「……第3分遣隊に所属していたあなたには、辛いことだと分かっているつもりです」
第8護衛隊群第3分遣隊。私たちが見捨てたミクロネシア連邦の一角を守備していた部隊。加賀さんはあの日、そこに居た。加賀さんが重い沈黙を終わらせて、一言。
「そんな昔の話、関係ないですよ」
「でも、艦娘母艦のコンセプトがそうじゃない。足が速くて、重武装で、それでいて戦艦艤装だって悠々と運搬できる輸送艦」
私だって艦娘母艦が何の価値もないなどとは思わない。艦娘母艦に猛反対している片桐先輩だって、兵器としての価値は認めることだろう。それどころか、あんなに欲しがった母艦に反対するなんて皮肉なことだとすら思っているかも知れない。
けれど、それほどに艦娘母艦の建造は止めなければいけない。
「きっと。加賀さんは認めたがらないと思う。でも言わせて」
本当なら、私だってこんなこと言いたくない。
でもここで言わなければ、もう取り返しが付かなくなってしまう。私は机の下で拳を握り締めて、深呼吸してその言葉を押し出す。
「あんなに戦線を広げたのが、そもそもの間違いだったのよ」
深海棲艦は、ヒトの営みに惹かれてやってくる。
太平洋上にぽつりぽつりと浮かんでいた人々の営みは、ヤツらにとって格好の的だった。日本にとって……いや、あの虚構に満ちた
だからこそ、日本はあの時動かなかったのだ。本土を、日本列島を守るのに中部太平洋は必要ない。かつての大戦でそう定めたように、
「関係ないわ」
そう加賀さんは言う。頑なに、関係ないと言い張る。艦娘派がミクロネシアの奪還を狙っていることは明らかだ。艦娘母艦は味方の救援ではなく、敵地の奪取に用いられる。そして得た敵地を維持するために過剰な兵力が用いられることになる。
もちろん国民は諸手を挙げて応援することだろう。艦娘はこの国の希望だ。艦娘母艦は、
「お願い。あの子をもう、これ以上あなたの復讐に巻き込まないであげて」
「復讐?」
加賀さんが眉をひそめる。私はもう、加賀さんの良心に賭けるしかないのだ。
「ええ、復讐よ。あなたは艦娘母艦を作って、ミクロネシアを取り返そうとしている」
それは何の得にもならない。もはや太平洋には守るべき営みもないし、ハワイが陥落している今米国との連絡線としても役に立つわけではない。
それなら、この戦いは艦娘派の自尊心を満たすだけのものだ。かつて苦汁を舐めさせられた中部太平洋を奪還したとして、そこに残るのは虚構の満足と血の海だけ。
「私の知り合いが言ったわ。今の海軍は軍縮をすべきだ、って」
国防軍は、深海棲艦との戦いを理由に組織を拡大し続けてきた。それ自体が誤りだとは思わない。しかし人間は力を使わずには居られないもの。
「皮肉なものよね。私とあなたの預かる
〈赤城〉と〈加賀〉は、それぞれ世界最大級の戦艦になるべき軍艦だった。
「でも、私たちは止まるべきなのよ。膨れ上がった軍事力はいつか何処かに向けられる。豊臣秀吉が朝鮮に出兵したように、列強各国が植民地に手を伸ばしたように」
その結果何が起こっただろうか。兵士たちは故郷から遠く離れた場所に骨を埋めることになった。侵略すべき植民地が消えたとき、その力は内へと向いた。
「戦争が起きたとき、私は子供だったわ。今の子供たちに、あの子に。そんな思いはして欲しくないの。確かに無人艦だけじゃ戦争は終わらないかもしれない。それでも、流れる血を最小限に押さえることは出来る」
戦争の無人化は、決して世迷い言ではない。無人機による哨戒体制の構築、無人機による艦娘の援護……そしていずれは、無人機であらゆる国防を完結させる。
「この平和を守るのに艦娘母艦は必要? 必要ないことは、そんなものがなくてもこれまで国防は成立してきたこと自体が証明している。あなたは結局、自分の
自然と言葉に力が入る。艦娘母艦は太平洋を切り拓く希望。深海棲艦を討ち滅ぼす最強の矛。でもそれは、あまりにも多くの血を吸い上げる呪いの剣。
「あの子が艦娘になったら。ううん、あの子だけじゃない。これから艦娘を目指す全ての子供達が、艦娘母艦によって無意味な死地へと送られる。無責任だとは……」
「赤城さんの」
そこで加賀さんは私の言葉を遮る。彼女は眉の一つも動かさずに言葉を紡ぐ。その眼に小さな炎が宿っていたことを、私は忘れないことだろう。
「赤城さんの理想は、なんですか」
「この国を、守ることですよ」
ずっと昔からそうだ。私は国を守らなくてはならない。それは姉様との約束であったし、なにより私自身の願いでもある。
「私たちはこの国を自衛していればよかったの。だって、それでずっと上手くいってきたじゃない。ミクロネシア連邦なんて、守らなくてもよかった」
その言葉に加賀さんが肩を震わせる。怒っているのだろう。加賀さんにも、信じているものがある。私はその
「日米同盟にとって、ミクロネシアの敗北は予定調和だったんですよ」
何もかもが足りなかった。ミクロネシアを防衛するだけの戦力も、駐留戦力を維持するための船腹も。あの虚構に満ちた
だから維持できなくなったからあっさり手を引いた。それだけのこと。
「私だって自分を恨んだわよ。もっと力があれば。もっと上の役職でいれたなら」
それはきっと誰だって同じ。あの日、ミクロネシア連邦やグアムに居合わせた全ての人間がそう思ったに違いない。加賀さんはミクロネシア連邦を守ることが出来なかった。私はグアムに、加賀さんたちを救える場所に居ながら動けなかった。
「でも、仕方なかったのよ。私たちは負けるべくして負けたの……米国は
利用された、なんて被害者ぶるつもりはない。あの国を
「だからこそ、私たちはミクロネシアに囚われてはいけないの」
忘れて未来に踏み出そうなんて綺麗事を口にするつもりはない。
「加賀さん達がやろうとしていることは、復讐ですよ。ミクロネシアを取り返す、敗北をひっくり返す……悪いことだなんて言わないわ。でも、それで何になるの?」
「あの島を取り戻してする事は一つです。撤退戦で骨を埋めた同胞に謝罪する」
それだけです。加賀さんがそんなことを言う。
「……やっぱり復讐じゃない。あなたは、そんなことのために血を流すの?」
「そうでもしなければ、のうのうと生き延びた私が赦されることはないんです。ええ、赤城さんの言うとおりの自己満足。この戦争への復讐ですよ」
この国を守るために、もうどれほどのヒトが身を投げ出したか分からない。有史以来、国を守らんと命を捧げた人間を数えればキリがない。そうして私たちは生きてきた。誰かを犠牲にしたのなら、その分まで生きることは私たちの義務。
それなのに、加賀さんはそんなことを言うのだ。
「なら、尚更私は艦娘母艦を止めないといけないわ。あなたは今、未来を担う子供達を復讐に捧げようとしている。私はあなたに、そんなことして欲しくない」
「何故です?」
「何故って……そんなことも分からないの? あなたにはあの子がいる。あなたがミクロネシアに囚われることはないのよ。忘れろなんて言わない。でも、あなたは前を向いて生きていくべきよ。そうじゃないの?」
「前を向いていますよ。少なくとも
加賀さんが私の
「無人護衛艦抗争が絵空事に過ぎないことはあなたが一番よく理解しているはずです」
「短期的には、という話です。中長期的には十分実現可能ですよ」
「それで財務省が納得するなら、そうでしょうね」
無人艦構想には、常に
「でも、今の国防体制はおかしいわ。深海棲艦を祓うのに霊力が必須という訳じゃない。それなのに、私たちは
私たちは悲劇の時代に生きている。国家は少女たちを戦争へと駆り立て、戦争に囚われた友人は娘を過酷な世界に放り込もうとしている。
それは故郷と子孫を守るためと戦端を開いた「かの大戦」が、最後には守るべき若人を爆弾に変えてしまったのと同じ。ブルドーザーとコンクリートがない時代の人間が、荒れ狂う川を治めるために生け贄を捧げたのと同じ事。
「これ以上の血を流れるのは止めなきゃいけない。だからこそ無人艦構想を」
「私たちの仕事は戦争です。戦争をすればヒトは死にます。当然でしょう?」
「……」
私は加賀さんに止まって欲しかった。もちろん小沢空将のように力尽くで止めることは出来るだろう。そうではなくて、私は加賀さんに自分で止まって欲しかった。
でも、今の加賀さんは自分では止まってくれないだろう。
「お願い加賀さん。もうやめて」
もしも私に、ずっと昔の私に力があったのなら。私は姉を止めることが出来たはずだった。いや本当は、あそこで止めなきゃいけなかった。
だから私は、ここで加賀さんを止める。今度こそ、私が後悔しないように。
「……珍しく、今日の新田さんは感情論に拘るんですね」
その言葉に拒絶以上の意味がないのは明らか。私は飲み込みかけた唾をすんでの所で止める。小さく息をついた加賀さんは、ゆっくりと私から視線を逸らす。
「新田さんは『最小限の犠牲で国が守れることは証明されている』と言いました」
それはつまり、今の体制を容認しているということですよね。加賀さんは私の発言が矛盾していると言う。
「生け贄という表現はまあ理解は出来ます。霊力を糧に戦う
「そんなの建前の話よ。私が言いたいのは」
「その建前を良しとしたのが、
その言葉に間違いはない。国家は兵士を雇用し、兵士は給金のために労働力を差し出す。航空総隊司令官すらも紙切れ一枚で解任できる労働者に過ぎない。
でも、そんな理屈が今の戦争に通用するだろうか。国家は滅びる瀬戸際にあり、国民を
「あなたなら、私の言うことが分からない筈がない。どうして矛盾から目を背けるの?艦娘母艦の先には何もない。ミクロネシア連邦の奪還は国防になんの寄与もしない」
「ですが、
「……えぇ、そうね。あの子の故郷は、ミクロネシアだったわね」
そしてそれこそが、加賀さんが背負っているもの。
「気持ちは分かるわ。でも、それは論点のすり替えよ。あの島にはもう何もない」
加賀さんが私をじっと見据える。不思議なことに、そこには何の感情も見えない。
怒りも、戸惑いも……悲しみすらも。
加賀さんだって気付いている筈だ。それとも、加賀さんは私の言わんとすることを飲み込んでいて。それでもあくまで建前論に拘るというのだろうか。そこまでミクロネシアが、第8護衛隊群が無駄だったと認めたくないのだろうか。
「新田3等海佐……あなたはもしかすると思っているのかもしれません」
加賀さんは私と眼を合わせないで続ける。
「私が感情に
ええ、それは事実です。極めてフラットに、単調に彼女は言葉を並べてゆく。
「あなたは何度も言う。艦娘母艦を作ればあの子が犠牲になると。まるで私があの子よりミクロネシアの奪還が大切かのように言う。子より戦争を優先する軍人は親失格と」
「そんなこと言っていない。私は、母親と艦娘を両立するあなたを尊敬してる」
この言葉は偽らざる本心だ。私の知る限り、加賀さんは完璧な母親を演じようとしていた。およそ思いつく限りの母親らしいことを、必死に実践していた。そして軍人としての姿を、必死に隠そうとしていた。戦争という怪物から娘を護ろうとしていた。
加賀さんは平和に拘る。戦争の集結に拘る。それはあの子の、加賀さんの大切な娘の
だからこそ、私は加賀さんに誤った道を歩んで欲しくない。この道の先には、少なくともあの子の望む未来は存在しないのだから。
「いい加減に、してください」
それなのに加賀さんは、私をきっと睨む。
「あなたは言います。これは私の為だと、あの子の為だと。さも善人ぶって、私にご自分の都合を押しつけようとしている。あなたは、あの子を
「それは違うわ。私は加賀さんのことを思って」
「その
言い切るように、断ち切るように。お腹の空気を出し切るように息を吐く加賀さん。
「あなたは昔から、大学校の時からそう。結局は自分の意思を押し通したいだけ」
彼女は言いたいのだろう。私が彼女の娘の絆を利用していると。艦娘になるかも知れない娘を人質にとって、艦娘母艦の建造を止めようとしていると。
私の喉に言葉がつかえる。違う、そう言ってしまいたい。でもそれは嘘だ。私は艦娘母艦を止めるためにここに来た。それなら私が、加賀さんと、あの子との縁を利用してしまった事実は否定しようがない。
ようやく舌に飛び乗った言葉は、どうしようもない
「……私は、貴女のことを心配しているだけなの」
「そんなに
「友達だからよ、私はここにあなたの同期として来たの」
私の言葉は空気に吸い込まれていく。
私と加賀さんの立場は、時が流れるほど、階級章に飾りが増えていくほどに離れていく。もう同期だとか友人だとか、そのようなまやかしは通用しない。
「友達のことを心配しちゃいけないの?」
だからこの言葉は、きっと加賀さんには届かない。加賀さんはふっと笑う。それは笑うと言うより、力の抜けた表情筋が作り出す歪んだ
「私は戦う力を求めて
深海棲艦が空と陸を侵し始めたとき、私たちは高校生だった。色彩豊かな景色を約束されていた私たちの青春は、血と硝煙のペンキで塗りつぶされてしまった。
「……そんな悲しいこと、言わないでくださいよ」
「悲しい? 違いますよ、私は悔しいだけです」
加賀さんは、私に裏切られたと言いたいのだろうか。友情を利用されたと?
それなら彼女の理論は破綻している。加賀さんにとってしてみれば、この食卓は国防海軍の派閥抗争における予備会議の一つでしかない筈なのだから。
「悔しい……そうね、私も悔しいわ」
でも私は、もっと大事なことをしに来たのだ。だから私は、敢えて言葉を受け取る。
「ねえ、聞かせて。あなたはどうして戦いを続けるの?」
私たちを大学校に、軍隊へと駆り立てたのは確かに真っ黒な復讐心だったかもしれない。だけれどそれなら、私たちの復讐は平和の回復をもって終わった筈なのだ。
「分かりませんか? あなた方が、この国が。ミクロネシアを忘れたからですよ」
加賀さんがついと私を睨む。
「やっぱり
「この戦争を終わらせます。それが、私たち
開戦世代だなんて。さも自分が戦争を始めたかのような言いよう。
「三年です」
三年あれば、太平洋の制海権は確保できる。加賀さんがそんなことを言う。
「そうすれば、あの子が戦場に行くことは避けられる」
もしかすると、昔はそれでも良かったのかもしれない。あの頃は、まだ私たちは何でもない尉官に過ぎなかった。己の非力を嘆いていることが許された。守るべき物は国土と国民で、ただがむしゃらに戦い抜けば良かった。私たちの目的は一致していた。
「でも、今の貴女は知っているはずよ。艦娘母艦の就役にはまだ五年以上かかる。太平洋の奪還だって、貴女の作戦が思い通りに進んだ場合の話でしょう?」
あの子が艦娘になる前に戦争が終わると言い切れないことを、加賀さんが分かっていない筈はない。だからこそ、加賀さんが引き下がることはない。
「それでも、戦争が続けばあの子が戦場に行くことになる。だから終わらせるんです」
加賀さんが守るべきは国ではなく、娘と平和。その過程でどんな犠牲が出ようとも、彼女は止まる気などない。私を突き放して、少女を抱えて、一体貴女は何処へ往くというのだろう。貴女が手にしているこの場所こそが、幸せの形だというのに。
多分そんな私の
「じゃあ加賀さんは、自分の命令であの子を殺すことが出来るのね?」
私だって形振り構っていられない。加賀さんが折角の幸せを手放して、それどころかこの国をあの災厄の時代に引き戻そうとしている。私は止めなくちゃいけない。この先にどんな結末が待つのか加賀さんは知るべきなのだ。
「現実味がない話かもしれない。でも想像してみて。あなたの言うことは軍人としては正しい。じゃああの子が
私の姉は、国家安寧の人柱となった。私も艦娘として、国家を守護する人柱になっている。それは加賀さんも同じ。それなら
「戦争を終わらせれば全部解決します。それで問題ないでしょう」
「質問に答えて! 戦争に勝つためなら、あの子を殺してもいいの? 殺せるの?」
卑怯な質問だということは百も承知。だから私は加賀さんの譲れない場所を突く。
まともに議論をしても平行線を辿るだけのは分かっていた。
無人艦を大量に配備して人的資源の損耗を避けることも、大攻勢に打って出ることで戦争を終わらせて国家経済の損耗を避けることも。どちらもある側面から見れば正しい。正しいからこそ、なんど会議を開いても合意に至ることはない。
果たして加賀さんは口を開く。飛び出すのは、予想だにしない言葉。
「
「……今、質問したのは私です。まだ眼を背けるのですか?」
そうして先送りにして、最後に苦しむことになるのは加賀さん自身だと言うのに。それなのに彼女は、私を見据えながらに続ける。
「ええ。私はあの子に死ねと言うつもりはないわ。部下にだってそんなことを言うつもりはない。私は諦めない。何時だって……あの時だって」
あの時というのが、ミクロネシアが陥落した日を指すのは間違いないだろう。
「あの時、自衛隊はミクロネシアの部隊を見捨てた。そうすることで本土を守った」
そうですよね? と加賀さんは私に問う。私は頷くしかない。
「ええ。そうです」
仕方なかった。戦力が足りなかった。守るべきではなかった。言い訳は幾らでも出来るし理論武装もしてあるが、見捨てたという一点だけは否定など出来ない。
「小を捨てて大を守る……立派なことです。でも、あなたはミクロネシアを見捨てることを是とした。葛藤や後悔はあるのかもしれません。でも!」
加賀さんの怒気が私を襲う。彼女の双眼は私をしっかと収めていた。
「でも、あなたは見捨てたんです。
加賀さんは私のことを、加害者だとでも言いたいらしい。
「ずっと、そう思ってたんですか?」
加賀さんは何も答えない。ただ一つ言えることは、加賀さんが私のことを同期として、友達として扱ってくれるのなら……彼女が嘘を吐くことはあり得ない。
「私だって。好きで捨てたわけじゃないんですよ?」
「ええ。だからこそ、あなたはそうやってあの子も見捨てられるんです」
加賀さんの言葉を、どうして否定出来るだろう。私は国を守るために姉を見捨てた、
「私は諦めません。艦娘母艦を建造し、
「なら。私は止めるしかないわね」
そうして、私たちの間には沈黙が舞い降りる。
きっと、こうなることは分かっていた。私も加賀さんも、最初からうっすらと気付いていたこと。まやかしであったとしても一つ屋根の下、私と加賀さんと少女で囲んだ食卓は二度と帰ってこない。覚悟は決めていたではないか。
携帯端末が鳴る。表示されるのは輪番停電の開始が一時間前に迫ったことの通知。
「もうすぐ、あの子が帰ってくるわ」
加賀さんがそう言いながら壁に埋め込まれた蓄電池の操作パネルを弄る。それから黙り込んだ私をちらりと見ると、思い出したように言う。
「せめてあの子の前では、仲の良い
本稿は2020年8月16日に初頒布した同人誌「裾野に流すはかりごと(前編)」を再編集したものです。
シリーズ最新作にて完結作は2022年12月30日「コミックマーケット101」にて先行頒布を予定しております。よろしくお願いします。