音楽チートで世に絶望していたTS少女がSIDEROSの強火追っかけになる話   作:鐘楼

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誠に残念なお知らせですが、原作のSIDEROS登場時期の関係上、容赦なくアニメでやっていない部分から始まります
未読でも分かるように書きますが、ネタバレダメな方は原作を買いましょう


A1.Zero

「ぼっちちゃんこれあげる」

「えっこれ……」

 

下北沢に店を構えるライブハウス、『STARRY』。最近ここに居座っている泥酔ベーシスト廣井きくりは、目をかけている陰気なジャージ姿の、ゴミ箱に入った少女に一枚の紙を差し出した。

 

そのピンク髪の少女……後藤ひとりが所属するロックバンド・『結束バンド』は、メンバー全員が揃って初めてのライブで見事成功を収めた。

 

しかし、次のライブを文化祭で行うことになり、極度のコミュ障であるひとりは今までにないほど大勢の人間の前で演奏することが怖くなり、近頃ずっと悩んでいた。

 

それを見かねた廣井は──

 

「私の今日のライブチケット。良かったら見に来なよ」

 

 

-----------

 

「志麻さん、イライザさん。これからリハーサルですか?」

「池揉……あぁ、そうしたいんだが……」

 

お金がどんどん手元に入るようになったとはいえ、私は変わらず新宿FOLTでのバイトを続けていた。今日は志麻さんや廣井さんのバンド、『SICK HACK』のライブがある日だ。

 

初めて会った日と比べて、志麻さんの私に対する口調も大分砕けたものになった。悪く言えば乱暴な口調だけど、多分こっちが素に近いんだろうし……身内認定というか、前より親しみを感じられて私は好きだ。

 

「廣井さん、来てませんよね……」

「もう遅刻だヨ!いっそユーナがリハ手伝って〜」

「あはは……仕事中なので」

 

もう一人、イギリス出身の金髪お姉さんは『SICK HACK』のギター、イライザさん。サイケロックバンドのメンバーなのにアニソンが至上と断言する自由な人だ。

 

「廣井さん、最近全然見ませんけど、どうしたんですかね?……いや、全然困ってないというか、むしろ助かってるんですけど……」

「あぁ、あいつ、最近は下北沢で結束バンドっていう池揉やSIDEROSと同年代のバンドに付きまとってるらしい……」

「そ、そうなんですか……」

 

ここ数ヶ月、廣井さんを見かけることが格段に少なくなっていた。私は特段気にしていないどころか酔っ払いを帰らせる業務がなくなって助かっているくらいなのだが、彼女を慕うヨヨコちゃんは結構気にしていた。その分、私が一緒にいると思うのだが……私じゃ、不満なのかな。

 

それはともかく、その同世代のバンドに執心らしい廣井さんが迷惑をかけていなければいいが……介抱させたり、電車賃をせがんだり、シャワーを借りたり……さすがに年下にはしないと思いたいが……いや、普通に私やヨヨコちゃんにやっていた。許すまじ。

 

そんなことを考えながら仕事をしていると、ちょうど『SICK HACK』が二人でのリハーサルを終えたぐらいだろうか、噂の廣井さんがやってきた。4人、女子高生らしい子達を連れて。

 

「銀ちゃんに池揉ちゃんおはよ〜」

「あぁ?」

 

廣井さんの呑気な声にギロ、と治安の悪い反応を返す店長。……あ、金髪の子が固まってしまった。

 

「あっお姉ちゃんに会いたい……」

「ついに伊地知先輩まで!!」

「スターリーがめずらしいだけでライブハウスの店長なんて男ばっかでしょ」

「あら〜!ゲストの子達なのね♡ごめんね〜!吉田銀次郎37歳で〜す、好きなジャンルはパンクロックよ〜」

 

確かに、初見の店長は怖いかもしれないが、それも口を開けば霧散する。現に、彼女達は見た目とのギャップに混乱しているようだ。

 

「それで〜、こっちが池揉優菜ちゃん。池揉ちゃんはね〜」

「池揉です。ここでバイトをしている者です。今日は楽しんでいってくださいね」

「へ〜、珍しいですね!私たちもライブハウスでバイトしてるんです。同じくらいの女の子がライブハウスで働いてるの、初めて見ました!私、伊地知虹夏です!こっちはぼっちちゃんです」

「…………あっあっども……」

 

さっきまでここの空気に押し潰されそうになっていた少女は、伊地知さんというらしい。親しげなのは、私が店長や集まっている他のバンドマンよりも取っ付きやすく見えるからだろうか。そして、その伊地知さんにしがみついて全く顔が見えないピンクジャージの子が推定ぼっちちゃんだろう。

 

「あの」

「!?……は、はい?」

 

急な意識外からの一声に、思わずたじろぐ。いつの間にやら移動していた青髪の子が、耳元で声をかけてきたのだ。……そこで、私は彼女に見覚えがあることに気づく。

 

「今日はライブ、しないんですか」

「あー……そんなに頻繁にはしないですよ」

 

『SICK HACK』のライブの日に受付をしたことがある少女だ。それに、私がソロでライブをした日にも居たような気がする。

 

「店員さんもバンドやってるんですか!?あ、私喜多です!」

 

喜多という少女は、人好きそうな笑顔で私に話しかける。ピンクの子とは対照的に、人に慣れていそうな少女だ。

 

「池揉ちゃんはね〜、すごいんだよぉ〜!ソロなのにノルマも余裕なんだから!」

 

でもあんまり参考にならないけどね、と付け加える廣井さんに、青髪の子を除くみんながそれぞれ驚きや興味の顔を見せるが、それもリハーサルを終えた志麻さん達の登場で中断される。

 

「廣井、遅刻するなっていつも言ってるよな」

「もうリハ終わっちゃったヨ!」

 

そのまま、志麻さん達とお客さん達が話をするのを尻目に、私は仕事に戻った。そもそも私は勤務中である。

 

後に聞く話では、彼女達が噂の結束バンドだそうだ。

 

SIDEROSと同世代のバンド。果たして新たなライバルとなり得るのかどうか、いつかこの目で確かめられる日が来るだろうか。

 

 

 

 

 

 




(新章だしオマージュバンド変えるか……)

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