ホロックス・ブラック・ボックス   作:ゆっくろ❀

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―闇夜事変―
風真いろはの剣光


「ただいま〜でござるー! ……静かでござるなぁ〜」

 

 扉を豪快に開いて元気な笑顔を振りまくのは、用事を終えてアジトに帰ってきたholoXの用心棒・風真いろは。

 しかし総帥達は外出中のようで、部屋には風真一人だけ。変に物静かな部屋を眺め、不意に風真は表情を引き締めた。

 

 ……誰も居ない――()()()()()()アジトで、風真は静かに抜刀し、ロッカーへ近付く。

 一歩、二歩と、ロッカーを睨みながらすり足で接近し、扉に手が届く距離まで来たその瞬間――〝侵入者〟は姿を現した。

 

「――せやァァァッ!!!」

「遅いでござるッ!」

 

 ロッカーを内側から蹴り破り、古い和装と厳かな雰囲気に身を包んだ老人が風真に斬りかかる。

 だが、最初から誰かに侵入されていることに気付いていた風真は難なく避け、老人の脇腹を柄で殴っていた。

 しかし、凄まじい体だ。鋼のように硬い筋肉を持つ老人は、まさに〝不動〟――。本当に殴ったのか自分でも疑いたくなるほどビクともしない老人に、風真は只者ではないとより気を引き締める。

 一方で、不動の老人は自身の攻撃を躱した風真を横目で睨んでいた。

 

「ほう……まさかとは思ったが、潜伏に気付いていたとは、恐れ入った」

「不意討ちなんて卑怯でござるよ!」

「フッ、俺も老いには敵わず腕が落ちたか、それとも久方ぶりの好敵手に巡り会えたことが嬉しく気が昂ったのか……。既に気付かれ、不意討ちにもならなかったのだ。見逃せ」

 

 楽しげに笑みを浮かべ、老人は瞳を爛々と輝かせる。

 

「……一体、何者でござる」

「小娘よ。何者か問われて真正直(ましょうじき)に答える侵入者が居ると思うか?」

「今ここに居て欲しかったでござるな……。でも、そうでござるか。もしかしたら違うかもと思い手加減はしたでござるが……本人が侵入者であると言うならば、用心棒として放置はできぬでござる!」

「フハハハ! ならばこの錆刀(さびがたな)、討ち取ってみるといいッ!」

 

 老人はそう()えると刀を大きく振るい、床やロッカーごと風真を斬ろうとする。

 

「ま、待つでござるっ!」

 

 と、そう言いつつも老人の刀を受け止めた風真は、太刀風(たちかぜ)で吹き飛んで床に散乱してしまった物達に、後の片付けが大変そうだと眉をひそめる。

 

「ここでは全力を出せぬと申すか」

「出来れば外でお願いしたいでござる……」

「では、外へ通ずる道を作ってもらおうか」

 

 ニヤリと笑ってそう言うと、老人は鍔迫り合いを押し切り、風真を蹴り飛ばす。

 

「うぐっ――!?」

 

 本当に老いているのか疑わしい重い蹴りに、受け身も間に合わず、風真は窓を突き破ってガラス片と共に外へ転がった。

 

 腰や背などの体を強く打ち、痛みが走る。

 散ったガラス片で皮膚の所々に傷が付き、蹴られた腹を押さえながら風真はゆらりと立ち上がる。

 

(こ、このおじいちゃん……力強すぎるでござるっ!)

 

 割られた窓の枠を跨ぎ、草履(ぞうり)でガラス片を踏みつけながら外へ出てきた老人の動きを警戒しながら、風真は刀を構えた。

 

 利用出来るものを全て使っても、勝てるかどうか怪しい。

 本気で挑まなくてはと、緊張から唾を飲み込み、汗が頬を伝って地に落ちる。

 油断すれば、老人が放つ威圧だけで斬られそうだ。

 

「今のを受けて立ち上がれるとは見事だ」

「風真が(こうべ)を垂れるのは、総帥だけでござるよ。まぁ……雇われではござるが、恩義もあるゆえ、負けるわけにはいかぬでござる」

 

 沈黙し、互いに睨み合う。

 バクバクとうるさく鳴っていた心臓は次第に落ち着きを取り戻し、呼吸も穏やかになっていく。

 向かい風が風真の耳を撫で、髪を揺らすが、こそばゆさも感じないほどに集中していた。

 

――刹那。向かい風は追い風となり、突風で小さなガラス片が舞い散る。

 ガラス片がキラキラと日の光が反射する様に、風真は何故か、今は昼だというのに夜の星空を連想した。

 

「――――ッ!」

 

 星を頭から振り払う。ちっぽけな運を、風真は見逃さなかった。

 ほんの一瞬、老人がガラス片が目に入らぬよう瞑った瞬間だ。

 感覚を極限まで研ぎ澄ませ、一撃必殺の斬撃を放つ。

 

――しかしそれは、澄んだ金属音と共に防がれた。

 

「目が見えなければ必中だと思っていたか?」

 

 老人は目を瞑ったまま、風真の攻撃を防いでみせたのだ。

 ……だが、まだだ。

 

「ハァァァッ!!!」

 

 風真は止まらず、技を繰り出し続ける。

 それでも、剣撃全てにタイミングを合わせられ、刃同士が激しく打ち合う。

 

(筋力差、技術差、経験差……悔しいけど、そのどれもがこのおじいちゃんに劣っているでござる……!)

 

 老人はまだまだ余裕そうで、不敵に笑う。

 心の底からこの一戦を楽しんでいるのだろう。

 

(その表情を崩したい……! 焦らせたい……! このおじいちゃんに勝って、風真はもっともっと、強くなるでござるッ!)

 

 その時、風真は一瞬だが老人の刀に違和感を覚えた。

 

「……ッ! ここでござるッ!」

「何ッ!?」

 

 老人も違和感に気付いたのだろう。

 一瞬狼狽(うろた)え、距離を取ろうとした瞬間の隙を狙い、風真は老人の刀を狙って叩き斬る。

 

 鈍い断末魔が響いた。老人の刀が折れたのだ。

 刃先が宙を舞って地面に突き刺さった。

 

 刀は斬ることに特化しているため、縦には強いが横からの衝撃に弱く、酷く折れやすい。

 そして老人の刀は元々古い太刀であるうえに、先程の激しい攻防戦により破損直前にまでなっていたのだろう。

 風真は限界を迎えていた老人の刀にトドメを刺したのだ。

 

「……ならばこの身、お主の(にえ)としてみせよッ!」

「これで、終わりでござる――ッ!」

 

 折れた刀で最後の一撃を防ごうとした老人だったが、風真の速さに遅れをなし、一閃の光のような鋭い斬撃をその身に刻んだ。

 

(――……ああ……この刀と旅を始め、幾年が過ぎただろうか……悠久の時を彷徨うかのような長い旅路であったが……遂に、逝ったか……。旅の終わりはいつ訪れるのかと、毎夜思い描いていたが……お前と共に逝けるのなら、このような終わり方も良いものだな)

 

 流れた血が、折れた刀を濡らす。

 老人は光が消えつつある瞳で、見事に自身を討ち取った少女を眺め、柔らかな笑みを送った。

 

「風真……と言ったか。お主のような者に討たれるなら……悔いなど微塵もない。クハハッ――――」

 

 そうして老人は力なく笑うと膝から崩れ落ち、長い生涯の終わりを迎えるのだった……。

 

「――この一戦。風真はきっと、一生忘れることはないでござる。……もし叶うなら、貴方に稽古をつけてもらいたかった……」

 

 風真は刀を納めると、名も知らぬ剣豪に敬意を払い、一礼した。

 

 

――その後、遺体は折れた刀と共に埋葬された。

 自身が折った老人の刀……その刃先を手元に残し、風真いろはは今日もholoXの用心棒として鍛冶研磨(たんやけんま)していくだろう――。

 

 

「……あっ、何しに来たのか聞けばよかったでござる!!」






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