「――ぬわぁぁぁぁっ!? おふっっ」
時空を超越し、ラプラスが転移した先は紛うことなき魔女の家。
つまりは、
「来たね、ラプラス」
「紫咲シオン……その様子じゃ分かってるらしいな」
「まっあね~♪」
絵に書いたようなドヤ顔をするのが、ホロライブ二期生、紫咲シオン。大胆にも下腹部を露出し、ミニスカートをひらつかせる彼女は魔女らしい三角帽子のつばを摘んでニヤニヤと笑う。
「こよりちゃんからいろいろ頼まれちゃってね~。まぁいろいろありすぎてほとんど忘れちゃったけど」
「大事なこと忘れるなよ!?」
「いや~、ほら、シオンって一気にいろいろ考えられなくてさー。脳みそはみ出ちゃうわけよ」
「大丈夫なのかそれ」
「へーきへーき! ホロメンによって得意なこと違うから!」
「大丈夫なのか、それ」
「へ、平気平気……! とにかく! 簡単に言えばなんか大変なことになってるからラプちゃんを助けて~ってことでしょ? ほらほら、遠慮せずに~」
後輩に良いとこ見せられそうでウズウズしているのだろう。シオンはツンツンとラプラスの角を突っついて言った。
「なんか無性にムカつくけど、遠慮している暇はない……今回ばかりは先輩を頼ってやろうかなー」
「素直じゃないなぁ~! ま、かわいいかわいい後輩のために一肌脱ぎますかね」
すると、シオンは帽子の装飾――目玉のついた星に触れる。
「何やってんすか?」
「え? 千里眼で見てるんだよ」
「それ千里眼だったんだ。ヒトデマンかと思った」
「ヒトデを頭に乗せてる魔女なんているわけないじゃん」
ここにいるじゃん。――とは口に出さず、ラプラスはシオンのムラサキヒトデを眺める。
「ところで、何を見てるんだ?」
「助けるためにさ、こよりちゃんが言ってたんだよね~。『クロたんを助けてあげて』って」
「なんでまたクロヱから……って、あぁ、なるほどな」
「あれま、分かっちゃった?」
「そりゃぁ、うちの掃除屋は極度の『塩っ子』じゃないっすか」
それに沙花叉クロヱが発現した洗脳、もとい浄化の魔眼があれば、届かなかった声を届けることも出来るかもしれない。
(ここまで計算してるのかよ……末恐ろしい奴だ)
何から何まで計算ずくらしい有能な博士に、ちょっとだけ尊敬してみるラプラスだった。
「見っけ――って、かなりヤバそうだね。どうする?」
「どうするも何も、すぐに取り掛かる。被害が出る前にな」
「あー、それならちょっと、遅かったかも……」
「え……?」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
紫色の魔法陣が閃光し、街の大通りに転移した二人は異様な光景に目を疑った。
「……何がどうなってる。全員、まるでゾンビじゃないか」
意識が[[rb:朦朧 > もうろう]]としている[[rb:大衆 > たいしゅう]]で溢れかえっている。
脱力し、動かず、ただその場に立ち尽くしている人々は、ラプラスの姿が視界に入るや否や低く唸り始めた。
「うぅー、ぶぅぁぁぁ……」
「なんだ!?」
「威嚇……してる? いや、違うな……呼んでるんだ」
「呼ぶ、だと……?」
「カンタン、大きな獲物が来たんだ。みんなが呼ぶのは当然――群れのボスだよ」
シオンの読みは当たっていた。
大衆をかき分け、姿を現すのは人々を操り統率する群れのボス。
魔力によって正気を失った虚ろな瞳がラプラスを睨む。
「沙花叉、クロヱ……」
フードを深く被り、魔力で変質変容した銃を構えたクロヱが舌を鳴らすと、人々はゆっくりと、両手を広げてラプラスに迫ってきた。
「まずい! 一般人に危害は加えられない……!」
「かなりヤバいんじゃないの!?」
「ガチの洗脳だ! まだ発動条件が分からないから、油断して洗脳されないでくださいよ先輩!」
「それこっちのセリフ! でもまぁ、やるべきことは大体分かった!」
そう言うと、シオンは幾つもの魔法陣を展開する。
「要は洗脳を解析すればいいんでしょ。こんなの黒魔術とほとんど同じ……シオンの得意分野じゃん!」
と言っても、十中八九あのハンドガンが元凶だろう。
クロヱが持つ銃は、ハンドガンでありながら銃身に穂先のような刃が一つと三日月のような刃が二つ付属し、あんなものに引っ掻かれでもしたら血の雨が降り注ぎそうなほど、凶悪な形をしていた。
「魔力、か。シオンが知ってるのとはちょっと性質が違う……ドス黒い、嫌な空気だ」
「そりゃ、負の感情から生まれたエネルギーだからな!」
弱い衝撃波で迫り来る人々を吹っ飛ばしてシオンから遠ざけるラプラス。
しかし、やはり加減が過ぎる。吹き飛ばしたところですぐに立ち上がってしまうのだ。
「くそ、手数も足りない……!」
「もうちょっと踏ん張って! あと少しだか、ら……?」
その時、急激に魔力が揺らぐ。
「まっずい、撃つ気だ!」
クロヱが持つ魔銃に魔力が集束する。
銃口の奥が黒い焔に熱されて、トリガーに指が置かれた。
「ラプラス! バリア!」
「――
シオンの魔法陣が盾となり、ラプラスの魔法でさらに防御力を高める。
しかし、それでは足りないと、弾が発射された瞬間に二人は思い知ることになる。
トリガーは引かれ、魔力弾が放たれた。
だが、その弾が二人に向かうことはない。
弾はその場に留まると大衆からさらに強い魔力を吸収して、成長していく。
さらに銃身に付属していた刃が解離し、全て独立して浮遊しているではないか。
「嘘だろ沙花叉、それは聞いてないぞ!」
――武器が、二種類あるなんて。
うっすらと笑みを浮かべたクロヱは、遂に大型車をも呑み込めるほど成長した魔力弾と、三枚刃を解き放つ。
「――――〝
その呪文に、二人は耳を疑った。
「「その見た目で銃じゃないのそれ!?」」
戟。つまりは槍の一種。よくよく見れば刃は全て、