音楽チートで世に絶望していたTS少女がSIDEROSの強火追っかけになる話 作:鐘楼
『次は〜 下北沢 下北沢です』
電車に揺られ、慣れない街へ赴く。隣には、いつもと違った装いのヨヨコちゃんが、不安げな顔をしていた。
「ね、ねぇ……この格好なら誰も私を大槻ヨヨコとは思わないよね……?」
「私はどんな格好でも分かるけど」
「それは……そうかもしれないけど!」
今日の彼女は、いつもの派手目なファッションから打って変わって静かな色合いの服装に加えて普段はしていない眼鏡もかけていた。『SIDEROSの大槻ヨヨコが結束バンドのライブを観に行った』という事実を知られたくないからなのだろうが、そういうところも彼女らしい。
「……結束バンド、気にしないんじゃなかったの?」
「気にしてないけど!優菜が行くって言うし……」
「ふふ、そうだね。付き合ってくれてありがとね」
元々、実際に見ないと分からないこともあるからと、いずれ結束バンドのライブを見に行こうと思っていたのだが、明らかに結束バンドが気になっているヨヨコちゃんを見て良い機会だと思い、誘うと二つ返事で一緒に行くことになった。「優菜に付き合ってあげる」みたいな返事だったけど。
そうして電車を降り、慣れない街を二人で歩き出す。『下北沢STARRY』は駅に程近いが、その短い道のりだけでも街の特色というのはあるもので、私の目には新鮮に映った。
けれど、ヨヨコちゃんはそうでもないみたいで。
「……どうしたの?」
少しの衝撃と共にふわりと好きな香りが鼻腔をくすぐったかと思えば、ヨヨコちゃんが私の腕を取って……というかしがみついていた。近い。
「慣れない場所居心地悪い……」
「急に弱気だね……」
この服装のせいだろうか。以前……彼女がバンドを始める前は今日のような服をよく着ていたと、前に聞いたことがある。そう考えると、彼女のいつものファッションは自分を勇気づけるといった意味もあるのかもしれない。
「もう、ライブに比べたら全然でしょ?それに……私もいるし」
「うん……ライブ終わったらすぐ新宿帰る……」
「えー?私はもう少しデートしてたいけどなぁ」
「で、デート……」
そんな話をしていながら歩けば、すぐにSTARRYの入口が見えてきた。受付の黒髪のお姉さんから、当日券を購入する。
「今日はどのバンド見にこられました?」
「……結束バンドです……」
「私もです」
中に入ると、すでに二十人前後の客が入っていた。失礼だけど、想像よりは多い。
「あれ〜、見たことない子たちだー!」
私とヨヨコちゃんが珍しかったのか、結束バンドのファンらしい二人組が話しかけてきた。
「あの〜今日初めてライブきた感じですか?結束バンドを見にきたんですよね?」
「名前なんて言うの〜?」
「えっっ、大つ……つっきー、です」
「何そのあだ名……!?」
私聞いたことないんだけど!
「つっきーちゃんって言うんだ!かわいい名前だね!あなたは?」
「池も……いや、えっと……ケミーです……」
「私の知らないあだ名……」
それはお互い様でしょヨヨコちゃん……いや、よく考えれば二人とも咄嗟に思いついた名前なんだろうけど。
「今度からライブ一緒に行こうよ!」
「あ、ロイン交換しよー」
その言葉に、いそいそとスマホを操作するも、「どうやるんだっけ……」とあたふたするヨヨコちゃん。それを見かねて、操作を手伝ってあげていると、思い直したようにヨヨコちゃんが口を開いた。
「いや!わっ私は別にファンじゃない……!」
「じゃあ何で今日見に来たの?」
「そっそれは……」
「……私がどうしてもって連れてきたんです。ね?」
「……そう、そうなの!」
「へぇ〜、ケミーちゃん分かってるね〜」
そうして、おそらく大学生の結束バンドファンの人達と交流していると、すぐにその時間がやってきた。
「あっ始まったよ!」
結束バンドの生ライブ。あの映像からどれだけ進歩しているか、見せてもらおう。