ホロックス・ブラック・ボックス   作:ゆっくろ❀

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クライアウト

――星空に火花が散る。

 

空間歪曲(ディストーション)!」

空絶一文字(くうぜついちもんじ)ッ!!」

 

 滅茶苦茶に書き換えられる空間。粒子が凝固され、歪んだ不可視の盾となるが、風真はその剣技で空間ごと斬ってみせた。

 するとこれではダメだと判断したのか、ミフユは天高く飛び上がると魔力までも支配し、無理やりに重力を弄る。

 

「っ!?」

 

 ラプラスに与えられた飛行能力はあくまでも飛行であり、重力を無視した浮遊とは違いその影響を強く受けてしまう。

 

 それに加えて、〝あれ〟だ。

 

「廃ビルが……!? 効果範囲やばすぎでござるよ!」

 

 真下にあった先刻まで自分達が居た廃ビル。それが、超重力で落下する風真に向かって打ち上がる。

 ミフユが見えていれば効果範囲内となるのだから、視線を少しズラしただけでもこの有様だ。

 

「くっ、なぜ! なぜ支配できないのです!? 心眼など、この眼であれば容易く……! さっさと落としてッ!」

 

 しかし支配を何度も試しているのか、ミフユは焦りを見せ始めていた。

 これは好機だ。そう確信した風真は、力を振り絞る。

 

「魔法なんてわかんないでござるが、とにかく全力でやればなんとかなるでござろう!」

 

 そうして無意識のうちに刃へラプラスから貰った魔力を込め、吹き荒れる突風をイメージして力強く振るう。

 

 一撃を風に、二撃を嵐に、廃ビルを斬り刻んでバラバラに砕く。それでもまだ終わらない。

 瓦礫が落ちては被害が出る。太刀風による竜巻で瓦礫を巻き上げると、さらに細かく、砂になるまで微塵斬りだ。

 

「でもこれは防げないでしょう!」

 

 満月の光と見間違うほどの光量が一点に集束し、天から地へ撃ち放たれた。

 光が迫る。音が消え、光しか感じない。

 それでも、風真は目を離さない。心眼をもっと研ぎ澄ませる。

 

 真実を見る眼――それはミフユを見貫(みつらぬ)き、その想い、記憶の全てを透かす。

 気付けば風真は、見知らぬ景色を見ていた――――。

 

 

 

『――どうしてみんな、私を傷付けるのかしら。何をどう考えて、こんなこと……』

 

 桜の花が全て落ちた校舎裏。頬から血を流し、花の絨毯と呼ぶには汚らしいそこに倒れるミフユは、ぽつりと呟く。

 

『たのしいの、かしら……』

 

 乱れた服を直す気力もない。殴られた頬は痛みも感じなくなってきた。

 青空に厚い雲がかかって、日の光が遮られる。

 

『この目のどこがおかしいの? この私のどこが普通じゃないの? ……わからない、わからないわ』

 

 理解のできない、他者の思惑、思考、嘲笑の正体――。

 それを知る権利があるはずだと、瞳は徐々に変質していく。

 雨がミフユの血を雑に洗い、水溜まりに染みて制服を汚した。

 

――そして景色は移り変わり、風真は夜の公園を見ていた。

 満月の夜。雲ひとつない綺麗な星空の下で、少女はブランコに乗って流星を眺める。

 その隣には、夜砥ナツメの姿もあった。サングラスは着けておらず、その目はごく一般的な日本人の茶色がかった瞳だ。

 

『……なにかロマンティックな死に方ってないかしら。あの流れ星でも落ちてきたら、みんな巻き込めるのに』

『……なら、その流れ星に祈ってみるか? ねーちゃん』

『…………そんなものが叶うなら、もっと別のものを祈るわよ』

『へえ、例えば? 俺は……そうだ! 美味い料理をたらふく食べたいな!』

『くすっ、ナツメらしいわね。なら、あなたはそれを祈りなさい。私は代わりに、私達が幸せになれるよう祈ってみるから』

 

 優しい。本当に優しい笑顔を風真は目の当たりにした。今対峙しているミフユとは思えないほどだ。

 そんな二人の願いを叶えに来たかのように、流れ星は空を裂く。

 

――星が消え、闇に染まると再び校舎裏に景色は移り変わる。

 

 そこには……胸ぐらを掴まれ、首を絞める勢いで壁に強く押し付けられ、今まさに殴られようとするミフユが居た。

 罵詈雑言を叩きつけられているその瞳に光はなく、抵抗しようと手足を藻掻くこともしない。

 どう足掻こうと希望は訪れないのだ。彼女に幸せなど、ありはしない。

 

『テメェら、俺のねーちゃんに何してやがるッ!!』

 

 声に驚き、風真は振り向く。

 怒りに震え、拳を固める夜砥ナツメがそこに立っていた。

 

 ……そして、ナツメの瞳はミッドナイトブルーへ変色する。

 気付いた時にはナツメの姿はなく、風真の背後でミフユを殴ろうとしていた者を殴り飛ばしていた。

 

 その惨状に、ミフユは壊れたように笑う。実に清々しい気分だった。

 自分を傷付けていた者が、今や傷付けられる側となっているのだ。笑いが止まらない。止める道理などない。

 

 ああ、確かにこれは――……

 

『愉しいですね』

 

 過去のミフユと目が合った気がして、そこで風真は我に返った。

 依然として光が襲い来る。

 

 だが……

 

「――――アアァァァァッ!!?」

 

 突如、声が潰れてしまうのも躊躇わずにミフユは絶叫した。

 風真に迫っていた光は途端に解け消え、瞳の奥を震わせるミフユと風真は目が合う。

 どうやら、見られたくない過去を見てしまったようだ。

 

「あなたの、その眼っ! 見るなッ……勝手に私の頭を覗くなァァ!!」

 

 片手を天に掲げ、虚無を掴んで空を引き裂く。

 点と点の距離を狂わせ短縮し、出来た裂け目の奥からなんと流星を持ってきた。

 直径は二十メートルもないが、隕石と化したそれを目の前にして防ぐ方法などありは――……

 

「何があろうと、風真はッ!」

 

 一刀、隕石を真っ二つに割る。後から斬撃を追うように吹き荒れる衝撃波は、ミフユの長い黒髪を揺らした。

 

「絶対に……ッ!」

 

 刀を薙ぎ払い、隕石をも砕いて残骸を吹き飛ばす。

 

「叶えてみせるでござる!!!」

 

 隕石から魔力をありったけ吸収し、伝家の宝刀を抜いた風真はミフユの心を見据える。

 真実を見る心眼、別名――過去視・未来視の魔眼。

 紡がれた〝過去〟を刃に宿し〝未来〟を切り開く絶刀を――

 

「技法投影、八艘(はっそう)飛びッ!」

 

 刃に魔力を集束させたことで飛行能力が落ちるが、風真は自身が吹き飛ばした隕石の残骸を足場に、上昇加速していく。

 まだ遅い。まだ届かない。さらに速度を上げて、過去も未来も束ねて今へ繋ぐ。

 

「いざ、往古来今(おうこらいこん)を彩らん!

 穿て――――! 【(シン)】ッ!!!」

 

 踏みつけた隕石を粉砕し、最後の一飛びに全身全霊を込め、天に浮かぶミフユへ邁進(まいしん)した。

 それは数秒先の未来を見ることでその事象を確定し、そこに到達するまでにかかる時間を切り取って短縮する業。

 風を置き去りに、音も掻き消え、雷の如く……いや、それ以上に、彼女にとっての〝光〟となって、刃を突き立てる。

 

「ぁがッ!?」

 

 ミフユは刃に穿かれる。しかしそれは、傷ひとつ付けない一撃だ。

 支配に呑まれた心を刺し、螺旋状の光を思いっ切りぶつける。

 これで、彼女は支配から逃れ、その心を取り戻すはずだ。

 

――――そのはずだった。

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