行けば分かるとは言われていたけれど、本当に分かりやすい。
廃線寸前の路線バスで繋がれた、小さな町。
そこが私の新しい赴任先だった。
漁協に挨拶をしに行けば、泣かれるような勢いで喜ばれる始末。艦娘の神格化ここに極まれりと言った同期の顔が思い浮かばれるけれど、ともかく気にしても仕方がない。
周辺の地図や海図を集めて、ひとまず一通りの警備計画を立てる。
国防海軍、ことさら艦娘の人材不足は有名な話で、深海棲艦に対して私たちは常に機動戦を強いられてきた。
敗北前提の警備計画。悲しい話ではあるけれど、それが現実だった。
そういう事情で、使える
深海棲艦との戦闘計画に、予期せぬ敵を相手にした基地防衛計画。
とにもかくにも軍というのは計画九割、いや九割九分の世界である。国防大学校で扱った戦史も、その殆ど準備段階で戦いは決しているのである。
「戦争を終わらせる、か……」
その実、上層部すらも戦争を終わらせる方策は考えていないのだろう。
艦娘という新兵科の設立、革新的な深海棲艦との戦い。
そんな試行錯誤に満ちた華の艦娘専科第1期も、気付けば『開戦世代』なんて言葉で括られるようになってしまった。
開戦世代、戦中世代……そんな風に呼ばれるようになってしまっては、この国もお終いだろう。
「もっとも、私も暫くは
転勤命令は誰がために。とはいえ命令が全ての組織に属する以上は従うほかない。
休暇と考えてくれなんて適当なことを言った制服姿を頭から振り払い、私は部屋を出る。
取り繕うならのどかな漁村。言ってしまえば何もないこの場所。高齢化を象徴するかのように漁協も港も老人揃いと来たのだから笑えない。
十年後には地図の上からも消えてしまうだろう町。それが私の避難場所という訳だ。
ふと漁協で出迎えにきた老人のせせら笑いが浮かぶ。辺鄙な漁村に、若い女は私だけ。
「これは……近いうちに
早くも頭が痛くなってきた。せめて気だけでも紛らわそうと表に出る。コンクリートブロックによって作られた緩やかな坂には、何隻かの船がその腹を休ませており、
そんな先に。私は見つけたのだ、一つの影を。
小さな灯台へと続く防潮堤、そのコンクリートに座り込んだ、少女の姿を。
どこか遠くを眺めながらその小さな手を動かす姿は、遠目に見ても周りの……この漁村の空気とは似てもに使わなくて。
「ねぇ、何を描いているの?」
それが、私とあなたの出会いだった。
「ねえねえ飛龍さん! わたしもそれ欲しい!」
この小さな漁村には、子供と呼べるような存在はあなたしか居なかった。だからあなたにとっては、私が一番歳の近い存在だったのだろう。
「うーん……そうは言われてもなぁ。これ、一応官品だし」
『官品』と言う言葉の意味。そしてその重大さをあなたはまだ理解できないだろう。えーだって二つ持ってるじゃないと言うあなたに、私は笑うしかない。
「いやいやもう一つは予備だから。そもそもあなたじゃ大きすぎるわよ?」
「だったら偉い人に聞いてみて!」
子供と言うのは、信じられないほどに物分かりがいい。
それが私があなたと関わるようになって、一番始めに驚いたこと。
ダメな物事には理由があって、理解できない言葉があってもそれを「そういうものだ」と理解してしまう。
実際私が良いように使った「偉い人が決めたから」という
「無理なものは無理だって。そもそも、こんな服のどこがいいのさ」
和服と洋服が融合したようなこの奇妙な衣装。加護を宿らせるのに必要だというこの衣装のことを、正直私は好いていなかった。
「ここ! このひらひらがいいの!」
ひらひら、私の衣装の一番に無駄な部分。それを妙に気に入ったあなた。
もちろんこの衣装を譲るわけにはいかないし、譲ったところであなたには大きすぎる訳で。
だから、その模様と同じリボンを作ったのだ。
どうせ時間は余っていたし、戦争一色に染まった私の人生に少しでも華を添えてみようなんて出来心もあった。きっと私の振袖、その模様を気に入っていたあなたは、私が思ったとおりに喜んでくれて。
「……あなたみたいな子供がいたら、良かったのにな」
「え?」
ううん。なんでもない。
そう返す私は、多分卑怯者。
もしも本当に子供が欲しかったのなら真っ当に生きる道もあったろうに。それをしないで
そんな私を知らずに慕ってくれるあなたの、なんて純粋なことだろう。
あなたは出会ったときからずっと絵を描いていた。あなたの眼を通して描き出される
「なんで、こっちに来たの?」
きっと私は、あなたを可愛がりすぎたのだと思う。
私のことをキラキラとした眼で見つめるあなたを裏切りたくなくて、私は構い過ぎてしまったのだと思う。
人と人との関係は複雑なモノで、構い過ぎるというのは薬にも毒にもなる。
そんなことに気付けないほど、私は愚かではなかったはずなのに。
それなのに、私はあなたに空を教えてしまった。
「――――――なら、私も戦う!」
きっとそれが、あなたをここまで連れてきてしまったのだ。
これは私の
それは誰でも出来る仕事で。
だからこそ
それは軍用車ではなかった。
蒼龍さんの私物であろう自動車は、ゲートを抜けると一気に加速。
助手席に乗せられてしまった私に、ハンドルを握った蒼龍さんは言う。
「今から十五分前、アメリカ海軍病院から飛龍の脱走が確認されたわ」
その言葉は、あまりに重い。敵前逃亡だと言っていた飛龍さんの言葉が蘇る。
「脱走って……そんなことしたら」
「ええ、飛龍の罪は軽くなるどころか重くなる」
査問も吹っ飛ばして軍事裁判になりかねないわ。そう前を睨みながら言う蒼龍さんが悔しそうに漏らす。
飛龍さんが逃亡した。それが本当なら、厳罰が下ることになるだろう。
なんで飛龍さんが。そんなことは口にはしない。それはきっと、蒼龍さんも……私以上に付き合いが長い蒼龍さんが一番思っていることだろうから。
「あの、蒼龍さん。それで追いかけるのはいいんですけれども、なんで車なんです?」
車外の景色が歪んで溶けていく様子を見ながら私は聞く。
なにせ
「簡単な理由よ、飛龍のことを考えたら正規の艤装は持ち出せないでしょ?」
「……そう、ですね」
蒼龍さんの指摘はその通りだ。もしも私たちが艤装を背負って出撃したなら、なぜ出撃したのかをはっきりと記さなければならない。
そこに脱走した飛龍さんを追うためと書いてしまったなら、飛龍さんの脱走は言い訳が利かなくなる。
罪が、確定してしまう。
「まったく、飛龍は本当に厄介なことをしてくれたわよ」
そうぼやく蒼龍さん。
蒼龍さんが自家用車で私を連れ出した理由は分かった。
だけれども、理解できないこともある。
それはもちろん艤装のこと。
艤装は官品で、その中でも高額な兵器だ。そんな危険で大切なモノを書類を提出せずに使える訳がない。
「あるんだなぁ。これが」
蒼龍さんの横顔がにやりと歪む。それは悪巧みをするドラマの悪役のよう。
蒼龍さんは市街地とは反対方向にハンドルを切る。
脇を流れていた木々がコンテナ群へと変わっていく。ここはアプラ港の民間向け埠頭。コンテナを積み替えするための巨大クレーンの向こうに、見慣れた色の軍艦色。
「もしかして……艤装便ですか?」
艤装便というのは、艦娘が海の上に立って、そして海を駆けて戦うのに必要な艤装を運ぶ輸送船のこと。
防衛機密の塊である艤装を扱う都合上、海軍の船を使うのである。
「そゆこと。納入されたばかりの艤装は書類上では『どこにも所属していない』」
それを逆手に取るのよ。
蒼龍さんがガッツポーズでもしたそうな表情を作って、そのまま並べられたコンテナの隙間を縫って輸送船の前へと車を滑り込ませた。
「群付き艦娘隊よ!」
艤装を運ぼうとしていたのだろう国防軍の人達は車から降りてきた蒼龍さんを見て驚いたことだろう。なにせ蒼龍さんは9護群の艦娘部隊長、普段ならこんな場所に現れることは視察でも無い限りないだろうし、なにより未納入の艤装を使わせろと言うのである。
それから少しの沈黙をもって、蒼龍さんは此方に親指を立てた。
どうやら交渉は成立したらしい。警備のヒトが巨大な南京錠をハズして、コンテナの一つが開かれる。
そこに鎮座していた艤装は、私が普段使っているそれとは少し異なるもの。
「来月からロールアウトする予定だった新型よ、いいでしょ?」
「え、ええ……」
困惑する私を余所に、蒼龍さんは隣のコンテナへと行ってしまう。
私のために調整されている訳でもない、しかも新品の艤装をいきなり使えというのか。
そんな無茶ぶりはなんだか誰かに似ていて、私はその誰かを考えないように艤装に触れる。航法システムもなにも調整されていないけれど、海を駆けるだけならなんとかなりそうだった。
「ほら風雲ちゃん、いくよ!」
細かなことを考える余裕もない。私は蒼龍さんとそのまま海へと飛び込む。
蒼龍さんは無言で港の出入り口へと向かい、申し合わせたかのように管制も黙っている。まあ艦娘が一人乗りの小型艦艇であり、航海の自由という原則に照らし合わせればむしろ管制の存在がおかしい訳で……逆にこんな状況になるまで管制に疑問を抱かなかった私も私だ。
「とにかく、航法装置のセッティングをしていない以上、下手に沖にいくと迷子になる可能性があるわ。風雲ちゃんは沿岸が見えるところまでを捜索して」
それより沖合は私が、蒼龍さんはそう言いながら弓矢を構える。とはいえ矢筒に収められた
「分かれて探すわよ。もしも何か聞かれたら、私の名前を出してね」
その言葉で、蒼龍さんは市街地の方、私はその反対へと向かう。
二人で島をぐるりと一周するというのが、蒼龍さんの作戦だった。もっと大勢の艦娘がいれば効率よく捜索出来るのだろうけれど、こればっかりはどうしようもない。
「飛龍さん……なんで脱走なんて」
口から零れる問いに答えはない。
さっきまで私と一緒にいたハズの飛龍さん。
蒼龍さんは十五分前に逃げ出していたと言っていた。時間を逆算すれば、私が病院を出てから直ぐに脱走したことになる。
そんなはずはない。だって飛龍さんは、私に『空の艦娘』を見せてくれと言ったばっかりじゃなかったか。
飛龍さんの傷だって完治した訳じゃない。いやまあ、私も完治しているかと言われるとそうではないのだけれど……。
そこで不意に――――――足が止まる。
蒼龍さんは飛龍さんが逃げたと聞いた途端に海を探すと言った。そうは言うけれど、飛龍さんは艤装なんて持っていないはずだ。
いや仮に持っていたとして、グアム島に張り巡らせた警戒網を突破することが出来るだろうか。蒼龍さんと私については蒼龍さんの『口利き』で見逃して貰えるとして、飛龍さんは見逃して貰えるだろうか。そんなハズがない。
それならもし脱走するにしても――――――飛龍さんが海に出るはずがない。
「じゃあ、もしかして陸に?」
私は海ではなくその反対、グアム島を見る。
アプラ港は防波堤とオロテ半島に囲まれた静かな港。オロテ半島にはアメリカ海軍の飛行場も設置されている。
その岩壁が私の目の前にそそり立っている。それはまるで、私の故郷の高台みたいで。
なぜだか、そこに飛龍さんがいる気がしたのだ。
やっぱりあの人は、逃げも隠れもしていなかった。
「あれ、結構早かったね」
もうちょっとかかると思ったんだけれど。
そう言う飛龍さんは、当たり前のように持ち込んだ折りたたみ椅子に腰を下ろしている。身に纏った装束は海軍病院で見た病院服姿ではなくあの頃の衣装。蒼龍さんの用意した服に着替えたのだろうか。
「飛龍さん……どうして」
その続きの言葉が出てこない。
どうして居なくなったのか。
どうして還ってきたのか。
どうして逃げようとしているのか。
それが出てこなくて、私はそこで言葉を句切る。
「どうして、ねぇ」
飛龍さんは足下に置かれた箱に手を伸ばす。武器でも取り出すつもりなのかと主砲を構えた私に、飛龍さんは寂しそうに笑った。
「わざわざ銃なんて向けなくても、何もしないわよ」
そう言いながら箱を閉める飛龍さん。
その眼は私が撃てないことを確信しているらしく、それが私に武器を降ろすという選択肢を与えさせない。
私はあくまで毅然と、逃亡者を問い詰めるつもりで台詞を紡ぎ出す。
それが今の、私の
「だったら、逃げ出す必要なんてないでしょう。だって、飛龍さんは何も悪くない」
査問だって乗り切ればいいじゃないですか。そう言う私に、飛龍さんは首を振る。
「悪くない人間なんていないでしょ。だから無理だよ」
「なんですか。それ」
「それはあなたが、これまで身をもって知ってきたでしょ?」
意味が分からない。飛龍さんが言うことは支離滅裂。
悪くない人間……そりゃあ、この世界には空母を目指す私を嫌う同僚がいて、漫画を描いた私を嫌う漫研のヒトがいて、そして私の故郷を消し去ったデタラメをばら撒くヒトがいて。
確かにそうかもしれない。だけれどそれは、飛龍さんが裁かれる理由にはならない。
それなのに飛龍さんは、首を振る。何も言えない私を見て、続ける。
「いいんだよ、私は。それよりさ、アレ見せてよ」
「あれ……?」
飛龍さんは空を指差してみせる。
それはどこまでも青い空。
そこまで見せられれば私も分かる。『空の艦娘』だ。
私が描いた、あの日の飛龍さん。
スマホを開いてメールの新着を確認する。
そこには、一件の新着メール。少しの読み込み時間を待てば、私の机に大事に仕舞ってあったという旨の文章と添付された写真。
「やっぱり、悪運だけはいいよね。
飛龍さんが自虐だか誇るのか分からない調子で言う。読み込みが終わって表示された画面には、青い空と高台。そして飛龍さん。
それはあんまりにも、今この瞬間にそっくりで。
「もしかして……分かってて頼んだんですか?」
「まあね。グアムで一番似てるのは
飛龍さんはそう言って笑う。私から受け取ったスマホを見て、寂しそうに笑う。それから私の端末を受け取ると、その画面を覗き込んだ。
「ほんと、あの頃から上手だよね」
そんなことはありません。言うだけなら簡単で、簡単には言えない言葉。それは飛龍さんを否定してしまう。だから伝えられない言葉。飛龍さんが私の名前を呼ぶ。
「ねえ。どうして、艦娘になんてなったの?」
飛龍さんは、そんなことを言う。そんなことを聞かれても、私は当たり前の言葉を返すことしか出来なくて。それはあの日、面接官の前で言ったのと同じ
「飛龍さんみたいな、艦娘になりたかったんです」
飛龍さんみたいに、すごくて、いつも笑っていて。
そんなヒトになりたかったのだ。
もしも世界に完璧を具現化したヒトがいるなら、それは飛龍さんだろう。少なくともあの小さな、小さな小さな私の世界ではそうだったのだ。
「でも、ロクなものじゃなかったでしょう?」
「それでも……例えそうだとしても、でも。飛龍さんは」
「ロクなモノじゃないんだよ。私も、
分かりきったことをとばかりに飛龍さんは言う。それから私に背を向けてずんずんと歩いて行く。飛龍さんの向かう先には、どこまでも澄み渡る青空しかない。
「ちょっと、待って下さいよ!」
呼び止めても止まらない飛龍さん――――――私に背を向けたまま、言う。
「本当に私になりたいのなら、あなたは私の背中を追ったんじゃないかな」
その結果が、今の私なのだと。
そう言いたかった。
なのにその言葉は出てこない。
いや出てこないんじゃない。私は嘘が苦手で、でも必要だからと嘘を使ってきた。
だけれど飛龍さんにだけは、もう嘘を吐きたくない。
今更だけれど、吐きたくなかったのだ。
「……国防大学校、艦娘専科コース。願書、出さなかったんでしょ?」
飛龍さんの言葉に、私は目を見張る。
なんでそれを飛龍さんが知っているんだ。
「伊達に天下のアメリカ海軍病院抜け出せてないわよ。高卒で訓練学校を志願するなんて、よくもまあそんな向こう見ずなことしたわよね」
そんな馬鹿な。私は自分の耳を疑う。
飛龍さんは私が高卒で艦娘になったことは知らないはず。
なぜ飛龍さんが知っているのだろう。私には分からない。
飛龍さんの考えていることなんて、分かった試しがない。
「でもいいんだよ、それで。だって私とあなたは違う」
その指摘を、私は否定できない。
だって私は、空母にはなれなかった。
飛龍さんのように空を支配することは出来なかった。せめてもと選んだこの
ところでさと、飛龍さんが口を開く。
「『風雲ちゃんは』絵は描かないの?」
「風雲は絵を描きません。風雲の仕事は、
「そうじゃないと、飛龍の側には居られないから?」
その言葉は、もう私を苦しめるためにしか存在しないのだろう。
私は、飛龍さんに見て貰いたくて絵を描いていた。
あの世界に子供は私しかいなかったから。だから私は絵を描いていた。
広がってしまったこの世界じゃ、そうはいかない。
「今更だけど、良い名前だよね『風雲』って。風が巻き起こる前兆、それって何かが起こりそうな吉兆だよ」
飛龍さんがそんなことを言う。風が吹いて、その横顔を隠すように髪が揺れる。切り揃えた髪が綺麗だなんて、そんな現実逃避に浸る私が使える言葉はもう残されていなくて。
「そんなの……今更言われても」
「今だから言うんだよ。だってあなたの『風雲』は、龍に寄り添う雲なんでしょう?」
押し黙った私に、ほんと分かりやすいよねと笑う飛龍さん。私がなぜ風雲を選んだのか、飛龍さんは寸分の間違いも無く汲み取ってくれていたらしい。
だったらもう、私には認める以外の選択肢はなくて。
「そう、ですよ。そうですよ」
きっとそれは、不文律だったのだ。
私が描いて、飛龍さんが褒めてくれる。
あの小さな世界で結ばれた、二人だけのルール。
だから私は大したこともない絵を後生大事に抱えてしまった。それで今日までずるずるとやって来てしまった。
「でも、もうメッキが剥がれたんです。私の絵は誰にも認められなかった」
「だから艦娘になったの? せめて私の隣にいようと? 私は沈んだのに?」
「でも飛龍さんは、還ってきた。だから正しかったんです。だって絵を描いてたら」
あなたに再び会う事なんて、叶わなかったから。私の言葉に、飛龍さんは目を伏せる。
「それはないでしょ。あなたの絵を私は認めた。他にはいないの?」
いない訳がないでしょ。そうやってまた、飛龍さんは決めつけるように言う。
「いないですよ……だって、私は空っぽなんです。絵を描くっていうのは、作品を作るっていうのは何かを産み出すことなんです。私は何も生み出すことが出来なかった」
飛龍さんとの不文律、秋雲とは同志としての関係。
そんな人間関係の間で褒められても嬉しくない。
私は素敵なモノを作りたかった。誰にでも誇れるようなモノを。
「産み出すことだけが仕事じゃないよ……だって私の仕事は、壊すことだもの」
そんなはずは、そう口まで出てしまった言葉。それを私は引っ込めることが出来ない。
私は知っている。国防軍が何も産み出さないことぐらい。
どんなに深海棲艦を破壊しても、それで何十万人が救われたとしても、そこには破壊しか存在しない。
「ロクなものじゃないでしょ。艦娘なんて」
飛龍さんが、笑う。それならと、私は遙か昔の質問を口にする。
「じゃあ、それじゃあなんで。飛龍さんは艦娘になったんですか?」
「決まってるじゃない」
その時の飛龍さんの顔は、いつよりも輝いていて。そして――――
「国防意識に燃えたのよ」
私が逆立ちしても、勝てない覚悟をみせてしまったのだった。