――鷹嶺が沙花叉の救出に向かってからしばらく。
博衣をおぶる風真は、チラチラと心配そうに顔を見つつ全速力で〝アジト〟へ向かっていた。
なぜ渡された簡易地図の目的地である廃ビルへ向かうのではなく、誰も居ないアジトへ向かっているのかと言うと……
「着いたでござるよ! 早く補充するでござる!」
「助かったよいろはちゃん。さすがに武器もなく加勢に行ってもこよじゃ力不足だしね〜」
そう、薬を使い切った博衣の武器を補充するために、一度アジトに戻ってきたのだ。
博衣は手際良く予備の試験管を取り出し、さっそく薬の調合をし始めた。
いろんな薬品の匂いが部屋に充満するなか、不意に振り返った博衣は『ツッコむべきか』と苦悩の表情で風真を見つめる。
「部屋散らかりすぎなんだけど?!」
中には博衣がまとめていた書類もあり、あとでまとめ直すのに苦労しそうだとため息を吐く。気のせいか若干の頭痛もしてきた。
「うっ、かざまも善処したでござるよ! それでも強敵だったんだから仕方ないでござる!」
「強敵って、もしかしてその折れた刀の持ち主?」
「そうでござる! とっても強かったけど、なんとか勝てたでござる!」
「すご、鏡みたいにピカピカだ〜」
「相当古い刀みたいでござるが、ここまで綺麗なのはあのおじいちゃんの手入れが行き届いていたんでござるなぁ……あ、散らかしたのはそのおじいちゃんで、風真は何も散らかしてないでござるよ?」
「はぁ……まったくも〜、だからって窓まで割れちゃって……あれ?」
無惨に破壊された窓に目をやる博衣。しかし何かがおかしいと、勘が訴えかけている。
窓が割れていることにショックでも受けたか。……いや、そこまで窓に思い入れがあるわけじゃない。
「ねえ、なんか……変わったものない?」
その訳のわからない違和感を誰かと共有したくて、博衣は希望混じりに風真に問う。
「うーん……」
風真は唸りながら冷蔵庫を空け、ペットボトルの水を飲む。
そういえば朝から何も食べてないし飲んでもおらず、喉はカラカラでお腹ぺこぺこだ。
「……あっ、牛乳の消費期限切れてるでござる! あぁ結構残ってるのに、もったいない……」
「え? それ、確か明日まで持つからルイルイがホットケーキ作るって…………まさかっ!」
そんなはずはない。有り得るはずがないなどと思いつつも、博衣は急いで自身のパソコンを開き、日付を確認した。
「11月……13日……」
「んぇ? こよちゃんのパソコン壊れてるんじゃないでござるか? 今日は11月12日のはずでござる」
「……だったら牛乳の消費期限は切れてないよ」
「あっ」
冷や汗が止まらない。なぜ気付かなかったと、博衣は〝昨日〟を思い出そうとする。
「……いろはちゃん、昨日……何してた?」
「あのおじいちゃんが来たのは11月11日……起きた時は、確かに12日だったでござる……だから、今日が12日の……はず……」
「ねぇ、外……星が見えるの気付いてる?」
「え? 星……?」
風真はなぜ星が出ているんだと疑問に思う。
朝起きて、掃除を中断し鷹嶺と合流したのが昼頃だ。その後博衣と合流し、鷹嶺は沙花叉を助けるため一足先にビルへ向かった。
アジトまで戻るのにそれなりに時間はかかるものの、まだ明るい時間のはずだ。
要するに、何に気付いたのかと言うと――
「時間が……飛んでる……」
正確には、12日の昼頃から今日の夜までの時間だ。
かなり雨が降っていたはずだが、今や止んで綺麗な星空が見える。
「こよちゃんこれ……かなりまずいのでは……」
「まずいも何もヤバすぎるよ! 敵の仕業と考えるのが自然だけど……時間停止? いやキング・クリムゾンか?!」
「落ち着くでござる! とにかくルイ姉達と合流した方がいいでござるよ!」
「そうだね……仕方ない、もったいないけど前に作った薬あらかた持っていこう」
「この際、使えるものは全て使うでござる! ナスも食べておくでござる。もしゃもしゃ」
「せめて焼きなよ……! 急いでるからいいけど!」
ナスを生食する風真を尻目に、博衣は慌ただしく調合をできる限り終え、ストックとして保存していた各種試験管を腰や白衣の裏にセットする。
「準備はいいでござるか? 早く行くでござるよ!」
「あっ、いろはちゃん! これ飲んどいて!」
博衣がそう言ってポイッと放り投げた紫色の液体が入った試験管を、風真は片手でキャッチすると液体をまじまじと眺めながら首を傾げた。
「これなんでござる?」
「憶測だけど、一応軽い対策として穴を埋めておこうと思ってね。まぁ強化薬だよ強化薬! 一本しかないから一番戦力のあるいろはちゃんが飲んでくれると助かるな〜?」
「むぅ、怪しい……あとでモフらせてくれるなら飲むでござる」
「うっ……あーもう! モフっていいからさっさと飲んで! ほら行くよ!」
「あぁ、待つでござる! ごくっ……うへぇえ!? これすっごい不味いでござる!」
「今の状況よりはまずくない!」
「うぐぅ……んぐっ、んぐっ……ぷへぁ。あ、でもなんか頭がスッキリしてきたでござる……!」
クソマズムラサキジュースを飲み干し、吐きそうな風真は博衣の後を追って外へ出る。
アジトから外へ出ても、やはりいつの間にか夜中になっていることは変わりなく、胸騒ぎは一層激しくなっていく。二人は顔を見合せ、鷹嶺のメモを頼りに廃ビルへ急いだ。
――――さあ、夜の始まりだ。