ホロックス・ブラック・ボックス   作:ゆっくろ❀

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流星と彗星

 空が歪む。

 青空と雲がマーブル模様を描き、無彩色の空が見下ろす。

 

「ラプラスの悪魔……だと?」

 

 有り得なかった。

 それは封印から抜け落ち、独り完成されたもう一人のラプラス・ダークネス。

 金時は目の前の存在が本来そこに居るはずがないという矛盾に、体感時間が何秒、何分にも引き伸ばされていた。

 

「もう手遅れなんだよ。ほら、流れ星が輝いている」

 

 無彩色の空には、流れ星がいくつも顔を出していた。

 

「なあ、流れ星とは願いを叶えるのだろう? 人の思いを受け取る力がある。つまり、()()()()の代わりになるとは思わないか?」

「っ! 新しいタタリガミでも産もうってのか!」

「それは安直だ。私が既にタタリガミなのだから」

 

 ヒトの感情が魔力へ変換され、龍脈を通って一箇所に溜まる魔力溜り。

 そこは負の感情が入り乱れる渾沌の渦。

 歪みきって産まれたタタリガミはかつてholoXの手によって祓われた。

 要は纏まればいいのだ。

 ヒトの団結力、負の感情をひとつに集束させる。

 特に、助けを求める声はひとつになりやすいだろう。

 

「――――超真醒(スーパーノヴァ)

 

 黒い光が世界を包むと、悲鳴がひとつ、空へ届いた。

 

 ――流れ星が煌めく。

 

 ふたつ、みっつ、よっつ……もう数えることが出来ないほど、悲鳴の輪唱が響き渡る。

 

 ――また、流れ星が煌めいた。

 

 そうやって、見えない恐怖が天へ昇る。

 恐怖による魔力を流星が呑み込み、無彩色の空が赤く色付いていく。

 

「さあ、絶望しろ。未来に」

 

 星の煌めきだけ、皆の悲鳴が木霊する。

 

「……なに、やってんだよ」

「みこ! まだ傷が……!」

 

 起き上がったみこは、金時が支えることでやっと立っていられる状態だった。

 

「みこのことはいい。それよりも、皆が泣いてる……っ」

 

 以前、闇の塊が人の形を成して人々を襲ったことがある。無数の手がまるで何かにすがるように伸びて、人を掴んでいた。

 それが今、再び同じことが起きている。前触れもなく突然に。

 救いを求める声が、恐怖が、魔力となって流星に宿る。

 流星はラプラスの悪魔へ魔力を譲渡。また、タタリビトが産まれ落ちる。

 そうやって何度も何度も恐怖心を煽り、救いなき絶望の淵へ叩き落とした。

 

「こんなことを、願うもんかよぉ……!」

 

 みこは歯を食いしばりながら、まだ消えていない眼光を悪魔に向ける。

 

「流れ星ってのは、もっと綺麗で……綺麗なんだよ! こんなことのために人の願いを捻じ曲げるんじゃねぇって!」

「綺麗なだけの星に何が出来る。願いを押し付けているのは貴様らの方だ。星は何も叶えてはくれない」

「だとしてもっ! 願いはいつか、人を動かす! そうなるように、願いが叶うように! 必死に生きていくんだ!」

「そうやって希望に(すが)るから絶望した時、闇を産むのだ! 初めから地の底で眠っていれば、願うことすらしなければ、何も失うことはないだろう!」

「でゃまれ!!!」

 

 悪魔を一喝し、みこは震えた手を天へ掲げて指をさす。

 

「たとえ未来が一つだろうと、星はいくつも光ってる! だったらよぉ、どれがひとつくらい叶えてくれる星があってもいいじゃんかっ! そう信じて、夢を追ってもいいじゃねぇかよ!」

「そんな星、あるものかッ!」

「あるッ!」

 

 今度は震えることなく、力強く天を指す。

 その先には無数の赤い流星が……いや、青い光がひとつ、眩く輝いていた。

 

「絶望を払い除ける希望の星だと!?」

 

 赤い空に青い星。

 それは弧を描き、一瞬、強く輝いたかと思えばこちらへ向かって落ちてくる。

 

「馬鹿な……有り得ない。この状況で絶望しない者が居るというのか!?」

「ったりめぇよ! 誰だと思ってる!」

「なに……?」

 

 落ちてくる青い星は、閃光の尾を引きながら境内へ。

 悪魔へ、墜落した。

 

「だって僕は、星だから!!!」

 

 ――――星街すいせい。電脳桜神社、現着。

 

「星街……すいせい……! なぜここに居る。こんな未来は観測していない!」

「未来が決定事項ならさぁ、それを予測するのも簡単だよね。だって決まってるんだもん。不確定要素がない」

「そうだ。不確定要素などあるはずがない。だが、お前の存在がその不確定要素なんだ! なぜここに居る!!」

「そりゃまぁ、ホロライブ(うち)には優秀な子が沢山いるんでね」

 

 自慢気に、彗星少女は金斧を担いでそう言った。

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 ――同刻、《議会》にて。

 

「さーてさてさて、今頃悪魔ちゃんは焦ってるかな」

 

 テーブルに足を乗せ、背もたれにぐいっと体を押し付けるのは赤いネズミ。

 

「未来が決まっちゃってるのはつまらないよねぇ。いくつもあるからこそ、この世のカオスは面白いのに」

 

 議会(Council)の一角。カオスという概念そのものである彼女は、ケラケラと笑いながらサイコロを転がす。

 

「クロニー、時の流れはどう?」

「まだ油断は出来ない。不安定ね」

「だよねぇ、それじゃあもう少し……カオティックに行こう!」

 

 そうしてハコス・ベールズは再び、世の理(サイコロ)を振った。

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