ホロックス・ブラック・ボックス   作:ゆっくろ❀

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鷹嶺ルイと沙花叉クロヱの苦闘

 〇△(まるヤマ)市某所――廃ビル内で発砲音が響き渡るも、外の大雨によってかき消される。

 熱い弾丸が鷹嶺の頬を掠め、汗と共に滲んだ血が頬を伝ってコンクリートに落ちた。

 

 サングラス野郎が使う二丁拳銃……FN-57の弾道はホークアイを使い、男の目を拝借してある程度わかっていた。しかしそれでも、弾を避けるなんてことはそう長々とできるものではない。いずれ集中力が切れて息の根が止まるのがオチだ。

 

「やるなァお前ら。俺ケッコー自信あるんだぜ?」

「……だろうね。そこのシャチよりいい腕してるよ」

「ちょ、ルイ姉ひどくない!? 沙花叉も自信あるもん! あいつが避けるんだよ!」

「そりゃあ避けるだろ? 当たったら死ぬぜ俺」

「だから〝避け方〟! 気付いたら消えてるなんておかしいでしょ!」

 

 そう、沙花叉や鷹嶺の放つ弾丸はこれまで一発も当たっていない。最初にサングラス男が見せた〝転移〟。これがなかなか厄介で、死角に現れては的確に撃ってくる。こちらが攻めようとすれば再びその場から消え、カウンターを喰らう。

 戦闘開始から防戦一方だ。加えて場所も悪い。ボロボロの廃ビルはコンクリートがところどころ割れており、ある箇所は体重をかければ崩れて下へ落ちてしまいそうなほどなのだ。

 

(思うように動けないし……! うあぁぁ! あのムカつくサングラス割りてぇ〜!)

 

 沙花叉はサングラス男を睨みながら拳銃を構える。

 しかし、ただ撃ってもまた避けられてしまう。それは弾の無駄使いだ。

 かといって作戦なんてものは今もお隣で思考を巡らせている女幹部様に任せているので、今の沙花叉にはどうすることもできない。

 自分に何かできれば――そんな思いが積もって、考え込んでいると……

 

「ボーッとしてると脳みそ散らすぜ」

「いつの間にッ!」

 

 すぐ隣、沙花叉と鷹嶺の間に挟まる形で現れたサングラス男は、両手の銃をそれぞれ二人に向けていた。

 直後、酷く耳障りな音が響く。至近距離での発砲……当然、避けることは困難だ。

 それでも、サングラス男の声がすると同時に咄嗟の判断で後ろへ飛び退いた二人は間一髪で急所を外させ、コンクリートの床に肩を擦らせる。

 

(射撃からラグがあって助かったか……!)

 

 腹部を掠ったらしく、衣服がじわりと血色に染まり始めたことで負傷箇所を確認した鷹嶺は、傷を押えながら立ち上がった。

 

「…………」

「どうしたよ鷹のねーちゃん。そんなに見つめちゃって」

「睨んでるんだよアホ。あとねーちゃん言うな」

「そいつァ失敬。ついクセでな」

 

 鷹嶺の思考はより早く回転する。あと少しで何かわかりそうなのだ。

 弾道予測に男の視線を拝借しているが、どこか違和感がある。

 というのも、今立っている地点から狙いを定めているはずなのに、転移後とまるで狙いが違う。

 転移しているのだから狙いが変わるのはそれはそうなのだが、それなら初めから転移後の狙撃箇所を予測して狙えばいい。転移先は鷹嶺と沙花叉にはわからないのだから。

 

(転移前は狙っているわけじゃない? 照準は初めから転移後に合わせてる? 今あいつが見てるのはなんだ。見ろ。私なら見れる。あいつが見ているものは――くそ、私も鈍ったな……そんなに血も出てないのにこの程度なんて、ラプに笑われる!)

 

 鷹嶺はさらに思考速度を上げる。ホークアイも使って、頭がスパークしそうになっていた。

 サングラス男は転移から射撃まで多少ラグがある。つまり、鷹嶺の予想通り転移後に二人のどちらかを狙う。では、転移後でなければならない理由は何か。

 転移後に狙いを定めているということは、見なくても当てられるなんていう超人的技術があるわけではない。やはり、見なければ当てられない。

 となれば、転移後と転移前の視線のズレは標的ではなく別のものを見ているということだ。

 ではなぜよそ見をするのか。その答えは――

 

「――サングラス……する必要ないよね。外曇ってるし、というか土砂降りだし」

「……へェ?」

「光を見たくないんじゃない。オシャレするって柄でもない。見られたくないんだろ、〝視線〟を」

 

 どうして見ていたのにこんな簡単なことに気付かなかったのかと、鷹嶺は内心で悔しがるが悟られぬよう押し殺す。

 そんな心の内を知る由もないサングラス男は、鷹嶺の答えに愉しそうに笑った。

 

「クハハハハ!! マジか! さっきからなんで射線わかってんのかなーって思ってはいたが、お前……やっぱり俺と同じ〝魔眼〟持ちだろ? だよなァ、そうだよなァ! そう来なくっちゃなァ鷹の眼さんよォ!!」

 

 奇しくも鷹嶺ルイのホークアイと同じ系統の能力――一般的に魔眼と呼ばれるものを男は持っている。

 太陽が出ていなくてもサングラスを着けたままである男の魔眼は、〝視線の先へ転移する〟能力だ。自由に移動できるという訳ではないらしいが、厄介なことに変わりはない。

 

「沙花叉。あいつの目を見ることに集中したい」

「えぇ!? 一人でやれ……ってコト?!」

「もう目が疲れてきてさ。大丈夫、沙花叉ならあいつともやりあえる。頑張れインターン! 昇格試験だぞ!」

「普通に信頼してるって言えばいいのに〜♪」

「こんな状況で臭いセリフ言えるか」

「臭くなぁぁぁい!!!」

 

 そういう意味じゃないだろ――鷹嶺とサングラス男は心の中でそうツッコミながらも、銃を左手に、ナイフを右手に持って突っ込んでくる沙花叉を凝視する。

 

「――沙花叉! 右!」

「おりゃあ!」

 

 右後方へ思いっきり回し蹴りをした沙花叉だったが、それはスカッと空を蹴った。

 無様に空振りキックを披露した直後に、後ろからサングラス男が蹴飛ばす。

 

「あっ、ごめん沙花叉。あいつから見たら右だけど沙花叉から見たら左だった」

「おいコラ!!」

「あぁほら右来るよ!」

「もー、今度こそっ!」

 

 沙花叉は自身の右側……ではなく、左側へ回し蹴りをし――またスカッた。

 

「なんで!!!」

 

 今度は鷹嶺が沙花叉から見た方向を言い、沙花叉は逆に鷹嶺の言葉はグラサンから見た方向だと思って、指示とは反対側へ蹴りを入れたのだ。

 恐ろしく息が合わない。

 

「さっすが芸人。この状況でコントを見せてくれるなんてなァ。これが芸人魂ってやつかなァ……」

「ちっっがうよ! なんかもういろいろ違うよ! はぁ全く……」

「お? 本気モードですかいシャチさんよォ」

 

 ツッコミに疲れてきた沙花叉は、ニタニタと笑うサングラス男を睨みつけ、呼吸を整えて仮面を被る。

 こんな調子では時間がかかりすぎて鷹嶺のホークアイが効果切れしてしまう。

 それでは困る。総帥を捜すのにまだ必要なのだ。

 

(総帥見つけて焼肉パーリー……焼肉のため……やるしかない!)

 

 holoXの掃除屋・沙花叉クロヱ。掃除屋と言っても殺人なんてしたくなかった。

 というより、これからもするつもりはない。だがそうすると手加減することになり、相手に勝てなくなってしまう。

 故に、思考の転換だ。要は無力化すればいい。

 総帥の居場所を聞き出すためにも、それが最適解だ。

 

 敵の心臓は五つあると思え。

 四肢が奴の心臓だ。奴の眼が心臓だ。

 それを刈れば、こちらの勝利。

 

「――――こっから、本気でッ!」

 

 沙花叉は足に力を込め、部屋を駆け回る。

 二人のような異能力などなくても、鍛えた体はこの場の誰よりも素早く動けた。

 そう、転移に追いつけばいいのだ。もしくは転移する前に、こちらから仕掛ければ関係ない。

 

「グハッ……ゥ……たはっ、ははは! 急に空気が変わったな! いいぞ芸人!」

 

 サングラス男の背後へ回り込んだ沙花叉が脇腹を蹴り潰すと、苦しそうに一瞬悶えるが、余計に愉しそうになった。

 内臓を抉るように蹴ったつもりだが、やはり男は只者ではない。

 

「芸人じゃない。沙花叉クロヱ! ……あんたは?」

「へェ、さっきは聞いてくれなかったのにな。聞いてくれるのか? 嬉しいねェ」

「うっさい!」

「俺は夜砥(ヤト)ナツメってんだ。《夜》の幹部長……っつっても、俺がまとめるはずの幹部はあのデケェ角のおかしなロリっ子に全滅させられたけどなァ!」

 

 サングラス男――ナツメは拳銃を両手に持ったまま、器用にリロードして言った。

 

「《夜》……? 聞いたことない組織だな」

「そりゃ即興の組織だかんなァ、考えても仕方ないぜ鷹のねーちゃん」

 

 確かに、風真を襲った剣豪は雇われのようだったし、博衣を襲ったゴロツキ集団は適当に集められたようだった。

 銃をクルクルと弄ぶナツメは、天井を見上げながら続ける。

 

「即興でも割とマトモに稼働してたつもりなんだけどなァ。早々に幹部は倒され、爺さんは満足気に逝っちまったみたいだし、あの数の男をたった一人に片付けられた……鷹のねーちゃんは俺の能力を見破った。もうお前達を侮ることはできねェ、俺達の目的の障害になりうる存在だ」

「どうしてうちの総帥を誘拐なんてしたの? ただの芸人事務所なんかに、なんでそんなに執着する」

「あいつの力を利用すれば膨大なエネルギーを手に入れられると思ってな。ただ計画に勘づかれたら困るもんで、関係者全員処分しようってわけさ。だがそんな奴がいるんだからそりゃ普通の事務所じゃないよな。当然だったよ」

 

 総帥、ラプラス・ダークネスの力は封印されている。解く方法はわからず、今もそのままだ。

 解かれることはこの先ないと思っていたが、鷹嶺は懸念している。利用しようとしているということは、その封印を解く術があるということだろう。まさかそんなことが可能だとは信じ難いことだが、万が一解放されらどんな結果になるかわからない。

 

(ラプの力が戻ったらラプ自身がどうなるか……その力を使ってこいつらは何をしようとしてるんだ……クッ、また情報量が増えた! こいつ、私の〝眼〟を削ってきてるな……)

 

 その他もろもろは後で聞き出せばいい。――鷹嶺はそうして無駄な思考を振り払い、目を見開いてホークアイに意識を集中させた。

 沙花叉もナツメの動きに警戒しつつ、拳銃をリロードしてナイフを構える。

 

「まだまだゲームは終わらせねェ。もっと愉しもうぜお嬢さん方ァ!」

 

 そしてナツメは、再び視界を飛び移るのだった。

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