舞い降りし軍艦鳥   作:帝都造営

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第15話 弧鶴は静観せず

「副司令!」

 

 

 執務室に飛び込んで切羽詰まった部下の一声が、未だに耳から離れない。

 

 

 今わたしの目の前に広がる惨状を伝聞されただけなのに、燃え盛る連絡艇の姿をこれでもかと連想させた。

 

「酷い……」

 

 それは誰の呟きだっただろうか。

 付き添いで来た職員も吐いて済む話ではなかった。

 

 泊地間移動用の高速飛行艇。その残骸がようやく近場の浜へ引き揚げられたと聞いて駆けつけてみれば、これである。

 既に消息不明から4日が経過している。波に洗われ血糊すら分からない程に機体がバラバラでは、仮に肉片一つあったとしても誰だか不明だろう。

 

 生存は絶望的な状況。機長一名、副機長一名、乗員四名。その中に、私の愛する人が含まれているのは間違いない。

 

 あの日の朝は荒天だった。

 提督さんはいつも通りに起きたし、出勤前のコーヒーも飲んでいた。

 そしてフライトを延期すれば良いのにと窓の向こうを見る私に笑って言ったのだ。

 

 

 どうしても外せない用事がある、と。

 

 

 護衛を担当するはずだった艦娘は、悪天候での艦載機運用に不慣れという事で待機。

 この状況下では深海棲艦の活動も穏やかになると気象部の進言もあり、提督さんがそう判断した。

 

 そして彼は還らぬ人となった。ただそれだけの結果が私の胸を塞ぎ続ける。

 

「申し訳ありません、先輩ッ。私がっ、あの時護衛を降りろとの指示に従わなければ……!」

 

 青色の袴の女性が地べたに額を擦りつける。彼女は空母艦娘だ。経験こそ乏しいものの、圧倒的搭載数を誇る切り札。

 

 もし彼女が同乗していればこんな事にはならなかった?

 

 それは否だ。

 姉の泊地が陥落した時と同じ。

 私がいればどうにかなったという夢物語に過ぎない。壊れたラジオのように責任は私にと連呼する後輩の肩を私は掴む。

 

「山下3尉、あなたに責任はない。最終判断は提督さんが下したの。だから、これは提督さんの責任よ」

「ですがッ!」

 

 まっとうに相手をしてしまえば、私は彼女を殺してしまうだろう。

 

 それが八つ当たりだということは理解している。

 かつて姉が存在しないバケモノに憎悪を向けたように、私が、自分自身を切り刻んだように。

 

「ありがとう。でも顔を上げて」

 

 その刃を、彼女に向けることはできない。

 

「提督さんがいないなら、猶更私たちが頑張らなきゃならないの。哨戒を怠らないように。今、攻め込まれたら終わりだわ」

 

 だからこそ、私は副司令の立場。提督さんの代理であることに拘った。

 公私の判断に境界を引き、命令を出す立場に。それは私が望んだというより、私を取り巻く環境がそうさせた。

 

 ここ数日の不安材料が多すぎる。

 

 チューク諸島から艦娘が引き抜かれ始め、部署も解体を想定したかのように重職が去っていく。

 長門隊長と衣笠さんは、こんな事態になったのを関係ないとばかりに別の戦地に送り出されてしまった。その穴埋めに追われていたところでこの事件。

 

 

「とにかく、私たちは担当海域(もちば)を守るのよ」

 

 

 それは部下への叱責だったのか、自分に言い聞かせていたのか。

 

 とにかく私は机にしがみ付いた。

 提督さんの殉職は第8護衛隊群の全域に再編の波を及ぼし、約束されていた戦力の増強は撤回される。そして私たちの動きを観察しているかのように、深海棲艦も増え始めた。

 

 日に日に周囲の泊地の救難要請が増え、主を喪った執務机の上には破綻した計画書が積み上げられる。

 

 何もかもがおかしくなっていた。

 

 新自由連合盟約(ニューコンパクト)に基づいた派遣が始まって以後、確かに何度か深海棲艦の大規模攻勢はあった。それは私が着任してからも続いていたけれど、こんなにも転がり落ちるように戦局は悪化してしまうモノだろうか。

 

『政府と議会が政治的判断としてミクロネシアに居残ろうとしているのでしょう? それなら、それは仕方ありません』

 

 かつて、自分の言った言葉が思い出される。

 あの時は、政府はミクロネシアへの派兵を続けようとしていた。では、()()()()()()()()()()()()()

 

 今この瞬間、ミクロネシアを支える柱が引き抜かれつつあるのは間違いない。

 聞けばチューク州駐留の空自部隊にも大規模な人事異動と再編計画が持ち上がっているらしいのだ。

 

 部隊増強と新装備受領・訓練のために本土に一時帰還。

 ――――――()()()()と同じなら、それは事実上の撤退命令。断固として辞退しましたよと笑う防空部隊の小沢2佐にも、諦めの表情が浮かぶ。

 

『まだ怪文書レベルだが、北マリアナ諸島での防衛プランが出回っている』

 

 そしてあの後、ミクロネシア連邦からの撤退論は鳴りを潜めた筈だった。

 政府は繰り返しミクロネシア前方展開群の増強を訴えているし、幕僚監部も再編計画を急げとこちらに通達してきている。急げと言われたところで、何をどう急げというのか。

 

 戦況の悪化に従って、頭の片隅で脱出作戦を計画しなければならない段階が迫っている。

 それは食料事情の悪化。

 各地の戦力が不足したことで、深海棲艦による輸送船の襲撃被害が増えているのだ。

 

 航空路による疎開は始まったが、十万を数える住民の前では雀の涙に等しい。

 

 ミクロネシア連邦政府、そしてチューク州の行政官との協議結果を報告書にまとめ、食料の消費計画を立てる。

 

 住民への放出すらも無闇には行えない。

 増援はいつ、どの程度来るのか、住民の疎開に必要な船と護衛戦力は確保できるのか。それが分からなければ何ヶ月ここを持たせればいいのかも分からない。

 

 戦況図には周囲に出没した深海棲艦のマーカーが次々増えていく。押し寄せる濁流に呑まれた家屋のように、この環礁は周囲から孤立しつつあった。

 

 いっそ、全力出撃を行って周囲の敵戦力を撃滅しようか。その度に提督さんの言葉が蘇る。

 

 

『この戦争に勝ちはない』

 

 

 いつかの演習で勝ちに固執して後背を断たれた記憶が、今の私をなんとか防衛作戦にしがみつかせた。

 

 全力で敵を攻撃すれば脱出する輸送船を護れなくなる。

 輸送船に部隊を貼り付ければ敵は全力で輸送船を沈めに来る。両方に手を出せば戦力が分散して各個撃破。

 

 であれば、この状況で取り得る最善手は余計な手出しをせず戦力を温存させることだ。

 

 提督さんならこの状況をどう乗り切るだろう。私に出来るのはここを守ることだけ。

 

 最善手を打ち続ければ現状維持は出来るだろうけれど、それがミクロネシア連邦を守り切ることに繋がるとは思えなかった。私の精一杯は最低限の防空と書類仕事で磨り潰され、果たして司令官代理として適正な仕事が出来ているのかすらも分からなかった。

 

「司令代理、少しお休みになっては如何ですか?」

 

 気付けば、目の前には大量の紙媒体(ハードコピー)が散乱している。いつの間にこんなに積み上がってしまったのだろう。見渡すために立ち上がったところで、すっと意識が遠のいた。

 

 失意の中で、普段通りに振舞おうとしていたツケがいよいよ回っていきたというのだろうか。ギリギリのところで踏み留まって、私は椅子に身体を落とす。

 

「そうもいかないわよ。あなたこそ入渠がまだなんじゃないの、神通……さん」

 

 その言葉に、戦闘詳報を渡してきた神通さんは肩を竦める。上司からさん付けは似合わないと言っていた彼女の言葉を思い起こして尻窄みになる。頭の制御がもう効かなくなっている。

 

「艤装は大破しましたが、私自身はたいしたことありませんよ」

 

 証明するかのように、神通さんは腕を振る。わざわざ大丈夫だという辺り、怪しいものだ。

 

「それより、司令代理は一度寝てください。前回横になってからもう20時間が経ってます」

「無理よ。こっちは包囲されかけてて、相手の数は増えてくる。それなのに寝ろって?」

「司令代理の計算が正しいのなら、今回の出撃で10時間の猶予が出来たはずです」

「それは予測でしかないわ。相手は常に私たちの予想の上をいく」

「ええ。ですから、敵襲があれば起こします」

 

 第3分遣隊の皆が、提督さんの部下たちが戦っている。執務室に座る私と違って、危険な戦場に立っている。どうして私だけ休めよう。朦朧とする意識を振り払い、私は机に齧り付く。

 

 それに、眠りたくないのだ。

 瞼を閉じれば浮かぶ血みどろ姿の提督さん。

 

 彼の死骸を確認した訳ではないのに、無残な形で転がっている姿しかイメージできない。

 

「今、私たちは着実に包囲されつつあるのよ? そんな呑気なこと言ってられない」

 

 私の言い訳は、果たして彼女に通じているだろうか。神通さんは小さくため息をついた。

 

「まだ包囲が完成した訳でないことは、あなたが一番よく知っているでしょうに」

「雨に濡れた張り子の虎が、いつまでも虎でいられると思う?」

 

 確かに、敵の攻撃に対して分遣隊はよく対応してくれている。

 

 威力偵察のように最低限の戦力をぶつけて最大限の戦果を挙げる。

 そんな作戦計画(むちやぶり)をみんなに強いることで、私たちは均衡をなんとか保っている。深海棲艦はあらゆる攻撃を跳ね返す分遣隊に強力な戦力があると思い込んで、涎を垂らしながらも遠巻きに見守るに留めている。

 

 しかし、いつまでそんなハッタリが使えるだろう。

 

 分遣隊はこの綻びかけたミクロネシア戦線の()()()、南洋の守護神だなんて外野は言う。しかし現実は、周辺の泊地の救援も出来ずに引き籠もるだけ。攻撃を引き受けることで戦線全体を支えるという理屈も、戦況の悪化に伴って怪しくなってきた。

 

「ですから、まだ均衡が保たれているうちに、休んでください」

 

 沈黙を保つ私。向こうも私が寝る気がないことを察したのか、直立の姿勢を崩すと脇腹を庇うように手を添える。

 

「実は、肋骨が折れています」

「え? なにそれ、聞いてない」

 

 もちろん、折れているのは神通さんの肋骨だろう。彼女はけろりとした顔で続ける。

 

「言ってはいませんからね。普段の司令代理なら、呼吸の調子で気付いたと思いますが」

 

 言外に「お前に指揮能力はない」のだと告げてくる神通さん。

 私は顔を見られないよう乱暴に視線を落とすと書類を取り出した。力が入りすぎたのか、押された印鑑は少し滲んでいる。

 

「すぐ治してきなさい」

「了解しました」

 

 なのに、神通さんはその場からピクリとも動かない。彼女は無表情に口を開いた。

 

「……どうやら、痛みで足が根を張ってしまったようです」

 

 司令代理が自宅でお休みになれば、解けるような気がするのですが。そんなとんでもないことを言ってみせる神通さんに、私は呆れるしかない。

 

「そんなのただの脅しじゃない。そこまでして帰らせたいわけ?」

「宿直担当がいる日くらいは帰ってお休みになってください」

「……分かったわよ。じゃあ仮眠をとって」

「明日の始業まで来ないでください。敵襲があればお呼びします」

 

 どうやら引き下がるつもりはないらしい。書類鞄も持たせてくれなさそうな調子の神通さんに追い出されて、私は司令部を後にすることになる。

 

 部下の怪我を見過ごすなんて最低だ。

 私の心は最低限の防空と書類仕事で磨り潰され、もはや司令官代理としての適正な仕事すらも出来なくなったらしい。

 

 愛想を尽かされて、今日こうして追い出されてしまった。もしくは、僅かな休養で私が「復活」するとでも思っているか。

 

 だとすれば私は嗤うしかない。提督さんという大黒柱を喪ったこの泊地は、既に滅びの道を辿っているというのに。

 

 押し寄せる深海棲艦が急増した。

 戦力も周りの泊地に引き抜かれた。

 

 こんな絶望的な状況で、私は彼の妻として。そして第3分遣隊の旗艦として振舞わなければならない。

 

「次の船便はいつ?」

「定期便はもう出てないんですよ。内火艇(ランチ)をご用意します」

 

 そうなのか。小さな掩体壕から内火艇を引き出す部下を眺めながらぼんやりと思う。

 

 振り返ってみれば基地はさんさんたる光景だ。深海棲艦の攻撃はこちらの脅威度を見極めて行われる。それを逆手にとって基地の周辺には避雷針代わりの欺瞞模型(モツクアツプ)を設置して攻撃を逸らしているのだが、それでも流れ弾が庁舎に当たることは避けられない。

 

 基地機能を地下に移動し、庁舎は放置。

 執務室や私の仮眠室は屋根を失った。

 

 もう限界だ。この戦線は、完全に破綻しかけている。

 

 なにせ補給と兵站、提督さんも口にした軍事の最重要項目が崩壊している。

 庁舎の補修資材はもちろん、艤装の修理すらままならない。度重なる航空戦で艦載機の予備部品は底を尽きかけ、運び込まれる補給は少なく遅い。

 この期に及んで、補給業務を打ち切るか護衛を付けて欲しいと船会社から打診が来る始末。

 

「だいたい、民間船舶の護衛は航空集団の仕事……本国の部隊は何をして」

 

 そこで言葉が途切れる。

 

 本国は本当に何をしているのだろう。

 民間船舶を守るくらいなら造作もないはず。

 

 深海棲艦の大攻勢を受けているのはミクロネシア連邦だけ、戦力を集中させることは可能な筈。その思考を断ち切るように、コール音。

 

『しかし、8護群は嫌われ者だぞ』

 

 どうしてあの日の通話を思い出すのだろう。部下の声が私の記憶を遮る。

 

「司令代理、準備が整いました」

「え、あぁ……ありがとう」

 

 8護群に敵意を持つものが自衛隊内にいる。疑心暗鬼になり過敏になっているだけかもしれないが、この泊地は誰かに貶められようとしている。そう私の中の何かが囁く。

 

 どうしてこんなことになったのだろう。私は、ただ深海棲艦との戦いを終わらせたいだけ。

 せめて平和な世界を少しばかり、娘に見せたいという虚栄心だけが身体を支え続けてきた。

 

 何かが足りなかったのだろう。事務? 作戦立案? とにかく部隊の運営もまもなく破綻する。忙殺されそうな業務量によって娘の面倒など見られなくなった。ツテを使って、早めに本土の知り合いに育児をお願いしたのは最近の数少ない英断だと思う。

 

 

 今ここに提督さんが居てくれたら――――――!

 

 

 そんな成立し得ない仮定が頭を巡って仕方がない。私が娘を産まずにいたら、連絡機に提督さんは乗らずに済んだのではないだろうか。

 私が産休をとらなければ、もっと早く深海棲艦を倒してこの大侵攻の芽を摘めたのではないだろうか。

 

「違う、あの子は悪くない」

 

 そんな妄想を必死に振り払う。戦争が終わらないのは大人(わたし)達の責任だというのに、どうして産まれてしまった娘に非があるというのだろう。彼から授かった命すら踏み台にして、私は歩み続けなきゃならない。それがせめてもの贖罪なのだから。

 

 内火艇を降りて、新市街を歩く。

 ヒナちゃんと眺めた新市街も大分姿を変えてしまった。まだ爆撃の炎は一軒一軒の家に降り注ぐことはないが、住民達は暇を見つけては隠れるための穴を掘ったりしている。

 公共防空壕(シェルター)の建設は、資材の不足を理由に中止されていた。

 

 ヒナちゃんの顔が思い出される。

 彼女がこちらに帰ってこなかったのは正解だった。父親の最期を見たさに命を絶つなんて、それこそ提督さんは許さないことだろう。身体が覚えていた記憶を頼り、誰もいない家へと帰りつく。ただいまを返してくれる家族はここにはいない。

 

 提督さんは何処かの空に散ってしまった。

 ヒナちゃんは本土で勉学に勤しんでいる事だろう。

 私の娘は、安全な筈の本土にに預けっぱなしだ。

 

 嗚呼――――――親としても、軍人としても失格だ。

 これが提督さんが自嘲していた事なのだと、今頃になって痛感する。

 

「……?」

 

 ふと見ると、郵便受けにねじ込まれた小包。

 

 新聞はこの前の長期作戦前に止めたし、ダイレクトメールを送れる状況でもないだろう。切手も貼られていない厚手の紙に覆われた小包。

 

 消印もないから、わざわざ誰かがここに置きにきた?

 

 訝しむが、考えた所で結果が変わる訳ではない。私は中身を見分しようと手をかける。ふと、床に落ちていたクマの人形が思い出された。

 悪意の詰められたそれを手に取ったら最後、爆発しておしまいだ。

 

「…………いや、もう。それでも良いか」

 

 私は乱暴に小包を開ける。勢い任せに開けたせいか、飛び出した便箋やらなにやらが重力に従って落ちていく。

 なぜ、どうして。慌てて拾い、字を見て驚いた。湧き出る疑問で手が震える。

 まさしくそれは、死んだ筈の姉の筆跡だったのだ。

 

 

 

 お久しぶりというのも変な話でしょうか?

 お久しぶりというのも変な話でしょうか?

 

 私が行方不明になってから早くも2年経つと聞かされて、とても驚いたものです。

 やはり研究と戦争は別に捉えるべきでしたが、この期に及んでは今さらでしょうか。

 さて、こうして連絡したのは理由あってに他なりません。チューク諸島が置かれている状況は把握しています。動くべきかは迷いましたが、血の繋がった妹を助けない姉はいないでしょうと筆を執りました。

 

「このリストに、見覚えはありますか……? こんなもの、どうしろって」

 手紙にホチキス止めされた名簿。政府高官と防衛省、自衛隊幹部の名前が羅列されている。

 

 それが貴女の想い人に仇をなした敵です。

 彼らがいる限り、私達と人類との戦争は決して終わる事はないでしょう。

 同梱した瓶の中身が気になるかしら? それの使い道は、貴女達が苦境に立たされた時に使いなさい。海の神様が微笑めば、救いの手となるでしょう。

 では、貴女の航海に武運長久を。

親愛なる唯一の姉より。

 

 

 

 裏面に書いてあるのは、ワザとらしく書き殴られた文字。

 

 

 ウミハナミダデミチタカ ニクシミヲソソゲバカワクコトハナイ

 

 

「まさか……」

 

 名簿を改めて睨む。

 艦娘派の上級幹部の名前は一切ない。すなわち、彼らは提督さんをまだまだ使える駒だと認識していたということ。

 

 しかし名簿には艦隊派だけでなく、艦娘派の人間も混じっている。8護群の戦果が疎まれていたという事?

 

 そして極めつけは提督さんの部下も数人含まれている。であれば、輸送機の撃墜は敵襲ではなく()()だった。

 

 

 他でもない人間によって提督さんは殺されたのだと。そのリストは示している。

 

 

「そんな事……」

 

 ありえないという言葉は口に出来なかった。

 姉を名乗る人物は、私と提督さんの関係を確信して情報提供をしている。提督さんの死を出汁にして、私に自衛隊を裏切れと言っている。

 

 幸いな事に、832護衛隊のメンバーや長門隊長を含んだ関わりのある人達の名前が無い事だけが救いだった。

 

 しかし意味が分からない。

 私の家族構成を把握している者は、政府や自衛隊の人間くらいしかいないだろう。そして彼らに、こんな怪文書を送る必要があるとは思えない。

 

 こんなものに惑わされず、毅然としなければ。

 

 その想いを嘲笑うかのように、一つのディスクが封筒から待ってましたと顔を出す。

 

 

 ――――――毒を食らわば皿までと。

 

 

 ――――――寝ぼけ眼をこすりながら接続して端末に映し出されたものを見て。

 

 

 ――――――私は、後悔することになる。

 

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