ホロックス・ブラック・ボックス   作:ゆっくろ❀

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Our Bright Parade

 

 ――これは、未来を賭けた戦い。

 

 ――それは、未来を取り戻す物語。

 

 ――そして、彼女達が輝くステージ。

 

 

 ラプラス・ダークネスは指先に魔弾を作り出す。

 

「いろはぁぁぁぁ!!!」

「分かってるでござる!」

 

 呼ばれた直後に飛び出したいろは。

 二刀を振り払い、マイナスの牽制に出る。

 二本の刀で純粋な手数アップしているいろはだが、的確にバリアを張られ手こずっている様子だ。

 そんないろはに、僅かな隙を突くように、死角となった顎下で左拳を作ったマイナスはアッパーをかます。

 

「……チッ」

「そんなパンチじゃ落ちないッ!」

「だろうな。だからこそ……!」

 

 アッパーカットを交わされたマイナスは、それでも左腕を突き上げて手をめいっぱい開く。

 

「〝祟星(すいせい)終夜凍(よすがらこご)え〟――!」

 

 刹那、権能が全て解放される。

 いろはの足場は砂のように崩れ、空間が捻じ曲げられて全員空へ飛ばされた。

 

「うわぁぁぁぁ!? これ、前にも似たようなことあったぁぁぁぁ!」

 

 クロヱは腕をバタバタさせながら叫ぶが、空間から抜け出すことは出来ない。

 さらに一緒に飛び上がった瓦礫群が鋭い刃へと変化し、歪曲した空間の波に乗って魚群のようにホロックスへ向かって飛ぶ。

 

「こうなったら、爆発させて吹っ飛ばすよ!」

「ダメ、こよりっ! それもマイナスの計算内だ!」

 

 ホークアイでマイナスの様子を窺っていたルイがそう言った時には、既に液体爆薬ポーションを手にしていた。

 そして、投げようとしたその瞬間、こよりの体がピタリと硬直する。

 

「からだ、が……っ、動かない……!?」

 

 身魂掌握権能。

 動きを止められたこよりは液体爆薬を落とし、刹那――爆発。

 ピンクの髪は黒煙に呑まれた。

 

「こよちゃん!! さかまたがやらなきゃ、早く……!」

 

 空中で拳銃を構え、銃口をマイナスに向ける。

 当然だが、銃はトリガーを引けば弾が発射される。

 クロヱの銃はまだ弾数に余裕があり、無駄撃ちだろうが少しでも気を引ければラプラスが指先にチャージしている魔弾の命中率が上がるはずだ。

 そこまで考えた上での攻撃。

 焦りからの無謀な行動ではない。

 

 ――だからこそ、トリガーを引こうとした銃が()()()()()()()ことに、そして刃群が皆を呑み込んだことに悲観し、無力な自分を嘆いた。

 

 マイナスの空奏世界、ホロウソング。

 何を思ってその名を冠したのか、それは本人しか分からない。

 その力はありとあらゆるものをマイナス化させるという、まるで次元が違う超能力だ。

 

(でも……諦めるわけにはいかない……っ)

 

 銃そのものが手元から完全に消え、空になった手を握りしめる。

 浄化の魔眼を発動し続け、既にクロヱの目にはヒビが入っていた。

 だが、割れた目で見続ける。

 この絶対的な力を覆す転機を。

 この絶望的な状況を引っくり返すチャンスを。

 だってまだ、信じているから。

 諦めていないのは、私だけではないと分かっているから。

 

「私も、やらなきゃいけないんだ」

 

 荒れ狂う刃の嵐、飛び交う刃が金属音をけたたましく響かせながらホロックスを切り刻まんとするそれを、()()()()が弾き飛ばした。

 

「――ルイねぇっ!」

「だって、幹部だから! みんなを支えていくのは、私の役目だ!」

 

 ――――鷹嶺ルイ、覚醒(エクステンド)

 

「【雲外蒼天(ホークウィング)】ッ!」

 

 鷹の大翼を背に生やし、空へ飛び立つルイは歪曲した空間をものともせずに迫り来る刃を蹴散らす。

 さらにそれだけではなく、ホロックス全員が夜空に浮かび上がっていた。

 ラプラスを初め、こより、クロヱ、いろはの後ろを透き通った光の翼が支えていたのだ。

 

「……本当に、お前達は絶望に落とされるのが好きらしいな」

「落ちないよ。私の翼がみんなを支えるから」

「だがそれがどうしたと言うのだ。空を飛んだところで……空中戦なら分があるとでも?」

 

 翼もなしに浮かび上がるマイナス。

 魔法はクロヱの魔眼で封じているから、空間歪曲で擬似的に飛行を可能としているのだろう。

 

「暗がりに灯った希望に(すが)るだけでは、勇者は魔王を倒せない!」

 

 周囲に瓦礫をたゆたわせ、剣に変化させて刃先をホロックスへ向けた。

 空気に押し出されるように放たれた剣に、四人はラプラスを守るよう連携して崩していく。

 ルイは翼で薙ぎ払い、こよりは傷付きながらもクロヱのサポートをし、クロヱは無力化した剣を拾って刃と刃を交じ合わせて軌道を変え、拓けた道筋を突っ切りいろはがマイナスへ斬りかかる。

 

 相手に次の手を打たせるな。

 連携して畳み掛けろ。

 未来を取り戻す、その想いを一つにして、掴み取れ。

 ラプラスの光がより一層閃光した瞬間、いろははマイナスから距離を取る。

 

「いっけぇぇぇぇーーッッ!!!!」

 

 閃光する闇、天に煌めく星々のように輝くその弾丸がレーザーのように撃ち放たれた。

 反動、風圧で右腕が布切れのように力無く背中側へ流れる。

 

 命中したか、轟音と閃光が夜に響いた。

 

(最大出力の魔法、これが吾輩の最後の一撃だ……)

 

 黒煙が舞うなか、ホロックスは地上を見守る。

 あれだけの権能を使ったマイナスはもう消耗しているはずだ。

 だが、煙が薄れゆくとこよりの表情はみるみるうちに曇っていく。

 

「そんな……まさか……」

 

 考えてないわけではなかった。

 でも、確証がなかったので頭の隅に追いやっていた。

 マイナスの空奏世界……あれは無機物にのみ発動する限定的な消滅権能なのだと、そう結論付けていた。

 

「アぁ……計算を間違エタなァ……」

 

 煙から現れたマイナスは、体の所々に奇妙なバグエフェクトを散らしながらそう言った。

 ダメージはある。しかし、魔王は依然――――立っている。

 

「あ、当たった……? でもなんで!?」

「自分自身を消滅させたんだよ。クロたんの銃を消したように」

「で、でも消滅の意味違くない!? 居るじゃん!」

 

 そう、彼女の能力を『マイナス』としたならば、消す以外のこと……要するにプラス方向へ能力を働かせることは出来ない。

 物の召喚は出来ないはずだ。

 

「――可能かも……しれない……」

 

 こよりは呟く。

 そして、同時に最悪を予想する。

 マイナスが両手を広げ、位置情報でも狂ったかのように姿がうっすらと前後にズレていくのを見て。

 

「消シたものは、別ノ世界に現レる」

 

 マイナスは崩れゆく自身の体を眺めながら言う。

 

「要ハ……消滅や抹消の類ジゃないンだよ……。こレは単純な『転移』なんだ。この世界とは別のパラレルワールド……-1に在る世界(オルタナティブ)に干渉することで、あたかも物体を消したかのように見せることが出来る。なら、パラレルワールドの物体をこちらの世界に引っ張ってくることも可能だ」

「吾輩の攻撃を回避するために体を並行世界へ移したってのか……次元が違うにもほどだろっ!」

 

 だが、ダメージは確かにある。

 ラプラスはまだ希望を失ってはいない――と、ラプラス自身、そう思いたかった。

 

「ラプ……っ?!」

 

 ルイは途端にフラついたラプラスをホークウィングで支えて起こす。

 

「今のが最終攻撃だろう? もうお前達に打つ手はない」

 

 マイナスがそう言うや否や、パン、と溶けた手を叩くと、今度はいろはの刀が虚空へ消える。

 

「ああ……終わりだ……」

 

 天を仰ぎ、星の軌跡を瞳に映す。

 

 それは紛れもない完全勝利。

 

 もう誰も太刀打ちできない。

 

 魔王は未来を手中に収めた。

 

 

 

 ――――そんなこと、させない。

 

「…………なんだ」

 

 マイナスは違和感に気付く。

 誰も立ち向かう者など居ないはずなのに、終焉しかないはずなのに、小さな小さな……光を見た。

 小さな声だ。ただ一定のリズムを刻み、何かを口ずさんでいる。

 声の元は、倒れたスピーカーからだった。

 

『――呼び合う声を、合図に……っ!』

 

 直後、ライトアップ。

 戦場とは正反対、街の被害が少ない方角――ステージが輝いた。

 

「み、みんな! これ、これ見て! 配信してる!」

 

 こよりがホログラムで映像を映し出す。

 煌めくステージと、そこには華やかな衣装に身を包んだ()()()()が光に照らされ立っていた。

 

『Parade……parade……parade……!』

『探しにゆく……!』

『スタートは、何度だって!』

 

 音楽が暗闇を照らす。

 絶望に、希望の光を射す。

 

「そ……そら先輩……!?」

 

 誰もがその姿に釘付けになった。

 この絶望的状況で、その歌だけが響いている。

 街中のスピーカーからその歌声が響いている。

 そらだけではない。

 全員、一丸となってマイクに歌声を注いでいた。

 

「なぜ……ときのそらが……」

 

 マイナスですら驚愕し、震えていた。

 予想外の攻撃――――いや、その優しく温かい歌は攻撃とは呼べないだろう。

 だがその歌は確実に、マイナスの力を削ぎ落としていた。

 これもひとつの、知らない未来。

 

「――っ、魔力が減少している……っ! バカな……歌のひとつで絶望を塗り替えたとでも言うのか!?」

 

 突如として生配信されたその歌は、地下シェルターに逃げ込み、絶望に憂いていた人々の心に光を射していた。

 ただの歌、されど、歌は時に人の心を動かす。

 タタリビトとの戦闘で消耗していた者達も、その歌で再び立ち上がる。

 

(いまの私に出来ることを……!

 だから、諦めないで……!

 希望はまだ消えていないから!)

 

 ――歌う。未来を信じて。みんなを信じて。

 

 ホロライブ、覚醒(エクステンド)

 

 【Our Bright Parade】――――。

 

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