確かに穿き、心に光を送り込んだ。
だがしかし、ミフユの意識は一瞬で吹き飛ぶようにして薄れゆくも、心臓が跳ね上がる。
彼女の支配は、その意識、その心臓すらも呑み込んでいた。
「油断しましたね……風真いろは!」
刹那、支配の魔眼が紅く輝く。それと同時に、ミフユの肌に亀裂のようなものが走った。
己の力に呑み込まれたミフユの体に、限界が来ているのだ。
全身全霊の一撃、それによってラプラスに貰った力をほとんど使い果たした風真の眼は霞み、これまでで一番強い支配が突き刺してくる。
助けられない。たった一人に、救いの手を伸ばせない。
(これでも、まだ……足りないなんて……)
支配された心の闇を穿孔した。しかし、それではミフユは目覚めない。
その闇を塗り替えるには、まだ足りないのだ。
「これで全て私のモノです! やっと、ようやく、私は――――!」
風真を支配しようとしたその時、ミフユの耳から音が消えた。
今まさに夢を遂げようとしていた彼女だが、それでは駄目だと、〝刃〟が向けられる。
風真は驚きに目を見開く。
それは、自身の懐から零れ落ちた刃先だ。
剣豪の刀を折り、大切に仕舞っていた刀の片割れだった。
「……それ、は…………!?」
気付いた時にはもう遅い。〝鏡のように砥がれた〟その刃は、ミフユの姿を鮮明に映し出す。
ミフユは自分自身と目が合った。
支配の魔眼はミフユ自身へ向けられ、あろうことかその力を反射している。
支配というものは二重掛けなど出来ない。既に支配されているのだから、別の支配を受け付ける余白など残されていないのだ。
ましてや同一人物の、そして同一の力であれば、完全であった夜砥ミフユになかったはずの〝バグ〟を生むことになる。
「あっ――ぐぁあああああッ!!?」
自身の絶叫が、エコーが掛かったように頭に響く。
ノイズが走り、瞳にヒビが入った。
「……今、やらなきゃ……」
落ちていく風真は、ミフユの涙を見逃さなかった。
しかしどうしてだろう。体はどんどん彼女から遠のき、伸ばした手は何も掴まない。
刀も手放してしまい、先に地へ落ちていってしまった。
これでは何も、変わらない――――。
「絶望するな、いろは!」
ラプラスの声が響いた。その姿はいつも通りの小ささに戻っているのにも関わらず、なぜか安心感さえある。
「よっっと、ちゃんと飛ぶ力も残して使いなよー。ほんっと不器用なんだから!」
そんなことを言いながらも、沙花叉は下から風真を支える。
「いや〜、まさか私のホークアイを使われるとは思ってなかったよ」
「こよが手を打ってなきゃあれで全滅だったよ! まぁいろはちゃんの実力があってこそだけど!」
鷹嶺と博衣が、風真にラプラスの力を少し分けて飛行能力を復活させる。
「ほら、侍が刀を手放すなよ」
ナツメが風真の愛刀、チャキ丸を握らせる。転移して拾ってきてくれたのだろう。
「くそっ、支配が……。私としたことが、解除してしまうなんて……!」
依然としてこちらを睨んでくるミフユは、つらそうに頭を押さえていた。
「フッ……見たかミフユ! 吾輩の作戦通りだ!」
「どこが!? こよの作戦なんですけどー!」
「なんだと?! 部下なら吾輩の顔を立てて手柄を渡せー!」
「ロクな給料もくれないのに渡すかー!」
ラプラスと博衣は手柄を賭けて取っ組み合う。どちらでもいいのだが。
そこへやれやれ仕方ないと言ったふうに割って入った鷹嶺は、二人のおでこに軽くチョップをかます。
「そんなことしてる場合じゃないでしょ」
「そうそう。沙花叉が手柄貰ってあげるから」
「沙花叉も余計なこと言わない」
「いでっ」
デコピンを喰らって半分涙目の沙花叉は、反省したのかおでこを擦りながら下がる。
その様子に、ついさっきまで意気消沈していた風真はプッと息を吹き出した。
「……まったく、これじゃあ締まらないでござるな」
「んじゃ、気合を入れるとするか」
holoXの面々はラプラスの言葉を待つ。
ラプラスは大きく息を吸い込み、ミフユへ指をさしてニヤリと笑う。
一度救うと決めた以上、逃げも隠れもしない。
意地でも彼女の目を覚まさせるのだ。
「――最後は全員で行くぞ!」
「「「「おおーーーーっっ!!!」」」」