ホロックス・ブラック・ボックス   作:ゆっくろ❀

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桜と風、神域にて

「はー、今日もしけてんねぇ」

 

 そこは人里離れた小さな神社だった。

 それでも沢山の人が訪れ、大変賑やかな場所だった。

 普段は静かにひっそりと。祭りとなれば屋台が並び、着物姿の人々が笑顔に溢れる。まさに理想の神社。

 それが電脳桜神社。ここホロライブ・ワールドに在る、永遠に咲き誇る桜の神域。

 巫女様はとても可愛らしく、赤い髪に鈴を着け、舞い散る桜の花弁を頭に乗せているという。

 

「あれ? みこにぇ~さん珍しいですね! 掃き掃除ですか?」

「おいこよりぃ……珍しいとはなんだ珍しいとは! いやまぁ、ちょっと焼き芋食べたくなっちゃって……てへへ」

「よ、欲にまみれた巫女だ……」

「でゃまれ! それより賽銭もお参りもせず何の用だよぉ」

「ああ、少し調査中でして~。お気になさらず~」

 

 そう言うとこよりは黙々と辺りの木を調べ始めた。

 

「なんだお……先輩をほったらかしてよぉ」

 

 箒をバタバタと振り、落ち葉を一箇所にまとめる。

 

「……こ、こよりも焼き芋食べる?」

「…………」

「こより? おーい? こよりーん? こよこよ? こんこよー!」

「みこ先輩」

「な、なんだよ」

「今って、冬ですよね」

「そうだけど……どしたこより、季節感ないなった?」

「いえ…………焼き芋、こよも食べます♪」

「し、仕方ないにぇ~! 用意してくっから待ってな!」

「はーい!」

 

 それは、雪ひとつ降らない一月のある日のこと。

 

(紅葉がまだあるなんて……季節のズレなんてニュースでは何も……)

 

 まるで()のような景色に、こよりはこの時初めて、違和感を覚えるのだった。

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 そして、現在――。

 

「カハッ――――いろは、ちゃ…………いやっ……」

 

 こよりがやって来た時のことを走馬灯のように思い出したさくらみこは、腹部を押さえながら脳裏ですぐに自身の言葉を否定した。

 

(あの目、何も感じてない……? 明らかに正気じゃないにぇ。それに、いろはちゃんの刀から嫌な気配が……)

 

 柄頭で腹を殴られたのは幸いだったのかもしれない。

 もし、不意を突かれ、刃で貫かれていたら――――。

 

「おめぇ、どうしたんだにぇ。みんなは……」

「…………もっと強くならなくちゃ」

「にぇ……?」

「お役に立つでござる……皆殿の役に……命をお守りする侍に……でも風真は弱いから、もっと強くならなくちゃいけない。もう二度と……大切な人を失いたくない……」

 

 その目は虚ろなままだったが、瞳の奥には確かな決意が見える。

 刀を構えてはいるものの、その手は震えていた。

 

「……! まさか、まだ意識が残って――!」

 

 ――刹那、赤い髪が散る。

 刃の軌跡がみこの髪を撫で、はらりと毛先を斬り払ったのだ。

 

「ちょぉおっ!? みこの髪ぃ! 前髪パッツンにする気か!?」

「強くなる……強く……」

「聞いてないにぇ……」

 

 しかし、確定した。

 風真いろはは操られていて、攻撃を仕掛けている。

 だが初めの一撃と、今の一撃。どちらも致命傷を避けていた。

 二撃目に至っては明白で、首を刎ねるつもりだったのだろうが、手がブレて髪を撫でるだけに終わった。

 つまり、つまりだ。

 

(まだ、根っこから操られていない……! 意識を保ってるんだ! 事情は分かんないけど、何かヤバいことは分かったにぇ!)

 

 ならばやることは一つ。

 

「待ってろよぉ……このエリートなみこが先輩らしく、かっこよく後輩を助けてやるにぇ!」

 

 さくらみこは威勢よく、そう言い放った。

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 と、数刻前までは強気だった。

 

「んにぇぇぇぇええっっ!!!!」

 

 電脳桜神社のお祓い棒は折れにくいが、斬撃を何度も防ぐことは出来ない。

 ましてや巫女と侍。力比べでは当然、巫女は劣る。

 

(神ぃ! 力貸せよぉ!)

 

 そう訴えるも、神は答えない。

 

「――ッ! これは、想像以上にまずいにぇ……!」

 

 いろはが刀を振るえば風が乱れ、桜が散る。

 その風は斬撃としてみこを襲い、用意していた御札を塵へと変えてしまった。

 

「くっそぉ、神ぃ、なんでなんも言わないんだよぉ!」

 

 そう愚痴るみこだったが、原因はなんとなく分かっていた。

 

(神が答えないってことは……つまり、つまりよぉ……今ここは、()()()()()()()()()()()ってことだよにぇ!)

 

 原因は、あの刀。チャキ丸だ。

 確かにチャキ丸に見えるが、ドス黒いオーラを纏っていて不気味。

 今は、妖刀という言葉が似合っている。

 

(いろはたんを操ってる奴が元凶か……なあ、どう思うよ金時)

 

 そんな脳内会話の相手は、さくらみこの式神、金時(きんとき)

 召喚された赤毛の狛猫はそのつぶらな瞳でいろはを睨み付ける。

 

(なぁみこ、妙だと思わないか。神域を穢して神を抑え込むなんて芸当、単なる妖刀に出来るってのか?)

(え、出来ないの?)

(普通は出来ねぇだろう。それにだ。神の野郎が出て来れなくなるほどの瘴気を出してるクセに、おれさまやみこにはなんの影響もねぇのはおかしいだろ)

(た、確かに……!)

(つまり親玉は神を掌握出来る……神に仇なすものだ。まさかそんな存在が居たとはな……神に近い存在か、神そのものか、はたまた――――神を落とす悪魔か)

 

 金時の言葉に、みこは唾液を飲み込んで警戒心を強める。

 

(助けるには、どうすりゃいいにぇ)

(刀をぶっ壊す)

(そ、それはちょっと忍びない……)

(だな。正気に戻ってもらうしかないだろうよ。幸い意識はまだ残ってる。呼びかければしれっと戻ってくるかもしれねぇな)

 

 よし、と意気込んだみこは御札を取り出す。

 兎にも角にも、操られているいろはの動きを止めなければならない。

 

「流石に分が悪いよにぇ……!」

 

 一枚の御札を指と指の間に挟み、バチッと静電気を放つ。

 

「手ェ貸せよ金時ぃ! 【鏡桜(かがみざくら)影分身(かげぶんしん)】っ!」

 

 刹那、みこは落雷のような閃光と轟音に包まれる。

 

「…………!」

 

 やがて光が解けていくと、いろはは目を見開いて混乱した様子だった。

 電脳桜神社境内――バチバチと落雷の残り火が漂う中で、()()の巫女が肩を並べていたのだ。

 二人目の巫女の顔はさくらみこと瓜二つ。巫女服に身を包み、かろうじて髪が短く切られていることだけが見分ける唯一の方法。

 それが、作り出した分身体に式神・金時の精神を乗せたもう一人の桜巫女。

 

「――いいとこ見せなくちゃな」

「頼りにしてんでぇ!」

「式神使いが荒いご主人様だ……」

 

 金時は軽く肩を回して準備運動をすると、御札を構えていろはに向かう。

 みこもそれを真似して、操られてしまった後輩を救うべく、桜影と太刀風がぶつかり合うのだった――。

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