ホロックス・ブラック・ボックス   作:ゆっくろ❀

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holoXの絆2

「――追い風よ来たれ。凱旋を奏せ!」

「詠唱などさせるものか!!!」

 

 ラプラスは業火を解き放ち、一瞬で部屋は灼熱地獄と化す。

 博衣が盾となり熱を遮断するも、完全とまではいかない。圧倒的な熱量に全員が肌から汗を吹き出した。

 

「この身は薪である。この身は鎚である。その心は剣であると知れ! 鍛えた(ツルギ)はいま研がれ、我が太刀風を凱旋とするッ!」

重力固定(グラ・フィクスド)上下反転(リバース)ッ!」

 

 風真達は文字通りひっくり返り、天井から自由落下を始めた。

 これでは風真の一太刀が無駄に終わってしまうが、まだ策はある。

 

「転移は俺の十八番(おはこ)だッ!」

 

 タタリガミ戦でも見せたそれを、再び行う。

 風真はラプラスの目前に転移し、その太刀を振りかざす。

 

「二番煎じが通じるかッ!」

「――沙花叉、撃って!」

「落ちながらなんてむっずい!」

「つべこべ言わない!」

 

 鷹嶺の指示で拳銃を構えた沙花叉が弾丸を発砲した。

その弾は外れたが、牽制にはなる。焦っていたラプラスは弾を防ごうとバリアを張るも、すぐに判断を間違えたと直感した。

 

「今ここで、ご恩をお返しするでござる」

「この――ッ!!」

「――――【勝華爛漫】ッ!!!」

 

 振り下ろした一閃。花が舞い散る幻想に、ラプラスは唖然とする。

 何も斬られていない。今の刃に、傷一つ付けられていない。

 

 ……そういえば、鷹嶺達が落下した音が全く聞こえない。

 

 風真が笑みを零す。

 

「風真を囮に使うなんて、思い浮かばなかったでござろう?」

「なっ!? 誰の……いや、こよりの策かッ!」

 

 ラプラスが決死の表情で振り向いた時には、ナツメと共に転移した沙花叉が銃口を向ける。

 

「最後の弾だ。外すなよッ!」

「ナツメもねッ!」

 

 二人が放った弾、それは真っ直ぐにラプラスへ向かい――――顔のサイドを通り過ぎた。

 だが、ただ単に外したのではないとラプラスはわかった。わかってはいたが、対応が出来ない。手のひらの上で踊らされている感覚に、何も出来ない。

 

「何を……!」

「こっちも囮だよ、ラプ!」

 

 鷹嶺は鞭を振るい、狙い通り二つの弾丸を掬い上げた。そうして弾道を変えるという芸当を見せ、ラプラスが反撃しようと手に集束させた魔力の塊を撃ち抜き、破壊する。

 

(なんだ……? 何が起こっている……!? 次は誰が来る、誰が――!)

 

 刹那、ラプラスの体に鞭が巻き付く。身動きひとつ取れないほど鷹嶺の力が込もっていた。

 

『魔力集束。強化ポーション注射――』

「ッ! 舐めるなッ!」

 

 向かってくる鉄の翼に、レーザーを撃ち放つ。魔力で補強されたことは知っている。ならばより強い魔力で正面から撃ち砕くだけだ。

 しかし、博衣は機体を乗り捨てた。自身の武装をも囮にしたのだ。

 地に足を着けた博衣だが、身体強化のポーションを打ち込まれた今、そのスタートダッシュは誰の目にも止まらない。

 

「ハァァァァァアアッッッ!!!」

「――――ッッ!?」

 

 気付いた時には博衣の右拳を頬に受けていた。脳が激しく揺さぶられる。

 

(魔法でも、科学でもなく、最後の最後に……物理攻撃とはな……)

 

 薄れゆく意識の中、ラプラスは笑った。

 

「――だが! 生ぬるいぞ。holoXッ!」

 

 刹那。脳をスパークさせ、意識を取り戻したラプラスは、博衣の腕を振り払う。

 それは単に振りほどかれただけに留まらず、博衣の右腕を文字通り吹き飛ばした。

 

――鮮血が(ほとばし)る。激痛と言うにはぬるい痛みが博衣を襲う。出血に頭がクラクラとして、目の前の総帥がボヤけていく。

 

 ……だがしかしと、それでもと、博衣の眼光は消えなかった。

 

(たとえこの命、尽きたとしても――!)

 

 背後で乗り捨てたはずの機体が変形して向かってくる。部分的に損傷した機体だが、それは徐々に〝腕〟へ変形していく。

 

「〝アームド・オン〟ッ!!!」

『ポーション注射。ジェット加速開始――!』

 

 機械の腕は一瞬のうちに失われた博衣の右腕に成り代わり、傷を癒してさらにダメ押し、身体を強化させる。

 

 残った魔力。

 

 残った電力。

 

 残った灯火に、仲間達の想いを焚べて――――

 

「――――ぐっ……ぁあ……!」

 

 ……二発目のパンチは酷く重かった。

 威力が逃げぬよう、鷹嶺に風真、沙花叉がラプラスの体を後ろから支え、博衣の全身全霊の一撃を受け止めていたのだ。

 

 博衣は牙で唇を噛む。血を吐きながらも充血する目は光を留め、ラプラスが気絶するその瞬間まで事切れることはなかった。

 

「……まっ、たく……こよの作戦に、アドリブいろいろ入れてくれちゃって……おかげで上手くいったのは、さすがルイ姉……かな……」

「こよりっ!!」

 

 力尽き、膝から崩れ落ちた博衣を、咄嗟に鷹嶺は抱きしめる。

 博衣の作戦に、鷹嶺のアドリブが上手く交差してラプラスを欺けた。

 

 ……だがその結果は残酷なものだ。

 多量出血に、ポーションのオーバードーズ。

 果ては初めて魔力を使ったことによる反動。

 それらが一度に襲うことで博衣に(もたら)すのは――――

 

「ラプ……ちゃん、起きて……も……自分を、責めないでね……」

 

 光が消える。展開していたホログラムは主人が居なくなったからか消滅し、その右腕もシャットダウンすると、ガシャンと大きな音を立てて地面に落ちた。

 

「あ……ぁ……こよ、り……」

 

 とめどなく涙が零れる。胸に抱いたコヨーテはどんどん冷たくなっていく。

 こんな未来は変えられるのか。……いや、博衣の死はもはや過去だ。過去を変えることなど、誰にも出来ない。それこそ、神でもなければ……。

 

「――バカ、いかせないぞ……〝吾輩〟の、大切な……」

 

 ラプラスの手に光が集まる。初めは蛍でも集まってきているのかというほど鈍い動きだったが、魔力粒子はやがて、ブラックホールに吸い込まれるようにその手に集束されていく。

 

「ラプ……!」

「今なら、生死の反転くらい……やってみせるッ!」

 

 それは蘇生などではなく、時間逆行の域だった。

 光の渦が飛び散った博衣の血を本人の体へ流し込み、機械の右腕が外れて復元される。

 

「吾輩のために死ぬな。吾輩のために生きてくれ。こよりッ!」

 

 ドクンと、生命が証明された。

 ピンクの愛らしい耳がピクリと動くと、ゆっくりと[[rb:瞼 > まぶた]]が開かれる。

 

「……あ、あれ? こよ、カッコつけて退場したつもりだったんだけど……もしかして生きてます? あれぇ?」

「っ、バ〜カ。誰一人欠けさせねーよ!」

「ラプちゃん! 元に戻った!? 大丈夫? 内臓反転させて殺してこない!?」

「そ、そんなエグいことするか!!」

 

 元気そうな博衣に、ラプラスは内心ホッとしながら、嬉しさにニヤけそうになる顔を隠そうと博衣を抱きしめる。もはや隠すというより行動に出している気もするが……。

 博衣もラプラスを抱きしめる。二人を鷹嶺が抱きしめる。風真と沙花叉は顔を見合せ微笑み、holoXは皆で抱きしめ合う。

 

 今、ようやく……holoXはここに揃った――――。

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