その時、音が聞こえた。
はじめは病院に似合わない足音だった。走るように早いテンポ、金具か何かが揺れてぶつかる音。
それがたちまちに大きくなり――――――ひとりやふたりの足音でないことに気付く。
「赤城さん?」
それが、
「…………あ、あの」
「動かないで、いい子だから」
普通じゃないことが起きている。病室のドアへと視線を釘付けにした赤城さんは、突き出した手ひとつで私の質問を遮断する。それからポーチに手を伸ばすと、手のひらサイズの手帳みたいな何かを取り出した。
「国防海軍第3護衛隊群、新田ミコト3等海佐です。官姓名を答えなさい」
返事はない。けれどドアの向こうに何かがいるのは明らかだ。なんというか、嫌な気配がする。
そう、まるで……私達を、傷つけるような。
先ほどまでの音とは対称的に、静かにドアが開いていく。開くドアの向こうから、黒光りするブーツが現れた。
「入間基地警備隊だ。新田3佐、貴官は直ちにここを退出せよ」
「なにをいって……」
赤城さんが反論しようとする間にも、ブーツの数はどんどん増える。
ドアから濁流のように押し寄せるそれ。アメフトみたいに飛び出した肩。蒸し暑いんじゃないかってくらいの分厚い服。そして頭のふた回りは大きいヘルメット。
それらはグレーを基調としたモザイク柄のデザインで統一されていて、素人の私でも軍人さんだと言うことが分かる。
そしてなにより、全ての軍人さんが銃を両手で抱えている――――――まだこちらには向けられていないそれが、まさか玩具の銃でしたなんてことはないだろう。
「あなた方、自分がなにをしているか分かっているのですか?」
赤城さんが強い口調で声を挙げる。それは私に向けられたことのない厳しい声色。
「理解していないのは貴官だ。新田3佐」
しかし怯む様子を微塵もみせずに警備隊のヒトは告げる。それから顎をくいと動かし、静かに続けた。
「連れていけ」
「はっ」
そして軍人さんたちのひとりが前に進み出て来て……赤城さんを
「……っ、え?」
掴まれたのは、私の腕。
「ご同行願います」
丁寧な口調、けれどヘルメットの下に収まる眼は剣呑そのもの。有無を言わさぬその問答、腕を掴む力もずっと強くて、痛い。
「なにをしているのですかっ!」
赤城さんの金切り声が聞こえる。腕を外そうと動くことはないが、明らかに
そんな指揮官さんが、私の前に進み出る。
「キミが深海棲艦だという通報があった」
「…………は、はいぃ?」
変な声が出てしまった私を、いったいどうして責められるだろうか。
私が深海棲艦? 意味がわからない。
というか、そんな通報するヒトがいること自体に驚きだ。あとなんでそんな通報を真に受けているのやら……。
ともかくそんなことを考える――――現実逃避ともいう――――のに精一杯になった私の代わりに、赤城さんがあり得ないと言ってくれる。
「彼女は歴とした人間です。それは私が保証します」
「我々はヒト型深海棲艦の無力化のためにここに来ている。貴官の『保証』は必要としていない」
「では彼女が深海棲艦であるという『証拠』はあるのですか」
「ある」
キッパリと指揮官さんが言う。赤城さんは怒りの声色を残しつつも困惑顔。
「……証拠がある? いったい、どういう」
「説明する必要はない。もう良いか?」
良いか、とは。もちろん私を連行しても良いかということだろう。まさか、いいハズがないと赤城さんは言い返す。
「これは明確に、法と人権に反しています。官姓名を名乗りなさい1尉、私はこの件を然るべき部門に報告する義務があります」
こういう言い方は良くないのだろうけれど……毅然とした赤城さんの対応は、今の私にはありがたかった。
なにせ今もまだ、掴まれた腕はそのまま。
軍人さんは無表情で、床へと向けられていても銃は本物で。
軍隊のことを怖いと思ったのは、生まれてはじめてのことだった。
だって官舎では、基地では。みんな私によくしてくれたから。笑顔で元気? って、勉強はちゃんとしているか? って。そう聞いてくれる人達の居るところだったから。
だから今、そんな軍人さんたちから「敵」として視られていることが――――――堪らなく、怖い。
張り詰めた空気の中、じっと睨み合う赤城さんと指揮官さん。先に折れたのは指揮官さんの方だった。
「通報元は中部航空警戒管制団です」
お分かりでしょうと指揮官さんがため息。お分かりと言われてもなにも分からない私。
「……っ」
けれど赤城さんには、それで十分通じたらしい。
「そんな、ありえないわ。何かの間違いよ」
「我々もそう思いました。ここに来るまでに3度、確かめています。もう一度確かめましょうか?」
「え、ぇぇ……そうして頂戴。新田ミコト3等海佐が異議を申し立てているとも伝えて」
分かりましたと返して、無線に吹き込み始める指揮官さん。もちろん、私の腕は掴まれたまま。
「赤城さん、あの、これって」
「大丈夫よ。何かの間違い……えぇ、何かの間違いなんだから……」
そう言いながらも、赤城さんの顔がみるみる青ざめていく。中部
そんな人達が、私を深海棲艦だと言っている。
「確認が取れました。深海棲艦はこの部屋……いえ」
指揮官さんが赤城さんを見る。じっと注がれた視線に宿る感情は、困惑。
「新田3佐……つまり特務艇〈赤城〉のマークにぴったりと重なっているようです」
「……私に? いえ、そもそも見ての通り私は艤装を身に付けていません」
「そうです。付け加えるなら、我々は海軍艦艇の管制業務を行いません。空母特務艇は都合上登録されていますので、マークを出力することは可能ですが。つまりこれは」
指揮官さんの言葉はそこで途切れて、続くことはなかった……なぜなら、彼の肩にひとつの手が置かれていたから。
「なにをしている。民間人の子供相手に見苦しいとは思わんのか?」
それは私服姿のおじさん。しかしまさか、こんな軍人さんだらけの場所にただのおじさんが現れるハズもなく……というか、指揮官さんに劣らないくらいのオーラを放っている。眼光だけでヒトを殺しそうだ。
おじさんはのっそのっそと軍人さんたちの間を掻き分けて、私の傍へ……正確には、私の腕を掴んでいる軍人さんの所へやってくる。
「放しなさい」
「しかし」
「放せ、と言っている」
そうしてようやく、私は手を放してもらえる。じんわりと痛みが滲んでくる腕をさすると、おじさんは困ったような笑みを浮かべた。
「ごめんよ。怖かっただろう」
先ほどまでとは全く違う、優しい声色。しかし私が小さく頷いたのを見るや否やおじさんは背中を向け、先ほどまでの怖い声が戻ってくる。
「状況は」
「入間直上に敵機との報告がありました」
「
「JADGEは空母〈赤城〉が
「赤城なら目の前でピンピンしているじゃないか、なあ?」
そう言いながらおじさんは赤城さんへと目配せ。赤城さんは戸惑いながらも頷く。
「……え、えぇ。航空母艦〈赤城〉、健在です。ご配慮に感謝します。小沢空将」
「く、空将?!」
空将とは、空軍で一番偉いヒトである。やっぱりただのおじさんではなかった……というか、なんでそんな偉いヒトがこんなところにいるのだろうか。
もちろん驚く
「よし。では万事解決だな。解散!」
パンパンと手を叩く小沢空将。もちろん、万事どころか何一つ解決していない。
「お待ちください空将、深海棲艦の件が解決していません」
「深海棲艦? どこにもいないじゃないか……まさかとは思うが1尉、この幼い、我々軍人が守るべき、我ら国防軍の存在意義たる少女が深海棲艦だとは言うまいな?」
背中越しでも見える、おじさん……小沢空将の顔が。
それは怒り、義憤。お前は軍人としてあるべき姿でないと指揮官さんを断罪する台詞。
「……し、かし」
「なんだ? 言ってみたまえ」
それなのに、指揮官さんは。震わせながらもその言葉を口にした。
「しかし……JADGEは、深海棲艦だと言っています」
ならばそれは、深海棲艦です。
「……」
「…………」
沈黙が、垂れ込める。
「そうか」
最初にそれを破ったのは、小沢空将だった。
「システムの言いなりになるようでは、
そして冷たく、短く続ける。
「小牧1等空尉の任を解く、彼を連れ出せ」
「はっ」
軍人さんたちがテキパキと指示に従い、指揮官さんの
「空将、ご自身が仰られたことの意味を分かっているのですか?
「連れていけ」
しかし今度は、軍人さんたちはすぐに動かない。
「おい、お前。早く連れていけ……聞こえなかったのか?」
「いえ……1尉、失礼します」
「触るんじァないッ!」
肩を貸され、いや掴まれ。指揮官さんが部屋から連れ出されようとする。それを彼が振り払おうとした瞬間。
ばさり、と。
「え……」
なにが起きたのか、全く理解できなかった。
でも目の前で起こったことは、紛れもない現実で。
「紙が……
ふわり、くるり。まるで渦に巻かれた水のように、竜巻で舞い飛ぶ草木のように。
紙が飛んでいる。なにが起こっているのか、全くもって見当もつかない。
「だめ! 待って、ねえさまッ!」
赤城さんが叫んでいる。まるで狂ったみたいに不思議な渦の中に飛び込むと、飛び交う紙を捕まえようと奔走する。
「あかぎさん……?」
「ダメ! ミライちゃん、ここから逃げて!」
なんで、どうして。
そんな疑問を挟む余地もなく、身体がふわりと浮かび上がる。
「すまんね、勘弁してくれよ」
おじさん、小沢空将が私を抱き上げたのだ。訳が分からないままに運ばれていく。そんな私に目掛けて、渦が動く。
「おおっと」
腕をぐいと持ち上げ、肘で紙を受け止めた小沢空将の袖から
「きゃっ……!」
真っ赤な血。血液を吸い込んでぐずりと重たくなり、床へと落ちていく紙。
「わっ、あ、ぁぁ……!」
「大丈夫だ、大丈夫。でかい血管はやられてない、かすり傷だよ」
違う。
ちがう、違う!
私はそんなこと言っているんじゃない!
「ねえさま! 違うんですっ! この子は関係ないッ!」
訳が分からないよ。
どうして赤城さんはお姉さんに話しかけているの?
どうして紙があんな風に飛んだりするの?
今の紙を小沢空将が防がなかったら……その延長線上にあった私の、喉に。
シズメ。
「……ひっ」
「大丈夫だ。もう大丈夫……おい、中空をシャットダウンしろ。関連業務は北空に移管、急げ!」
シズメ。シズメ。シズマリタマヘ。
「だれ、なの。この声」
聞こえる。なにかの声が、なにかの、ナニカが。
「よし、いい子だ。落ち着いていてくれよ……」
私を抱えた小沢空将が、部屋の外に私を降ろす。降ろされた私は、そこでようやく自分が歩けなくなっていることに気付いた。
身体が、動かない。
たぶん、結構前から。それこそ、軍人さんたちが踏み込んできたときから。
「動きを止めてからの必殺を狙ったか……流石と言うべきか、いや」
ぶつぶつと小沢空将が何かを言っている。その間にも、赤城さんの声が私の耳に届く。
「違うんです姉様、あの子は無関係なんです。関係ないのです……! お分かり頂けませんかっ! 子供まで呪う必要はないではありませんか!」
「ミコトちゃん! 君も下がれッ! 巻き込まれるぞ!」
ドタドタ、と。小沢空将が叫びながら部屋に戻っていく。その間にも風は吹き、紙は飛び交い、ドアや窓はガタガタと震える。
「なんで、なんでよ……」
私は、ただ艦娘になりたかっただけなのに。
赤城さんは、そんな私を止めようとしていただけなのに。
「なんで、こんなことに……」
「乙41号」
割り込んできたのは、声。
「え……」
声の主を探しても、見つからない。いや、軍人さんに両脇を挟まれて連れ出される指揮官さんの背中が遠ざかっていくところ。
「あのっ!」
私の声に、指揮官さんはわずかに顔を見せる。その顔は真剣そのもので……。
「 」
何かを、口にした。
「……ミコトちゃん、大丈夫?」
どのくらい、経ったのか。
おそらく、あまり時間は経っていないのだろうけれど。
「…………あかぎ、さん」
ひどく。長い時間だった。
ひし、と抱き締められて、赤城さんの体温が伝わってくる。
「ごめんなさい、怖い思いをさせてしまった。私は、あなたを守らないといけなかったのに……!」
「それ、は」
いいんです。そう言いたかった。けれど、赤城さんのせいにしてしまっている自分もいて。
「…………答えて下さい。赤城さん」
乙41号って、なんですか。
「それは」
「知らない方がいい」
赤城さんとは違う、柔らかな声が聞こえる。
「あの小牧1等空尉に何か言われたのなら、忘れた方がいい。彼は錯乱していた」
「でも」
「世の中には!」
知らない方が、幸せでいられることもあるんだ。と、彼は低くて静かな口調で言った。
「忘れなさい」
それだけ言うと、彼は携帯を取り出して立ち去っていく。
「私だ。小松と千歳に召集をかけろ。そうだ、連中はすぐに穴を突いてくるぞ……」
「なんなんですか」
今の私のなかにあるのは、それだけだ。
「……いったい、なんなんですか……ッ!」
ずっと艦娘に憧れてきた。
いつかわたしも艦娘になって、お母さんみたいに戦う。
ほんとうに、それだけだったのに。
「私の姉様は、いまも戦っているの」
「その、けいかいかんせい団とかいうのですか」
私のことを、深海棲艦だっていった。
しばらくの沈黙のあとに、ええそうよと、赤城さんは認める。
「姉様は使命を果たそうとしたの。もう二度と、この大地を深海棲艦に犯させない。ただ、そのためだけに……でも、ごめんなさい。あなたに矛先が向けられるなんて」
「乙41号って、なんですか」
「それは軍事機密よ。答えられない」
その時、ピーピーと電子音。最初は単調に、続いて次々と重ねるように。
「まずい……!」
赤城さんが動き出す。小沢空将の血痕が少し残った病室に飛び込む。恐る恐るそこを覗き込んだ私は、そこで身体が自由になっていることに気付く。
「ええ、えぇ……そうよね。姉様は結界と繋がっている。結界と切り離された今、こうなるのは当たり前……」
赤城さんが何を言っているかは分からない。けれど、その声色、表情、仕草の全部が大変なことが起きていることを伝えてきて。
「なにかっ! 手伝えることは!」
「加賀さんを!」
そこで飛び出したのは、まさかのお母さん。
「加賀さんを、呼んで。今は優秀な神祇官が必要だわ」
そう言いながら、赤城さんはお姉さんのベッドに手を当てる。ふわりと、今度は優しい風が吹く。
そして、病室の警報音が静かに引いていった。まるで波が、戻っていくように。
「……いったい、なにを?」
私の疑問に答える赤城さんの顔は、ひどくやつれているように見えた。
「私達はね、ちょっとしたヒミツがあるの」
ああ、これは。
教えてくれない流れだ。
「…………とにかく、お母さんを呼べばいいんですよね?」
「ええ、おね……が…………い……」
ぱたり。
「え…………?」
赤城さんが、倒れた。
「な、な……なんで。なんで!?」
そこから先は、正直よく覚えていない。
お母さんに電話をして。
10年ぶりの本土爆撃だとかで大騒ぎになって。
それで……。
時計を見る。
秒針がコチリと音を立てる。
次に机の上に置かれたデジタル時計を見る。
電波式で自動的に時間のズレを修正してくれるこのハイテク時計は、ところが時
を刻む気配もなかった。
持ち上げてさっきまで見てた壁掛け時計の横へ。するとようやく、時計は真面目に時を刻み出す。二つの時計は寸分の狂いもなく動いていた。
「ミライ、なにをしてるの?」
誰も居ないはずの部屋に、わたし以外の声が聞こえる。わたしは時計の動きにばかり気を取られていたので、不思議に思うこともなく答えた。
「時計がサボらないように見張ってるの」
そう口を動かしてしまってから、その声の主を思い出し後悔。わたしが答えた相手は今、わたしの落ち度を探すのにやっきになっている御仁ではなかったか。
「はぁ……まったく、なにをしてるのやら」
盛大に吐かれるため息。わたしが振り返ると、やっぱりそこにはあのひとが居た。
まるで頭痛を我慢するみたいに額に手を当てている。
「別にいいでしょ。もう試験は終わってるんだし」
そうため息のお替わりが耳に届いたので、わたしは聞かないフリ。そう、試験は終わった。普通の大学より一足先に行われる国防大の入学試験はもう終わっている。
――――――結論から言えば、お母さんは私が艦娘になることを認めてくれた。
……いや、正確には『認めさせた』という方が適当なんだけれど。
ともかく今日はその合格発表日。
そう、わたしの運命を決める合格発表の日。。
「あぁ……まだかなぁ……」
デジタル時計を机に戻す。気が遠くなるほど一秒は長く、一分は更に長い。五分となればもう永遠なんじゃないだろうかなんて考えてしまう。
「今更どうこう騒いだところで、変わるモノじゃないわよ」
「別に、騒いでないでしょ」
「……そうね」
私の反論に、認めながら引き下がるお母さん。なんだかんだでお母さんも浮き足立っているのだろうけれど、そんなことを気にする余裕は、今の私にはない。
「合格してたらさ。わたしが艦娘になること、いい加減認めてよね」
国防大学校に合格すること――――――それが、お母さんが捻り出した最後の条件だった。正直なことをいうと「そんなのでいいのか」と思ってしまった私がいるのだけれど。ともかくそういう条件を私は掴み取った。
……たぶん、私の力によるものじゃないのだろうということは、なんとなく知っている。
あの戦い――――――関東防空戦と呼ばれている戦いで、赤城さんとお母さんは決死の水上空挺を行ったらしい。水上空挺というのがなんなのかはよく分からないけれど、ともかくスゴく危険な戦場で2人は戦ったのだそうだ。
それで多分……2人は仲直り? をしたんだと思う。あれ以来赤城さんはよく家に遊びに来てくれるようになったし、お母さんとの会話も悪い雰囲気じゃなかったと思う。3年ぶりに遊びに来たあの時は険悪な空気を取り繕おうとしているのが見え見えだったから、私としては本当に胸を撫で下ろしたものだ。
でも、だからといってお母さんが私の夢を応援してくれるかというと、それはまた別問題。そんなお母さんが、幹部限定といっても艦娘への道を許してくれたのは……たぶん何か、裏がある。
そして私は、その
「……」
ずっと艦娘に憧れてきた。
いつかわたしも艦娘になって、お母さんみたいに戦う。
ずっと、そう考えてたのに。
発表が行われるホームページの画面を睨み付ける。
そして、秒針がてっぺんに辿り着く。
デジタル時計が沢山の『0』を表示する。
「……時間ね。見てみなさい」
言われなくてもそうするつもり。クリック。
一瞬の読み込み表示の後に、合格発表の画面がぱっと現れる。さっきまでの時間で何度も何度も念じた受験番号を探す。
受験番号は1から順番に並んでいた。でも、全部の数字が画面に表示される訳じゃない――――――抜け落ちた番号は、不合格者の番号。残った番号だけが、合格者。
わたしの受験番号が近づいてくる。
「……あった」
これで、第一関門は突破。
「おめでとう」
いたって無表情にお母さんは言う。そこには何の感情も見えない――――――いや、感情に蓋をしているかのような、無表情。
「ありがと……正直、言ってくれないと思ってた」
「そんなことはないわ……私は軍人よ、公私混同をするつもりはないの」
それだけ言って、お母さんはポンと頭に手を置く。
「入学してからも、気を抜かない事ね」
部屋から出て行くお母さん。残されたのはわたしと、去り際の頭のぬくもりだけ。
「……ねぇ、お母さん」
もしかすると貴女は、なにかとんでもないことに関わっているのかもしれない。
そしてそれは、きっと。あの時謝っていたのと同じ話なのかもしれない。
だとしたら、それは。
「ごめんね」
きっと私の、せいだよね。
同人誌では触れられなかった「赤城さん」が倒れるまでの経緯と、娘さんのお話を回収。今回は一部原稿を再利用しつつも書き下ろし回となりました。
ところで話は変わりますが今年の大河ドラマ「鎌倉殿の13人」に出てくる仁田さん、彼の「誰も裏切ることが出来なくて自刃を選んでしまう」流れ……なんというか今作の赤城さんに似ているな……と思いました。奇しくも同じ「にった」ですしね……。
さて、いよいよコミケも近づいて参りました。ひとまず筆者も入稿を終え一段落!実はこのWeb投稿を始めた時点ではちゃんとシリーズとして完結出来るのか不安でしたが、予定よりもずっと沢山の要素を盛り込んで30万字に収めました!(収めた?)
今回の同人誌は2019年から続けているシリーズの完結編となりますので、豪華にBOXとかいろいろ付けます!
というわけで、先行頒布の方も是非よろしくお願いします~!
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