舞い降りし軍艦鳥   作:帝都造営

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第 4 話 梟は森のみ知る

 中部太平洋には、ふたつの天気がある。

 

 

 ひとつは晴れ。

 どこまでも青く、時折白い雲が漂う空。行き先の知れぬ海鳥が視界を過ぎる頃には、雲は形を変えている。

 

 そしてもうひとつは、雨。

 スコールに台風、どんな雨であっても、雨はバケツをひっくり返したような暴力的な雨と決まっている。そして好きなだけ大地に海をさんざ叩いて、まるで煙のように消えてしまう。

 

 そうして決まって、雨の後には晴れが来る。

 

「釣れますかな、提督殿?」

 

 茶化すような声を聞いて、提督と呼ばれた男はのそりと振り返った。

 

「やめてくれないか。提督とはそれ自体が敬称だから『殿』をつけるのは正しくない」

「提督と呼ばれること自体は否定しないので?」

「あなたにだけ呼ばれるのなら、否定したいところだが……」

 

 提督とは、本来であれば海軍将官、つまり海軍大将や海軍中将……この国で言うところの海将や海将補にのみ適用される敬称である。

 

()()()は私を『提督』と呼ぶことが士気高揚(モチベーション)に繋がると言う。それなら、無理に矯正することはないだろうさ」

「なるほど。ご尤もで」

 

 そう言いながら「提督」の隣にしゃがむ男。白シャツの胸元には誘導弾(ミサイル)を象った徴章(エンブレム)略綬(リボン)が踊っている。

 

「それで、釣れましたか」

「釣れたと思うのかい?」

 

 提督は手元の釣り竿を見て、肩を竦める。恐らく放置されたきり糸が引くこともなかったのであろう竿は、太陽の光を浴びて僅かに熱をもっていた。

 

「少しばかり活きが良い()がかかりましたよ。少し威勢が過ぎるかもしれませんが」

「ほう。本国から直送される()()()は、そんなに魅力的でしたか」

 

 誰が何を聞いているか分からないから、この二人は雑談がてらこういった情報交換をする。訳あって送り込まれた異分子が、自分らの益になるかどうか。その見極めを。

 

「恐れながら、手元に置いておくには()()()()()と思いますが」

「だが、使わなければ意味がない。せっかくの()()を腐らせるのも勿体ないからね」

御尤(ごもっと)も」

 

 男は提督の隣に腰かける。煙草を胸ポケットから取り出して、一つを吹かす。それが灰だけになりそうなタイミングで会話が再開する。

 

()()は良い眼をしている。私の役に立つ筈です」

「提督の()()()にでもしますか? 肩書きも申し分ないでしょう。優秀な女は煙たがられますがね」

「まったく……ヘビースモーカーには言われたくない台詞だ」

 

 二人して嗤う。必ずや自分達の障害になる艦娘の事を。彼女は偽りの平和に彩られた前線を崩壊させる楔になりうる。そんな運命にも似た未来図を描くのだ。

 

「だが案ずることはない。832が巨大な獲物を釣り上げたらしいから、今夜のおかずには困らないだろうね」

「餓える将来は変えられなくとも、目先に食糧(せいか)があればそれはいい報せですな」

 

 それだけ言うと、男――――――小沢2等空佐は水平線の向こうを眺める。「提督」が腕時計に眼を遣れば現在時刻は午後3時(ヒトゴーマルマル)

 時計が示すチューク時間(CHUT)日本標準時(JST)より1時間早いので日本でなら午後2時。なにをどう考えても就業時間である。

 

「それで、仕事を放り出してきた訳でもないのだろう? 何の用で」

「あぁそうでした。私めからも報せがありまして……良い報せと悪い報せ、どちらから聞きたいですか?」

「悪い報せから」

 

 即答であった。

 物事は常に最悪を想定しなければならない。それは第8護衛隊群第3分遣隊の数百名を預かる者としては当然のこと。

 

「おや。好きなものは最後に取っておくご趣味で?」

 

 しかし小沢2佐にしてみれば、その返事はつまらないものであるらしかった。なにせこの手の話は「良い報せ」から聞かなければ話が成立しない。

 

「……本当に良い報せなんだろうな?」

「ええ、それ自体は間違いなく」

 

 そして「提督」は、仮にも百余名を預かる独立警戒隊の長なのだから等と説教を垂れるような人間ではなかった。小沢は笑いながら続ける。

 

「増員の話、ついに通りますよ」

「それは本当かい?」

 

 信じられない。

 

 なにせ海上自衛隊、ことさら深海棲艦対処の専従部隊である哨戒艦隊は慢性的な人手不足。()()()()()()()()()()()には増員が寄越されないのが当たり前。むしろ余裕を抽出して余所の戦線に回してくれとすら言われる始末である。

 

 だからこそ提督――――――瀬戸月1等海佐が己の耳を疑ってしまうのも仕方のないことであった。

 

「流石に『い号作戦』の成功が効いたんじゃあないですか? あれには幕僚部(うえ)も驚いたでしょうし」

「……空母ナシで『い号』がやれるなら、今後も空母は要らないなと言われたばかりだ。驚いたと言うことはないだろう」

 

 何か裏がある。瀬戸月1佐の直感はそう告げていた。

 そして恐らく、ソレが「悪い報せ」へと繋がっていくのだろうということも。

 

「で、肝心の悪い報せですが……」

 

 目配せで続きを促した提督に、男は小脇に抱えていたタブレットを差し出す。

 

「その増員、どうも臭いんですよね」

「空母艦娘を寄越してくれるなら、多少の目付役は受け入れるさ」

 

 瀬戸月は即答しつつもタブレットを受け取る。そこに表示されていたのは、ありきたりな個人情報(プロフィール)……ではない。

 そもそも、コンピュータに親でも殺されたのかと言わんばかりに紙媒体(ハードコピー)に拘る自衛隊が、個人情報をタブレットなどで管理するはずがないのだ。

 

「どこで調べた」

「一般的な探偵による素行調査ってヤツです」

 

 そこに記されていたのは、調査対象の人物がこれまで社会に残してきたありとあらゆる残滓(ログ)拾得(トレース)し調べ上げたのであろう情報の群れ。

 家族構成はもちろん政治信条の傾向分析まで。聞き込みでも行ったのかと思わせるほどに緻密だ。

 

「一般的な探偵とは思えないな」

「持つべき者は戦友(とも)ってことで」

 

 深く詮索しない方が良さそうだ。瀬戸月は余計な思考にカロリーを使うタイプの人間ではなかった。

 

「優秀な自衛官なのは分かった。それで?」

「おっと、もう少し困るかと思ったんですがね。こんな怪しいのを受け入れても問題にならないと?」

 

 小沢の言葉に、瀬戸月は逡巡しているように見えたことだろう。

 

 

 

 しかし実際には、彼は――――――

 

 

 

「これも何かの縁、ということなんだろうね」

 

 

 

 

 

 ――――――ただ運命を、受け入れていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 各艦の射程。

 制空状況。

 風向きや波濤といった天候。

 そして損害状況と補給。

 

 私の目の前で展開されたあらゆる情報が陣営の優勢を示していた。

 

「くっ……」

 

 そう、()()()()()

 

 開始時点で優勢だった戦況は、今は見る影もない。

 いったいどこで間違えたのだろう。敵艦隊を安全圏から討滅するつもりだった私は、戦果報告を過信しすぎて自分の足元が揺らぎ始めているのに気付くのが遅れた。

 

 盤上の駒を注視しながら手を進めている筈なのに、虫が巣くうようにボロボロと削れていく外縁部。

 綻びを一瞬でも見せると、食い散らかされて分断される。

 

 艦隊行動を読まれていたのだろう。推進音すら探知させずに――――おそらく状況開始の時点から用意されていた――――潜水艦の雷撃が主力艦に致命傷を与えたのが終わりの始まり。

 混乱に乗じて放たれる艦砲。

 拓けた航路を縫うのは精強な水雷戦隊。

 ほうほうの体で繰り出した反撃も、戦闘機部隊を主力とした護衛に阻まれる。

 

 誰の眼から見ても明らかな敗北であった。

 

「状況終了」

 

 図上演習用のホロスクリーンが消灯。電子の海に踊る艦影が消え失せる。

 

「……完敗です」

 

 これは認めざるを得ない。これでも指揮には自信があったのだけれど……所詮は井の中の蛙ならぬ専科の中の学生だったということか。

 

 ゆっくりと照明の明度が上がっていく。私は天井を仰いで、それから部屋を見回す。

 

 今回行っていた図上演習は簡易的なものなので審判はいない。いってみれば指揮官の優劣を競い合うためのちょっとしたミニゲームのようなものだ。

 とはいえ勤務時間中にそれを行うということは立派な職務である訳で……。

 

「えぇと……」

 

 腕組みをするのは長門隊長。

 資料を片手に睥睨するのは水雷戦隊の指揮を預かる神通さん。

 私は防大では負け無しだったと豪語していた幹部自衛官。

 

「グリッドE16からD18に……いや、それでは120セコンドの遅延がクリティカルか……すると……」

 

 そして向かいの対戦相手はというと、眉間を指で突つきながら言葉にならない音節を紡いでいる。

 

「提督よ! いい加減に図上演習(うみ)から戻ってきたらどうか?」

 

 没頭し過ぎだと注意する長門隊長が眼前で手を振り、彼はようやく顔をあげた。

 

「いやぁ……あと一歩というところだったからね」

 

 何があと一歩なのだろうか。私の顰め面に気づいたのか、彼は淡々と()()だけを述べた。

 

「三七分後に重巡洋艦が落ちる」

「はい?」

 

 キーボードをいくつか叩いたのちに、彼の思考を再現された戦況図の駒が動き始めた。

 

「大破判定で消滅した重巡洋艦。そのカバーに入るのは、周辺に展開中の雷巡だ。砲火力も下がるし、魚雷の残数はゼロ。防空駆逐艦との距離が開けば格好の的だろう。戦艦からの支援射撃も届かない。少数だが()()()を滑り込ませれば、二時間と四五分程度で旗艦を仕留められる」

「……私の空母の戦果も考えてください」

 

 言われるだけは悔しいのでせめても反撃をするが、彼は主張を変えることはない。

 

「瑞鶴の航空攻撃の成功率は六、七割と高水準。しかし、母艦の補給状況を確認したかい? 搬入航路は開戦直後に遮断済み。そろそろ息切れ始める頃合いだった。ここが攻め時だ」

 

 まったくもってその通りである。

 勝ちを急いだのは他でもない。攻めに気をとられている間に、大周りしていた提督さんの分遣隊に補給艦を落とされたから。

 アテにしていた後衛に退場された事で、私は短期決戦を強いられてしまったのだ。

 

 確かに分遣隊がやられただけ、航空隊は健在だった。とはいえ運ぶ爆薬がなければ只の案山子(かかし)である。

 それを少しでも悟られないために、航空隊は爆装零戦を中心に切り替えていたのだが……提督さんはそのブラフを完全に見抜いていた。

 

「僭越ながら、どこで判断されたのですか?」

「その質問は『戦爆連合が爆装されていなかったことにいつ気付いたか』という意味かな?」

「瑞鶴さんの補給状況は視認できない筈です」

 

 神通さんがそう指摘する。投影された爆戦はあくまでも模型。攻撃したとしても、被弾したとしても出撃時の新品の様相は変わらない。()()()()()()だからだ。

 

「簡単な話だ。63型(ゼロせん)の機動力、爆装ならあの速度は出せないね」

「……」

 

 内部データは加工できない。まさしくその通り。

 ウェイトが軽くなった機体は、運動能力が向上する。

 そのシステムを把握した上で判断したということは、つまり彼は私が劣勢を誤魔化しているに違いないと確信していたことになる。でなければその発想にすら至らないだろう。

 

「おかげで瑞鶴が焦っている裏付けが取れた。あとは迷い無く戦術を実行するだけだったというわけさ」

 

 戦術的にも。そして精神的にも完敗だった。

 それでも、私は言わねばならないことがある。

 

「納得がいきません」

「納得も何も、提督の勝ちは揺るがなかった気がするが?」

「違います。提督さんは、わざと空母を囮にしましたよね?」

 

 補給部隊を強襲する為に提督さんは無茶をした。

 護衛艦の少なさから、私は彼が空母を軽んじていると直感した。護る戦力を持ち合わせていないとしても、彼は()()()()に他ならない。

 

「私自身が大事とは言いません。空母艦娘だからと自惚れるなとも自覚してます。その上で聞きたいんです。どうして提督さんは空母を見殺しにしたのですか?」

 

 ()()()()においても、航空母艦は戦場の支配者(ゲームメーカー)であった。

 

 百の戦艦を揃えても、千の戦車を揃えたとしても制空権なき軍に勝利はない。

 空母の放つ艦載機はその速度と攻撃力で敵を撃破することが目的であって、敵の囮となるためではない。

 にも関わらず、図版の上で私の信条は打ち砕かれた。

 

 空母を囮とした理由を問われれば、勝利のためとだけ返されるだけだろうか。

 実際に負けた、その答えをもって理解せよと言われるのだろうか。

 

 しかし、彼の回答はまったく明後日の方向に飛んで行った。

 

「一つ、私は空母艦娘を扱った事がない」

「はい?」

「その有用性を示された事がないから、カタログスペックでしか判断できんという事だよ」

 

 さいですか。頬を引き攣らせた私を余所に、提督さんは続ける。

 

「二つ、制空能力では瑞鶴の艦隊の方が遥かに上だ。こちらは第二次攻撃どころか、そもそも爆撃機を編成する余裕すらない。だから各艦の護衛にのみ特化し、空母が行動不能になるまで、ローテーションで燃料の補給を行った。落伍してからは、水上戦闘機に役割を譲る。そうこう時間を稼いでいるうちに、タイムリミットになった」

 

 その戦術は、防衛大学校の講義室で聞き覚えのある戦い方。

 形ばかり(ハリボテ)の攻撃隊を携えた空母による囮作戦。

 

 私はエサに食い付いてしまった。そうして提督さんは作戦目標を完遂した。

 

「最初の航空攻撃で、旗艦が落とされるとは考えなかったんですか」

「そちらの航空機数は分かっていた。密集陣形で弾幕を張れば攻撃は自然と護衛に流れる。十分とは言えないが、必要最低限の数は用意したつもりだよ。流石に肝を冷やしたけれどね」

 

 それに一度凌げば、航空攻撃は再展開に時間が掛かる。そう言う提督さんは、本当に空母を数字(スペツク)でしか知らないのだろう。ゆえに正しい。

 

「君を信用しての結果だ」

「信用?」

 

 首を傾げた私に、提督さんは続ける。

 

「瑞鶴は必ず空母を主軸に攻めてくる。扱いに長けた武器を以って臨むと考えただけさ」

 

 彼の言葉が意味すのはひとつ、私が空母であるが故に、彼は打てる手だけを用いたということ。

 敵を知り己を知ればなんとやら、彼我(ひが)に与えられた戦力が同じなら相手(わたし)を知るだけで済んだと言うことか。

 

「航空戦は先手必勝、なんだろう?」

「……えぇ、まあそうですが」

「なら、最初の索敵と制空権確保が成功した時点で瑞鶴が航空攻撃を主軸に戦術を組まないはずがない」

 

 提督さんはそう言いながら淡々と勝利までの道筋を説明していく。

 

 そうだ、その通り。

 航空戦は先手必勝、だからこそ私は勝利を確信した。

 それが慢心に繋がり、まともな反撃を出来ずに敗退した。

 

 つまり、提督さんは噛み付いただけの私を歯牙にもかけず撃退したということ。

 

 そして、一方の私は提督さん(あいて)を知ることが出来なかった。

 彼の長所は砲撃戦か水雷戦か。あるいは夜戦かは分からない。なにせ提督さんは私の攻撃を受け流して弱点(ボロ)を突くだけで勝ってしまったのだから、知る由もない。

 

 対策を組まれている時点で、攻撃せずとも先手を取られていた。

 これでは勝ち筋なぞ夢物語。私は手加減されて喜ぶ幼い子供。

 それが悔しくて惨めで。もしもこれが実戦だったのなら、味方に犠牲を強いた事に歯噛みする。

 

「でも今回の演習で分かったこともある」

 

 そんな私を知らずに、提督さんは言葉を流していく。

 

「空母で重要なのは補給と兵站なんだ。補給があれば艦載機は何度でも出撃出来るし、相手が近づくほど攻撃は届きやすくなる……相手の攻撃が空母に集中しやすいなら、攻撃目標を誘導させることも出来るわけか……」

 

 彼は私のような兵士ではなく、軍師なのだろう。

 棄てるのは一人か百人か。彼にとって艦娘とは戦力というデータに過ぎない。だからこそ、海で流れる血には平等だった。

 

「提督さんは先の為に空母を残すよりも、目の前の海でいかに勝つかを考えているって事?」

「勘違いをしているね、瑞鶴。この戦争に勝ちはない」

 

 そう軽々と断言せしめる彼。一瞬見せた表情には暗い陰が落ちていた。

 

「私は手の届く所が平和であればいい。それがまやかしの安心だとしてもね。だから兵の命は使う。だが誰にも死に場所がある。軽んずるなどもっての他だよ」

 

 その業を背負う覚悟はとうにしているよ。まるで自分に言い聞かせるような声色。

 そうだ、彼は既に命令一つで部下に死ねと言わざるを得ない立場。この戦争に勝ちがあろうがなかろうが、彼はこの戦場で零れる命の責任を負おうとしている。

 

 だというのに私は――――――ますます子供だ。

 この身に不釣り合いな階級章を返上したくもなる。

 

「私は戦術眼しか持ち合わせていない。どうしても戦略レベルになると格が落ちるんだ」

 

 そう。提督さんは将棋やチェスはからきしだった。

 変な所で手を出し渋るし、駒損もする。

 

 それが図上演習では人が変わるのだ。区切り(チヤンク)で切り分けた英文のように。部分的に見れば、彼は完璧な軍師。まさしく冷徹で、成功を収める策士。

 彼は勝敗には拘らない。出撃を繰り返しながらも限りなく損耗を抑えて現状を維持することが彼の本領なのだ。

 

 だからこそ、盤上の両側に大将(キング)がいると彼の腕は鈍る――――――それが彼に対しての印象だった。

 小さな責任を完璧にこなすことは出来ても、大局を決するような場面では輝かない技能。

 見つめる私をどう思ったのか、提督さんが図版から顔を上げる。

 

「臆病者と嗤うかい? 瑞鶴」

「いえ。勝てる戦とそうでないもの。分別をつけることは重要だと思います」

「遠回しに私が諦めていると言われると、流石にこちらも傷つくな……」

 

 違う。諦めているのは提督さんじゃない。私の方だ。

 頭を殴られた感じに近い。理解しようとしたのに。理解したかったのに。もう彼には実力が届かないと私は諦めてしまっている。

 こんな私じゃ駄目なのに。

 

「さて、私は仕事に戻る。良い所で切り上げてくれよ」

 

 彼の背が遠ざかる。残務を終えようと踵を返したのだ。引き留めようとして、手が落ちる。

 こんな自分が艦隊戦の要でもある航空部隊を任されていいのだろうか。その不安をぶつけたかった――――――でも、出来なかった。

 

 肯定されれば責任と向き合わねばならない。

 否定されれば認められる努力を積むしかない。

 

 そのどちらでもないならば……私はいなくてもいいのではないだろうか。

 

「瑞鶴、少し外に出ないか?」

「長門隊長……」

 

 

 そうして立ち尽くした私の肩を慰めるように叩いたのは、長門隊長だった。

 

 

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