ホロックス・ブラック・ボックス   作:ゆっくろ❀

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闇夜に潰れていたけれど

 炎が立ち上がる。

 彗星が輝く。

 

鬼火柱(おにびばしら)ッ!」

「テトロミノ・ヒューマニズム」

 

 あやめが放った火炎が昇り、こよりの体を中から操る悪魔をトンネルの壁際へ追い詰めた。

 すいせいはその隙を狙って、星色のキューブを出現させて悪魔を壁へ押し潰す。

 トンネルに亀裂が走り、こよりの体は壁にめり込んだ。

 しかし、身体強化薬の影響かダメージはほとんど無いように思える。

 すいせいはキューブを消し、開放された悪魔へ追撃を仕掛ける。

 

Starry Jet(スターリー・ジェット)!!」

 

 彗星の尾をひき、飛び蹴りを喰らわせる。だが――

 

「くはは、随分やってくれるじゃないか。この体は博衣こよりのものだと言うのに」

「……ッ!」

「だめ! すいちゃん!」

 

 あくあが叫んだ時には、すいせいは頭を掴まれ投げ飛ばされていた。

 体が道路に打ち付けられ、数回転がってようやく止まる。

 痛みに震えながら立ち上がろうとするすいせいを守るように、あやめが前に立った。

 

「悪魔……と呼べばいいのか。余にはなぜこんなことをするのか理解が出来ない。一体なにがしたいんだ……」

「ふっ、あはは……! 鬼にまでそう言われてしまうとなかなか笑えてくるなぁ。理解(わか)らないのも無理はない。そして理解してもらおうなどとも思わないッ!」

 

 刹那、地を蹴った悪魔が消え、あやめの背後に現れる。

 蹴り壊したアスファルトが宙を舞う最中にあやめの体が蹴り飛ばされ、ついさっきまで悪魔がめり込んでいた壁に衝突した。

 脆くなっていた壁は大きく崩れ、あやめは瓦礫の下敷きになる。

 

「あやめ先輩っ!」

「行け! クロヱちゃん!」

「――っ! はいッ!」

 

 体は悲鳴をあげている。

 それでも走れ、じゃないと何も救えない。

 

「……天球ッ! 彗星は夜を――」

「〝禍鎚(かづち)(よい)()す〟」

 

 立ち上がったすいせいに向け、悪魔が放ったのは破損したはずの禍鎚――翔冀だ。

 

『自己、修復率――60%……アームド・オン』

 

 無事だった部品だけで再構成され、巨大な拳へ変形した翔冀はすいせいを殴り潰す。

 それだけなら、まだ技を放つ余裕はあった。

 

「……っ!? 道路が……なんで、この下はアスファルトのはず! なんで沼に!?」

 

 そのまますいせいは、突如出現した半径2mほどの沼へ沈んでしまった。

 

「私が博衣こよりに与えた能力は()()()()()()。地面の一部を水に変えた。そして、これで一人脱落だ」

 

 その瞬間、沼は元の道路に戻る。

 

「すい、ちゃん……?」

 

 何も反応はなかった。

 あくあはさっきまですいせいが居たはずの道路に膝をつき、ぺちぺちと叩く。

 

「ねえ! すいちゃんっ! ねえっ!!」

 

 星の輝きは地の底へ消えた。

 

「クロヱ、お前にも洗脳し統括する()()()()()()を貸してやったが……どうやら私の方が上手く扱えそうだな」

「……は、あくあ先輩! 逃げ――」

「〝悲戟(ひげき)人定溺(にんじょうおぼ)れ〟」

 

 悪魔は、あくあの頭を後ろからツンと叩く。

 絶望。オセロで勝ったかと思えた戦況が、相手の一手で全て裏返るような絶望だ。

 

「さあ、湊あくあよ。クロヱを殺せ」

 

 あくあは何も言わずに立ち上がると、ゆっくりと、クロヱの方へ向かってくる。

 その体は悪魔を通り過ぎ――――ようとした瞬間。

 

「どうしてあなたの言うこと聞かなきゃいけないの」

 

 あくあは、クロヱではなく悪魔へ銃を向けた。

 長銃――アサルトライフル。スカートの中にでも隠し持っていたのだろうか。

 

「ほう……上書いたか、洗脳の魔眼で」

 

 間一髪だった。悪魔が確信という怠慢をしなければ、その油断の隙を突いて洗脳が出来なかった。

 しかし、クロヱの目は疼いている。限界が近いらしい。

 

「だが限界だろう」

「……ッ」

 

 悪魔はあくあに銃を向けられても気にすることなく歩み、クロヱの前に立ちはだかる。

 

「必要ないが駒を取り戻すとするか。もう一度、私のものになれ」

「ぅあ……やめ……ろ……!」

 

 思考が消えていく。

 

(すいせい先輩を助けないと……あやめ先輩も、怪我の手当てを……だめ、なにも……考えられなく……)

 

 ――――……。

 

 

 

 …………?

 

「あっ☆ 間違えて全身が痺れる薬入れちゃった~! ごめんねクロヱちゃん!」

「なにやってんの?! ほんとなにやってんの?! おかしいと思ったよ! 麦茶にしてはシュワシュワするなーって思ったよ!」

 

 ――これは、いつの頃の私達だろう。

 

「まあまあ、薬の効果が切れるまでお世話してあげるから~」

「ちょ、勝手に触んな! ねぇラプラス! ほんとにこいつここの博士なの!?」

 

 ――あぁ、そうだ。私が初めてアジトに来た時だ。

 仲間に裏切られて任務に失敗して、依頼人にも見限られて……退廃地区で怪我が治るまで身を潜めていたのに、あのクソでけー角のガキンチョに連れられて――。

 

「へーきへーき。うちの博士は天才だからな」

「大丈夫だよクロヱ。本当にヤバかったらちゃんと行動してくれるから」

「いやあのルイさん。私いま大分ヤバいというか」

「へーきへーき」

(ダメだこいつら、早く何とかしないと……)

 

 ――初めは何考えてるのか全く分からなくて、実は敵の報復で私を捕えるためなのかも……とか思ったなぁ。

 でもきっと仲間が助けに来てくれる。そう思った。一瞬だけ。

 

(仲間なんて、もう居なかったな……)

 

 私は独りだ。

 仲間と呼びあっていたのも、ただのごっこ遊びにすぎなかった。

 私が、この人生には価値のあるものだと自分に言い聞かせるための、偽りの仲間。所詮は擬態ごっこだったんだ。

 私は理想の私に擬態して、仲間にも嘘を吐いて、そして仲間にも嘘を吐かれて裏切られ……笑える話だ。

 

「大丈夫でござるよ。そんなに身構えなくても」

 

 用心棒――いろはちゃんがそう言った。

 

「取って食おうってわけじゃないからね。こよりもクロヱの緊張をほぐそうとしただけなんだよ。……物凄い空振ってるけど」

 

 女幹部――ルイねぇがそう言った。

 

「いいじゃん面白いし。釣られたマグロもこんな感じなのかなぁ」

 

 総帥――ラプラスがそう言った。

 というかマグロじゃなくてシャチだ沙花叉は。

 

「ごめんね~。でもこうしないとクロヱちゃんをお風呂に入れてあげられないから」

 

 研究者――こよりちゃんがそう言った。

 

「……ってそういう魂胆か! やめろー! お風呂は入らないぃぃぃ!」

「ダメだよ。クロヱ臭いんだから」

「臭くなーい!」

「臭いでござる」

「く、臭くないもん!」

「臭いよねぇ?」

「風呂入れ沙花叉」

「だから臭くないってばぁぁぁぁ!」

 

 あぁ……笑える話だ。本当に。

 そんなこともあったなぁ……もう、いろいろありすぎて忘れかけていた。

 holoXに来てから、私は随分丸くなった。

 面白い。楽しい。心からそう思える。

 私は、沙花叉クロヱは――ようやく仲間を見つけたんだ。

 

「――――こよりちゃんも、きっとそうだった」

「なに……?」

 

 悪魔を突き飛ばし、クロヱは握りしめた拳を解く。

 刹那、地が震えて道路が砕けた。

 

Moonlightspeed(ムーンライトスピード)ッ!」

 

 バルディッシュを振り上げ、トンネルの道路を破壊したすいせいが飛び出す。

 土まみれになりながらも、青く輝く彗星は悪魔をバルディッシュで殴りつけ、クロヱから引っぺがした。

 

「すいちゃん!」

「こんなとこでやられるかよ! みこちより先にリタイアとかぜっったいにヤダ!!」

「す、すいちゃん……」

 

 負けず嫌い故の勝利なのか、せっかく格好良く復帰したのに、思わずあくあはズッコケそうになる。

 

「……余も……負けてられないな!」

 

 瓦礫を退け、あやめも立ち上がる。

 二本の刀を構え、炎を纏い――――鬼神は刹那に駆けた。

 

「――鬼灯突(ほおづき)ッ!!!」

「チッ――!」

 

 連続の突き技で、悪魔へ追撃して追い詰める。

 体に刃は通らないが、それならそれで打撃として打ち付けるまで。

 

「押し通るッ!」

「……翔冀ッ!」

「させない――ッ!」

 

 浮かび上がった翔冀へあくあはアサルトライフルのトリガーを引き、修復が追いついていないその隙間――内部へ弾丸を滑り込ませ、機構を破壊した。

 火花を散らし、黒煙を上げる翔冀がトンネルの奥で爆発する。

 爆風が、クロヱのフードを吹き飛ばした。

 

「――――私は諦めない。ラプラスに無理言って任せてもらったんだ。もう裏切らない。私はやり遂げてみせるよ、こよりちゃん」

 

 クロヱの銀髪が風に舞う。

 その瞳に希望を宿し、真っ直ぐにこよりを見つめる。

 

「……もしかして空気変わった?」

「およ? もう出番終わり?」

「みたいだね。私達は見届けるんだ。後輩の頑張りを」

 

 ――心臓が熱い。

 

(こいつ……この土壇場で覚醒だと……?)

 

 それは、魔眼の覚醒。

 既に開花されていたクロヱの洗脳の魔眼――その限界突破を意味する。

 真の意味で、浄化の魔眼へと――――。

 

「謀ったな……博衣こより」

 

 事が始まる直前、こよりが()()()()()()()()()瞬間凍結薬。

 あれには凍っても話せる薬が混じっていたが、もうひとつ、薬が混ぜられていた。

Extend Portion(エクステンド・ポーション)』――――意志拡張性清涼飲料水。

 

 故に、沙花叉クロヱ《覚醒(エクステンド)

起死回生(キラー・ヴェール)

 

「沙花叉は……! もう二度とぉぉぉぉッ!!!」

 

 開いたその手がこよりに触れる。

 

「チッ……乗り換え時か……」

 

 悪魔は最後にそう呟くと、バチッと静電気のようなものが弾けた。

 

 助けたい。その想いが浄化の形で顕現し、光となって弾け飛ぶ。

 

 暗いトンネルは光で満ちて、闇を押し退けその手に望んだものを与えた。

 

「――――っ、はぁ……はぁ……」

 

 全身全霊で力を使い、クロヱは肩を上下させながらこよりの体を抱きしめる。

 

「おかえり……こよちゃん……」

 

 そう伝えると、こよりの体が震え出した。

 

「――ふふ……ふふふ……はぁーっはっはっは! さすがこよのEXポーション! 計画どーり!」

「ちょ……す、少しは余韻とかさぁ!」

「はにゃぁ?」

「くっそぉムカつく! せっかく助けてやったんだからお礼のひとつくらい言ってくれてもいいんじゃないですかねー!」

「ありがとクロたん♡」

「…………んっ」

「あら~満足気に笑っちゃって~♪」

「は、はぁ!? 別に笑ってませんけど! もしかしてまだ操られてんの?」

「ザンネ~ン! クロたんのおかげで頭スッキリ快晴ですぅ!」

「こんの頭ピンクコヨーテがぁ!」

 

 茶化すこよりに、クロヱは両手を振り上げ追いかけ回す。

 戦闘後だというのにまだまだ元気そうな二人を眺め、先輩三人は微笑んだ。

 

「やったなクロヱ~」

「お、おつかれさま。あてぃし何もしてないけど……」

「余も誇らしいぞ! あくあちゃんも大活躍だったよ!」

「そ、そうかな……へへ……」

 

 照れくさそうにするあくあを、あやめとすいせいは撫でくりまわした。

 

「先輩、ありがとうございました!」

「おっと、まだお礼は早いかな。ルイねぇを足止めしたまんまでしょ? 早く行くよ二人とも! すいちゃんのあくたんを撫でるのはその後で許そうじゃないか」

「「はい!!」」

「よーし! この調子でどんどん助けよー!」

「お、おぉ~……! って、待って、なんであてぃしが撫でられることになってんの?! あれ、ねぇみんな!? ちょっ、先に行かないでよー!」

 

 傷を負いながらも次の戦場へ向かう四人をあくあは追いかけていった。

 

 博衣こより奪還作戦、成功――。

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