音楽チートで世に絶望していたTS少女がSIDEROSの強火追っかけになる話   作:鐘楼

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A2.Pathos(前)

「でっかい……」

「うわ……めちゃくちゃ良いところじゃないすか」

 

今日は、あくびちゃんが「U7の仕事場を見てみたい」と言うので、ふーちゃんも一緒に自宅に招待した。

 

眼前には、小洒落た外観のマンション。どうしても防音は外せなかったから、防音完備で条件に合う物件を探したら、この辺りではそこそこ有名なかなりお高い場所になってしまったのだ。

 

「ふたりとも、こっちだよ」

 

エントランスを抜け、すっかり慣れた手つきでエレベーターを動かす。上昇中の独特な重力を感じていると、おそるおそるといった風に、あくびちゃんが口を開く。

 

「……あの、本当にここに一人で住んでるんですか?ご両親とかは……」

「あー……色々あってね。別居してるんだ」

 

特に配慮もせず、聞かれたことに素直に答えたのがいけなかったのか、二人の表情が固まったのを感じる。そんなに暗い話でもないのにな、と心の中で申し訳ないを感じる。

 

「あの、もしかして自分マズイ事に触れちゃいました……?」

「いや、つまんない話だよ」

 

エレベーターを降りて、自室の扉へ向かいながら、今世のことを思い返す。

 

「ちょっと……稼ぎすぎちゃってね」

 

言いながら、もうしばらく会っていない両親のことを思い出……そうとして、途中で霧散した。

 

「私がU7の活動を辞めた頃、お父さん、仕事辞めようとしてたんだって……勝手に配布サイトを有料にしようともしてたみたいで……急に活動を辞めた私に、二人は音楽活動を強要して……」

「……それで?」

「家族が煩わしくなって……今まで稼いだお金と引き換えに、別居を認めさせたんだ。もちろん、ここの家賃とか当面の生活費とかは貰ってるけど」

 

そもそも、彼らは私の音楽を……いや、『音楽』を理解していなかった。作曲も演奏も、「良かった」以外の感想を聞いたことがなかった。だから、私は彼らのことを……。

 

いや、だからか。私が彼らのことを両親として扱わなかったから、それが返ってきただけなのか。転生してから、自分の才能にしか興味がなかった私は、彼らのことを見ていなかった。私の中では「両親の愛は既に前世で受け取った」と勝手に完結させていたが、それは一体彼らにはどう見えていただろう。

 

結局、私の自業自得かと、今になって思う。

 

「……ゆーちゃん先輩!」

「ふ、ふーちゃん?」

 

そんな詮のないことをぼーっと考えていると、ふーちゃんが私の手を両手で強く掴んできた。顔が近い。金木犀を思わせる柔らかな香りが、私を現実に引き戻した。

 

「私達、ゆーちゃん先輩のこと一人にはしませんから……!」

「そ、そっか……ありがとね」

 

見れば、ふーちゃんの瞳は若干潤んでいた。少し、深刻に話しすぎたのかもしれない。もっと軽口みたいに言えば良かったかな。

 

「まぁ、うちのリーダーが決めたことなんで、嫌でも並んで見せるっすよ……っていうか先輩、それヨヨコ先輩に話したんすか?自分らが先だとまた拗ねられるんですけど」

「いや、聞かれなかったし……」

 

聞かれなかったから言っていないという私の答えに、めんどくさくなったヨヨコちゃんを幻視したのか、あくびちゃんがジト目になる。

 

確かに、言ってないけれど、ヨヨコちゃんにとって、この話はそんなに重要だろうか。私が彼女のことを知りたいと思っているのと同じくらいに、彼女も私を知りたいと、思ってくれているのだろうか。……だったら、うれしいな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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