音楽チートで世に絶望していたTS少女がSIDEROSの強火追っかけになる話   作:鐘楼

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A3.シュプリーム

「客の盛り上がり過去最高でしたね〜」

「ねぇはーちゃん」

「みんなお疲れ。最高だったよ……!」

「優菜先輩はいつもそう言ってくれるから当てになんないんすよねー」

 

ライブ終わりの新宿FOLTで、今回も最高のパフォーマンスを見せてくれたSIDEROSを褒め称える。過去の出来事の印象は薄まるものだが、それでも今回のライブは私が代役を引き受けたあの時を超えていた……と、私は思う。

 

それなのに。

 

「……」

 

横目に、腕を組んで黙りこくるヨヨコちゃんを見る。最近、彼女は機嫌が悪い。私と話している時は和らぐのだが、気がつくと元に戻っている。その原因は──

 

「さっき動画サイトみてたら新着に面白い名前のバンドあがってて──結束バンドって言うんですけど」

 

結束バンド。まさに、あの時廣井さんに連れられてきた彼女達が、ヨヨコちゃんの不機嫌の原因。

 

「バンド名は激サムだけど、意外と曲は嫌いじゃないっすね〜」

「あ、あくびちゃん……今その話は……」

「あれ、優菜先輩知ってるんすか」

「それ貸して!」

「あ〜〜」

 

そう言って、あくびちゃんからスマホを引ったくるヨヨコちゃん。実は彼女達の曲を聴いたことがない私も、横からスマホを見せてもらう。

 

画面に映るのは、まだ少し初々しさが残っている少女達。

 

悪くない。──高校生にしては。あくびちゃんの言うように、曲は良い。素晴らしいとさえ言える。が、演奏……ベースは頭ひとつ抜けているが……ドラムは画面越しでも音から緊張が伝わってくるほどに固い。ギターは……確かな努力を感じる音色だが……やはり上手いとは言えない……いや、リードギターの方は要所要所で光るところがあるか。ボーカルも……音程は捉えているが……他の音にかき消されている。声の出し方がライブを意識したものではない。

 

「……これが?」

 

ヨヨコちゃんが、冷たい声をもらす。確かに、このままではSIDEROSと並べられそうもないけど。

 

「こんな再生数100回程度のバンド聴く必要ないわよ!」

「え、そこ?」

 

ぷいっ、と顔をそっぽに向けたヨヨコちゃんの代わりに、あくびちゃんにスマホを返すと、ふーちゃんがひそひそ声で私とあくびちゃんに話しかけてくる。

 

「ヨヨコ先輩、最近機嫌悪いですねぇ……」

「なんか気に食わない人がいるみたいっすよ」

「あー……それね、正に結束バンドみたいなんだよね」

「……マジっすか?」

「マジみたい……」

「な、なんで……?」

「それが……」

 

廣井さんがいつも結束バンドの話ばかりするから拗ねてるみたい。

 

------------------

 

「SIDEROSと結束バンドがゲスト出演……!?」

「元々前座で出る予定だったバンドが出られなくなって〜」

 

12月24日……クリスマスイブに新宿FOLTで行われるSICK HACKのワンマンライブに、SIDEROSと結束バンドをゲスト出演させる。

 

廣井さんが言い出したのは、そういうことらしい。

 

「あんな無名なバンド出してもメリットなんてないです!っていうか、それなら優菜を出せば良いじゃないですか!」

「あー、池揉ちゃんはね〜」

「私は元々一曲やらせてもらう予定だったから、もう自分の枠貰ってるんだよね」

「前誘った時に『そんなことしたら廣井さんのファンみんな奪っちゃいますよ』なんて言われちゃったらね〜、出てもらうしかないよね?」

「大袈裟なことを言ったつもりはないんですけどね」

 

本当なら遠慮したいところだったのだけど、つい挑発じみた事を……というかストレートな挑発をしてしまったせいで、そのまま私も前座をやることが決定してしまったのだ。

 

私の他の前座担当のバンドがキャンセルした時も、私がその分の時間も演奏する事を打診されたが、それは丁重にお断りした。別にどんな客でも満足させてみせるが、そもそもSICK HACKの客はロックを聴きに来ているのだ。SIDEROSや結束バンドはともかく、微妙にジャンル違いの私が出張るのも違うと思う。

 

「それに大槻ちゃん、メンバー以外に友達いないし友達作るいい機会かな〜って……」

「とっ友達はいます!」

 

廣井さんの言葉にヨヨコちゃんは食い気味で反応して、指を折り数え始める。

 

「ライブに来てくれる皆……あとトゥイッターのフォロワーの一万人!……とかも入りますよね?」

「いや入らない」

 

廣井さんの無慈悲な否定に項垂れるヨヨコちゃん、でもすぐに顔を上げ、私の腕をとった。

 

「っていうか優菜がいるじゃないですか!友達!」

「……うん。私で十分だよね」

「いやぁ……池揉ちゃんはなんていうか……友達っていうか……えっと、大槻ちゃんにはもっと健全な友達が必要だと思うな〜」

 

頬を掻き、曖昧に笑いながら私を不健全呼ばわりする廣井さん。

 

「なんですか。私のどこが不健全だって言うんですか」

「え〜っと、池揉ちゃん、週一で大槻ちゃんに高いとこ奢ってるでしょ?そういうのあんまり良くないと思うんだけど……」

「なら歳下の学生にお金借りて奢らせる人は健全なんですか!?」

「あー!!じゃっそんなわけで当日よろしくね〜〜〜!」

 

私に思いっきり痛いところをつかれて、そんなセリフと共に廣井さんは去っていった。

 

……正直、この人が結束バンドにご執心だからってヨヨコちゃんがなんでそれを気にしているのか全然分かんないけど。

 

「この煎餅噛み砕けない……!」

「ふざけてんの〜?」

 

私が彼女を本調子に戻さなきゃと、ディスクを煎餅だと言って噛もうとしているヨヨコちゃんを見て、そう思った。

 

いつか、廣井さんのことを忘れさせるんだ。

 

 

 

 

 

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