舞い降りし軍艦鳥   作:帝都造営

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第61話 はなもちたれにつつしまず

 先輩は顔を上げると、すぼんだ眼で私のことを睨み付けた。

 

「なんで来たの」

 

 旧軍時代、より正確には進駐軍の基地を解体したことで生まれたこの公園は、都内でもかなりの規模をもっていることで有名だった。

 だから、私が先輩を見つけられたのは決して偶然などではない。来て欲しかったんでしょうなんて無粋なことは言わず、私は先輩の座るベンチに腰掛ける。

 

「お釣りを渡しに来たんです。日本にチップ制度はないんですから……」

 

 店長さん、壱万円札渡されて困ってましたよ。そう言いながらハンカチを差しだそうとした私の手を、先輩の手が押さえる。

 

「ごめん。あなたの顔を潰してしまった」

 

 小刻みに震わせながら、絞り出すような先輩の声。

 私は落ち着かせるように、そっと先輩に手を添える。

 

「小沢おじさんの事なら心配しないでください。こう見えて私、あの人をあぜ道から突き落としたこともあるんですよ?」

 

 気休めにそんな事を言う。なにそれ乱暴と先輩は笑って、それから小さく俯いた。

 

「ん、ごめん。少し元気出たわ。背中も撫でてくれたら、もっと元気出るかも」

「ええ、それでこそ先輩です」

 

 春の日差しが木々の隙間から漏れて、私たちを優しく包み込む。触れた先輩の背中はまだ震えている。私は先輩に触れているはずなのに、姉のことを思い出す。

 

「ミコトは優しいね」

「優しくなんか、ないですよ」

 

 その言葉は本心だ。だって私は、先輩ではなく姉のことを考えているのだから。

 

「頼りないお姉さんで、ごめん」

「……」

 

 先輩は見越したように言う。私は先輩にそんなことを求めた覚えはない。それでも、何を求めているのか彼女は知っている。やっぱり先輩は、肩入れしすぎだ。

 そしてそれは、私も同じ事。やはりと言うべきか、私たちは同類だった。

 

「……頼ってくれれば、良かったんですよ」

 

 姉は、毅然としていた。あの最後の日すらも毅然としていた。

 私が平和の中に暮らしていた頃から戦争が止んだことのないように、新田の一族もずっと戦い続けていた。彼女は常に戦いの渦中にいて、でもそれを私には一言たりとも漏らすことはなかった。もしも姉が私に少しでも漏らしてくれたら、私が姉様を気遣ってあげることが出来れば、あんなことには、ならなかったのだろうか。

 

「ごめんなさい。先輩」

 

 それは、気遣えなかったことへの謝罪じゃない。

 私は結局、姉のやり直しを先輩でしているだけ。

 こうして包んであげたかった。大きな背中を守りたかった。もはや叶わない後悔を、こうして慰めるように先輩に与えている。

 

「姉さんも、先輩みたいに不甲斐なかったらなって、時々思うんです」

 

 きっと姉様も、こうして耐えていたのだろう。背中を丸めて、目尻を震わせて。

 私は姉様の苦しみに気付くことはなかった。私が何も知らないことを、他でもない姉様が望んでいたから。

 

「辛いよ、ミコト」

 

 そう、ただそれだけ言って欲しかった。姉様がそう言ってくれれば私は……いや、きっと何もできなかったたのだろう。だから姉様は私に何も言わなかった。

 

「分かってたのにさ。ここはロクでもない場所だって」

 

 落ち着いたのか、先輩はぽつりぽつりと語り始める。背中を丸めた彼女の姿は私に見せられることのなかった姉の姿。

 

「昔の日本にはさ、ロケット推進技術はあってもそれを制御する技術はなかった。まして動目標である艦艇への終末誘導技術なんて確立されていない。だから人間を誘導装置に仕立てた。そうして人間爆弾や、人間魚雷、人間機雷が生まれていった」

 

 私たちは、人間を兵器の部品(パーツ)にしてしまったんだよ。先輩は言う。

 

「そりゃ、人間はスゴいよ? どんなに暑くても寒くても誤作動を起こさない。整備不良でも自己診断で誤差を修正できる。燃料が切れても暫くは動き続ける。現代では霊力なんてものまで生み出して深海棲艦をバッサバッサと倒すことが出来る」

 

 でもさ、だからって。コストが安いってなによ。

 彼女を突き動かしているのは、途方もない怒りだった。結局小沢空将も先輩の地雷を踏み抜くに終わったかと、私は他人事のように思う。

 

「そりゃさ。艦娘しか手段がないなら分かるよ。でも、ミサイルが、無人艦があるじゃない。防御兵器は役に立たない? 無人艦運用は臆病者のすること? 別に臆病でいいじゃない。終わる見込みのない戦争なんかで勇ましく命を散らす方が馬鹿らしい」

 

 しかし、それを良しとするのが軍隊であった。国のために命を捧げた人間たちは英霊とされる。新聞や伝記は必死に英霊は家族のためにその身を挺したのだと喧伝し、お前たちにも出来るぞと若者たちに囁く。

 

「艦娘は、子供がいなきゃ成り立たない兵器よ。人間爆弾と何が違うの?」

「ええ、先輩の言うとおりです」

 

 そしてその欺瞞を知ってなお戦場へと発つのが若人であった。自分の命が軽んじられていることは知っている。それでも守りたいヒトがいるから、戦い続ける。

 私の姉がその身を捧げた理由だって、私は知っている。戦場で傷ついた姉は酷く沈んでいた。もう誰も守ることが出来なくなった彼女にとって、あの家と部屋は牢獄だった。きっとその命と引き換えに故郷(くに)を護れると知ったとき、彼女は喜んだに違いない。

 

「私さ。戦争を終わらせるために軍隊に入ったんだ。私なら出来る、私がやらなくちゃ……本当にそう思ってたのかなんて、もう忘れちゃったけれどさ」

 

 私だってそうだ。奪われた平和を取り返すため、失った日常を取り戻すため。一度壊れた物が直らないことを知りながら、私は弓を引いてきた。

 

「きっと、艦娘なんていない方がよかったんだよ」

「先輩……」

「ごめん、めちゃくちゃ言ってるの分かってる。でも、艦娘がいなきゃ新自由連合盟約(ニユーコンパクト)はなかったよ。8護群最強神話だって、ミクロネシアの戦いだって存在しなかった」

 

 8護群は、かつて太平洋で散華した第8護衛隊群のこと。護衛艦(フネ)ナシ護衛隊群と呼ばれた、殆ど艦娘だけで構成された部隊のこと。

 艦娘はこの国の救世主。だから国民は期待した。艦娘がこの戦争の影に覆われた世界を救ってくれると。だからミクロネシアの戦いが起きた。

 

「誰もが信じてたんです。艦娘は無敵だって」

 

 あの南洋の海で、一体どれほどの艦娘が犠牲となっただろう。急速に衰退した米国の軍事力を背景とした同盟の大転換。その象徴とされた新自由連合盟約(ニユーコンパクト)。ミクロネシア・パラオ・マーシャルなどをはじめとする南太平洋に浮かぶ島々の防衛を任された日本が行った、戦後初の大規模な海外派遣。

 

「ねえ、ミコトはさ。艦娘母艦があれば勝てたと思う?」

 

 あの時、あの場所に。先輩はそう言う。私は先輩の望む言葉を答える。

 そして、それは私の欲しがっている言葉(いいわけ)でもあった。

 

「不可能ですよ。艦娘は万能薬じゃないんですから」

 

 深海棲艦に覆い尽くされた太平洋を病気に例えるなら、ミクロネシアは切除するしかない()()だった。中部太平洋を失っても日本の海上交通網(シーレーン)が途絶えることはない。

 

「艦娘母艦はなくてよかったんです。艦娘母艦があったら、あとどれだけ命を浪費してしまったか分かりません」

 

 ミサイルは工場で生産すればすぐに飛ぶ。火薬に火がつけば砲弾は凶器になる。

 艦娘はそうはいかない。人が育つのには時間がかかりすぎる。艦娘は、第8護衛隊群は日本の()()()だった。一度破れたら二度と手に入らない高級な衣装だった。

 艦娘母艦なんて物があったら、きっと日本は末期症状のミクロネシアに艦娘を送り込み続けただろう。そうして戦力が払底した時に滅びが訪れる。

 そんな、歴史の教科書に出てきそうな話が待っていたに違いない。

 

「ねえ、なんで艦娘母艦なんて作ろうとしてるの?」

「分かりません。分からないことが多すぎるんです」

 

 本当は、おぼろげながらに輪郭は掴めているつもりだった。でも小沢空将は「艦娘派を守る」と言いながら艦娘母艦に反対している。私が分かっていることは、分かっていないのと同じなのかもしれない。

 

「普通じゃないよ。国防軍(わたしたち)がなんのために戦ってきたと思ってるのさ。平和を守るためでしょ? みんなが平和に暮らせるために戦ってきたんじゃない。それをどうして、子供を戦場に送り込むようなことをしなくちゃいけないの?」

 

 戦争が始まったとき、私は子供だった。きっと先輩も子供だった。私たちにとっての戦争は押しつけられた不条理で、それを跳ね返すために戦ってきた。

 艦娘母艦が建造されれば、今より多くの艦娘が最前線に送り出されることになる。

 子供たちの未来を守りたくて戦う筈なのに、その結果子供たちが死地に追いやられている。私が守ると誓ったこの国を担うはずの子供たちの未来が奪われてしまう。

 

「私に力があれば、もっと上手くやれたのかな……?」

「先輩」

 

 かける言葉が見つからない。先輩は一生懸命に頑張ったじゃないですかと言えばいいだろうか。それとも黙って小さくなった背中を抱きしめればいいのだろうか。どちらも違うことは分かっている。先輩は叱咤激励を求めているのだ。

 

「私は、先輩の味方です」

 

 だから、私が口に出来るのはそれだけだ。先輩が私の人脈、新田家の力を求めているだけなのは知っている。それでも私は、先輩を支えると決めたのだ。

 姉は私を置いていった。もう置いて行かれるのは、たくさんだ。

 パン、と乾いた音。それは先輩が手を叩いた音。

 

「うん、そうだよね。私にはミコトがいる。同志(なかま)がいるんだ」

 

 それから息を吸うように立ち上がると、私を振り返る。

 

「嘆いたってしょうがない。ロクでもない組織は、自分の手で変えるんだ。私たちの戦いが無駄な犠牲を生むなんて、艦娘が犠牲になることなんて誰も望んでないんだから」

「はい、先輩」

 

 先輩の表情は湿っているのに温かくて、まるで夕立の後に吹きぬける風のよう。引きつられて私も笑顔になる。その筈なのに、私の脳裏には蘇るのは小沢おじさんの言葉。

 

『艦娘母艦は、現場の求めに応じて生まれようとしている』

 

 おかしい。何かが噛み合っていない。造船部の担当者は艦娘母艦により艦娘の機動力が強化されるという。母艦が補給を施すことで戦闘中の燃料弾薬切れを防ぎ、修理設備と整備員を満載した母艦に支えられて万全の体制で敵と戦うことが出来るという。

 

 それは確かに現場から出た要望だ。守るべき海を多く抱える国防海軍にとって、人材不足の次に深刻なのが拠点不足。各国から提供される最小限の租借地では整備施設はどこも手狭で、点検のためだけに何百キロ移動することもざらにある。

 艦娘母艦は、確かに必要なのかもしれない。

 

「先輩、何かおかしくないですか?」

「何かって、何が?」

「だって、私たちの主張が全然受け入れられないのはおかしい筈なんです。艦娘を浪費することが前提の艦娘母艦が採用されて、一番に困るのは艦娘自身の筈。利権ありきならともかく、なんで現場の艦娘たちまで母艦を支持するんですか?」

 

 私たちは、何か見落としてないだろうか。艦娘が求めるなら艦娘母艦は艦娘の守護者になるはずだ。現場ではそう考えられているから支持が広まるのではないか。

 

「それは、確かにそうね。基地から部隊を小出しにして集合させるのは面倒だし、母艦が居てくれれば助かると言えば助かるわ」

 

 胸焼けのような焦燥感が広がっていく。私たちも艦娘母艦の利便性は理解しているはずだ。理解している筈なのに、どうしてこんなに危機感を覚えたのだろう。

 何かが結びつきそうで結びつかない。艦娘の損耗率を考えていない? 艦娘が今より多くの場面で矢面に立つ? それは戦術レベルの試行錯誤で解決する問題の筈。

 

「……艦娘母艦は、なかった方がよかった」

 

 するりと、歴史の糸が結びつけられる。最初期の新自由連合盟約(ニユーコンパクト)で日本は太平洋に浮かぶ三つの国を守ることになった。その一つ、ミクロネシア連邦に深海棲艦が大挙して押し寄せた時、日本政府は友邦を守ると宣言していた。

 

「なかったから、私たちは助かったんです」

 

 では逆にあの時、艦娘母艦があったなら? 先輩が私に視線をやる。

 

「あぁ、そっか。私たちが戦ってる相手は艦娘母艦じゃなかったんだ」

 

 艦娘母艦は問題にはならない。母艦はあくまで装備品に過ぎない。

 

「私たちが戦ってるのは亡霊だよ、ミコト。日本が世界の平和を取り戻せるかもっていう、亡霊(きぼう)……それが不可能だってことは、15年前に証明されてるのに」

 

 その言葉に、私の中のおぼろげな疑念が確信へと変わっていく。

 

「艦娘母艦の就役は、太平洋への攻勢作戦に繋がる。当然そうなれば、攻勢作戦を支持するか支持しないかで艦娘派は分裂。先輩、これって」

 

 艦娘派は、何も共通の信念でまとまっている訳ではない。あくまでも艦娘優位の戦術戦略を推し進めるための互助的な繋がり、利権団体に過ぎない。

 だからこそ「深海棲艦に対する大規模な攻勢を仕掛けるか否か」という問いは派閥を真っ二つに引き裂くことだろう。攻勢派は「力があるのになぜやらない」と否定派を誹り、逆に否定派は「無意味なことに貴重な装備と資源を割くな」と攻勢派を批判する。

 母艦建造に至るまでの強引な手段も含めて、両者の溝は深まるに違いない。

 

「艦娘派に分裂されるのは困るわね。大規模群体を率いるような上位種にはミサイルが効かないこともあるわ。艦娘派と艦隊派のバランスがあってこそ、今の国防は成り立っているというのに」

「小沢おじさんが言ってたのは、こういうことだったんだ……」

 

 対立ばかりが目立つ艦娘派と艦隊派だが、現実の関係は左右の車輪みたいなもの。艦娘だけでは広い海をカバーすることは出来ないし、通常の護衛艦だけでは深海棲艦には対抗できない。片方が欠けてしまってはどうしようもないのだ。

 

「ミコト。あなたの『本家』は、もうとっくに気付いてたんじゃない?」

 

 嗚呼、先輩の言葉が胸に刺さる。けれどそれは胸をすり抜けて、そのまま地面へと落ちていく。私たちが気付くことに、父がそして本家が、気付かないはずがない。

 そして小沢空将……小沢おじさんは父の親友だ。

 

「新田家が何を考えているかは大体分かるわ。PHIグループだっけ? 艦娘母艦が就役すれば艤装をじゃんじゃん作って大もうけ。艦娘がいなくなれば足の速い航空機を作るだけ。新田家(あなたたち)を応援する企業はどっちに転んでも得をする」

「そんなことは」

 

 果たして否定しきれるだろうか。PHIグループは艦娘艤装の大手メーカー。同時に航空機産業の重鎮でもある。艦娘派が分裂しようとも、彼らのやることは変わらない。

 

「『本家』にとっては私と小沢空将、どちらの選択肢(カード)もアリなワケね……あぁ、ロクでもない。本当にロクなものじゃない」

 

 先輩の嘆きは、風化しかけた公園の煉瓦敷きに落ちていく。

 

「その、先輩。私は」

「分かってる。あなたは伝言役(メツセンジヤー)だもんね。新田家との関係を望んだのは私よ。だからあなたは悪くないの。それより、今は私の同志として手伝って頂戴?」

 

 そう言う先輩は、きっと優しいのだろう。私が間違いに気付いた時、姉も決して私を叱ることはなかった。私が父の盆栽を割ったときだって、姉は一緒に謝ってくれた。

 それは私にとって、父が落とす雷よりずっと怖いものだった。私が何もしなければ、姉は謝らなくて済んだ。この事実は私の胸を締め上げるのには十分。

 それで彼女は決まって言うのだ、次はもっと気をつけること。ただそれだけを私に伝える。きっと知っていったのだろう。それ以上はなにを言わずとも、私は理解出来るだろうと。姉は何かを教えるのに、言葉を必要としないヒトだった。

 そして私は何を学べたのだろう。勉強ならいくらでもした。経験だって積んだ。それなのにこうして私は、動いていく状況を見ているだけ。

 

「でもさ。これ正直なところ詰んでない? 私たちは艦娘母艦に反対の立場、艦娘派は推進の立場。私たちが何を言ったって、艦娘派(むこう)が聞いてくれるとは思えないわ。艦娘派存続のために艦娘母艦を阻止するってのも理屈が通らないし……」

 

 ああ、そうか。姉の「授業」は続いているのだ。姉はその身を捧げて国を護った。それは私に支払われた授業料で、この状況はきっと最後の授業なんだ。

 

『生きて、この国を守り続けなさい』

 

 ええ。分かっています。それが私と姉の最後の約束。

 艦娘母艦はこの国のために必要かもしれない。でも過ぎた力が悲劇を引き起こすなんてことは歴史上何度も繰り返されてきたこと。だから私に生きろと言ったのですよね。

 ここはきっと、分岐点だ。20年続いた戦争、新型護衛艦の建造計画。

 これが国を守る盾となるか、国民の血を吸い上げる呪いの剣となるかの分かれ道。

 そこに私は、小さな一人として参加している。

 

「先輩」

 

 その言葉に、はっとしたように思考を抜け出す片桐先輩。

 

「逆ですよ。事態は単純になりました。艦娘母艦の計画を撤回させるだけなら、艦娘派に艦娘母艦が危険な存在であると正直に教えればいいんです」

「こっちから艦娘派を切り崩すって訳? それじゃあ本末転倒じゃない」

 

 その通り、これは随分と大きな賭けになる。艦娘派の崩壊を防ぐために艦娘派を切り崩すというのだから、何をやっているのか分からないと先輩が言うのも頷ける。

 でも違うんです。私は言葉を繋げる。

 

「切り崩すんじゃありません。視点を増やして貰うんです」

 

 これまで、反艦娘母艦の訴えは設計上の欠点や予算の問題を挙げることだった。艦娘母艦を否定されることは艦娘の否定と等しかった。だから艦娘派には通じなかった。

 

「艦娘は優秀だし、艦娘母艦は有効なんです。『優秀な兵器が生み出す戦果(ひげき)』を強調すればいいんですよ」

 

 艦娘は、強い。強いからこそ悲劇が起きた。艦娘が霊力(こころ)で戦うのなら、本国から遠く離れた場所で戦うのは不本意だろう。それは親の視点に立てば分かること。どうして自分の子供を名前も知りもしない異国の地で喪いたいと考えるだろう。

 

「なるほどね。誰だって自分の子供を、特攻兵器には乗せたくないか」

「開発者だって、人間を部品にはしたくないはずです」

 

 日本が特攻兵器を生み出したのは、国が滅びる縁にあったから。果たして今の日本はそんな状況だろうか。陸海空の国を守るための実力は健在で、資源の輸送も、経済の循環も滞りなく進んでいる。小沢空将の主張するほど経済が逼迫しているとは思えない。

 それなら、この狂気を止めることは十二分に出来るはずだ。

 

「でも、そんな状況でも押し通す人達はいるわよ」

 

 その先輩の言葉に、私の脳裏には何人かの姿が浮かぶ。艦娘母艦を既定路線として会議を進めた造船部長。世界初の艦娘母艦を作りたいと豪語してみせた造船部員。そして深海棲艦の幹を枯らすために中部太平洋の奪還を訴える、私の同期。

 

「一人ずつ攻略していきましょう。まだ予算は成立していないんですから、方法はいくらでもあります。まずは強硬派の幹部艦娘……」

 

 その先の言葉は、きっと私がずっと先送りにしていたことだった。先輩の案ずるような視線を振り切って、私はその名前を口に出す。

 

「……加賀さんのことは、私が止めます」

 

 私だって、本当はこんなことしたくない。でもあの人はどんな状況になっても深海棲艦との戦いを止めようとはしないだろう。

 

 だって加賀さんは、戦争に囚われてしまっているのだから。

 

 

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