音楽チートで世に絶望していたTS少女がSIDEROSの強火追っかけになる話   作:鐘楼

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A4.incomplete(中)

格段に上手くなっている。彼女達の色を持った楽曲は相変わらず素晴らしいが、目を引くのはメンバーの技量が目に見えて上がっていること。ベースもドラムも、何よりもギターボーカルの子の上達は著しい。聞く話によれば、彼女はギターを始めて一年も経っていないらしいが、とてもそうとは思えなかった。……だが。

 

引きずられている。

 

一瞬、見えたこのバンドの核心に、浮かんできたのはそんな感想だった。俯きがちでピンク髪のギターの子……後藤ひとりのポテンシャルに、他のメンバーがついていけていない。いや、こんなものではないのだろう。何らかの理由で、彼女は全力を出せていない。このままでは、いずれ……実力を取り戻した後藤ひとりに他のメンバーはついていけなくなってしまうのではないか──と、そんなことを考えていると、結束バンドのライブが終わった。

 

もし本当に後藤さんの真の力に彼女達が置いていかれるとしても、それは今日明日の話ではない。私の今の結束バンドに対する評価としては……SICK HACKの前座を務めるに値すると思う。……まぁ、それを決めるのはあくまで廣井さん達なんだけど。

 

でも、さすがにSIDEROSとはまだ比べるべくもないから、ヨヨコちゃんはやっぱりまだライブに出すのは反対なのかなと、隣のヨヨコちゃんを見る。

 

「宣伝力があまりないのかな……バンド名で検索しても引っかかりにくいだろうし……」

「あれ、ヨヨコちゃん、本当にファンになったの?」

「っ!?そ、そういうわけじゃない……」

「……そっか。それで、どうだった?」

「……ゲストやるレベルには達していないと思うけど……格段に良くなってると思う」

「確かにね。お客さんは二十人くらいだけど、もっと多くてもいいくらいだよね」

「そうそう!今の時代、いい曲作ったってすぐ埋もれちゃうんだから、SNSや配信サービスはどんどん利用していかないと……」

 

言いながら、ヨヨコちゃんは手元でスマホを操作する。結束バンドのことを色んな場所で調べているんだろう。素直に言葉にはしないけど、相当に彼女達のことを気に入った…‥んだと思う。

 

「つっきーちゃん、ケミーちゃん、物販も見たら?今日やってた曲のデモCDとかいろいろあるよ!」

「へー、結構色々あるんだ……ん?」

 

物販コーナーを見ると、引っかけられた4色の結束バンド(インシュロックの方)に、果ては『メンバーの私物』と書かれたものまで置いてある。

 

「あ!新作リストバンドでてるじゃん〜」

「ただの結束バンド!」

「普通のリストバンドはライブでしか使い道ないけどこれはコード束ねたりできるしね!」

「本業はそっちでは……?」

 

そんな話をしていると、ヨヨコちゃんが小声で私に耳打ちする。

 

(ね、ねぇ……顔見られたらバレるかもしれないし、もう帰ろ……?)

(……そうだね……わっ!」

「新しいファンの子達連れてきました〜!」

「えっ、ちょ……」

 

ファンの人たちによって、不意に結束バンドのメンバー達の前に出されてしまう私たち。前に一度顔を見られている上、凝った変装をしていない私はすぐに顔を逸らす。……いや、私は別にバレても構わないんだけど。

 

ヨヨコちゃんも同じように顔を逸らすが……その目は横目で後藤さんを捉えていた。……廣井さんが一番話題に出すのが彼女だから、なのだろう。複雑だ。

 

「じゃあ私達はこれで……!」

「みんなつっきーちゃんとケミーちゃんにサイン書いてあげてよ〜」

 

ヨヨコちゃんが私を連れてすぐにこの場を離れようとするが、ファンの人に思いっきり手を掴まれて阻まれてしまう。

 

「え〜サインなんて考えてないなー」

「えっあっ私も……」

 

そう言いながら、各々サインを書くメンバー達。

 

「あっどうぞ……」

 

渡されたサインは、メンバーが有り合わせのサインを書くなかで、後藤さんのだけが異様に完成度が高かった。

 

「ちゃんと作ってるじゃん!」

「お〜、かっこいいね」

 

……後藤さんは大人しそうに見えて、一人前以上に自己顕示欲はあるらしい。

 

「あれ?何か見たことある気が」

「きっ気のせいでは」

 

そういう欲求が達者なところは、どこかヨヨコちゃんに似ているかも……と山田さんに詰め寄られるヨヨコちゃんを見ながら、ぼんやりそんなことを考えていると。

 

「みんらぁ〜」

 

とてもよく聞き慣れた声が、入口の方から聞こえてきた。

 

 

 

 

 

 

 




怪しい小説表現でも、フィーリングで伝わればまぁ良くないか
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