舞い降りし軍艦鳥   作:帝都造営

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第 2 話 若鶴は蒼を梳く

 

 ここは南方、故郷から遠く離れた未知の戦場。

 それでも、私のやるべき事は変わらない。

 

 ――――――変わらないはず、だった。

 

 

「……ッ!」

 

 

 流石に前時代的だったせいだろうか。抗議の声を上げるように床が飛び上がる。

 

 いや、飛び上がったのではない。扉の向こうの景色が澄んだ蒼に変わったのを見れば、機体が大きく傾いたのだ。

 

「回避機動……!?」

「2佐、掴まって下さい!」

 

 そして次の瞬間に襲ってくるのは浮遊感、かと思えば直後に全身が床に押しつけられる。

 海という平面空間での動きに慣れた私にとっての異常事態に、そこら中の細胞が不快感を訴えてくる。

 開いていた扉が勢いよく閉まり、重い音を響かせながら外界への道を遮断する。

 

 その瞬間に見えたのは、不格好な影。

 

「敵艦載機……!」

 

 流線形の全翼機、要素だけを取り上げればありきたりなデザインは、しかし世界中どこを探しても見つからないことだろう。

 操縦席を思わせる突起部は鈍い光を放ち、推進機(スラスタ)を思わせる箇所はアフターバーナーのように輝いている。

 

 そしてそれは、悪夢の象徴。

 数え切れないほどの貨客機を文字通り喰い散らかし、空を真っ黒に染めた張本人。かっと熱を覚えた顔面を冷ます術を私は知らない。

 そうなれば、通話装置のスイッチを押し込んでしまうのは仕方ないだろう。

 

「機長さん、もうここでいいです。いいから降ろして!」

 

 その直後に耳に押し込んであるインカムが鳴る。そこで踊るのは機長の声。

 

「馬鹿なこと言うな、2佐の艤装が降ろせなくなる。コイツを振り切ってからだ」

 

 無理です、振りきれるはずがない――――――そんな言葉は必死に飲み込む。

 

 考えろ、必ず突破口はあるはずだ。

 パラシュートを背負いながらでは飛行甲板などの大振りな装備は装備できない。身につけているのは脚部の浮力装置だけで、これでは海に沈まない程度の活躍しか出来ない。

 

「(……それでも、艦載機を放つだけなら!)」

 

 己の手に握られた艦載機。霊力触媒として機能する矢は、もちろん発艦装置(ゆみ)を用いて射出するのが望ましい。しかしこの高度があれば、十分に展開させることは可能だろう。

 つまり、外に飛び出しさえすれば出来る。

 

 もちろん、艤装を降ろして貰えなければ私の作戦能力はゼロだ。とはいえ飛行機を喪った空母は無力。それなら、海に立つことしか出来ない能無しでも問題はあるまい。

 

「構いません、私さえ飛び出せば離脱できるでしょう!」

「……離脱するつもりはない」

 

 それはこの海にせめてもの一石を投じようとする、機長の意地であったのだろうか。

 しかしそんなことを言っていては共倒れである。

 この哨戒機に対空機銃の類いは積まれていない。このままゆらゆらと揺れたところで、最後には海の藻屑となってしまうことだろう。

 

 こうなれば、勝手に飛び出すしかない。

 そう判断した私は制止を振り切って扉に取り付く。

 開ける手順は先ほど見せて貰った通り。扉を開き、秒速数百メートルの風が吹く世界へと顔を覗かせる。

 

 その瞬間、待ち受けていたのは敵の艦載機。

 

 扉が開けば私が飛び出てくることを見越していたのだろう。下等生物と世界中の学者が罵ったところで、深海棲艦には知性があった。

 そして敵機と眼が()()。比喩ではない、眼があったのだ。具体的にはその鈍く光るキャノピーと真っ黒な銃口が、しっかと私の双眼を捉えていた。

 

 携行していた高角砲を咄嗟に差し向けて発砲。近距離での轟音に乗員の悲鳴が木霊する。

 

 突出した一機が旋回してこちらに(あぎと)を向ける。味方機を巧妙に盾にしながら再び距離を詰めて迫ってくる。その腹に抱えられた臓物を見て、私は目を見開いた。

 

 それは閃光を放つ寸前にまで膨れ上がっていた。敵の照射に至るまでの情景がスローモーションで目に灼きついていく。艦娘の加護があれば、例え実体弾でも深手を負う程度に抑えられる。ただし私が無事でも、哨戒機が爆散してしまえば()である。

 

 ええいままよと、私は身を投げ出した。

 両足で蹴って蒼穹へと飛び出す。腕で前面を守り、哨戒機の盾となる格好に。

 

 例え稼げる時間が一瞬でも、哨戒機が全力で逃げれば無駄ではあるまい。態勢を崩しながらも牽制弾を放ち、奴の注意をこちらに向ける。

 

 深海棲艦は本能的にデカブツよりも小型のヒトを狙う。仮説というレベルで提唱されているに過ぎない可能性に賭けた私は勝った。もちろん、奈落への片道切符と引き換えに。

 

 衝撃を待ち受けるだけになった私。それなのに、その瞬間は何時まで経っても来ない。

 

「え……?」

 

 その閃光は、敵機の閃光。相手の断末魔。

 状況が飲み込めない私に答えを示すかのように、小さな水上機が現れる。落下しながら見上げた空を護るのは、翼に刻まれた赤い日の丸。水上機は挨拶のように羽根を振って、ぐるんと機首を翻した。

 

 何処の部隊が助けてくれたのか。そんなことを考える暇はない。

 大事なのは私に命が残されたという事実。それなら私は命尽きるまで深海棲艦を討つ。それが私の使命なのだから。

 

 足が空を切り、支えを失った身体が風に流される。

 片手に抱えた矢束だけは離さずに、回転する視界の端で哨戒機が飛び去っていくのを確認する。先ほどの水上機だけでは追い払い切れなかったのだろう。その先には雲霞の如き敵機の姿が見えた。

 

「やらせるものか!」

 

 さぁ、咲き誇れ。

 

 急速降下しながら矢束をばら撒くだけで、水を得た魚のようにその切っ先は一斉に(うみ)を向いた。弓に矢を番える必要はない。艦載機が緊急展開、瑞鶴の銘の元に桜花の機体が(そら)を裂く。

 八十機の閃光が弾薬をばら撒きながら、敵の航空隊を穿っていく。

 

 パラシュートを開くには早い。落下し続ける中で私は脚部艤装が発生させる浮力力場で無を蹴った。

 

 脚部から放出される不可思議な力は、確かに重力には無力だろう。

 しかし(みず)相対(あいたい)するものならば、空気中の蒸気を捕まえることは出来るはず。爪先まで神経を集中させ、ただ突くように蹴り出した。

 

 もちろん降下速度に対しては僅かな距離しか移動できないが、敵の砲火を掻い潜るには十分。背中と頭上で炸裂する殺意を感じつつ、私の身体は戦場に舞い降りる。

 

 目指すは眼下に映るコンテナ貨物船。

 群がっている敵艦を排除しないことには意味がない。息を詰める。片眼を閉じる。右手に構えた高角砲は、砲撃戦にも耐え得る特注品だった。

 

 それでも、まだ距離は遠い。対空砲火の間隙をすり抜け、その瞬間を探す。

 

「今ッ!」

 

 パラシュートを展開、海面まではもう百メートルもない。もはや死なない程度の減速しか望めない事実上の自由落下。

 艤装の出力を限界突破。大量の水飛沫を巻き上げながら、落下による運動エネルギーを相殺する。艤装が引き裂かれんばかりの悲鳴を上げる。

 

 絶対に沈まないという心と、艦娘としての加護。それらを糧にして衝突する。

 文字通りに海が割れた。落下の衝撃と水を弾く力が均衡し、私の身体を中心に凹んだ海面。

 照準に敵機が映る。どうやら地球の重力を以てしても、私の意識を刈り取ることは出来なかったらしい。このとんでもない無茶ぶりに、見事に瑞鶴(フネ)は耐えきったのだ。

 

 流石に度肝を抜かれたのか、何匹かの深海棲艦は棒立ちだった。

 貴奴ら(きゃつら)が人並みの知性を持ち合わせているのかはこの際どうでもいい。私は艦娘で、目の前に敵。それだけで十分。

 

 トリガーを引き絞る。

 艦橋に張り付こうとした深海棲艦。その胴体を撃ち抜いたのを見届ける余裕はない。次の瞬間には跳ね返るように飛び出して、私は次なる獲物を狙う。

 立ち塞がろうとするヒト型が機銃の雨を浴びて仰け反る。ここに展開する艦載機の一つ一つが、私の手であり爪。

 

 さながら意志を持つ猟犬の群れ。束ねる首領が私である。

 

 雲霞の如く繰り出す技巧は、数が限られる空母艦娘においても至難。それを出来るという自負と、戦では負けられない矜持だけが私の唯一であり全て。

 搭載数に勝ったり秀でた能力を持つ空母は他にもいる。例えとがった性能がないとしても、翔鶴型航空母艦は戦線を支えるには十分に応えてくれる。であるからして、この戦闘に於ける制空権争いは(いち)が全。全が(いち)だ。

 

 戦術端末がピープ音で鳴く。脳に負荷をかけ過ぎだと警報が走ったのだ。

 ここで全力を出さなければ瞬く間に相手に磨り潰されるのだから、もちろん無視。

 

 逃げ傷なんて許されない。墜とした敵機の翼端が鋭利な刃物のように散って、破片と共に流れていく。腕を掠めれば、後方に延びていくのは赤色。

 

「この程度……ッ!」

 

 何という事はない。作戦続行。

 幾重にも張り巡らされた戦闘機の網。それで敵艦を察知し、砲撃を避けて逆に攻撃を叩き込む。まさに攻防一体、旋回すらも回避に非ず。次なる目標へ砲を向ける。

 押しては撃ち返す波のようであれ。果敢に攻めても圧倒的物量には敵わない。防戦は言わずもがな。

 

 であれば、私が待つのは相手の一瞬見せる()()()を穿つこと。

 どんな熟練者でも、仕損じれば態勢を立て直すための隙が取られる。それだけを狙い、ひたすらに海を駆ける。

 二機、五機撃墜、攻撃失敗、三機、四機撃墜、編隊を崩されたので回避運動。

 一機、六機撃墜、結集、再攻撃。私の念波に艦載機が山彦のように答える。

 

 皆が命を張っているのだ、帰るフネである私とて、ただ命令を出すだけで指を加えて見ているだけではない。

 

 業を煮やした深海棲艦が、しびれを切らして突撃してくる。砲弾は私がいる場所へと正確に叩き込まれ、視界を覆い尽くすかのような水柱が立ち上がる。

 

「空母だから接近戦は苦手? 冗談、侮らないでよねッ!」

 

 幼い頃から姉に仕込まれた武術はこの日を待っていたかのように呼応し、千切っては投げと呼ぶに相応しい乱舞を支えている。

 相手が腕部に組みついた鈍器を振り下ろすと同時に身を捻る。手甲や脚部装甲と言った鋼鉄の面で受け流し、あるいは手刀を叩き込む。未知の生物といえど、可動部を装甲で覆うのは不可能。

 首や関節を狙っての強打。時には己が錨を鞭のように操り仕留めていく。

 

 刹那、ひときわ大きな衝撃が私を襲う。戦艦級の砲撃がいよいよ集中し始めたのだ。

 

 辺りに水柱が立ち上り衝撃波が臓器を揺さぶるが、致命傷だけは躱す。

 機銃弾は厚手の部分で受け止める。敵からしてみれば、前後左右に退路を断った艦娘は良いカモだろう。

 

 しかし、私の使命は果たされた。向こうはいつでも()()出来ると思っているのか、一匹たりともコンテナ貨物船に取り付いていない。船は守られたのだ。それでは、終幕としようではないか。

 

 仕掛けは()()()着水する前に仕込んである。戦闘機では制空は取った、敵は狙えとばかりに固まっている。狙い撃つまでもない。矢はすでに放たれている。

 

「全機急降下! 瑞鶴爆撃隊っ、やっちゃってッ!」

 

 天に指を差し振り下ろすと、彗星の名を冠する機体が文字通りに戦場を縦に裂いた。我が身の可愛さなんて、戦場において不要。己が肉を斬らせて敵の骨を断つ。

 

 周辺に踊る爆炎は、私の戦果を示すように揺れる。パチパチと肉だか火だかが弾ける音が、まるで拍手喝采の万雷だと言わんばかり。

 

 袖を焼こうとした炎を海面に転がりながら消すが、そこそこに痛い。火傷の跡が残りそうだと自嘲しながら、布切れとして役に立たなくなった上着を放る。

 その時、殺気。爆煙から敵の駆逐艦が飛び出してくる。

 

「落とし損なったかッ!」

 

 悪態をついても始まらない。イ級と呼ばれるそれは姿こそ不格好だが、巨大な弾丸となって突撃してくると非常に厄介。戦艦の仇討ちと言わんばかりの勢いで直線的に迫ってくる。

 

 いや、仇討ちなら良いのだが――――――肝心の戦艦を倒せた確証はない。

 

 駆逐艦に対処する最中、戦艦に狙われればひとたまりもないだろう。

 さてどうするか、残された手は少ない。

 

 戦闘機はともかく、爆撃機は一度攻撃してしまえば次がない。弾薬を補給するためには着艦に必要な飛行甲板を回収するか、さもなくば回転するプロペラに切り刻まれながら強行収容を試みるか。

 いずれにせよ収容作業を行う間、私は無防備になってしまう。せめてもう一隻空母がいれば、幻想の姉が浮かんでは虚空に消える。敵は幾万さりとても。勇ましい軍歌がどう謳おうと、数の劣勢は覆せない。制空権があっても、敵は海中から文字通りに沸いてくる。

 

 

「空母のお姉さんッ! 飛んでッ!」

 

 

 そんな声が聞こえたのはその瞬間、足下に走るのは真っ白な線。

 

「魚雷!?」

 

 この海域に何処の誰が。

 しかし、その白色の殺意が私に届くことはない。むしろ私の足下をすり抜けて、眼前に迫っていた駆逐艦を水柱に変える。

 

 飛び込んできたのは黄色い風。

 白鞘を腰に結わえ付けて、二振りの髪を海に流す人影が駆け抜けた。

 敵駆逐艦の巨体を切断するは小柄な少女。更なる新手を捌こうと、得物を振るう。

 

「どおおおおりゃあああああぁぁぁぁぁッ!」

 

 突き刺したままひと捻り、イ級はそのまま敵陣に向かって放り投げられて爆散する。

 

「むぅ……皐月ちゃんばっかりズルイ!」

 

 続いて私の視界に現れたのは遅れてきた栗毛色の少女。背中に背負った艤装をみれば皐月色の少女と同類なのはすぐに分かった。振り上げた単装砲が、吠える。

 

「攻撃かいしぃ!」

 

 一瞬遅れて爆ぜるイ級。栗毛色の少女がくるりと振り返って、私のことを見上げた。

 

「文月はどうだったぁ? おねーさん」

「えっと……味方ってことでいいのよ、ね?」

「そーだよっ、首根っこ捕まえて引き吊って来いって司令官が言ってた!」

 

 何と物騒な言葉を吐く駆逐艦か。

 思わず私が問いただそうとした時、新たなる追手が迫る。

 

 新手の敵航空隊。数えるのも億劫な数。対する私の航空隊は消耗して動きは精細を欠く。

 回収は間に合わないか。ついに力尽きた艦載機が火花を散らして矢に戻っていく。それらがぼとぼとと海面に不時着する光景に後ろ髪を引かれつつ、私は次の手を考える。

 

 敵機は目前まで迫ってきていた。両手に構えた高角砲と両腰から伸びた機銃群が空を護るが、それでも弾幕と呼ぶにはあまりに覚束ない。敵機は鋭利な翼端をナイフのようにチラつかせて、私の頬を削る。致命傷ではないが、一気に態勢を崩して転倒する。傷口に当たる塩味に痛みを感じて飛び上がるが、もう遅い。頭上の艦爆隊が一斉に抱えた凶器を下した。

 

 急加速で振り切るか?

 

 否、間に合うまい。せめてもの反撃と砲撃を放つが、焦って荒ぶる照準では当たるまい。一機二機を墜としたとして、あの数を薙ぎ払うことは叶わない。

 

 

 嗚呼、これで死ぬのだと諦めた所――――――蒼空に華が裂いた。

 

 

 文字通りに拡散した金属の粒は、花粉をも思わせる勢いで敵航空隊を包み込む。炎色反応の橙色や黄色が空にぶちまけられて、後には残骸すらも残らない。

 

 三式弾。

 

 戦場を引っ掻き回すようにして放たれた朔向きの砲雨は、獲物を前に下舐めづりしていた艦載機を一網打尽にしてしまった。おそらく戦艦級による超長距離狙撃。

 

「健在で何よりだッ! お客人」

 

 私の目の前に躍り出てきた黒髪の少女がさも二丁拳銃のように太腿のホルスターから主砲を引き抜く。

 

「ここはこの磯風に任せて貰おう」

 

 僅かに残された敵機をガンマンのように正確な射撃で叩き落とすと、こちらに背を向ける。艤装に張り出した身の丈を越える対空電探が敵航空隊の前に立ち塞がった。

 

「磯風さん遅いって! 間に合わなかったらどうするつもりだったのさ」

「そもそも二人が先行し過ぎだ。担いできた重石を考えてくれ。通常の陣形を放り出して、衣笠や神通に直衛を任せただろう。おかげでこちらは息切れしているぞ」

 

 対空戦に特化した、甲型駆逐艦の艤装。磯風と呼ばれた少女が、こちらを振り返る。

 

「その艤装、航空母艦とお見受けする。この非常時だ。メンツは瞑って、832の指揮下に入れ。ウチの司令なら悪いようにはしない」

 

 ニカリと口角を上げた少女が伝文を送ってくる。

 暗号が自動解読され、ひとつの通信回線への招待を引き出した。

 迷わずにコール。切羽詰まったアルトが、私の鼓膜を震わせる。

 

「第3分遣隊戦闘指揮所だ。空母瑞鶴、聞こえるな?」

「サウンドクリアー、こちら瑞鶴です。助けて頂いてありがとうございます」

「積もる話は後だ、相手を蹴散らす。この程度ではくたばらないよな?」

 

 何と砕けた台詞だろう。こんな指揮官を私は他に知らない。素が出ているのだろうか。

 

「臨むところです」

「なら話は早い。磯風、準備はできているな?」

「まったく、司令も無茶ばかりを言う。そら、瑞鶴。ご所望の飛行甲板だ」

 

 彼女が腰背部に懸吊した影を指し示す。それは彼女の身長くらいはありそうなコンテナ。

 

「これを運ぶのに手間取ったのだ。司令の先見の明は恐れ入るよ」

 

 展開されて姿を表すのは、新品の飛行甲板。海面に浮かべられた状態は、まさしく史実の航空母艦のように今か今かと艦載機を待っていた。そこに駆け寄ってくる皐月と文月。空を睨みながらも両手に抱えてきたのは、私の放り出した矢束だった。

 

「さて、ここからは貴官にしか出来ないことだ。殊勲艦の腕前、見せて貰おう」

 

 嗤った磯風が、煙幕を張る。時間稼ぎの煙が、私に風向きを教えてくれる。

 

「お願い、あと少しよ。力を貸して頂戴」

 

 願ったのは航空隊の無事と、啓けた大空。

 

 私と妖精達(かんさいき)の意思疎通はいつも曖昧。想いだけが彼らとの信頼に足るというわけだ。

 

 カタパルトが駆動し、祈りが込められた緑の翼が翻る。私の分身も蒼穹を願ってくれたのだ。曇り一つ無き戦場を。疲れを見せながらも敵機を喰い散らかし、母艦の為に命を張る。

 

 あちらの司令官が用意した飛行甲板。そして磯風達の増援を以て、ついに戦局は傾いた。

 

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