音楽チートで世に絶望していたTS少女がSIDEROSの強火追っかけになる話   作:鐘楼

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1.Don't Look Back

「新たな生を送る貴方に、一つだけ祝福を差し上げましょう」

 

悔しくて、悔しくて悔しくて。それしかないまま死んだから、願うものは決まっていた。

 

才能を。夢を勝ち取る才能を。人気になれる才能を。誰より売れる才能を。

 

「“音楽”の才能を、ください……っ!」

 

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今生を始めて15年。前世とは性別が違うことなど気にも留めなかった私は、圧倒的を超えて冒涜的なまでの音楽の才能を持って生まれたのだから、当然前世での挫折を振り切るように音楽の道を進んできた。趣味としては金のかかる部類だ。バイトもできない歳から稼ぐ必要があった私は、ネットで名声を得ることを選んだ。真っ当にクラシック奏者の道を歩む時間も惜しかったからだ。当時の私は、一刻も早く機材を揃えてこの才能を振るおうと躍起になっていたのだ。

 

まず、無料で手に入るDAWソフトを用いた個人サイトでのBGM配布。私の才能は最低限の音源しかないソフトだろうと何度でも聞いてしまいそうな神曲を作り上げ、大バズりさせた。

 

そのお金でPC、本格的なDAWソフトと人工音声ソフトウェアを手に入れた私はボーカル入りの楽曲も制作できるようになり、そこでも百発百中のヒットを飛ばした。

 

この恐るべき才能は“音楽”が関わっていれば悉く発揮されるようで、作詞作曲においても、前世の人気曲を模倣するまでもなく、最初から自分でやった方が良いものができると確信できる程に圧倒的だった。

 

楽曲の動画収入、サイトの広告費、たまに受けるサウンドクリエイターとしての依頼料で、子供の身の丈に合わない収入を得た私は、それを全て楽器集めに使った。

 

当然、演奏においても私の才能は遺憾なく発揮され、小一時間で手元を見ることもなくなった。今更自分で演奏してみた動画を上げるのも効率が悪いと思い、作曲の音源としてクオリティアップに使うだけだったが、この頃までの私はかつて「私は嫌われているのではないか」と考えかけた楽器たちがみな私の思うままになっているという事実だけで楽しんでいれたのだ。この頃は。

 

そしていよいよ、別の場所にも挑戦しようということで、前世から気に入っていたバイオリンを手に取り、コンクールに挑戦し……私は、自分が踏み躙ってきたものをその目で見た。

 

当然、同年代など相手にすらならず最優秀賞を掻っ攫った私だったが、決して、他のみんなの演奏が悪いわけではなかった。みんな、自分の努力をぶつけにきていた。そんな彼らは、私の演奏を聴き、色んな表情を見せた。燃え上がる人も聴き惚れる人もいれば、見てわかるほどに“折れた”人もいた。

 

……直視することができなかった。知っているのだ。前世の話だが、努力と共に日々を歩む苦しみと充足も、身を焦がすほどの悔しさと全てを無味に貶める挫折も、私は知っているのだ。

 

その日以来、人前で演奏することはなくなった。だが、それがきっかけで私は楽曲制作にも疑問を覚えるようになってしまった。

 

多くのミュージシャンが直面する、売れる音楽と自分の音楽の折り合い、とかそういうことでない。今の私は売れる曲も好きな曲も完璧以上に作れるし、両方を好きなだけ作っても平気な体力と引き出しもあるし、そもそも趣味を押し出した曲だろうと聴かせるだろうなという自信のような確信もあった。

 

問題は……そう、今の私は、前世で私を折ってきた数々の天才と同じように、多くの人を折っているのだ。それを気にしだして私は……初めてこの貰い物の才能が恐ろしいものだと気がついたのだ。

 

そこで、音楽家としての池揉優菜は、齢15にして、一度死んだ。

 

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弾きはしないが、外出する時はいつも愛用していたエレキバイオリンを背負うようにしている。あの才能のせいか、楽器が近くにあると身体のスペックが上がっているような気がするのだ。

 

ともかく、この日、私は野暮用で楽器を背負って新宿に来ていた。その野暮用は終わったが、帰るには少し早い。

 

当てもなく歩いていると、一つの看板で目が留まった。───ライブハウス。

 

気づけば、誘われるようにその『新宿FOLT』という箱に入っていた。自分は嫌いになってしまったけど、やはり自分は音楽が好きなのだ。

 

当日券を購入し、ぼーっとしたままドリンクを買う。ちょうど、『SIDEROS』というガールズメタルバンドが演奏を始めるところだった。

 

──そこで、私は大切なものを思い出すことになる。

 

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『SIDEROS』の……いや、あのギターボーカルの奏でる音を聴いて、確かに伝わってきた。理想の丈を。熱さを。努力と才の両方と真摯に向き合っている者の、今世で忘れかけていた何かを。

 

ライブが終わっても、私はしばらく動けないでいた。確かに未熟。このレベルのアーティストは前世でも多く見てきた。でも……なぜだろうか。今世で熱のある生演奏を正面から観たのは初めてだからだろうか。……だとしたら、雛鳥のようだな、なんて。

 

そんなことを延々と考えていたのが悪かったのだろう。

 

「あ゛っ……やべ……もう、限界……オェ」

「ちょっ……!?廣井、バカっ!」

 

なんかめちゃくちゃ酒臭いお姉さんに、思いっきり吐きかけられていた。

 

「……ふぇ?」

 

 

 

 

 

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