――何が、起きたのだろうか。
「ラプラスっ、平気っ!?」
ハンドガンから放たれた煌めく三枚刃と紫電纏う魔力弾。
魔力弾はゆっくりと発進した自動車のようなスピードで地上を抉り取り、三枚の刃はそれぞれ意思を持ったように動き回って、ラプラスとシオンを魔力弾の射線に追い込んだ。
「撃つ瞬間、操ってる奴らから魔力を吸収してたな……」
「確定……あれは人を操って負の感情を増幅する能力だ。つまり、クロヱちゃんの周りに居る人の数だけ弾数がある!」
シオンがそう言った通り、虚ろ目のままなクロヱはすぐさま二発目を撃ち放つ。
「〝
「シオンっ!」
ラプラスは咄嗟に転がって刃を掻い潜ったが、瓦礫の下敷きになってしまっていたシオンは巨大な魔力弾の餌食となってしまった。
瓦礫すら消し飛び、スクランブル交差点の赤信号の明かりも消える。
シオンの姿はどこにもなかった。
「くっ、そ……」
クロヱを元に戻す手段が潰えてしまえば、もうラプラスに出来ることは無い。
人々がラプラスを囲い始める。伸ばされた手は、いつかのタタリビトのようにおぞましいと感じた。
「悪い、沙花叉……」
出来ることがあるとすれば、彼女の手の中に沈むくらいだ――……
「――そーんなすぐにやられちゃったらさぁ! 助っ人として恥ずかしいでしょ!」
刹那、空から生意気な声が降ってくる。
「魔力解析かんりょー。ってことで、後は野となれ山となれ!」
「……っ!」
「ほら沙花叉! シオンの必殺技、特等席で見せたげるから見逃すなよ~!」
何もかも吹き飛ばしてやる。
そんな勢いで、空にたゆたう紫咲シオンは箒から飛び降りた。
「唸れ魔力! 纏え極光! 紫電よ
純粋なシオンの魔力を足先に集束。
魔法陣を下へ何枚も展開し、潜っていけば自然落下はより加速する。
超急降下、それは正に、夜に轟く雷の如く。
「せいやぁぁぁぁーーッ!!!」
地を穿った彼女の一撃、ドロップキック……ライダーキック……クソガキック……呼び名は多々あれど、その威力は随一と言っていい。
どんな回復魔法よりも優しい蹴りだった。
紫電を巻き込む衝撃波が、人々の魔力を吹っ飛ばす。
「……あ、れ……? おれ、ここで何を……」
「あたし、買い物に来てたはずなのに……?」
皆、顔を見合せキョトンとする。
どうやら正気に戻ったらしい。
「目には目を歯には歯を、魔力には魔力を! みんなにまとわりついてた魔力を一気に消し飛ばしたよ!」
「す、スッゲェ……一瞬ダメだこりゃって思ったことを少し反省します!」
「少しじゃなく大分反省してくれる?」
「そんなことより沙花叉が!」
「話を逸らすな! ってまぁ、そういう状況じゃないのは分かってるけどさ」
三枚の刃、月牙がクロヱの周囲を暴れ牛のように飛び回り、硬いアスファルトを削っていた。
ちょっとでもズレてしまえば、クロヱまで切り刻まれてしまいそうだ。
「私をどうか、見捨てないで」
「……クロヱ?」
「もう傷つけないで」
どこを見ている訳でもなく、誰に話している訳でもない。
「苦しいよ。どうせ居なくなる。みんな、私を棄てていく。独りは……苦しい……もう嫌だ……」
暴れ狂う刃の中でクロヱはうずくまり、フードの端をきゅっと掴んで深く被った。
「……寂しかったでしょ。でも、もうそんな思いはしなくていいんだよ」
シオンは一歩、少女に歩み寄る。
「シオンさ、ちょっと不器用だから……もしかしたら上手く出来ないかもしれないけど。それでも、一緒にやってこうよ。みんなと一緒に」
「…………シオン、せんぱい…………」
「沙花叉、大丈夫だ。もう独りじゃないぞ。吾輩が居る。吾輩にはお前達が必要なんだ。お前達が居ないと……なんも出来ないからさ。またうちに来てくれよ」
「クソガキ……」
「――おい、おい待て。いまなんて?」
いつの間にか、暴れ狂っていた刃は消滅していた。
「ぷっ、ふふ……あっははは! やーい恥ずかしいセリフ吐いてやんの~!」
「クロヱお前っ! もう戻ってるなら言えよ!」
「気付かない方が悪いんだよぉ! あ、シオン先輩の声、さかまたの胸にしっかりと届きました……! 一生付いて行きます!」
「そこは吾輩に付いて来いよ!?」
「えー」
「えー、じゃないが!?」
本当に、騒がしい――――ようやくそう思えてくる。
いつも通りのクロヱにいつしか怒る気持ちも忘れて、涙を浮かべて笑っている自分自身に少しだけビックリしながらも、ラプラスはそのあたたかい気持ちを受け入れた。
「ったく……さあ、クロヱ。これから忙しいぞ! まだルイもこよりもいろはも助けてないんだ」
「はぁ~? そんな危機的状況になってたの? 仕方ないなぁラプラスは。いっちょ一肌脱ぎますかね」
「あぁ、頼りにしてるぞ」
「え……ちょ、そんな素直に言われると恥ずい……」
「お? お? お?」
「あ、大丈夫もうイラついてきたから」
「んだと」
「なんだよ」
そんなふうにやり合う後輩二人を、シオンは微笑ま顔で見守るのだった。
――あと、3人。