舞い降りし軍艦鳥   作:帝都造営

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第63話 ほこるみらいきみのかてい

 

「お久しぶりです、赤城さん。今日は朝から遅くまで、ありがとうございました」

 

 もちろん私と少女が一日中一緒に過ごしていたことについてだろう。

 少女の面倒を見てあげるなんて昔から何度もあったこと。だけれど加賀さんは、それについて一度も礼を欠かすことはなかった。

 

「ありがとうだなんて。こちらこそ、楽しかったですよ」

 

 ね、そうでしょ。と視線を送れば、うんうんと頷いてくれる少女。

 ならいいのだけれどと呟くように言って、加賀さんは奥へと戻っていってしまう。

 

「無理に玄関まで来なくても良かったのに」

 

 そう呟けば、少女が肩を寄せてくる。

 

「昨日から赤城さんが来るの、楽しみにして準備してたんです。これはホントですよ」

「……ええ。分かっているわ」

 

 どうやら、少女は私と加賀さんの微妙な距離感を感じ取ってしまっているらしい。

 心配させないようににっこりと笑って見せて私は立ち上がる。少女に連れられて居間へと足を踏み入れると、そこは整理が行き届いた空間が広がっていた。

 

「素敵なお部屋ね」

 

 あたり触りのない私の言葉を、加賀さんはどう受け取ったことだろう。彼女はちらりとこちらを見やってから小さくどうもと返すと、コンロに視線を戻しながら言った。

 

「もうすぐ準備が出来るから、少しだけ待っていて下さい」

 

 少なくとも加賀さんは、私を客人(ゆうじん)として家に迎え入れてくれたらしい。

 となれば私はもてなされるだけである。テレビの前に置かれたソファに腰掛けると、合わせるように少女が隣に座る。液晶テレビの脇にはいくつかの書状やトロフィーが置かれていて、大方加賀さんのものだろうと思って見てみると、意外にも日付は新しい。

 

「これでも、中学ではエースだったんですよ」

 

 ふふんと胸を張ってみせる少女。賞状に刻まれた名前は少女のもの。官舎を出て行った後の少女がどんな成長を遂げたか、加賀さんが口にすることはなかった。そして少女も、弓道の話は避けていたように思う。

 

「立派になったわね」

 

 本当に、立派になったと思う。私が言えるのはそれだけ。

 

「赤城さんと遊ぶのもいいけれど、塾の課題はちゃんとやったのでしょうね?」

 

 不意に飛んでくる声は加賀さんのもの。艦娘母艦の建造を訴えるのと同じ口が、娘に宿題をこなしたのかどうかを聞いている。その事実が私を不思議な心持ちにさせる。

 

「やったってばー。というかお母さん、朝もおんなじこと聞いてたよ?」

 

 ソファの背から乗り出して加賀さんの方へと向かい合う少女。それは何処でも見つけることの出来る、ありふれた会話。

 

「朝に聞いたのは学校の宿題です塾の宿題ではありません。そういえば、今日も塾で確認テストがあるでしょう。予習は?」

「やったよー」

 

 私の耳に引っかかるのは塾という言葉。

 もちろん、昔話をするつもりはない。夜間外出の自粛要請……事実上の戒厳令が敷かれたあの頃は、塾どころか学校ですら満足に行くことは出来なかった。

 そんな世界を少女は知らなくていいのだから、親に宿題はやったのかとネチネチ言われる方が良いに決まっているのだ。

 

「いいわね、塾。ちゃんと勉強して偉いわ」

「えへへ……まあ、良い大学に行くためにはちゃんと勉強しないとなーって」

 

 ソファに座り直してはにかむ少女。その「良い大学」というのが、国防大学校であることを知ったら加賀さんはどう思うのだろうか。

 

「赤城さん、こちらに」

 

 どうやら夕食の支度が出来たよう。加賀さんに呼ばれてソファを立つと、食卓には大皿と小鉢、取り皿も数えるなら大小併せて十数の皿が並んでいた。

 

「わぁ、すごいご馳走。こんなに作って貰ってくれなくてもよかったのに」

「構いません。久しぶりに赤城さんが遊びに来てくれたのですから」

 

 普段は二つしか出していないのだろう、据えられた三つ目の木製椅子が、アンバランスに配置されていた。住人である二人が正しい位置の椅子に手をかけるのを見ながら、私は残された椅子に腰を下ろした。それは言葉だけで語るなら、豪勢で平穏な食事。

 

「いただきます」

 

 もしも外国からの輸入がなくなったら――そんな見出しで始まる資料を思い出す。

 教科書に載せられたそのカラー写真は、主菜が消え副菜が半分になった食卓風景が描かれていた。調味料すらも満足に自給できないこの国の食卓は、食料輸入が途絶えればたちまちに干上がるのだと、そう主張していた。

 でも、私たちの目の前では主菜がある。満足な副菜に白米、食後のデザートですらも手に入る。この奇跡を、私たちは当たり前のように享受している。

 

「とってもおいしいわ」

「どうも」

 

 そう素っ気なく答える加賀さん。その言葉使いは昔と変わらない。

 

「あのね、お母さん。今日は赤城さんが、上野の美術館に連れて行ってくれたんだよ」

 

 このように穏やかな食事は何時ぶりだろう。少女はさも楽しそうに今日は何を食べただとか、こんな展示物が興味深かったなどと言葉を重ねてゆく。言葉数が多いせいか食卓の料理は一向に減る気配を見せず、のんびりとした時間が流れていく。

 

「……そしたら、どーんとチケットの絵が飾ってあって、すっごいなって!」

 

 きっと少女は、こうして何でも聞いてくれる家族の存在がどれほど貴重なモノなのかはまだ分かっていないのだろう。戦争はあまりに多くの物を奪う。戦争の悲惨さを知った誰もが命の尊さを訴えたけれど、理解(わかる)共感(わかる)はちがう。

 

「赤城さんもそう思ったでしょ?」

「ええ、そうね。すごかったわ」

 

 同じ絵画を見た私と少女ですら、感じる物は違ったことだろう。それは二人の積み重ねてきた経験(じんせい)が違うから。そしてそれは、きっとこの食卓にすら当てはまる。

 並べられた沢山のおかず、これはこの国の豊かさそのもの。しかし少女にとってはこれが()()

 

「それでね、お昼はオムライスのお店に連れてってもらったの」

「オムライス?」

 

 私たちは何だって食べられる。東京には世界中のあらゆるモノが集まってくる。一見豪華に見える料理の殆どは海の向こうからやってきていて、その海上交通網が途切れれば日本は一年を待たずに餓死することだろう。

 

「ほら、加賀さん。大分昔ですけれど、二人で行ったじゃないですか」

 

 そんなこと、もう何十年も前から分かっていること。分かっていて、知らないふりをしていたこと。海上交通網が回復した後に産まれた少女は、この現代日本で何百万が餓死するというシナリオに現実感を持つことは出来ない。

 だが、それでいいのだ。それがいいのだ。彼女は私が掴めなかった、失うまで尊さすら知らなかった平和な世界に住んでいる。それだけで、私の戦いは肯定される。

 食事の席は平穏そのもの。少女が今日の出来事をぽんぽんと語り、私が少女の話に補足を加えていく。加賀さんは時折頷きながら娘の話に耳を傾けていたが、やがて遮るように口を開いた。

 

「おしゃべりもいいけれど、そろそろ時計を見た方がいいのではないかしら?」

「え、もうそんな時間? ごちそうさま!」

「全部食べてから行きなさい」

 

 どうやら塾の刻限が迫っているらしい。休日も勉強するのは大変だと思いつつ、夕食をかき込み支度をする少女。教科書やノートが収められているのであろう背負い鞄を掴んで、風のように居間を去って行く。

 

「……すばしこいわね」

「落ち着きがないだけです」

 

 ため息交じりに言う加賀さん。

 

「忘れてた! 今日は輪番停電だから、授業早く終わるからね!」

「はい。気をつけて」

 

 素っ気なく加賀さんが返し、今度こそ玄関口から鍵を閉める音が聞こえる。

 

「なんだか。昔を思い出しますね」

 

 私の呟きに、加賀さんは聞こえないふりで立ち上がる。

 

「こうやってご飯を食べて。夜勤があるからって慌てて飛び出していきましたよね」

「慌てていたのは赤城さんだけですよ。勝手に私まで慌てん坊にしないでください」

 

 机に広がった食器を片付けるのを手伝おうとすれば、構いませんと断られる。背中で返事をする加賀さんの表情は窺いしれない。

 それでも肩が笑っているように見えたのは、私が期待しているからだろうか。

 

「少し安心しました。加賀さんがどんな教育ママになってるのか不安だったんです」

 

 そう冗談めかして言う私に、加賀さんは机に広がった食器を片付けながら返す。

 

「『弓道部のある中学に行きたい』って言い出したのはあの子ですよ。塾だってあの子がもっと勉強したいと言ったから。私は手助けはしますが、口出しはしません」

 

 そんなことはもちろん知っている。私立への進学を希望したのは紛れもないあの子だった。進学の結果は、居間に飾られた賞状たちが語ってくれている。

 きっと、少女は弓を引く母親の姿に憧れたのだろう。小学校に弓道部なんてものはない。弓道をやりたいと言い出した少女の希望を叶えるには、近隣の射場に通うか弓道部のある学校に進学するしかなかった。

 

「ねえ。まだあの子を艦娘から遠ざけたいの?」

「赤城さん。それは誤解ですよ。弓道を学ぶなら、専門家の下で学ぶのが一番。私がこの町に戻った理由は師範がいるからであって、それ以上でもそれ以下でもありません」

 

 それは辛うじて通用する嘘。加賀さんが世話になったという弓道場、娘にはそこで学ばせてあげたいという師への恩義と親心。異議を挟む点が存在しなかったのは事実だ。

 私立中学への進学は、加賀さんにとって都合の良い「言い訳」になったことだろう。

 だから私も、止めることはしなかった。

 

『お母さんを説得するのを、手伝って欲しいんです』

 

「……あのね、加賀さん。これだけははっきりさせておいて欲しいの」

 

 それでも、否定できない事実はある。少女が弓の教えを私に請うたこと、私が官舎の近くの――つまり空母艦娘の訓練用に借り上げられていた――射場に少女を連れ込んだこと。そして加賀さんが少女を連れて官舎を出たのは、その直後だったということ。

 

「加賀さんの考えを否定するつもりはないの。確かに、艦娘の近くで過ごしていれば艦娘への、国防軍への理解も深まるでしょう。だけれど、弓を学んだくらいで艦娘になるとは限らない。それに――私はあの子に〈赤城〉として弓を教える気はなかったわよ」

「その通りです。ですから、艦娘(そのこと)引越(このこと)は関係ないんです」

 

 加賀さんは平然と言ってのける。加賀さんが恐れたのは、あの子が艦娘というこの国を守る仕組みを知ってしまうことだったのだろう。艦娘の適性に遺伝的な要素があるのかどうかは議論の余地があるが、少なくともあの子には素養があった。

 

『出来れば、私の育った町で育ててあげたいの。もう少し、戦いから遠い場所で』

 

 三年前。加賀さんが私に切り出したのは相談ではなく報告だった。加賀さんは今の家も仕事と子育ての両立も、全てを自分で決めた上で私に報告したのだ。

 少しだけ内陸にある町、少しだけ海から、戦争から……そして私から遠い場所。

 

「別に私はあなたを責めようとしている訳じゃないの。進学のタイミングで官舎を離れたことは理解できる。あそこまで育てば、四六時中付き添わなくても大丈夫だものね」

 

 きっと加賀さんは、それこそ初めから官舎を離れたいと思っていたはずだ。加賀さんはあの子が「軍隊の子供」になることを恐れた。親が戦場に出ることが当然で、さらに周りの人たちまで軍人となれば、将来の夢が軍人になってしまうのではないかと。

 

「今日ね。あの子が言ったの、あなたのことを説得して欲しいって」

 

 何を説得するかなんて、口にしなくとも伝わることだろう。加賀さんは動きを止めて、私も加賀さんをじっと見つめる。時計の針だけは先ほどまでと寸分の違いもなく動き続け、頂点を指した分針に合わせて(とき)を告げる音が鳴った。

 加賀さんは、ゆっくり吐き出すように言う。

 

「そうですか」

 

 それだけ言って、加賀さんは止めていた手を動かし始める。食器用洗剤を手に取って、空気と洗剤が同時に押し出される音が聞こえる。水道の蛇口が開かれる。

 

「加賀さんは、あの子が艦娘になるのを止めたいわよね?」

 

 食卓に腰掛けたままの私とは対照的に、皿洗いに勤しむ女子高校生の母親。

 

「……ねえ。加賀さん、もうやめましょう?」

 

 自然と口をついて出てしまった言葉。しかし放たれてしまったモノは取り消せない。加賀さんは私を見遣ったけれど、そのまま視線を食器に戻す。

 

「私ね、加賀さんのことは尊敬している。あの子、あんなに良い子に育ったじゃない。親を真似ない子供なんていない。あなたが立派だったから、あの子も立派に育った」

 

 でも、その先には軍人しかない。他ならぬ母親(かがさん)が、軍人(かんむす)なのだから、あの子はどうやっても軍隊の子供でしかない。きっと加賀さんは認めたがらないと思う。

 

「あの子が艦娘になりたがるのは、加賀さんが居るからよ。だって、あの子は官舎に居る頃からずっと、加賀さんの子供だったのだもの」

 

 少女の母親は沈黙を貫く。私は少女を止められない。そして恐らく、母親(かがさん)も。

 だから私がこれから言うことは、きっと加賀さんの尊厳を傷つけることになる。

 

「だから、もう『艦娘(かがさん)』を辞めませんか?」

 

 シンクを叩く水の奔流が止まる。

 

「……」

 

 まるで低気圧が訪れたようだ。電源に繋がれた冷蔵庫が五〇?の合奏曲を二人の間に流していく。この家は先程までの空気を忘れてしまったようで、家主(かがさん)の意思に基づいて私の体表を覆う細胞一つ一つへと圧力を加えてくる。

 

「こんなこと言うなんて、出過ぎた真似だとは思うわ。でも言わせて。あなたが艦娘で在り続ける以上、あの子は艦娘……いえ、その先の平和に憧れるわよ」

 

 舌の上が蒸発して、喉が渇いていく。加賀さんは私をじとりと見て微動だにしない。

 

「本当は分かっているのでしょう? あの子はきっと止まらない。私は助言をすることは出来るわ。どれだけ艦娘が命の無駄遣いか、艦娘という兵科(システム)がどれだけこの国に負担を掛けているか説明することは出来る。でもそれで、貴女は戦争(かんむす)を止めるの?」

 

 艦娘はこの戦争の象徴だ。艦娘があるからこの国は滅びなかったし、こうして今日も滅びずに在り続ける。そして加賀さんは戦争(それ)に拘り続けた。

 

「私たちが戦争を手放さない限り、平和なんて訪れない。貴女が平和に拘る限り、そこには戦争しかない」

 

 私は多分、怒っているのだ。加賀さんに怒っているのではなくて、戦争に怒っている。戦争に囚われた加賀さんは被害者だ。きっと誰も同意はしないだろうけれど、あなたは戦争の被害者なんですよ。加賀さん。

 

「そんなものなくたって、貴女は幸せになれるのよ」

 

 加賀さんは押し黙ったまま。このまま気付かないフリを続ける腹づもりなのだろう。

 

「貴女が背負ってるものは知っているわ。だから私は止めなかった。貴女の選択に口を出す権利なんてないもの。貴女は艦娘(せんそう)を選んだ。平和に命を賭けたのよね」

 

 十五年前。ミクロネシア連邦が陥落したあの日から、加賀さんは人が変わった。戦線の拡大に賛成し、艦娘の装備を拡充させるためとあちこちを飛び回った。

 

「その結果が今なのは知ってる。加賀さんが頑張ったから、今の平和がある」

 

 あの子は今、疑いようのない平和の中に生きている。

 思う存分に勉強できて、自分の好きなことが出来て。美術館にだって、美味しいレストランやカフェにだって行ける。何不自由なく生活できる。

 

「あなたが頑張ったから。今の平和があるのよ」

 

 街が爆撃や砲撃を受けることはない。真夜中に枕元の防災持出袋(リユツク)を手探りで見つけることだって、生活必需品がなくなる不安を抱えながら量販店に駆け込むこともない。

 そんな平和すら奪われたのが、私たちの学生時代だった。

 

「昔と比べたら、平和になったじゃないですか」

 

 この国を育んできた長い長い平和の中で、それが抜け落ちた数年間。それが私たちの青春だった。ヒトが死んだ。自衛官も民間人も関係なく死んだ。

 

「それとも、全世界が平和にならないと満足できない?」

 

 それは、きっと誰もが一度は考えたことだろう。悪い敵を全てやっつけて、世界を平和にする。おとぎ話や漫画や現実で、何度も繰り返された理想論。

 でも日本は、いや世界は敗北したのだ。世界は富を蓄えていた筈だった。深海棲艦が現れた時、日本には艦娘になり得る人材が溢れていた。それは半世紀の平和がもたらした莫大な人的資源。その貯蓄を今の日本は使い果たしつつある。

 この国に、もう一度ミクロネシアの戦いを展開する体力はないのだ。

 

「身の丈の平和でいいじゃない。最小限の犠牲で国が守れることは証明されているわ」

 

 自衛隊は、日本だけを守ればよかった。それが私たちの平和だった。果たして私の言葉は届くだろうか。しかしこれを届けなければ、この国に未来はない。

 

「加賀さん。どうしてあなたは艦娘母艦を作ろうとするの?」

 

 加賀さんはそれに正確に答えられるだろう。加賀さんは艦娘母艦を推進しているのだから当然だ。それでも加賀さんは、寸分たりとも口を開いてはくれない。

 だから、私は次の言葉を継ぐしかない。

 

「ねえ、加賀さん。あなたは……まだミクロネシアに居るのね」

 

 私をじとりと見て微動だにしない加賀さん。その沈黙が(イエス)を示すのは疑いようがない。舌の上が蒸発して、喉がからからに渇いていく。

 それでも、ここで言葉を止めるわけにはいかなかった。

 

「あなたは艦娘母艦が欲しかった……加賀さんは、あの時グアムにいたのが〈くにさき〉じゃなかったらって。今でも思っているのでしょう?」

 

 輸送艦〈くにさき〉。あの時、ミクロネシア連邦が陥落した時に北マリアナ諸島に展開した唯一の艦娘運用専従艦。まだ哨戒護衛艦なんてろくに整備されていなかった時代、艦娘を輸送することが出来た艦艇は数えるほどしかいなかった。

 

「加賀さん。分かって欲しいの」

 

 あの日、あの時。グアムには〈くにさき〉しかいなかった。

 艦娘の艤装は船舶(フネ)としては小さくても個人が持つ装備品としては大きすぎる。駆逐艦のような単純な艤装なら汎用護衛艦でも運用できたが、戦艦といった大型の艤装を扱うには大型の設備が欠かせない。広い太平洋を駆けるには、母艦の存在は欠かせない。

 

「ミクロネシアは広すぎた。広すぎたんですよ」

 

 グアムから〈くにさき〉が動けば、グアムは陥落してしまう。あの頃の日本に沿岸を守り切るだけの能力(ちから)はなかった。だからグアムを突破されたが最後。

 だから、私たちはミクロネシアを見捨てた。

 

 

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