ホロックス・ブラック・ボックス   作:ゆっくろ❀

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虚実踊るマリオネット

――クロヱ、すいせい、あやめ、あくあにより、ラプラスの悪魔から博衣こよりを奪還した。

 しかし、それによってラプラス達は苦しい戦闘を強いられることとなる。

 癒月ちょこ、大空スバルが参戦するが、戦闘には慣れていない二人だ。

 

 ラプラスの悪魔に操られ、破鞭(はべん)を打つルイ。

 生きているかのように伸びるそれは、魔法の箒で逃げ惑う紫色の二人を追いかけていた。

 

「シオン! もっとスピード出ないのか!」

「これ以上はコントロール出来ないっ!」

 

 細く素早い鞭と、二人乗りの箒。

 魔法とはいえ空気抵抗を受けないわけではない。

 圧倒的に、鞭の方が速度は上だ。

 そしてなにより、狙いがいい。

 

「まさかこれほどまでとは思わなかったぞ」

 

 悪魔はルイの声でそう言うと、鞭を操りシオンの箒を破壊した。

 二人は真っ逆さまに落下する。

 

「――くっ、そ……! 飛行付与(フライ)ッ!」

 

 地面に衝突すればタダでは済まない。

 ラプラスはなけなしの魔力を振り絞り、一瞬だけふわりと浮かせて地面に倒れ込んだ。

 

「ねぇっ、さっきより動きが良くなってんだけど、どういうことなの!」

「クロヱ達がこよりを取り戻したんだ……だから、残りは目の前のルイとどこかへ消えたいろはだけだ。コントローラーが減ればそれだけ扱いやすくなるのは当然だろっ」

「そういうことね……で、シオン達に今のルイちゃんをどうにか出来るの?」

 

 ラプラスは沈黙しか出来なかった。

 自身の余力はもはやほとんど残っておらず、シオンも限界が近い。

 今動けているのはちょこ先生によるバックアップが救いだ。

 スバルはというと。

 

「……なぁ、すまん。こんな時にこんなこと言うのもどうかとスバルも思うんだが……スバル場違いすぎないか?」

「スバル」

「ちょこ先、その言い聞かせるような『スバル』やめてくれないか」

「大丈夫よ、場違いなんてことない」

「そうかぁ~? まぁでも、やらなきゃヤバいもんな」

 

 そう言って、キャップを被り直す。

 

「それでだ」

 

 珍しくキャップのツバを前にしてちゃんと被ったスバルは、覗き込むようにして佇むルイ――ラプラスの悪魔を見つめる。

 

「スバルにはさ、こうして話すことしか出来ない。だから話の続きをしようぜ」

「……」

()()()()()()()()()()()()()()――……さっきそう言ってたよね。それ、どういう意味?」

「なに……?」

 

 ホークアイで睨み返してくる悪魔に臆することなく、スバルは続ける。

 

「聞いた話じゃ、ラプラスの悪魔って未来を知ってるんだよな。つまり予想外はない。さっきの言葉と矛盾してると思ったんだけど……」

「ああ……そんなことか。いやなに、お前達がそうポジティブに受け取ってくれても構わないが、聞くのであれば答えてやろう。これほどまでとは思わなかったよ……これほどまでに、早いとは……」

「早い……?」

「私の知る未来より、展開が早いんだよ。お前達が思っていたより足掻くものだから……この身に溢れる感情が魔力を増幅してくれる」

 

 悪魔は現在、憑依しているルイの感情を魔力変換している。

 その魔力の行き先は、ラプラスには分かっていた。

 

「まさか……凶星を魔力で引っ張ったのか!」

「そのまさかだよ、私。いやはや。こよりは素晴らしい策を打った。感情の昂り……お前達が希望を見出したあの熱……なんと甘美なことだろうか」

 

 悪魔はふわりと宙に浮く。

 そして、天に輝く月の中心。

 漆黒の点に手を添えるように腕を伸ばした。

 

「まだこよりの体には山ほど使い道があった。手放すには惜しいが、それは致し方ない。お前達にひとたびでも希望を見せたという大きな仕事をしてくれた彼女に感謝しておこう」

 

 ホークアイが塗り変わる。

 月が、凶星に呑まれゆく。

 

「くっ……間に合わなかったか……!」

「遅いぞみこち!」

 

 同刻、追い付いたみこと、クロヱチームが合流する。

 しかし、一手先を行かれた。

 すいせいは遅れたみこにそう言ったが、今は少しでも戦力を増やしたいのが本音だ。

 

 ――其れは満月のように明るく、天から人を見下ろした()()()()

 

 

「ここまでしても、未来は依然として変わらないなんて……」

「やあ、博衣こより。お前には驚かされてばかりだ。さすが、我がホロックスの頭脳と言えよう。……だが惜しいな……未来を上書くには少々足りなかったらしい」

「いやー、計算が外れたね。さすがは全てを完全に計算し尽くした未来予測の申し子だよ」

「『カオス』の盤上狂わせ。既に私が見た確定未来を踏まえた世界の修正力に抗う『自然』の摂理。互いを支え合うことで成し得た偉業だ。そして、並外れた三日月斧に長銃は『文明』によるものか……良い手ではあった」

 

 敵を賞賛する余裕を見せつけながら、悪魔は天の星々を指さした。

 

「しかし過程がほんのちょっぴり変わろうと、私が成すべきことは変わらない。世界を壊す。そして、ゆめゆめ忘れるなよ。これは他でもない、人間達が望んだことだということを」

 

 ――希望を塗り潰した絶望の中で、凶星の到来を待つがいい。

 悪魔はそう言い残すと、姿を消した。

 刹那、星々が瞬き、黒い泥が雨となって降り注ぐ。

 

「くそっ、澄ました顔しやがって……!」

「あれルイねぇの顔だけどねー」

「分かってるよ! ぜってぇ取り返してやる……それでこより、これからの作戦は?」

 

 悔しさに拳を震わせたラプラスは、帰ってきたこよりを早速頼る。

 もはや猫の手だろうが犬の手だろうが借りたい状況なのだ。

 

「まずはうちの用心棒を取り戻すんだよ。どのみち、最後にいろはちゃんを残すと戦闘力で勝てなくなる。ルイねぇには申し訳ないけど、もう少しだけ耐えてもらうことになるね……」

「そうか……だがいろはに関しては勝機がある。まずは戦力を集めよう。それから…………」

 

 ふと、街の方を眺める。

 こんな山道からでも夜景は見えた。

 だが、そんな夜景を作り出していたビルのひとつがバツンと停電するのを見て、ラプラスは息が止まった。

 

「希望を塗り潰した……絶望……」

 

 ひとつ、またひとつと明かりが消えていく。

 それは紛れもない、災禍の顕現。

 

「やられた……! 魔力変質……ラプラスの悪魔の権能が発動してるんだ! この泥の雨、前と同じ……いや、前なんかよりももっと……! 既に出現済みのタタリビト2000体……泥の雨から産まれてさらに増加……!!」

 

 ホログラムパネルを開いたこよりが歯を食いしばる。

 依然にも観測した。

 闇夜事変――夜砥ミフユが魔力に呑まれて産み落とした災厄と同じかそれ以上。

 かつては切り開いた絶望が、今、再び牙を剥く。

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