「……どこだ! どこに居る……!」
タタリビトとの交戦を避け、ラプラス達は走る。
その先で、タタリビトを蹴散らしていくトワが向かってくるラプラスの姿に気付くと道を指さした。
「――ラプラス! この先、ルイを見かけた!」
「と、トワ様……っ!」
「乙女の顔してる場合かっ!」
クロヱがベチンと角をはたく。
「シオンのおかげで戻ってきた新人に言われたくねぇ!」
「くっ、ぐぅの音も出ない……!」
「いいから早く行きなって! ここはトワ達に任せてさぁ!」
話しながらも的確に眉間を撃ち抜くトワに、ラプラスは覚悟を決める。
すいせいを連れていろはから戻そうとしていたが、この混乱では殲滅力のあるすいせいをここに置いていった方がいい。
「ラプラス、いろはなら多分大丈夫だよ」
「すいせいさん……でもっ」
「強い子なの、分かってるはずだよ。私と戦った時だって揺らいでたし、あの調子じゃあ悪魔も手を焼く。それに悪魔は、今はルイをメインに使ってるんだ。だったら今すぐにルイのところへ行くべきだよ」
「あてぃしもラスボス戦したいとこだけど、二人がここに残るなら、ここで食い止める。……あたしだって先輩だもん、頑張る後輩の背中を押すことくらい……やってみせる!」
「お、いいぞあくたん! その調子!」
そうこうしている間に戦力が集まったことでタタリビトのヘイトが向き、大量に集結していた。
「走れラプラス……! 一歩踏み出して始まったなら、あとは終わりへ向かって走るだけなんだから!」
「後ろはあてぃし達に任せて行っちゃえ! 先輩にドンと任せなさいっ!」
「――――ッ! 任せます、直ぐにカタをつけてくる!」
ラプラス達は走り出す。
すいせいはバルディッシュを振り上げ、黒い星々へ向けて突く。
不敵に笑うのは、強がりかもしれない。
――でも。
「――ここでカッコつけなきゃ後悔するでしょうよ!」
「やってやりますか」
「うん! 《Startend》、
「してるか? 覚醒」
「してるんだよ! あてぃし今、最高にカッコつけたい!」
「じゃあ、最初で最後の大暴れってことで!」
盛り上がっている三人だが、トワと共闘していたヒツジが「忘れないで?」と言うかのようにハープの音色を響かせてバフを与える。
「わためもおるよ……!?」
「安心しろわため……スバルも非戦闘員としてここに残るから」
「……タタリビトって鼓膜あるのかなぁ」
わためはStartendが蹴散らしていくタタリビトを眺め、スバルのダックシャウトが通用するのかと、そんな疑問を抱く。
「人型だし、聞こえてるんじゃない?」
「声に反応はしてるみたいだ余」
「うぉ、千代子とあやめも残ったのか。まさかエク○ディア?」
「百人引きだ余!」
「私達だけじゃないわよ。みこちと、フブキ様にミオ様も来てるわ」
「じゃあ千人引きだ余!」
「うん、スバルの出番はないな! ヨシ!」
「ヨシじゃないが?」
「スバルちゃんも戦うんだ余」
「んな無茶なぁぁ!?」
喚くスバルの頭に、コツンと箒の柄がぶつかる。
「無茶をしてでもやるんだよ」
「シオン!? おま……戦えるの?」
「ちょこ先に回復してもらったし、あくあがいい顔してるのにシオンがリタイアするわけないじゃん!」
「そうか……ならスバルも出来るだけサポートしてやるかな」
「後ろで応援でもしてなよ。マネージャーでしょ?」
「なるほどその手があったか」
拳を作って素振りしていたスバルに、シオンは呆れて「首から下げてるそのメガホンはなんなのか」と言いたくなる気持ちをぐっと堪えて魔法陣を展開した。
「よっしゃあお前らぁ!! 後輩にいいとこ見せるぞぉぉぉぉ!!」
「「「「おおおおーーーーっ!!!」」」」
「……あ、声量スゴすぎてあくたん気絶してる。すいちゃんが目覚めのキッスしたら起きるかな? ねぇトワ」
「トワは大丈夫かなこのチーム……っていま思ってるとこだからちょっと静かにして」
「大丈夫だトワ。メンタルフィジカルパッションやで」
「不安だ……」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「……来るか、ラプラス・ダークネス」
瞼を上げた
「有象無象を押し付け、私の前に立つか」
ふわりと飛び降り、ラプラス、こより、クロヱと対峙する。
「押し付けただなんて人聞きの悪い……背中を押されたんだよ! ね~ラプちゃん」
「ああ、もう逃がさないぞ。ここが最終決戦だ。ルイの体から追い出して、それで仕舞いだ」
切れた電灯がヂヂヂッと音を立てる。
冷たい向かい風が身震いを誘う。
静かに目を瞑った悪魔は、電灯がバチンと一際大きく弾けた瞬間、ホークアイを発動した。
「やれるものなら、やってみろ!」
「先手必勝、キラーヴェールッ!」
誰よりも早く、速く飛び出したクロヱは悪魔へ掴みかかる。
浄化の魔眼で悪魔を引き剥がせばそれで勝ちだ。
「――クロたん、離れて!」
「……っ!」
だがそれを許さないのが『権能』――。
「〝破鞭、降ち打つ〟――ッ!!!」
アスファルトを弾いた鞭が何本にも枝分かれし、それぞれが意思を持った触手のように暴れ狂う。
電灯を砕き、電柱を倒し、道を割って、空気を裂く
「マズい、いまバリアを……!」
「ダメだよラプちゃん! ちょこ先生に回復してもらったとはいえ万全じゃないんだから、力は温存しないと!」
「で、でもあの鞭は防げないぞ! 権能の力で無制限の射程距離だ!」
「無制限……?」
こよりは迫り来る鞭を見つめる。
「無制限……なら、なんで効果範囲を広げない? 確かに凄い攻撃密度だけど一定距離でしか鞭を展開してない……鞭が伸びる距離と鞭の数が増える力は同じで、どちらか一方しか使えない……?」
「あれを一目見ただけでそこまで!?」
「さすがうちの博士! ということは対処法も分かってるんだろ? 早く出してくれよ、ほら、『こんなこともあろうかと』って!」
「……あー、いや……」
「「はっかーせ! はっかーせ!」」
「ルイねぇ対策はホークアイしかしてなくて……鞭は、
「……あっ、それ壊しちゃった」
「おい……」
「しょ、しょうがないじゃん! あんな硬い化け物みたいな機械、壊さないとこよちゃんに近寄れなかったんだから! ……ん?」
「ば、化け物!? 失礼な! 翔冀はこよの可愛い可愛い発明品で……ん?」
こよクロは二人して何かを思いつく。
「クロたんのクセに、こよと同じことを思いついたね?」
「へっへっへ……まぁね! あくあ先輩がやって見せてくれたんだから!」
そう、外側からじゃどうにもならないのなら――。
「「中を叩けばいいじゃない!」」
クロヱは拳銃を取り出し、一点を狙う。
こよりが展開したホログラムのバイザーが鞭の動きを予測し、クロヱに情報を共有。
荒れ狂う鞭の嵐――しかし、それは
しかし、この針に糸を通すかのような芸当の成功率は著しく低い。
「何本もの鞭が振るわれて発生してる風圧……狙撃銃でもない拳銃の弾じゃ役不足かな……」
「クロたん今更弱気になってるの?」
「吾輩が加速させる、だから狙うことだけに集中しろ!」
「簡単に言うけど、このバイザーからの情報量多すぎっ!」
「それは仕方ない」
本数、十以上。
速度、音速以上。
破壊力、超強。
鞭は弾くように振ることで音速を出すことができ、スピードがあるから破壊力もある武器だ。
そんな相手に、クロヱはラプラスのなけなしの力で強化された弾丸を放つ。
「ルイねぇ、帰ってきてよ……!」
弾丸は軽い発砲音を置き去りにし、荒れ狂う鞭の隙間を縫って鞭の持ち手を弾く。
嵐がやみ、散らばった瓦礫が降り注ぐと砂埃が舞う。
「破鞭をどうにかしたところで……!」
「不可能をどうにかしちゃうのが研究者の役目ぇ!」
「博衣こよりッ!?」
砂埃を掻き分け、懐に入り込んだこよりは拳を作っていた。
(身体強化薬――プラス、EXポーション……プラス……っ! 野生解放ッ!)
翔冀によるアシストは無いが、それでも小細工で加算させた一撃は重く鋭い。
博衣こより――
「【
どんな攻撃も、悪魔の前ではちっぽけなものだろう。
だが、それでも。
何度でも打ち付ければ、1ダメージでも1000ダメージになるのだ。
「――――フッ、ハハッ……!」
悪魔は笑う。
こよりのパンチを受けても尚、余裕の笑みを浮かべる。
「力が入っていなければ無意味だぞ、こより!」
そうして膝蹴りをモロに喰らう。
こよりは逆流した胃液を吐き出しながら宙を舞うが、なんとかクロヱがキャッチして落下は防がれた。
「か、加減しちゃった……鞭はっ?」
「距離はある……回収されたらまた撃たなきゃだけど、多分もう……次は無い」
コヨーテにシャチ、どちらも捕食者だが、鷹もまた捕食者。
戦地慣れしているのはクロヱだけではない。
鞭を回収せずとも戦うことは出来る。
「あと一歩だったな……だが、最後はあっけないものだ」
「…………? お前……ッ、ぐぁッ!?」
「「ラプラスっ!?」」
一瞬で首を掴まれたラプラスは、地から足を離される。
「……た、鷹の……フィジカルじゃ、ねぇ……」
ちらりとルイの足元を見ると、足が震えていた。
悪魔の力で無理をした動き。
これ以上酷使させれば、ルイの体が持たない。
(何か手は……ダメだ何も思いつかない……吾輩には何も無い……何も、出来ない……)
ポタポタと滴り落ちる泥の雨がラプラスの顔を汚す。
もう、絶望的な未来しか見えない。