遂に総帥、ラプラス・ダークネスを救助したholoX。
再会の嬉しさで抱きしめ合うのも程々に、これからを考える。
holoXの目的は総帥の奪還であり、これはもう達成したことになるが――
「……夜砥ミフユ。このまま放置は出来ない事態にまでなったな」
ラプラスは爪を噛んで洗脳時の出来事を思い出そうとする。
いや、そもそもあれは本当に〝洗脳〟だったのだろうか?
「で、でも今のラプラスなら軽く捻ってちょちょいのちょいでしょ?」
「言っとくけど今の吾輩、良い戦力にはならないぞ。力がどんどん弱くなってるんだ。今は10%か20%……まぁその辺だ」
ラプラスの体は未だ大人の姿であるが、holoXとの戦闘で消費し、既に解放直後ほどの力は残っていなかった。
「ちゃんと蓋して抑えてよチビ総帥!」
「仕方ねーだろ! 原因はあれだよ」
天井を指さすと、博衣が空けた穴から夜空が見える。
空がどうかしたのかと一瞬疑問に思うも、すぐにその異常に気付いた。
「なっ、風真達が戦ってる間に何が起こったでござる?!」
明らかに、星の流れが速すぎる。
鷹嶺はまさかと思いつつ持っていた懐中時計を開くと、やはり、秒針どころか長針までもが星の流れと同じく高速で廻っていることに、息を呑む。
「時間が……加速してるんだ」
11月13日――それはとうに、過去のことだ。
* * * *
11月��日、深夜――。
日が昇るにはまだ少しかかる。
「一体どういうことなの?」
沙花叉はナツメを睨み、声を低くして問いかけた。
騙していたとは、あまり考えなくない。
「知らねェ……こんなの、こんなことあるはずがねェ! ねーちゃんの力は確かに洗脳の魔眼だ! この目で見た……! なのに、こんな力……洗脳にしちゃ度が過ぎてるだろ……」
「落ち着けグラサン」
「グラサン言うな。いや、これが落ち着いていられるか!? 今のねーちゃんはなんでもありだ。もう、そう考えるしか!」
「かざま、チョップ」
「了解でござる。――せいッ! ござるチョップ!」
「ござッッ――――」
風真のチョップで頭が割れそうになったナツメはその場にうずくまる。当然の反応だろう。なにせ、本気のござるチョップだったのだ。
「いいかナツメ。〝なんでも〟はない。ミフユが吾輩の力を使ったとしても、結局のところただの人間。魔眼持ちだろーがなんだろーが、身に余る代物だ。それならどこかにバグが生じるはずなんだよ」
冷静に思考を巡らせるラプラスだが、それでも心のどこかでは焦り始めていた。
自身の力を解放し、その後どうなったのかよく覚えていない。
holoXとの戦闘よりも前……恐らく力の解放直後、ミフユと戦闘を繰り広げた。
解放直後か、戦闘中、戦闘後か――力を奪われたのはその辺りだろう。
(解放直後ならミフユは吾輩の力を利用して時間停止をした? ……いや、停止じゃないな……11月12日の時間は進んでいた。周辺の人間の意識を眠らせたのか。とすると戦闘後に力を奪われたことになるが……)
戦闘に勝ち、半分を奪い、能力が成長したと考えるべきだ。
しかし、その結果がこの時間加速なのだろうか。
洗脳からそんな進化はするはずがない。
ましてや時の支配など、洗脳とは全く関係が――
「は……」
バグなんて、ないんじゃないか。そんな思考に支配される。
だってそうだろう。夜砥ミフユという人間は、本調子ではないとはいえ解放されたラプラス・ダークネスに、〝勝ったうえで力を奪っている〟のだ。
洗脳の魔眼。それを使ってどうやって勝った?
その視界に捉えた者を洗脳し、操る力。そんなものが自身に通用するとは到底思えない。現に、今の弱った状態でもラプラスに洗脳は効かない。
では……答えは単純で、洗脳の魔眼だと思っていただけで、本当は別の能力なのではないか。ならばその能力とは、一体――
「……答えなど、とうに出ているではありませんか」
凛とした声が響く。その一語一句を耳にする度、恐怖で身が震えそうになる。
いつからそこに居たのか、それとも今そこに現れたのか。
holoXとナツメの前に現れた夜砥ミフユという災厄は、血色が差したアズールブルーの瞳で全員を捕まえる。
(体が……動かないっ!?)
風真がどれほど力を込めようとも――否、力など微塵も込められない。
体が動くことを拒んでいる。息が苦しい。肺や心臓までもが、ゆっくりと眠るように止まっていく。
「おっと、失礼しました。まだ力の加減がわからないのです」
ミフユの言葉と共に、全員の体が鎖から解き放たれたかのように自由になる。
何分も水中で息を我慢していたのと同じように、息を荒らげて必死に呼吸を繰り返す。
「ねー……ちゃんっ」
「……家族を裏切るような弟を持った覚えはないわ」
そう言い放つとナツメに指をさし、そのまま指を上へ上へと移動させる。
すると、指の動きと連動しているのかナツメの体が引っ張られるように浮き、次の瞬間――無慈悲にコンクリートの柱へ叩き付けられた。
柱は砕け、ナツメの意識は一瞬吹き飛ぶ。
自由落下したナツメは苦しそうにゆっくりと息をする。が、そこへ追い討ちをかけるように、ミフユは砕けたコンクリートの塊を自身の弟目掛けて、躊躇なく落とした。
「夜砥、ミフユ……お前のっ、弟だろ!
息を整えながら、ラプラスはミフユを睨みつける。
ナツメのおかげで敵の攻撃方法がひとつわかった。
それと、能力の詳細も。
「そんなことはどうでもいいじゃありませんか。ほら、天を見上げなさい。〝月のない〟良い晩ですね?」
「ミフユ、お前……今ならどんな奴でも言いなりにできるだろ。なぜそれをしない。なぜ今、吾輩達の前にわざわざ現れた。なぜわざわざ日を変えた……! お前の目的を達するには、もう充分なはずだろうが!」
「いいえ……いいえ足りませんよ、ラプラス・ダークネス。あなたの残り[[rb:滓 > かす]]もいただきます。あなたの優秀な部下達もいただきます。でも、一瞬で全て思い通りにしてしまうのもつまらない……私の復讐を一瞬で終わらせるなんて、あってはならないのです」
刹那、コンクリートの柱が折れる。電柱よりも太い柱が何本も、触れることなく、意図も容易く折られていく。
「終焉を確実にするために、この力に慣れておきたいのです。暴走などしてしまってはあまりに芸がありませんもの」
「……よく言うよ。吾輩の力なんて、とっくに使いこなしてるだろ」
「ふふっ、そうでしょうか。あなたの力がお利口さんなだけでは?」
「吾輩自身がどうにも出来なかったんだぞ。そんなわけあるか」
コンクリートの柱は砕かれ、削られ、何百本もの矢と化す。いや、矢と呼ぶほど可愛げのあるサイズではないが。
こんなこと、洗脳の魔眼なんかで出来るわけがない。
夜砥ミフユの本当の能力は――――
「〝支配〟だろ、その眼」
「ええ、大当たり。ご褒美に、あなたのおかげで覚醒したこの力……ぜひご覧になってください!」
彼女の狂笑と共に、石槍がミサイルの如く力強く放たれる。
11月24日――それは、新月の日。
神秘が欠け、ラプラスの力が抑止される日。
――――そして、全てが終わる日だ。