音楽チートで世に絶望していたTS少女がSIDEROSの強火追っかけになる話 作:鐘楼
格段に上手くなっている。彼女達の色を持った楽曲は相変わらず素晴らしいが、目を引くのはメンバーの技量が目に見えて上がっていること。ベースもドラムも、何よりもギターボーカルの子の上達は著しい。聞く話によれば、彼女はギターを始めて一年も経っていないらしいが、とてもそうとは思えなかった。……だが。
引きずられている。
一瞬、見えたこのバンドの核心に、浮かんできたのはそんな感想だった。俯きがちでピンク髪のギターの子……後藤ひとりのポテンシャルに、他のメンバーがついていけていない。いや、こんなものではないのだろう。何らかの理由で、彼女は全力を出せていない。このままでは、いずれ……実力を取り戻した後藤ひとりに他のメンバーはついていけなくなってしまうのではないか──と、そんなことを考えていると、結束バンドのライブが終わった。
もし本当に後藤さんの真の力に彼女達が置いていかれるとしても、それは今日明日の話ではない。私の今の結束バンドに対する評価としては……SICK HACKの前座を務めるに値すると思う。……まぁ、それを決めるのはあくまで廣井さん達なんだけど。
でも、さすがにSIDEROSとはまだ比べるべくもないから、ヨヨコちゃんはやっぱりまだライブに出すのは反対なのかなと、隣のヨヨコちゃんを見る。
「宣伝力があまりないのかな……バンド名で検索しても引っかかりにくいだろうし……」
「あれ、ヨヨコちゃん、本当にファンになったの?」
「っ!?そ、そういうわけじゃない……」
「……そっか。それで、どうだった?」
「……ゲストやるレベルには達していないと思うけど……格段に良くなってると思う」
「確かにね。お客さんは二十人くらいだけど、もっと多くてもいいくらいだよね」
「そうそう!今の時代、いい曲作ったってすぐ埋もれちゃうんだから、SNSや配信サービスはどんどん利用していかないと……」
言いながら、ヨヨコちゃんは手元でスマホを操作する。結束バンドのことを色んな場所で調べているんだろう。素直に言葉にはしないけど、相当に彼女達のことを気に入った…‥んだと思う。
「つっきーちゃん、ケミーちゃん、物販も見たら?今日やってた曲のデモCDとかいろいろあるよ!」
「へー、結構色々あるんだ……ん?」
物販コーナーを見ると、引っかけられた4色の結束バンド(インシュロックの方)に、果ては『メンバーの私物』と書かれたものまで置いてある。
「あ!新作リストバンドでてるじゃん〜」
「ただの結束バンド!」
「普通のリストバンドはライブでしか使い道ないけどこれはコード束ねたりできるしね!」
「本業はそっちでは……?」
そんな話をしていると、ヨヨコちゃんが小声で私に耳打ちする。
(ね、ねぇ……顔見られたらバレるかもしれないし、もう帰ろ……?)
(……そうだね……わっ!」
「新しいファンの子達連れてきました〜!」
「えっ、ちょ……」
ファンの人たちによって、不意に結束バンドのメンバー達の前に出されてしまう私たち。前に一度顔を見られている上、凝った変装をしていない私はすぐに顔を逸らす。……いや、私は別にバレても構わないんだけど。
ヨヨコちゃんも同じように顔を逸らすが……その目は横目で後藤さんを捉えていた。……廣井さんが一番話題に出すのが彼女だから、なのだろう。複雑だ。
「じゃあ私達はこれで……!」
「みんなつっきーちゃんとケミーちゃんにサイン書いてあげてよ〜」
ヨヨコちゃんが私を連れてすぐにこの場を離れようとするが、ファンの人に思いっきり手を掴まれて阻まれてしまう。
「え〜サインなんて考えてないなー」
「えっあっ私も……」
そう言いながら、各々サインを書くメンバー達。
「あっどうぞ……」
渡されたサインは、メンバーが有り合わせのサインを書くなかで、後藤さんのだけが異様に完成度が高かった。
「ちゃんと作ってるじゃん!」
「お〜、かっこいいね」
……後藤さんは大人しそうに見えて、一人前以上に自己顕示欲はあるらしい。
「あれ?何か見たことある気が」
「きっ気のせいでは」
そういう欲求が達者なところは、どこかヨヨコちゃんに似ているかも……と山田さんに詰め寄られるヨヨコちゃんを見ながら、ぼんやりそんなことを考えていると。
「みんらぁ〜」
とてもよく聞き慣れた声が、入口の方から聞こえてきた。
怪しい小説表現でも、フィーリングで伝わればまぁ良くないか