、砲弾自体が若干、山なりに飛んでいくため砲撃から

着弾までタイムロスがある。

その隙を信玄を見逃すとはとても思えない。

おそらく砲撃と同時に全軍で突撃してくるであろう。

4方向からの同時攻撃でなければライダー軍を押しとどめるには至らず、そのまま大乱戦になるだろう

そうなれば誤射を恐れて建物からの射撃と砲撃は止めなくてはならず、防御陣地の

優位性は失われる。

双方10分ほど睨み合いを続け、遂にライダー軍が動いた。

来るか!とセイバー・アーチャー連合が身構えた瞬間、ライダー軍は反転して撤退していった。

さながら風のように。

 

「完敗や。」

 

正成はそう言いながらドカッとその場に座り込んだ。

 

 

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