「――そっか! そういうことなんだ!」
博衣こよりは消えゆく悪魔の残滓を目の当たりにして気付く。
「憑依できるならどうして全員を操り人形にしないんだろうって思ってはいたけど、なるほど……この仮説なら合点がいく!」
「な、なんでござるか……? 一体悪魔は何をして……」
「え、えぇっと! そもそもラプラスの悪魔は『力』! 人格が芽生えることなんてあるはずがないのは分かるかな? ラプちゃんがミフユちゃんの魔力をその力で吹っ飛ばしたあの日……力の方が魔力で変質したんだよ」
「吾輩が魔力に負ける? こより、それはいくらなんでも吾輩をバカにしすぎじゃないか?」
「できるんだよ、これが! だってあの時、ラプちゃんはミフユちゃんを助けるために最大限にパワーセーブしてたんだから!」
こよりは説明しながらホログラムのキーボードを叩く。
悪魔の次の手を話しながら整理し、最も高い可能性を導き出すその様は、紛うことなき未来予測だ。
「ミフユちゃんに取り憑いていたのは人から滲み出る
「そう、だから……私達に憑依した……っ」
ルイは起き上がり、空を見上げてそう言う。
その言葉に、こよりも小さく頷いた。
「今までの悪魔は
「思い出から……なにを? わ、私にも分かるように説明してよ~!」
「クロヱ、ちょっと黙っとくでござる」
「
ゴクリと喉を鳴らし、冷や汗を垂らす。
「それはつまり、こよ達の記憶から抽出した、ラプちゃんの
ラプラスの半身、いや、もはや別人格として自己を確立した新種の生命体。
その出生から言えば、魔人……まさに『ラプラスの悪魔』と呼んで差し支えないだろう。
研究者としての血が疼くのか、こよりはやや興奮気味に星を見上げる。
「彼女は確かに悪魔だけれど、それでも一人の人物として生まれ変わった! ラプラスの悪魔……たかが力、されど力! 敵ながらに己の目的を遂げようと奮闘する、生命としての本能を獲得した彼女に名を与えるならば、《
「――も、盛り上がってるとこゴメンでござるが!
いろはが天に指をさして叫ぶ。
大きくなっているとは、つまり地上に接近しているということだ。
星々の黒い光がひとつの凶星に集まり、星明かりが戻ると、凶星は一際ドス黒く見える。
「星をここに落とすつもりか!?」
「うっそぉ!? さすがにそれはマズイってぇ!」
「か、風真が斬ればなんとか……」
「いろはでもさすがにアレは無理でしょ!?」
「や、やっぱりルイねぇもそう思う?」
星が落ちる。
ラプラスは夢で見た光景を思い出していた。
黒き凶流星が街を破壊していくあの様を。
「いや……吾輩が見たものと違う……?」
あの時はペンキで塗りたくられたように空が赤かった。
だが今は、凶星以外ただの星空。
極夜のままだ。
「ラプ、昔のことを思い出したよ……」
「ルイが飛んだあの日か……」
「うん……ちょっとだけでも飛べてたのには驚いたけど、でも、あれがキッカケだったんだよね」
「そうかもな……思えばあの日、吾輩は可能性を肯定すると同時に決まった未来を否定した。既にあの日から、力は……あいつは歪んでたんだ」
確定された未来、だが……その過程にズレが生じているのはこれまでの戦いで明白である。
その歪みが破滅をもたらすのか、それとも未来を取り戻すチャンスなのか。
それはここから先の衝突で分かることだろう。
「ふ……ふふ……フフフフ……っ!」
不意にこよりが肩を震わせて笑い出す。
「もしかしたら……って思ってはいたけど、やっぱり良かった!
「こより? 何か策があるの?」
「ふっふっふ、ルイねぇも飲んでおいでよ」
こよりがルイに差し出した小瓶、EXポーションだ。
「力を引き出す薬は数に限りがある。ぼく達五人分と、呼びの一本だけしか用意できなかった。でももう最終決戦だし、残りの一本は――――そう、こんなこともあろうかと! ここへ来る前、すいちゃん先輩に渡しておいたのさ!」
こよりが指をさしたその先に、ビルの屋上で落ちゆく星を眺める二人が立っている。
「ぷはっ……さあ、やってやろうぜみこち」
ポーションを半分だけ飲んだすいせいは、残りをみこに渡す。
「んぐ、んぐっ……ぅげぇ、これ不味いよこよちゃん……!」
「えぇ? 風邪薬よりマシだよ」
「そ、そーだけどさぁ……でも、ほんとにこれで出来るの?」
「後輩の前でカッコイイとこ見せたいなら、頑張るしかないでしょ」
「……それもそうだにぇ。それじゃあ、ぶちかまそうぜぇ! すいちゃん!」
カラになった小瓶を投げ、濡れた唇を拭うと二人は手を繋いで天へ掲げた。
「「――――
そう叫ぶと、天高くに閃光が
閃光は眩く、大きく、街全土を照らす光となり、巨大な
「「miComet……合体ッ!」」
彗星を取り巻く眩い光が、桜色に変化する。
紫電を纏い、さらに高い天に在る黒き星を捉える。
「「【
地を穿たんとする天の星へ、みこめっとの合体技が撃ち放たれる。
-1の
祟星が砕け散り、砕けた破片をも
「大人しく
夜に声が響き渡る。
地上はタタリビトの襲来で光が無くなり暗黒だ。
対して天には星光が甦り、月明かりが
「確かに苦しい道かもしれない。でも、私達は抗うよ」
「苦しさをぶっ飛ばして、最後にはみんなで笑える……そんな未来を望んでるからにぇ!」
すいせいとみこは笑う。
強がりだろうと、笑ってみせる。
「
月明かりのなか、彼女はつい先程まで自身の中で渦巻いていた
「ならば全てを無に帰そう。未来など、永遠に来なければいいのだ」
彼女の背景とする星々が
星の軌跡が永遠と続くその様は、肉眼で見ることは叶わない
だが、星は動けど夜は終わらない。
極夜は依然として、彼女を包み込んでいた。
「未来なんてどうとでも変えられる。変えてみせる!」
こよりは咆哮する。
「人が人を繋いでいく、みんなで未来へ歩んでいけるでござる!」
いろはは抜刀する。
「黒い部分は私達が拭い去る! そのためにここに立ってるから!」
クロヱは決起する。
「未来は誰にも渡さない。自由に飛べるその時まで、茨の道を歩み切ってやるんだ!」
ルイは覚悟する。
「吾輩は、可能性を信じてる。ちっぽけな光かもしれないが、その背中を押してやれるあったかい闇になる。夜が来なければ星は輝けないように」
ラプラスは見つめる。その闇を、彼女を。
「その思いも、丸ごと闇に葬り去ってやる。私は闇を呑む光であり、光を喰らう闇であり、全てを消し去る無であるのだから!」
浮遊する彼女は、終わらない星の軌跡をバックに手をかざした。
「もう誰も未来へは辿り着けない! 目前だ……私が見た
――
「ようこそ終幕へ、結末へ、終焉へ! 貴様らが尚も抗うと言うのなら私は魔王となり、お相手しよう……最後まで、な」
エンドロールに差し掛かり、それでも席を立たない
その姿はラプラス・ダークネスそのもの。
しかしその風貌は大人びており、背丈も本人より高く、封印の枷も見当たらない。
力を解放した……いや、己を解放させたラプラスの悪魔は、holoXの前に立ちはだかる。
――――