舞い降りし軍艦鳥   作:帝都造営

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第58話 みなもにうかぶかみのふね

「ともかく、あなたの考えは理想論よ。深海棲艦の全貌すら掴めていないのに」

「理想を実現するための運用法を、我々は検討するべきです。そのための会議です」

 

 加賀さんの答えに、先輩は嗤う。

 

「いつからこの会議は決戦兵器の品評会になったのかしら? ノープランで巨額の建造費を払うくらいなら、既に実績のある哨戒護衛艦を拡充するべきよ」

 

 言いたいことを言い切って、満足半分、怒り半分といった様子で先輩は席に座る。私が先輩にそっとペットボトルを差し出す中、艦隊派の海将補がパチパチと手を叩いた。

 

「いや。片桐2佐は素晴らしい戦略眼をお持ちだ」

 

 これほど胡散臭い賛辞も中々ない。それでも艦隊派と無人艦派は手を組んだ。そう考えれば、()()も会議戦術のうちと考えられるだろう。先輩もどうもと頭を下げる。

 

「ところで私は無人戦闘艦に詳しくないのでよく知らないのだが、2佐の言う『実績』というのは、深海棲艦の的になる実績かね?」

 

 しかし続いた想定外の言葉に、艦隊派以外の全員が凍り付いたことだろう。先ほどまで先輩の肩を持っていたはずの海将補の発言は、まさにはしごを外した格好。

 

「なるほど。確かにずんぐりと大きくて的になりやすい。実績も確かですね」

 

 艦娘派もこぞって無人艦の短所をあげつらう。事実なので先輩はぴくぴくと眉を震わせるしかない。無人艦派が散々に叩かれた所で、海将補はまとめるように言う。

 

「これで結論は出たな。哨戒護衛艦は数頼みの単純な戦術しかとれないし、艦娘はワンマンプレー以上のことは出来ない。百人で動かす大型の護衛艦こそ国防の要だ」

「……なんですって?」

 

 加賀さんが無表情で海将補を睨む。彼はなぜ分からないとばかりに肩を竦める。

 

「否定出来るかね? 艦娘といえば搭載火器は貧弱で、航続距離は短い。役に立つのは精々が沿岸警備や護衛艦に随伴する時くらい」

 

 挑発に加賀さんは乗らない。なぜなら、噴き上がるのは彼女の仕事ではないからだ。

 

「なんですと!」

 

 海将補の言葉は艦娘派に向けられた宣戦布告だ。会議室に詰めかけた殆ど全ての艦娘派が口が火蓋を切る。もちろん、無人艦派もここぞとばかりに泡を飛ばす。

 

「海将補は〈せとぎり〉の悲劇をお忘れになったようですね。たった一匹のイ級相手に四人が犠牲になったんですよ。護衛艦が沈めば百人が死ぬんです」

「そうだ! 護衛艦は棺桶、棺桶は軍港に閉じ込めておけばいい。いっそのこと予算はそっくり陸軍にでもくれてやって、沿岸の要塞化でも進めたら如何です?」

「何を言うか、護衛艦がなんのためにあると……」

「瀬戸内海にぷかぷか浮かべるためでしょう」

「なにをぉ! 貴様黙って聞いていれば!」

 

 感情任せと表現するほかのないこの状況は、まるで国防軍の縮図。

 深海棲艦から自国や同盟国の陸地を守り抜き、航路においても目立った損害を出していない。戦局は膠着状態であり、防御攻撃あらゆる戦略を採る余地がある。

 だからこそ、私たちには腰を落ち着けて議論を行う余裕がある――――筈だった。

 

「えー、静粛にしたまえ」

「何が静粛にだ。造船部の艦娘への肩入れは度が過ぎるぞ!」

「部長閣下は護衛艦部隊にも十二分な配慮を払っておいでです。それは海将補閣下自ら認めていらっしゃいましたよね? それを形勢が悪くなった途端に覆すとは」

「なんだと? 貴様こそ片桐2佐の演説を遮っただろう。先に会議を台無しにしたのはどっちだと思ってるんだ。だいたい、女のクセに出しゃばりおって気に食わん!」

「あっ! 今のは聞き捨てなりませんよ!」

「お小遣いが月4万円の恐妻家の台詞とは思えませんね」

 

 海将補の失言に、ここぞとばかりに噛みつく艦娘派の幹部たち。肝心の片桐先輩が女性(かんむす)であることを脇に置いて、やれ男女平等だ差別だのの言葉が飛び交う。

 もはやこうなってしまえば理性的な議論は望めない。いよいよ収拾がつかなくなり始めた会議室は、各々の主張が入り交じる()()()と化していた。

 

「こちらをご覧下さい! 〈そめいよしの型〉哨戒護衛艦の有用性は、先のマラッカ海峡海戦でも証明されています。特に第726護衛隊の救出作戦においては……」

「艤装の一つも動かせないくせに白馬の王子様気取りか。ドンキホーテもびっくりだ」

「第一、何故こんな無駄の塊を作ろうとしてるんですか。それを説明して頂きたい!」

「いいじゃないですか、世界初の艦娘母艦。作ってみたい。私は作りたい!」

 

 まるで雛鳥が餌を強請るが如く、各々がピーチクパーチク繰り返す。椅子を蹴飛ばすように立ち上がる者はまだ可愛い方で、下手をすれば乱闘にすら発展しかねない。

 

「ねえ、ミコト」

 

 その様を見て先輩は溜息。喧騒に掻き消されぬよう私を引き寄せると、耳元に一言。

 

「今日のお昼、私は担々麺が食べたいな」

「……」

 

 現実逃避にも程があるのではないだろうか? 息巻いて挑んだ会議がこんな体たらくでは気概が削がれるというもの。私が悩みに悩んで反応しようとした所、室内の罵声に負けない音を立てて会議室の扉が開け放たれた。

 

「失礼する!」

 

 時間が止まったようにしんと静まり返る室内。あまりにも突然の出来事に、誰一人として言葉が出ない。なにせ入室してきた男の肩には、三つの桜が輝いていたのだから。

 

「日も昇りきらないうちに無礼講のパーティとは、全く羨ましい限りだな?」

 

 将官。それも造船部長や艦隊派の海将補よりも格上、国防軍最上位の階級である空将の階級章を肩につけた男。空将とは国際基準に合わせるなら空軍大将である。

 

「誰が教えたんだ」

 

 そう呪詛のように呟きながら崩れるように椅子に座った海将補の言葉が、部屋の総意を示している。空将は悠々と会議室に並んだ机をすり抜けて、先ほどまでプロジェクターが置かれていた場所にまで進み出た。それに続くのは十人ほどの空軍軍人。紙束を抱えた彼らが壁際に整列すれば、空将の脇に控えた空軍の幹部が口を開いた。

 

「こちらは小沢航空総隊司令官、そして私は第94航空団の小河原1等空尉である」

「……艦娘(おんな)には女性飛行士(おんな)をぶつけようって腹な訳?」

 

 小声で片桐先輩がそんなことを言う。

 94空と言えば、厚木海軍航空基地に駐留する母艦専属の航空隊。小河原1尉はその航空隊の紅一点……いや、問題はそんなことではなく彼女の背後に居る空将だ。

 小沢空将。航空総隊司令と言えば、空軍の実戦部隊トップ。文字通り空の守りを一手に引き受ける男である。その威厳だけで会議室に沈黙が舞い降りる――――

 

「ええと、小河原1尉だったかな。アポイントは取ったのかね?」

 

 ――――が、そんな状況でも調子を崩さないのが造船部長である。初老の海軍将官はここはお前の場所ではないのだぞと言わんばかりにじろりと一等空尉を睨み付ける。

 ところがその視線を、女飛行士は演技がかった調子で笑い飛ばした。

 

「アポイント? 部長閣下は面白いことを仰いますなぁ! 我々は日本の空を守る者として、この会議の()()に抗議しにきたのであります」

「抗議であれば書面で受け取るとして、まあ要旨くらいは聞いておこうか。1尉」

 

 造船部長は本音では追い返したいところだろうが、それは壁際で睨みを利かせる空将が許さない。堂々と立つに徹する空将に背中を押され、彼女は机の資料を手に取った。

 

「新型護衛艦の建造、これの目的は〈いずも型〉の代替艦とあります……にも関わらず、この代替艦はなぜか〈いずも〉が持つ最大の特徴が欠落している」

「何を根拠に。空の人間にフネのことが分かるものか」

「フネのことはさっぱりですが、空海統合任務の盟約(やくそく)を忘れた訳ではありませんな?」

「……」

 

 その指摘に文句を言える者はいない。片桐先輩が唸り、艦隊派の海将補が鼻を鳴らし、造船部長は苦虫を噛みつぶしたような顔になる。

 〈いずも型〉は事実上の航空母艦。建造時から最新鋭の戦闘爆撃機を搭載できるように設計されたそれは、航空機の運用を行ってこそその真価を発揮する。

 その代替艦となれば、当然航空機運用能力が必要という話になる。

 

「艦娘母艦に補給艦、大いに結構! ですがそれは空母を作ってからの話です」

 

 一等空尉がそう言い切ると、航空総隊司令官も一歩踏み出してのっそりと告げる。

 

「ま、要するに我々は()()()()()であったというわけだな。〈いずも型〉と航空団は切っても切れない関係にある。空軍の全作戦部隊を預かる者として、看過は出来ない」

 

 だからこそ、こうしてお邪魔させて貰ったわけだ。空将はそう結ぶ。

 日本列島のみを守っていた時代ならいざ知らず、太平洋の半分に展開する空軍には移動手段が欠かせない。航空母艦(キヤリアー)は空軍の足としても機能しており、その運用状況は空軍の配置転換や運用計画と綿密に関わってくることになるわけだ。

 

「主として航空機を搭載する護衛艦の後継艦については、後日検討するところである」

「ご安心ください造船部長。こちらで既に検討させて頂いておりますゆえ」

 

 その言葉を合図に、背後に控えた十人の空軍軍人が動き始める。彼らは迷いのない動きで会議室を動き回りながら資料を配っていく。コピー用紙を束ねた資料の表紙には、広く長い甲板を備えた護衛艦のCG画像が印刷されていた。

 小河原1等空尉はバチンとその紙束を叩くと、声を張り上げる。

 

「さて、ただいま配布させていただいたのは真の〈いずも〉代艦、つまり最新型の防衛型航空母艦の設計案であります。神崎造船の10DDHを拡大発展、同クラスの建造過程で得られた知見も生かしつつ多機能護衛艦としての完成形となるかと」

 

 私の目の前にも渡ってきた資料は、もはや隠す様子もない空母の設計図であった。造船部長は資料にざっと眼を通すと言う。

 

「1尉、仕事熱心なのは結構だが……これは些か、海軍(われわれ)の領域に踏み込みすぎでは?」

「ええ。しかし妙なんですよ。あるスジによると既に造船部は神崎造船からこの設計案のセールスを受けているらしい。造船部長、なぜここにその案がないんでしょうね?」

「……」

 

 造船部長が般若の表情となったのが全ての答えである。もはや会議の主導権は海軍にはなく、乱入者であるはずの空軍に握られていた。1等空尉は勝利の笑みを浮かべるかと思われたが、思い出したかのように腕時計を見る打って変わって慌てた様子になる。

 

「おっといけません。小沢閣下、今日の午後は横田で会議でしたね」

「小河原1尉、貴官は相変わらず勢いだけだな。スケジュール管理がなっていないぞ」

 

 白々しく返す航空総隊司令官に、すみませんねと微笑む佐官。彼女は改めて会議室を見渡すと、うやうやしい調子でお辞儀する。

 

「では、我々はこれで失礼します。次は真っ当な会議でお会いしましょうね?」

「一応、部下の非礼は詫びさせてもらう。抗議文書は送らないでおくから、まあ穏便に処理してやってくれ。では急ぐので」

 まさしく支離滅裂とはこのこと。文字通り風の如く去って行く空軍の一団に、会議室はしばらく呆気にとられたのであった。

 

 

 

 

 †

 

 

 

 

「あ――――――――! ムッカつく! なんなのあの女は!」

「片桐先輩、そう怒らずに……」

 

 私が窘めるのも聞かずに、先輩はぐるぐると担々麺をかき混ぜる。それを一斉に吸い込んで、無理矢理飲み込むと身体を震わせた。

 

「ん――!」

「水です。辛いの苦手でしょうに、どうして激辛にしたんですか」

 

 コップを空にして机に叩きつけると、もう一杯と言わんばかりに手を出し出す先輩。

 先輩はお冷やを飲み下し一息つくと、会議の時のような調子で続ける。

 

「許せないのよ。女性戦闘機パイロットなんて今更珍しくもないのにエラそーにしちゃってさ。というか、そもそもなんなのあの軍規大違反の長髪は!」

「そんな軍規はないですし、多分私の方が長いですよ」

 

 もちろん長髪という意味では先輩も同じ。むしろそれを二つに結ってツインテールの格好をとっている先輩の方が髪型という意味では目につくような気がする。

 

「でも、あれは航空団の所属でしょ? おかしいじゃない」

艦娘(かいぐん)がいいなら空軍がダメな理由はないですよ」

 

 伝統的に軍隊組織というのは男所帯、多くの女性を必要とした艦娘という兵科は、革新的というべき服飾規定の緩和が行われている。

 

「じゃあ、あの染髪趣味! 栄光の母艦付航空団パイロットが染髪していいの? 茶髪だなんて昭和のヤンキーじゃあるまいし……」

「母親がアングロサクソンだそうです。遺伝ですよ」

 

 誰かを論破したがる人間ほど、自分が論破されると悔しくなるモノ。私がそう淡々と告げる度に先輩のボルテージが上がっていく。

 

「なによ……! ミコトはアイツの味方なの?」

「味方と言いますか……調べているだけです。警戒対象ですから」

「え、そうなの」

 

 先輩のマシンガントークが停まる。少し薄暗い店内はヒトもまばら。静かになった店内に、壁に張り付いたテレビがお昼のワイドショーを垂れ流していく。

 

「結婚で姓が変わっていますけれど、横須賀総監の娘ですよ。彼女」

「……なるほどね、合点がいったわ。あの会議を潰したのは中立派って訳か」

 

 横須賀地方総監部。三陸地方から東海地方までを守る東日本防衛の要。首都防衛という大任を背負い、五つの地方総監部の中でも最も重要な組織である。

 もちろん、ここで重要なのは横須賀総監の役職ではなく、その役職に収まっている人物が()()()であるということ。

 

「ミコト……あなた、全部知ってたのね?」

「全部知っていた訳ではありません。今回は目に余ると、多くの人(しんせき)から聞いていただけのことです。特定の派閥が勝手をするなら、中立派が潰しに動くのは当然と言えます」

 

 ()()というのは、もちろん新型護衛艦の会議についてである。先輩は鞄に手を突っ込むと、先程の会議で配られた資料を取り出した。

 

「というか、空軍が配ったこの資料はなに? たしか神崎造船のDDHを元にした設計案だとか言ってたけれど、もう企業が参入してるって訳?」

「大型護衛艦を建造できる企業は限られています。入札前に話が行くのは普通です」

 

 武器がなければ戦争は出来ない。軍需品を生産する防衛産業と国防軍は密接に関わっているのだから、大型艦の建造計画が事前に話も通されていないのはむしろおかしい。

 

「……そういう話じゃなくて。なんで多機能護衛艦の話が来るのかって話」

 

 多機能護衛艦。それは砲弾にミサイル、航空機にエアクッション揚陸艇、艦娘……現代艦艇が持ちうるおよそ全ての機能を詰め込んだ多機能な艦艇のこと。

 

「簡単な話です。本来、あの会議は多機能護衛艦のためのものだったんですよ」

「え?」

 

 手を止めた先輩に、私は続ける。

 

「〈いずも型〉は航空機を運用する艦艇(フネ)です。当然、後継艦は同じく航空機を運用できる艦艇でなければならない……なのに、造船部は艦娘母艦の設計案を出してきた」

「……え。ちょっと待って。じゃあ空母(DDH)を減らすってこと?」

 

 先輩の認識は間違っていない。新型艦が就役せずに〈いずも型〉が退役すれば、当然空母の数が減ることになる。しかし、それは退役すればの話。

 

「〈こんごう〉同様、40年選手にするんじゃないですか?」

 

 その言葉に、うわーと言いながら先輩はこめかみを押さえる。

 

「そりゃ中立派、というか空軍が怒るわね……〈いずも型〉は固定翼機(せんとうき)には手狭だし、すぐに大きな空母に更新するってのが暗黙の了解だったものね」

「ついでに言えば、造船業界も約束を反故にされた形になります」

「最初から会議は艦娘派の仕組んだ茶番。私たちはまんまと乗せられたって訳か。で、その結果があのザマ……悔しいなぁ」

 

 先輩の言うとおり、私たちもその茶番に噛んでしまった。深海棲艦との戦争を大きく変える新型護衛艦の建造計画。そんな計画は元々存在しなかったのだ。

 

「白紙の計画に本気になって馬鹿みたい。というか艦隊派の連中、もしかしてホントは空軍が来ること知ってたんじゃないの? 私たちに赤っ恥をかかせようと……」

「それはないと思いますよ。一番恥かいたの、間違いなく艦隊派ですし」

 

 私の言葉に、それもそうかと先輩は応じる。

 

「じゃあこの後はどうなるの?」

「どうなるも何も……なかったことにされるんじゃないですかね?」

 

 その言葉に、ええーと言いながら箸を置く先輩。それから気付いたように言う。

 

「というかさ。会議がなかったことになるってことは私たちの補給艦案はどうなるの? まさかこのままお流れになるなんてことはないわよね?」

「抜かりはありません。補給艦なら〈ましゅう型〉の代替艦でいけます」

「……ああ、なるほど。親に似て政治が上手いのね、ミコトは」

 

 やれやれと資料を捲る先輩は、事前に教えてはくれないのねと言わんばかり。

 

「先輩なら、私が言わなかった理由も分かると思います」

「ええ、分かるわよ」

 

 その言葉と共に先輩はどこから取り出したのか付箋紙を差し出す。

 そこに書かれているのは「NOT共犯者」の走り書き。

 

「まあ、そんなことろです。艦娘・艦隊両派の面子を一緒に潰すことが重要ですから」

 

 今回の会議潰しは難しいところだった。事前に会議を潰しても艦娘派は第2第3の手を打ってくるに違いなく、艦娘派だけを潰しても艦隊派が増長するだけ。

 

「それに、敵を騙すには味方からとも言いますしね」

 

 これは無人艦派を守るためでもあるのだ。外部の介入を無人艦派が招いたと知れば、今回は良くとも最終的に海軍内部で孤立することは間違いない。 

 

「で? 介入役が空軍だったのはあなたのお父さんが航空自衛官だった時の人脈(コネ)?」

「ええ……まさか、総隊司令(あのひと)が直々に出てくるとは思いませんでしたがね」

「誰が直々に出て来たって?」

「ですから小沢空将、航空総隊の司令が出てくるなんて……って」

 

 待って欲しい。今の声は先輩の声ではなかった。

 そして当の片桐先輩は驚きに眼を見開かせている。担々麺を掴まえた箸を食品サンプルの如く宙に浮かせた先輩が凝視するのは――――私の後ろ。

 

 

「お、おお小沢空将閣下……?!」

 

 

 

 先輩の声が珍しく上擦るのも無理はない。なにせ私の後ろに居たのは日本国防空軍が保有するあらゆる作戦機にレーダーサイト、高射部隊。それらが連携して行う防空任務を掌握する航空総隊司令官。小沢空将その人だったのだから。

 

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