第26話 風流れ水揺れる画材帆
リノリウムの床を、歩いていく。
学校の校舎みたいな造りの建物。
一歩踏み入れてみれば学校よりも遙かに雑多で、情報量の多い世界が私を迎え入れる。
壁に掛けられたヘルメットや帽子。
分厚そうな上着に貴重品入れ。
張り紙には機密漏洩や再就職、ここに勤める人達にとっては大切であろう情報が所狭しに書かれている。
案内の人は終始笑顔、とにかく不気味だった。
「こちらです。ノックは三回、失礼しますと言って返事があったら入って下さい」
とにかく丁寧に、まるで手取り足取り教えるように案内の人が言う。私は言われたとおりにして、どうぞとの返事に誘われて部屋へと入る。
「失礼します!」
その声が、震えてしまったのは否めないだろう。
部屋には長机と向かい合う椅子。面接会場というのはどこも同じらしいとどこかで感心しながら、試験官の指示に従って座る。
「それじゃあ、艦娘候補生を志望した理由を聞かせて貰えますか?」
その質問が来ることは分かっていた。
私は小さく息を吸い込んで――――――答える。
「はい、私は――――」
私は、私
記憶っていうのは、なんというか。都合の悪い存在だ。
あの頃。そう、私の世界が私だけのものだった頃。
『子供』なんていう言葉は、私の別名だとすら思っていた。
私の故郷には同い年のヒトなんて居なくて。お爺ちゃんお婆ちゃんたちの言う『子供』というのは家のテレビと雑貨屋さんで売られていた漫画にしか存在しなかった。
誕生日も、クリスマスも、お正月だって私だけのもの。
お父さんもお母さんも、近所のお爺さんも、お隣のお婆さんも。お巡りさんだって私だけのもの。
そして――――――あの人も、私だけのもの。
小学生の頃に挑んだ大冒険。
この世の全てが詰まっている映画に出会ったのは中学生の頃。高校の頃にのめり込んだ筆を握りしめるあの感覚。
そんなのが全部全部輝いて見えて、人生は宝箱みたいで。
あの頃に、戻りたい。あの頃の私は、もっともっと輝いていたのにって、本気でそんなことを思ってしまう。
そんなハズがないことは、この私が証明しているのに。
「……面白いかどうかは、読者が決めることでしょ?」
その小さな声は、放課後のざわめきにかき消されることなく届いたようだった。
相手はその作り物みたいにロールした髪の毛を揺らしながら私を見て、それから言った。
「その
その言葉に、教室の空気がぴんと張り詰める。
大半の視線は面白くないと言い張った彼女へと、そして残りが発端である私へと注がれる。廊下には野次馬、ほんの一握りの人達だけが、時間の無駄とばかりに視線を逸らす。
その通りだ。
文化祭まで大した時間も残されていないというのに、なぜこんな事で争わねばならないのか。
とはいえ目の前で私を睨む彼女の性格からすればこの結末は分かっていたわけで。私は小さく息を吐くと、提案を口にする。
「じゃあいいわ。私は自分一人で本にする、部誌には別の絵を寄せる。これでいい?」
高校生になれば、もっと自由になれると思っていた。
行ける場所も増えた、使えるお金も増えた。
使える時間も、使える
それなのに、彼女は私を阻む。
「ふん。そんな自分勝手、許されると思ってるの?」
「自分勝手もなにも、ここは作品を発表する場所じゃないの? 別に、迷惑をかける訳じゃない。製本作業は自分でやるし、部誌の方だって手伝うよ。それで……」
「だーかーらぁ!」
それでいいじゃない。そう続くはずだった私の主張を切り捨て、彼女は言う。
「それが自分勝手って言ってるのよ。迷惑はかけない? 部誌は手伝う? そんなの当たり前じゃない。そうじゃなくて、その『目立ちたがり屋さん』を止めてって言ってるの」
彼女に言わせれば、漫画研究部で漫画を発表することは目立ちたがり屋なのだという。
別に私はそれが間違っているとは思わない。
そもそも漫画や絵を描いて、それを公開することに『目立ちたい』という気持ちがあるのは
言葉をすぐに返さない私をどう思ったのか。彼女はもう勝ち誇った調子で言う。
「第一ね、長編なんて誰でも書けるのよ。私なら273
それも全部
それは彼女が普段から弄する詭弁で、お気に入りの台詞。
273とは楽曲『4分33秒』のことで、沈黙のまま過ぎる273秒という作品。ここに突っ込んでしまっては彼女の思う壺だろうから、無視を決めて話を続ける。
「長ければダメ、なんて誰が決めたの?」
「常識的に考えてそうでしょ? 部誌を読むのだって時間と集中力がいる。それをたった一人のワガママで何頁も付き合わされる人の身にもなってみなさいな」
そうは言うけれど、結局の所彼女は私の作品を部誌に載せたくないだけなのだろう。
「念のため言っておくけれど、私の作品は別に長い話じゃないよ。30
「比較対象がおかしいのよ。ここ漫研よ? プロと一緒にされてもねぇ」
プロを目指すことの何が悪いのか。
私は叫びたかったけれど、その台詞だけは言っちゃいけないことも分かっていた。
もう散々な目には何度も遭ってきた。
誰しもみんな、自分と違う相手を排除することしか考えていない。
ここの部誌がイラストばかりなのは事実であって、決して皆は漫画を描こうとしている訳ではない。
だからプロだからどうとか、そういう話になってしまうと私は周りの全員を相手にすることになってしまう。
だから私がするべきは、とにかく私が理不尽な目にあっていることを周知させること。
「作品は、観て貰わなきゃ作品にならない。観て貰う機会も奪うの?」
「奪うも何も、見る価値もない作品だって言ってるじゃない? あと、私知ってるから」
そう言った彼女は、口角を吊り上げて私を見下ろす。
「アンタが見せびらかそうとしてる
プロの編集さんが要らないっていった程度の作品で、勝った気にならないでよね。
その言葉に、多分私は怒ったのだと思う。
勝ったとか負けたとか、そんな話を私はしていない。ただ一つ言えるのは、彼女が観ていたのは
だから私の口から零れたのは、怒りでもなんでもなくて。
「それ……本気で言ってるの?」
くしゃり、原稿用紙が歪んだ音が聞こえた。
慣れ、というのは何よりも恐ろしい。
例えば怪我への恐怖。
第一次世界大戦にて発生した大量の戦傷者が整形外科を発達させたように、深海棲艦の猛攻は再生医療に翼を与えることになった。
痛々しい肌の火傷は一晩で消え、切り傷なんて傷のウチにも入らない。
それに加えて妖精の加護まで受けているのだから、
終いには
「でもさ、風雲って右手を庇う癖があるよね」
同室の秋雲がそんなことを言ったのは、課業も夕食も済ませて後はお風呂と寝るだけになった午後7時。
チャモロ標準時の本土との時差は一時間。元々あってないような時差だけれど、慣れてしまえば時差の存在自体を忘れてしまいそうになる。
なんの話からこんな話題になったのだろう。
そんなことを頭の片隅で考えながら、私は手を動かす。口と手と頭が、それぞれバラバラに動いていた。
「そう、かな。庇ってるつもりはないんだけれど」
口では否定して、頭の中では疑っている。
当の右手は一心不乱に動き続けて、眼は必死に右手の先に紡がれる景色へと注がれている。そんな私に秋雲は言う。
「まあ普通じゃん? いくら
その言葉を聞いて初めて、私は動かし続けていた右手に視線を落とす。
この右手。
仮に私がこの右手を喪ったとして、再生されたその手は私のモノだろうか。
それとも、駆逐艦「風雲」に与えられた「補修部品」に過ぎないのだろうか。
そんなことはきっと、私じゃなくて哲学者の考えることなのだろう。
迷宮入り待ったなしの疑問を胸の奥に仕舞い込んだ私は、秋雲の視線がこちらに向いていることに気付く。
「……なによ」
「いや、神絵師の腕を食べると画力が上がるって都市伝説があるじゃない?」
「なにそれ、
そう口先であしらって、否定の言葉は飲み込む。
私の腕を食べたいとでもいうつもりなのか、秋雲は――――――私の腕にはそんな価値なんてないというのに。
「あはは。まあでも、食べるだけで画力が上がるならそうするじゃん?」
冗談冗談というように、秋雲はペン先をふらふらと振る。
「画力の前に原稿を上げてください、先生。私がすることなくなっちゃうじゃない」
「相も変わらず手厳しい
秋雲はそう笑いながらタブレットに視線を戻す。どうやら秋雲は、私の『逃げ』を許してくれたようだった。
なんて返したらいいか分からず、私は立ち上がる。
「自販機でなにか買ってくるけど。何がいい?」
「なにか適当にお願い」
その言葉を背にして、私は部屋を出る。
幹部でもない私たちは相部屋で、それでも私はツイている方だと思う。
二人の相部屋というのは訓練学校の時とは比べようもない便利さで、しかも同室の秋雲は同好の志と来た……
それでも、ネットを見る限りは不安だらけだった軍隊生活も、秋雲のおかげで少しはマシになったと思う。
「なにせ、オタク活動は生活必需品……じゃない、心の潤滑油だからね」
ここだけの話だけれど、秋雲は漫画を描いている。
勿論、
だから秋雲の活動は趣味の一環、ということになっている。申請すれば認められるって話だけれど、一体なんて書いて申請したのだろうか。
ちなみに只今の秋雲
「風雲ちゃん、買い物?」
そこで、後ろから私を呼ぶ声。振り返ると、青地の作業着に身を包んだ上司の姿。
「片桐隊長、お疲れ様です」
2等海佐を示す肩章。海外の軍隊で言うなら中佐に相当する階級のこの人は、私の所属する第9護衛隊群所属艦娘のトップに君臨する部隊長だった。
私の敬礼に答礼したあと、彼女はやれやれと言わんばかりに肩を竦める。
「うん。お疲れ様。それと私の事は蒼龍でいいって言ったよね?」
「呼び捨てには出来ません。隊長ですから」
「うーん。堅いなぁ」
そこは蒼龍さん、とかで呼んでくれてもいいじゃない。隊長がそんなことを言うので、私は敬礼の直立を保ったまま返す。
「ですが、周りの眼もありますので」
「まあそれは、確かにね。隊長職も面倒だわー……風雲ちゃん代わってみる?」
蒼龍隊長は幹部艦娘の佐官クラス。下っ端の駆逐艦娘に対しての冗談としては笑えないもの。私が閉口するのをみて、隊長は話を変えるように言う。
「あ、そうだ。今度の週末、空けといたわよ」
「本当ですか?」
言ってしまってから、私は周りを見回す。
グアム島の日本国防軍基地は手狭なことで有名だけれども、時間が時間ということもあって人の気配はなかった。隊長は頷く。
「うん。機材の使用許可も取れそうだから、安心してね」
「ありがとうございます」
「いいって、風雲ちゃんだもの。あ、そうだ」
思い出したように言いながら、隊長は肩から提げていたバッグに手を伸ばす。
「はいこれ、この蒼龍さまの時間を取らせるんだから、ちゃんと勉強しておくのよ?」
どさりと、当たり前のように差し出される片手じゃ数えられない教本。
両手で受け止めれば当然のように重いそれには、何十もの付箋紙が挟み込まれていた。隊長は私が候補生だった頃のお古だからちょっと情報が古いけれど、そう前置きしながら言う。
「更新されてる所に付箋貼っといたから、確認しながらやってね」
どこが古いのか、なんて。そんな所まで確認してくれたのか。
「ありがとうございます。全部やっておきますね」
そんなことまでやってくれていたのなら――――――既にこの教材の半分くらいは持っているなんて野暮なことは言えなかった。
「よし! その意気だよ風雲ちゃん、頑張ってね!」
そう言ってひらひらと手を振る隊長。私がお辞儀をするのを背に去って行く。
改めて渡された教材を確認。
半分は「概要だけでも読んでネ」と付箋が貼られている学術書、残りは私も読んだこともある分霊型艦載機操縦技術の教本。
数冊のノートは隊長の直筆で……ふと私は、教材を抱える両手がそんなに大層なモノなのか、そんな疑問を抱いてしまう。
確かに、隊長は私のことをよく見てくれる。
だけれど私と隊長の関係は、結局「あの人」が居たからこそ成り立つ関係性であって。
果たして隊長に応えられるほど、私は立派だろうか。
そんな問いの答えは明白で。
「ダメダメ、こんなこと考えない」
それは多分、考えたところでなんの意味もないこと。
私に託されたこの教材は私を変えてくれるかもしれない希望なのだ。
とにかく勉強のスケジュールを考えなければいけない。
ひとまず秋雲の手伝いは後回し……まあ秋雲のことだ。私がいなくてもなんとかなるだろう。それに私がいると『サボり魔秋雲』が発動してしまうのでいけない。
そういうことにして、私は荷物を脇に抱える。ひとまず約束の飲み物だけでも買ってしまわないと。自販機の前で硬貨を取り出したとき、視界に見知った顔が入ってきた。
「お疲れ様です」
岸波――――――私と同じ夕雲型の名を背負う
一人乗りの軍艦として定義される艦娘にとって、乗り込む艤装の艦名というのは二つ目の名前。
それはインターネット上で用いる
だから姉妹艦としての連帯感があるっていうのは、きっと嘘じゃない。
だってそうじゃなければ岸波が、この私に微笑みながら話しかけることはないだろうから。
適当に二、三ほどの言葉を交わしたところで、岸波は言う。
「ところで。今週末は空いていますか? ぼの先輩がスキューバダイビングに連れて行ってくれるらしいんですけれど、もう少し参加者がいれば団体割引が使えるらしくて」
今週末。そこには隊長との約束が入っている。
そのことを素直に伝えると、岸波はため息。それから私が抱えた荷物に目を落としながら言う。
「それって『秘密の特訓』ですか」
「なんの話、それ?」
首を傾げてみるけれど、思い当たる節がない訳ではない。そして嘘は私が一番苦手とするところ。
岸波は少し眼を伏せて、それから言った。
「最近、蒼龍隊長とよく話をされてますよね? 別に同じ部隊という訳でもないのに」
別に隠している訳では、ない。
隠すことなんて不可能だし、悪いことをしている訳ではないのだから隠すことも無い。なのにどうして、そんな追求するように言われるのか。
だから私は、せめてもの抵抗として胸を張って応える。
「まあ、隊長にはよく見て貰っているけれど。それがどうしたの?」
「そういうの、止めた方がいいですよ」
ピンポン球を打ち返すみたいに素早く返された岸波の言葉は思ったより、ずっと直球。
「隊長と一隊員が親好を深めるのは、やっぱり駄目なこと?」
「そっちじゃなくて」
そこで岸波は口ごもる。そんな同僚をみて、私は続く言葉に予想がついた。
大学も出ている岸波は頭が切れるから、私がなにを考えているかぐらいお見通しなのだろう。
「あの。これは別に私が、という訳ではありません。だから気を悪くしないで欲しいのですけれども……空母課程、目指されているんですよね?」
空母課程。
それは艦種転換訓練の一つ。
そもそも特務艇――――――深海棲艦と戦う艦娘には、様々な種類がある。
それは巨砲で敵をなぎ払う戦艦。
その快速で大洋を制圧する巡洋艦。
あらゆる任務を確実にこなし、戦場を支える駆逐艦。
眼下の攻守を一手に引き受ける潜水艦。
――――――そして、私たちの頭上を支配する航空母艦。
戦場の女神にも例えられる航空母艦課程は、誰もが一度は憧れるだろう最強の艦種である。
そして私の脇に抱えられた教材こそ、その航空母艦の為のモノ。
「なんで、空母を目指すんですか」
「目指しちゃいけない? 憧れだからだよ」
あの人は、空母だった。
あの人は何十機もの飛行機をいっぺんに操ることが出来て、私はそれに憧れていた。
だから訓練学校に入ったときは、私は空母になるんだなんて、そんな風に無責任に思っていた……そのあとすぐに、空母にとてつもなく希有な適性が必要だと知ることになるのだけれど。
「確かに、私には適性がないかもしれない。けれど訓練して、努力の上に空母になれた人だっているって聞いてる。だから私は、諦めたくない」
私の口から飛び出すそれは、多分誰に言っても恥ずかしくない説明。
私は空母になりたい。あの人と同じように、空に飛行機を飛ばしたい。
そんな想いを持っているのは本当のことだ。だから私は堂々と答えることが出来る。
「知ってます。空き時間さえあれば家電に妖精さんを宿らせて練習してますもんね」
ただ、綺麗事だけで全部が通用する訳ではなくて。
「あの。私はこのことについては
誰が、とは岸波は言わない。私も知りたいとは思わない。
だけれど「よくない」だなんて言われる筋合いは無いわけで。
私が空母になれて、損をする人は居ないわけで。
その事実が、私を頑なにさせてしまう。
「よく思わないって、なんでさ」
口走ってしまってから後悔するのはいつもの事。
岸波は中立だと言っているのに、こんなことを言われても困惑するだけだろう。ところが岸波は私を見据えると言う。
「だって貴女には、右手
どきり、と心臓が鳴った気がした。
「なんの話?」
岸波は「私が絵を描いている」ことは知らないハズ。
秋雲は私が描いていることを知っているから右手を庇うことに気付いて当然だけれども、岸波に気付かれるとは思えない。それとも、そんなに私は分かりやすいのだろうか。
「私は、怪我をしたくないだけ。怪我をしたら妖精さんを操る練習ができなくなるもの」
「空母になるために怪我をしたくない、目的と手段が逆転してますよね」
その言い訳は、あっさり岸波に斬られてしまう。
「あなたには『右手を庇うために』空母になろうとしているんじゃないかって聞いてるんです。右手がダメなら左手で練習すればいい。右手を庇う理由があるんでしょう?」
岸波の言葉を、私は否定出来ない。そんな私が目線を逸らすと、岸波は「まあ理由はいいですよ」と言う。それは逃がしてくれた、というより興味がないといった風で。
「傷つくのが怖い。それは当たり前のことです。私だって沈みたくはありません」
岸波はそう言う。私にはそれが、私を追い込むための布石に聞こえる。
「だけれど。それに立ち向かわない
「なに、なに? 私が逃げてるって言いたいの?」
声が震える。それが何よりの証拠であるのは、百も承知のこと。
「ですから。私は中立なんですってば。逃げるのが悪いなんて、私に口出しできる事じゃありません。でも、逃げ方には気をつけて欲しい。そういうことです」
それでは、お疲れ様です。まるで逃げ口上のように言って、岸波は私に背を向ける。
残されたのは、私だけ。
「あれ。買ってきたんじゃないの」
振り返った秋雲に指摘されて、私は買い物を忘れていたことに気付く。
「ごめん。隊長に会っちゃって」
咄嗟に出てくる言い訳で誤魔化しながら教本を仕舞い、私はベッドに横たわる。
「岸波たちがさ。なんちゃらダイビングに行くんだって」
「へぇ。そうなんだ」
興味のなさそうな秋雲。同じ制服に身を包む組織であっても、全員が仲良しこよしでないことぐらいは分かっている。だから、秋雲が無反応なのは分かる。
「別に行ってくれて大丈夫だよ。この秋雲に掛かれば原稿なんてチョチョイのチョイよ」
その言葉に、軽口を叩く余裕もない。
「前から言ってるでしょ。今週末は隊長と用事があるんだから」
「ああ、それで。教本貰えたってことは許可出たんだ」
そう言う秋雲にはうんとだけ返して、私は寝返りを打つ。就寝時間にはまだ遠く、眠気もやって来るはずはない。週末に備えて教本を読まなきゃいけないとは思うのだけれど、どうにもそういう気持ちになれなくて、私は秋雲に話しかける。
「ねえ秋雲、私が空母になるって言ったら、どう思う?」
「どう思うも何も、風雲は訓練学校の頃から言ってるじゃん」
それは、そうなのだけれど。
隊長との約束。空母を目指すための特訓。それは岸波に言わせれば『逃げ』だという。
傷つきたくないから後方へ下がる。そういう『逃げ』だと。
私は、反論できなかったのだ。
「なにやってるんだろ、私」