舞い降りし軍艦鳥   作:帝都造営

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第115話 私の、唯一の、

 単線だった線路が、突然複線になる。駅に着いたのかと思えばそうではなく、そこには開けた草原……というより湿地帯が広がっていた。

 所々に顔を覗かせる泥濘、それを覆い尽くさんと背伸びする葦たち。動物たちはどこかに身を潜めているのだろうか。

 

 そんなことを考える陽炎の視界に飛び込んでくるのは、線路、線路、そして線路。

 先程の複線なんて目ではない。操車場もかくやとばかりの複雑な配線が広がっていく。

 

「ロシア連邦軍は北部サハリンへの偏重配備が特徴よ。北周りで突破されると内陸部(アムール)一直線だから、当然といえば当然だけれど」

 

 そしてその代償として、サハリン島自体をロシア連邦軍は防護しようとしていない。濃密にセンサーだけを配備しているあたり、深海棲艦に対する防波堤としてしか見ていないのだろう。

 

「ただし、実態としては防波堤(それ)すら建前。北方領土(係争地)を抱えるロシアが民間軍事企業(PMC)なんて言い訳をしながら日本の艦娘を受け入れている時点で、まさか北部だけでも守れる戦力が残っているハズがない」

 

 故に()()()()のだと、何本か分からないほどに平行して敷かれた線路を見ながら片桐はため息をつく。

 ゆるゆると、ディーゼル機関車に押された車列が進んでいく。その車体に描かれるのは、もちろん赤字に黄色い星。

 

「搭載しているのは220ミリ8連装ロケット砲、装填装置付きの補給車両を横付けすれば、大火力を継続して叩き出す砲兵陣地が完成する……と」

 

 そしてもちろん、ここまで便乗してきた列車もその巨大な砲撃システムの一角ということになる。今いる指揮統制車両の接続部に設けられた吹きさらしのデッキからでも、その220ミリだというミサイルが収められた筒が見えていた。

 

「さ、いくわよ」

「……行くって、どこに?」

 

 首を傾げる陽炎を余所に、ひょいと備え付けの梯子を持ち上げる片桐。

 

「そんなの、目的地に決まってるじゃない」

 

 その目的地がどこかと聞いているのであるが、それには答えず片桐は梯子を降ろす。後ろから続くのは飯田製造からやってきたという高西。場違いなスーツ姿ながらも、梯子を降る手付きには迷いがない。

 ともかくもあとに続き、砂利の敷かれた操車場(砲撃陣地)へと降り立つ陽炎。すいすいと歩いていく片桐を見る限り、さほど遠い場所ではないようである。

 

 その片桐は後を追う陽炎へと振り返ると、さて、と人差し指を立てた。

 

「瀬戸月学生、質量戦による深海棲艦対処における課題は?」

 

 学生なんて、教え子に先週のおさらいをする教師のような口調で片桐が言う。

 要するに、これは深海棲艦と戦う者にとっての常識。ならば、答えはひとつである。

 

「体積当たり力場出力*1の高い個体をいかに撃破するか」

「その通り」

 

 つまるところ、精鋭種(Elite)旗艦種(Flagship)と呼ばれる強い力場で攻撃を防いでくる個体をどう撃破するか。

 

「これに対する質量戦の回答(こたえ)は至極簡単……『知るものか、叩き潰してやる』」

 

 即ち、力場を突破するまでごり押しする。物量だけを頼りに撃破するという脳筋戦術である。

 

「とはいえ、そんな質量戦にもスマートな解決策はある。そのひとつがここにあるって訳」

 

 そこで高西――――ポロナイツクから同行してきている兵器メーカー(飯田製造)の人間――――が静かにタブレット端末を差し出す。ちなみにここまで、彼は一言も発することなく片桐の話を聞いていた。

 並々ならぬ協力関係にあるのだろう。どんな取引をしているのかは知らないが……ともかくも陽炎はタブレット端末を覗き込む。

 

「……これは」

 

 何かの図面、それも形状からして大砲のような武器であることは分かる。端に記された人のシルエットから、それなりに大きな兵器であることも、分かる。

 

電磁投射砲(レールガン)よ」

 

 どやり、と音が出そうな程の決め顔をする片桐に、高西は無表情で言葉を継ぐ。

 

「拳銃から艦載砲まで、現在の兵器は火薬の急速な反応、爆発により弾丸を加速、発射しています。しかし、この方法では()()()()()()()以上の弾速を実現できません」

 

 あっこれ面倒くさいやつ……陽炎は気付くも時すでに遅し。

 

「電磁誘導についてはご存じですね? これを利用して2本のレールに挟んだ金属片(プロジェクタイル)に電流を流すとレールから磁場が発生、金属片は自身に流れる電流と磁場により生じた電磁気(ローレンツ)力により加速度を得る、というものです。これにより弾丸を高速で射出します。対空火器としては既に成立しているジャンルではありますが、深海棲艦に直接投射するには威力不足が指摘されてきました、これは空気抵抗によるエネルギー損失はもちろんなのですが…………」

 

 電車が急には停まれないように、金属に延焼した火災がそうそう鎮火できないように、喋りだした技術者を止めるのは難しいのであった。

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 ヒトの手で作り出した雲が空へと伸びていく。ひとつふたつという数ではない、何十何百と立ち上るそれが、風に流されるに従って巨大な雲へと形を変え、そのまま砕けるように消えていく。

 

 多連装ロケット砲システム(MLRS)の特徴は、ひとえにその瞬間火力の高さにある。

 精密射撃なんて概念を物理的に吹き飛ばす攻撃法、相手が物量で押してくるならこちらも物量で押せばいいじゃないと言わんばかりの面制圧射撃。

 

 深海棲艦対処における質量戦なら、間違いなくMLRSは主力のひとつとなる。霊力戦と比べると効率が悪いと評されることも多いが……。

 

「恐ろしい数ですね」

「だねー。総火演(総合火力演習)でもあんな数の特科(砲兵)揃わないわよ?」

 

 ……ここまでの数を揃えれば、話は別である。

 

 分岐して平行に敷かれた線路の上に集結した軍用列車たち、そこに載せられたロケット砲が順番に発射されていく。

 撃ち終えた車両では隣の線路に進入しているクレーン付き補給車両によるロケットパレットへの換装作業が行われており、作業が終われば射撃が開始されるのだろう。

 

 ()()()()から見下ろす陽炎にとって、それはある意味羨ましい光景でもあった。

 

「…………日本に、あんな火力はない」

 

 いや、火力自体はある。これでも深海棲艦と20年以上戦ってその国土を維持しているのである。日本国国防軍は質量ともに充実している……が、これだけの火力を集中させることはできないだろう。

 

 数万キロの沿岸を抱える日本は、しかも山ばかりで平野は少ない。しかもその僅かな平野はほとんど全てが市街地か農地である。

 ここのように広大な砲兵陣地を全国の沿岸部に築くとなれば、いったい何万世帯、何十万人を疎開させなければならないだろうか。何百万トンの食糧を諦めなければならないだろうか。

 

「着弾します」

 

 日本語で報告するのは端末に張り付いていたオペレーター。アルファベットの「I」を2本クロスさせて丸で囲っただけの単純なデザインが描かれたヘルメットを被ったオペレーターは飯田製造の技術者である。

 

「よーし、では試験をはじめる。手順1ー1を……」

 

 そして彼らが行うのは、もちろん新型兵器である電磁投射砲の実地試験であった。

 

「さっき、開発はまだ完了してない的なこと言ってませんでしたっけ?」

「アレは別件。なに? もしかして陽炎ちゃん電磁投射砲(こんなもの)背負ってみたいの?」

「まさか。生身で海に飛び込むより早く沈めますよ」

 

 なにせ砲身だけで戦車よりも長く、周辺部品まで含めれば下手なプレハブ小屋より大きい。しかも電源は外部から引っ張ってきているという有り様……ヒト一人分のサイズしかない特務艇(かんむす)に載せられたものではない。艦艇に載るかも怪しいところだ。

 

 そしてそれこそが、このサハリンという特殊な場所が試験場に選ばれる理由なのだろう。

 艦娘による霊力戦を軸に据える国防軍は、質量戦とは特務艇(かんむす)部隊投入前の「露払い」である。つまり()()()や群れの外縁にいる低脅威個体を倒すのが仕事であって、力場の強い上位個体とは戦わないのである。

 

 なにせ上位個体と接敵したら最後、よほどの運に恵まれない限り大型艦艇は逃げ切れないのだから。

 

「となると、ここの砲兵隊は囮だと?」

「まさか。連中の射程に入る前に撤退するわよ。そのために線路があるんじゃない……万に一つ上陸を許しても、ここは無人地帯。その時はロシア連邦が橋頭堡建設を防ぐためにアンカレジ協定を利用するでしょうね」

 

 アンカレジ協定とは、核兵器使用に関する多国間協定である。海が深海棲艦のモノになろうとも、そこに核兵器を無秩序に撃ち込むほど人類は落ちぶれていないのである。

 

「つまり、仮に試験が失敗しても困るのは領土に核を撃ち込むことになるロシアだけ……と」

「今年のペースだとロシアは協定枠に余裕があるから、戦術核(二桁キロトン)なら躊躇うことなく使うでしょうね」

 

 ロクでもない話である。しかしそれは、艦娘を用いずに戦う国の定めでもあった。

 

「だこらこそ、この実験をここ(サハリン)でやる意味があるのです」

 

 口を挟んだのは大きな双眼鏡を抱えた高西だった。

 

「電磁投射砲の低コスト運用が実現すれば、沿岸防衛に『選択肢』が産まれます。都市部に向かう群れを無理矢理に無人地帯に誘導したり、効果が薄いことを承知で核爆雷を使用しなくてもよくなる」

 

 売り込むに(セールスポイントとして)は十分だと続ける高西。言葉を継ぐ片桐は水平線の向こうを睨んでいた。

 

「沿岸部を守れるようになれば、主要国クラスの軍備や艦娘に頼らなくても港を維持できるようになる。国際物流網が回復する。そうすれば……」

 

 そうすれば、人類は勝利に近づくのだろうか――――――考えたところで、陽炎にそれを判断する権限はなかった。

 

 

 

「さ、おいでなすったわよ」

 

 気付けば、目の前の線路からは車両が消えていた。水平線はほんのりと黒に染まっており、ここまでに繰り広げられた激戦――――といっても一方的なものであったが――――を物語っている。

 

「試験目標である旗艦級(Flagship)は12体健在、低脅威目標は300ほどです」

「思ったより残ってたな。ヒト型目標は?」

旗艦級(Flagship)12体のうち、2体!」

 

 双眼鏡を覗き込む高西に倣って支給品のデジタル双眼鏡を覗けば、確かに脅威度警告がつけられた目標がちらほら。

 

「……駆逐艦を4隻貸してもらえれば蹴散らせます」

「そういう問題じゃないでしょ、まあ言いたいことは分かるけれど」

 

 既にこちらを射程に収めているであろう彼らは、しかし地球の丸みに隠れて見えない場所から砲撃されていたが故に攻撃目標を見つけられていない。しかしこちらを視界に収めた今、一度攻撃を行えば激しい反撃に晒されることは明らかだ。

 

「2体のヒト型目標を連続射撃で撃破し指揮系統を崩壊させる。その後は高脅威判定の目標を撃破。距離2000まで砲撃戦を行い、以後は陣地を放棄する」

 

 きびきびと応えるオペレーターたちに、ふと陽炎は違和感を覚える。

 ――――仮にもここは戦場。軍需産業とはいえ民間企業の人間がここまで冷静にいられるだろうか?

 

「……片桐さん。もしかしてこの人たち……」

「ん? 民間の人たちだよ? ()()()()()()()()

「やっぱりそういうことじゃないですか…………」

 

 民間企業の体を取った派遣軍という訳である。普通に考えれば新型兵器の実験に軍が付き合わないわけがないので、当たり前のことなのだが。

 

「一応、高西さんをはじめとして何人かはちゃんとした民間のエンジニアさんだけどね」

 

 そこまで言って、ああそういえばと片桐は手を叩く。

 

「高西さんはミクロネシアに駐在していたって聞いたから、なにか聞けるんじゃないかな?」

「話を聞いておけ、と?」

「人聞き悪いなぁ陽炎ちゃんは……でも、飯田製造のことは聞いておきたいでしょ?」

「それは」

 

 否定できない。飯田製造は親会社である飯田産業グループの完全子会社……飯田家による一族経営企業の象徴的な存在だ。

 

「ほとんどの創業者一族が市場から追放されて久しいけれど、それは何も創業者一族が無能だったからというだけじゃない……不気味なんだよ、創業者ってのは」

 

 起業というのはそう簡単なものではない。理由は単純、事業化できるような(金儲けが出来そうな)仕事は既に事業化されているからである。

 

「創業者ってのは先駆者(パイオニア)だ。誰もが思いつかないことに突然手を出した突然変異みたいなもんだ。ファースト・(最初に海に飛び込んだ)ペンギンだって、鳥類学者から見れば気の狂った鳥にしか見えなかった筈だよ」

 

 だから、不気味なんだよと片桐は続ける。

 

「正直、小河原夫妻が狂人なのか先駆者なのかは私にも判断はつかない……ううん、違うか。結果が出るまで彼らは()()()()()()()()()()()()()()()

「……」

「そして、小河原夫妻の背後には間違いなく飯田家がいる。こうしてサハリンにも進出し、サハリン特別経済区にもガッツリ関わっている」

 

 なら、飯田製造(彼ら)を知ることは決して無駄にならない筈だと片桐は結論付ける。

 

「まして飯田製造は、霊力戦系兵器の先駆者なんだから」

「それは、」

「射程に入ります!」

「照準最終調整よしっ!」

「攻撃開始」

 

 陽炎が言いかけた言葉は誰の耳にも届くことなく、砲台は慌ただしい喧騒に包まれる。

 

 

 そして、空気がぐっと震えた。

 

 

 まるで圧縮されるような、音を伝える空気そのものが切り裂かれたが故の無音。

 

「っ!?」

 

 異様な感覚に、大慌てでデジタル双眼鏡を手に取る。電磁パルス対策も施されている最新鋭のそれは、こんな状況でも覗き込めば見たい場所を素早くズームしてくれる。

 

 そしてそこには、ぱっくりと割れたヒト型()()()()()が映されていた。

 

 遅れてやってくる轟音、衝撃波の余波が土埃を飛ばし、髪を容赦なくかき回す。

 それでも双眼鏡は、しっかりとヒト型を捉えていた。ようやく体幹を喪ったことに気付いたのだろうか。立ち枯れた草が萎れるように、海の中へと落ちていく。

 

「高脅威目標の破壊を確認。通常射撃に移行」

「コンディション・チェック」

「4番コンデンサ温度が想定よりも高いです。他は異常なし」

「4番コンデンサ回路を切り離せ。試験を続行する。手順の……」

 

 そこから先は、単なる屠殺場だった。

 ロケット砲による入念な事前攻撃で必要最低限にまで減らされた個体数、戦闘開始と同時に群れを統率しているであろう旗艦級(Flagship)を撃破されたことによる混乱……そういった要素を抜きにしても、強すぎる。

 

 

『まして飯田製造は、霊力戦系兵器の先駆者なんだから』

 

 それは、もう過去(かこ)の話だろう。片桐の言葉に返せなかった陽炎の言葉が、身体の内で跳ね返る。

 

 確かに、飯田製造は艦娘7社――――帝産HD(帝国産業ホールディングス)の撤退により6社となってしまったが――――と呼ばれる特務艇艤装・特務艇関連装備の主力製造メーカーだ。

 しかしこの会社(飯田製造)はあくまで搭載兵器の開発・生産が主業務。ハッキリ言って、存在感は薄い。それこそ、飯田を除外した艦娘5社を艤装メーカーと呼ぶこともあるくらいには。

 

 そもそも、艤装メーカーだというのならどうして目の前にあるような兵器を開発しているのだ。これこそ、彼らが艦娘を軽視している証拠ではないか。

 そしてなにより……

 

 

飯田家(かれら)は損切りをした』

 

 

 飯田家は既に、霊力戦を……陽炎の養父(おとうさん)を、損切りして(見限って)いる――……

 

 ……いや、違う。

 これは小河原3佐(あのオンナ)が勝手に言っただけ。確たる根拠があるわけではない。

 

「(ああ、クソっ)」

 

 考えがまとまらない。何もかもが怪しく見える。己が疑心暗鬼に陥っているのは分かるが、分かったところで対処なんてできない。

 

 

『あなたは、どうしたいの』

 

 

 どうしたいかって? そんなことが分かったら苦労はしない。もう八方塞がりで、周りにいる人間は敵にしか見えない。踏みしめるのは異国の地、遠巻きに見守る仮想敵国の軍隊、行動を共にするのは得体の知れない民間軍事企業(PMC)……。

 

 こんな状況で、誰を信じろと?

 

 

 いや、違うか。

 

『私には、まだ分遣隊を守るって仕事が残っているからね。もう少しの辛抱よ』

『気持ちは分かります。お辛いでしょう、ですがこれはお互いに幸せな選択でもあるんです。これで、この子たちは暖かいスープと毛布を与えられる。教育だって受けられる』

『もういいわ。あなたの気持ちは十分わかった。それじゃあ、もう終わりにするわよ』

『君たちには復讐する権利がある』

『国防軍は命を張った者こそを優遇するんだよ』

 

 

 あの時……ミクロネシアで、インドネシアで、ニューギニアで、ニッポンで、サハリンで。

 私の言った言葉も、私にかけられた言葉も、どんな相手から言われた言葉も、全部ウソだったじゃないか。

 

『父さんはな。お前の本当の父さんじゃないんだ』

『あなたが、私の家族だったということです』

 

 信じたときに限って、ロクなことには――……違う!

 

「(みんな必死だった!)」

 

 だって、義母さん(おねえさん)には守らなければならない部下(ヒト)たちがいた。

 泣く泣く我が子を手放した母親には同じくらい大切な子供たちがいた。

 不知火(あのこ)()()()()()()()()として見ず知らずの『子供』たちの運命までも背負い込もうとした。

 片桐が瀬戸月(わたし)なんかに肩入れするのは、私が瀬戸月(わたし)だからだった。

 

 

 それを全部知ってたクセに、私は、それを全部、()()にしてきた。

 

 

 義母さん(おねえさん)の言葉を信じたのは、圧倒的な劣勢を強いられているミクロネシアに行って、戻ってこられるか分からなかったから。

 他人に引き渡される我が子にせめてもの幸せを求める母親に応じたのは、さっさと取引(しごと)を終わらせたかったから。

 不知火(あのこ)の役目を奪ったのは、破滅に向かう戦友を見捨てるクソ野郎になりたくなかったから。

 片桐の手を振り払わないのは、私が自分を守れるだけの……力を、持っていないから。

 

 

 そして。

 

 

 養父(ちちおや)の言葉を信じたのは…………私は孤独(ひとり)だって、そんな予感があったから。

 

 不知火(あのこ)の言葉を信じたのは……孤独(ひとり)はやっぱり、イヤだったから。

 

 あんまりだ。あまりにも自己中心的。

 でもそれが、瀬戸月ヒナタ(わたし)の本性なのだ。

 

*1
深海棲艦の用いる「特殊な力場」のこと。

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