「――追い風よ来たれ。凱旋を奏せ!」
「詠唱などさせるものか!!!」
ラプラスは業火を解き放ち、一瞬で部屋は灼熱地獄と化す。
博衣が盾となり熱を遮断するも、完全とまではいかない。圧倒的な熱量に全員が肌から汗を吹き出した。
「この身は薪である。この身は鎚である。その心は剣であると知れ! 鍛えた
「
風真達は文字通りひっくり返り、天井から自由落下を始めた。
これでは風真の一太刀が無駄に終わってしまうが、まだ策はある。
「転移は俺の
タタリガミ戦でも見せたそれを、再び行う。
風真はラプラスの目前に転移し、その太刀を振りかざす。
「二番煎じが通じるかッ!」
「――沙花叉、撃って!」
「落ちながらなんてむっずい!」
「つべこべ言わない!」
鷹嶺の指示で拳銃を構えた沙花叉が弾丸を発砲した。
その弾は外れたが、牽制にはなる。焦っていたラプラスは弾を防ごうとバリアを張るも、すぐに判断を間違えたと直感した。
「今ここで、ご恩をお返しするでござる」
「この――ッ!!」
「――――【勝華爛漫】ッ!!!」
振り下ろした一閃。花が舞い散る幻想に、ラプラスは唖然とする。
何も斬られていない。今の刃に、傷一つ付けられていない。
……そういえば、鷹嶺達が落下した音が全く聞こえない。
風真が笑みを零す。
「風真を囮に使うなんて、思い浮かばなかったでござろう?」
「なっ!? 誰の……いや、こよりの策かッ!」
ラプラスが決死の表情で振り向いた時には、ナツメと共に転移した沙花叉が銃口を向ける。
「最後の弾だ。外すなよッ!」
「ナツメもねッ!」
二人が放った弾、それは真っ直ぐにラプラスへ向かい――――顔のサイドを通り過ぎた。
だが、ただ単に外したのではないとラプラスはわかった。わかってはいたが、対応が出来ない。手のひらの上で踊らされている感覚に、何も出来ない。
「何を……!」
「こっちも囮だよ、ラプ!」
鷹嶺は鞭を振るい、狙い通り二つの弾丸を掬い上げた。そうして弾道を変えるという芸当を見せ、ラプラスが反撃しようと手に集束させた魔力の塊を撃ち抜き、破壊する。
(なんだ……? 何が起こっている……!? 次は誰が来る、誰が――!)
刹那、ラプラスの体に鞭が巻き付く。身動きひとつ取れないほど鷹嶺の力が込もっていた。
『魔力集束。強化ポーション注射――』
「ッ! 舐めるなッ!」
向かってくる鉄の翼に、レーザーを撃ち放つ。魔力で補強されたことは知っている。ならばより強い魔力で正面から撃ち砕くだけだ。
しかし、博衣は機体を乗り捨てた。自身の武装をも囮にしたのだ。
地に足を着けた博衣だが、身体強化のポーションを打ち込まれた今、そのスタートダッシュは誰の目にも止まらない。
「ハァァァァァアアッッッ!!!」
「――――ッッ!?」
気付いた時には博衣の右拳を頬に受けていた。脳が激しく揺さぶられる。
(魔法でも、科学でもなく、最後の最後に……物理攻撃とはな……)
薄れゆく意識の中、ラプラスは笑った。
「――だが! 生ぬるいぞ。holoXッ!」
刹那。脳をスパークさせ、意識を取り戻したラプラスは、博衣の腕を振り払う。
それは単に振りほどかれただけに留まらず、博衣の右腕を文字通り吹き飛ばした。
――鮮血が
……だがしかしと、それでもと、博衣の眼光は消えなかった。
(たとえこの命、尽きたとしても――!)
背後で乗り捨てたはずの機体が変形して向かってくる。部分的に損傷した機体だが、それは徐々に〝腕〟へ変形していく。
「〝アームド・オン〟ッ!!!」
『ポーション注射。ジェット加速開始――!』
機械の腕は一瞬のうちに失われた博衣の右腕に成り代わり、傷を癒してさらにダメ押し、身体を強化させる。
残った魔力。
残った電力。
残った灯火に、仲間達の想いを焚べて――――
「――――ぐっ……ぁあ……!」
……二発目のパンチは酷く重かった。
威力が逃げぬよう、鷹嶺に風真、沙花叉がラプラスの体を後ろから支え、博衣の全身全霊の一撃を受け止めていたのだ。
博衣は牙で唇を噛む。血を吐きながらも充血する目は光を留め、ラプラスが気絶するその瞬間まで事切れることはなかった。
「……まっ、たく……こよの作戦に、アドリブいろいろ入れてくれちゃって……おかげで上手くいったのは、さすがルイ姉……かな……」
「こよりっ!!」
力尽き、膝から崩れ落ちた博衣を、咄嗟に鷹嶺は抱きしめる。
博衣の作戦に、鷹嶺のアドリブが上手く交差してラプラスを欺けた。
……だがその結果は残酷なものだ。
多量出血に、ポーションのオーバードーズ。
果ては初めて魔力を使ったことによる反動。
それらが一度に襲うことで博衣に
「ラプ……ちゃん、起きて……も……自分を、責めないでね……」
光が消える。展開していたホログラムは主人が居なくなったからか消滅し、その右腕もシャットダウンすると、ガシャンと大きな音を立てて地面に落ちた。
「あ……ぁ……こよ、り……」
とめどなく涙が零れる。胸に抱いたコヨーテはどんどん冷たくなっていく。
こんな未来は変えられるのか。……いや、博衣の死はもはや過去だ。過去を変えることなど、誰にも出来ない。それこそ、神でもなければ……。
「――バカ、いかせないぞ……〝吾輩〟の、大切な……」
ラプラスの手に光が集まる。初めは蛍でも集まってきているのかというほど鈍い動きだったが、魔力粒子はやがて、ブラックホールに吸い込まれるようにその手に集束されていく。
「ラプ……!」
「今なら、生死の反転くらい……やってみせるッ!」
それは蘇生などではなく、時間逆行の域だった。
光の渦が飛び散った博衣の血を本人の体へ流し込み、機械の右腕が外れて復元される。
「吾輩のために死ぬな。吾輩のために生きてくれ。こよりッ!」
ドクンと、生命が証明された。
ピンクの愛らしい耳がピクリと動くと、ゆっくりと[[rb:瞼 > まぶた]]が開かれる。
「……あ、あれ? こよ、カッコつけて退場したつもりだったんだけど……もしかして生きてます? あれぇ?」
「っ、バ〜カ。誰一人欠けさせねーよ!」
「ラプちゃん! 元に戻った!? 大丈夫? 内臓反転させて殺してこない!?」
「そ、そんなエグいことするか!!」
元気そうな博衣に、ラプラスは内心ホッとしながら、嬉しさにニヤけそうになる顔を隠そうと博衣を抱きしめる。もはや隠すというより行動に出している気もするが……。
博衣もラプラスを抱きしめる。二人を鷹嶺が抱きしめる。風真と沙花叉は顔を見合せ微笑み、holoXは皆で抱きしめ合う。
今、ようやく……holoXはここに揃った――――。