ホロックス・ブラック・ボックス   作:ゆっくろ❀

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ブラックアウト

「――全員回避ッ!!」

 

 ラプラスが指示を飛ばした直後、矢の如く放たれた石槍を各々回避する。

 

「うわわわっ!? 多すぎだってー! いろは、よろしくっ!」

「ちょっ、風真の後ろに隠れるな沙花叉ぁ!」

 

 向かってくる石槍の数が多いのはholoXの主戦力である風真のところだ。その背後はむしろ危険――なのだが、そもそもそこから動けばすぐ槍に貫かれてジ・エンドなので一周まわって一番の安全地帯と言える。

 

「凌ぎ切れないかも〜! って、あぁっ! 誰かそこで伸びてるナツメくん助けてあげて!」

 

 破損した機体の部品を盾に、なんとか石槍から逃れていた博衣は無防備に倒れているナツメに気が付き、声を上げた。

 しかしこの状況、自分の身を守るのに手一杯で、誰もその場から簡単には動けないのだ。そして、それを狙っていたかのように、一本の石槍がナツメ目掛けて飛んで行く。

 

「世話の焼けるっ!」

 

 瞳の色を変えた鷹嶺が走り出す。驚くことに槍が全く当たらない。

 ホークアイを上に飛ばし、フィールド全体を視認することで石槍の隙間を縫っているのだ。

 

 そのままナツメの元へ駆ける――――だが、あと一歩が足りない。

 

「っ、バッドエンドなんて……!」

 

 どうにかして見せなくては、この戦いは乗り切れない。

 ここまで来て依頼人を死なせるなんて、holoXの幹部としての意地が許さない。

 頭の中で電気が走るような感覚に駆られ、鷹嶺の手は自然と下ろされる。

 

――次の瞬間、本能的に鞭を振っていた。

 

「砕けろッ!」

 

 龍のように流れた鞭は、その先端を石槍に打ち付ける。

 コンクリートで出来ているとはいえ、向かってくるのは細い石。鷹嶺が本気で鞭を振るえば容易く砕けるはずだ。

 

「――なんて、思っているのでしょう?」

 

 その石槍は砕けない。

 ミフユは微笑し、〝槍を曲げる〟――。

 

「ぅ……ぐぁっ!?」

 

 直線上に飛んでいた石槍。それは石にも槍にも有り得ないおかしな方向転換を見せ、鷹嶺の肩を貫いていた。

 鞭は確かに石槍に触れていたように見えたが、それは大きな間違いだ。触れてなどいない。

 ほんの僅か、数ミリ程度の不可視の壁により阻まれたのだ。

 

「空間に異常を感知したよ! ま……まさかこれはっ!?」

「はっ、そのまさかだろうな。くそっ、魔眼のクセに随分とデタラメやってくれるじゃないか!!」

 

 つまりは〝空間支配〟。

 ナツメの体を浮かせたのも、コンクリートを砕いたり、飛ばしてみせたのも、石槍が折れないよう守ったのも、槍が曲がって方向を変えたのも――全て、空間を弄って為したのだ。

 

 だが、夜砥ミフユが持つ〝支配の魔眼〟は魔眼であるが故に、見たものしか支配できない。空間は目に見えないし、時間だって見えるものではないのだ。だから操ることなど出来るはずがない。

 しかし現に支配している。それを可能としている。ということは……。

 

「吾輩の力で〝概念への干渉〟を覚えたか、この天才めッ」

「えぇ、ここまで出来るようになったのはあなたのおかげなんですよ。と言っても、概念干渉なんて大それたものではなく、不可視のものを可視化させただけなんですけどね」

「充分だろ……!」

 

 ラプラスは魔力を集束し、なるべく小さく、そして速くなるよう調節する。

 

「喰らえッ!」

 

 右手を銃の形にして、魔力を撃ち放つ。

 射速はマッハに到達し、回避なんてさせるものかと風を切った。

 しかし――――

 

「ただの魔力弾じゃないですか。提供ありがとうございます」

「不意でも突かないとダメか、ったく……傷のひとつくらい許せよ」

 

 ミフユは避けようともしなかった。弾はピタリと停止して、ミフユに摘まれるとひょいと口の中へ消えていく。

 空間の一部分だけ時間を止めたのだろう。これではこちらの攻撃がひとつも通らない。

 

「いい加減、ホコリっぽいところは飽きてきましたね……せっかくの夜なんですから、そちらへ移りましょうか」

 

 ミフユは指でくるりと円を描く。

 そうして艶めかしく笑うと、その人差し指を上へさした。

 

 

 * * * *

 

 

 体が軽い。当然だろう。

 なぜならば、〝落下〟しているのだから。

 

「「「あぁぁぁぁぁ!!?」」」

 

 空間転移。それにより全員外へ投げ出され、夜の街を一望する。

 なんとも広いフィールドだ。この絶望的状況で、落ちていなければ最高の眺めなのだが。

 

「思いのほか吾輩の力が強かったな……」

「そんなこと言ってないで! どーするでござるかこれぇ!」

「おーいナツメ起きてー! 今こそ転移で地上に戻るよー!」

 

 しかし、あれだけ強くコンクリートに打ち付けられたナツメはそう簡単には起きれそうにない。

 それもわかっていたラプラスは歯を食いしばり、空中で静止する。

 

飛行付与(フライ)!」

 

 手のひらを広げ、鷹嶺達を掴んで引っ張りあげるようにしてそう叫ぶと、それぞれの体がふわりと飛び上がった。

 

「ついでだ! 治癒促進(ヒール)!」

 

 さらに、ナツメの傷を癒して意識を引っ張り上げるまでやってのけた。

 これでかなりの魔力を消費してしまったが、自身の弱体化より誰か欠けてしまう方が勝機が失われてしまうことを懸念したラプラスは、戸惑いながらも空を泳ぐ仲間達に手を触れていった。

 

「これしたら多分、吾輩は完全に戦力外だ。軽いアシストくらいしかしてやれない。でも……これが一番、勝つチャンスを得られると信じてる。お前らなら勝てるって、信じてるからな」

 

 息を大きく吸い込み、手にありったけの力を集中させる。

 先刻前に触れた感覚を辿り、皆と接続していくとそこは魂がある場所。

 そのひとつひとつの形を確かめるように、そっと、零さぬように――……

 

覚醒(ノヴァ)――ッ!」

 

 自身の力を、流し込む。

 仲間達の能力を、この手で目覚めさせて対抗するのだ。

 

「……面白いことをしますね」

 

 いつの間にか目の前に立っていたミフユは、地上に居る人々を踏み潰すかのように、一歩を強く踏み出し、空にフィールドを形成していく。

 

「しかし悪手でした。ちょっとばかし能力が拡大した程度では何の解決にもならない。ましてや無能力者に与えても意味がないでしょう」

 

 沙花叉や風真、博衣は特異な力など持ち合わせていない。

 ラプラスを解析し、魔法というものを理解した博衣だが、それを自由に行使するには長い時間を要する。

 風真は純粋な剣術であり、その詠唱は単なる精神統一に過ぎない。

 沙花叉に至っては、武器はナイフ一本。しかも空中戦となれば、その戦力は今のラプラスと同等だ。

 ホークアイや転移の魔眼も戦闘向きではないため、明確な戦力アップにはなっていなかった。

 

「いいや、これでいい」

「……そうですか。少し残念です。以前のあなたの方が張り合いがあった――」

 

 ミフユは目を閉じ、あるモノを見始める。

 

「力の使い方もわかりましたので、もう終わりにしましょうか」

 

 その言葉と時を同じくして、鷹嶺は背筋に悪寒が走った。

 何かが、ズブリと中に入ってくる。コップの水に墨汁を垂らしたかのように侵蝕されていく。

 

「ルイ!?」

「あぐッ……まずい、これ! ラプ……っ!」

「さあ、貸しなさい――」

 

 接続完了――――同期。

 

 直後、鷹嶺の視界は奪われる。

 

「あら……あなたの眼、とてもよく見えますね」

「ッ! これはダメだよ! みんな、急いで身を隠して!!」

「こよちゃん、隠れるとこなんてないでござるよ!」

 

 今、支配の真髄(しんずい)を知った。

 それが洗脳であればどれほど良かったものか。

 

鳥瞰(ちょうかん)せよ、世界を。

 この身は天にありて――――……」

 

 視界拡張(エクステンション)過剰支配(オーバーロード)

 それは脳を一色に染め上げる、侵蝕性の支配。洗脳なんてかわいいものだ。

 世界をその眼に捉え、その手で包み、その声を響かせこの世を堕とす。

 

「――〝咸く服従しろ(カテゴリカル・インペラティブ)〟」

 

 すべて。文字通りのすべてが、ミフユの手に堕ちる。

 夜の街は寂寞(せきばく)し、光は残らず消えていき、星だけが輝く。

 

 思考は支配され、ただただ命令を待っていた。

 ラプラスも、鷹嶺も、博衣も、沙花叉も、ナツメや地上で何も知らない人達までも――。

 脳がペンキで塗りたくられ、有無を言わさず夜砥ミフユを受け入れてしまう。

 

「皆で終わりを迎えましょう? 何も怖くないわ。これは当然。必然だもの。受け入れ、共に沈みましょう?」

 

 ミフユの声が脳を溶かしていく。形がなくなって、体が解けていくような感覚に駆られる。

 

 もう何もする必要はない。

 もう夢をみる必要はない。

 全て終わり。この夜が終末で、次はない。

 黎明は訪れず、日は沈んだまま――(ことごと)くが溶けて、混ざりあって、ひとつとなって……消えていく。

 

 ……なんて、そんなこと――――

 

「そんな……ことは……ッ!」

 

 一人――たった一人が、火を宿す。脳が弾け、邪を払う。

 澄み切った脳は何にも染まらず、今、博衣こよりの〝こんなこともあろうかと〟が発揮された。

 

「絶対、させないでござるッ!」

 

 博衣特製エナジードリンク――その〝紫色の液体〟を口にすれば、脳はコーティングされ、しばらく他者に翻弄されない透明な精神を獲得する。

 しかしこれはあくまでも対洗脳。もしも超広範囲に洗脳され、全員が一度に再起不能となった時のための保険であり、博衣の策だけではまだ不充分。支配からは逃れられない。

 だが、どうだろうか。風真いろはの眼に曇りはない。

 その眼は鋭く、支配者(ミフユ)を睨んでいる。

 

「……へぇ、そう。そうなのね」

 

 支配者は酷く不機嫌な表情で風真を睨み返す。

 

「そちらも覚醒しなければ対抗できないものね……でも、なぜあなたも〝それ〟を持っているのかしら」

「さあ……贈り物ゆえ、風真にはわからぬでござる」

 

 それは真実を視る眼。それ故に、真実を曇らせる一切の邪魔を断ち斬る。唯一支配の影響を受けない反逆者の眼。

 

 即ち――――〝心眼〟。

 

「まだ……まだ終わるわけにはいかないでござる! 風真達の夢を、果たさなければ死にきれない!」

「ならばどうすると言うのかしら。あなた一人で、何が出来ると言うの?」

 

 挑発じみた口調に、風真は突く勢いで刃を向け、その眼を見開く。

 いつかの彼が、己に放った言葉を思い出して――

 

「…………来い、小娘。この錆刀(さびがたな)、討ち取れるものならしてみせろ」

 

 その身はボロボロでも、心は清く、澄み切らせ。

 長きに渡り磨きに磨き上げた(ココロ)で刺し穿とう。

 

「天下無双、風真いろは……一世一代の大暴れを、その眼に(しか)と焼き付けるがいいッ!」

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