音楽チートで世に絶望していたTS少女がSIDEROSの強火追っかけになる話 作:鐘楼
「そういえばちゃんと挨拶してなかったですよね。自分、長谷川あくびです」
「私は本城楓子です」
「内田幽々です」
ライブを目前に控えた楽屋で、SIDEROSと結束バンドのメンバーが集結していた。
「結束バンドの曲、自分は好きっす!同世代のバンドと出会う機会少ないんで仲良くしましょう!」
「こちらこそ〜……メンバーの入れ替わり激しいって聞いてたから、もっと殺伐としてるのかと思ってた」
「あ〜それは……」
「結束バンド!」
実際のSIDEROSの雰囲気に拍子抜けしたらしい伊地知さんがそう言い、あくびちゃんがメンバー入れ替わりの理由を話そうとした時、当の理由であるヨヨコちゃんがそれを遮る。
「ゲストだからってシデロスと同じ土俵に立ったと思わない方がいい。言っとくけど私のトゥイッターフォロワー数は1万人だから」
「突然急カーブして謎のマウントとってきた!」
「そのくらい人を惹きつけてるって事!幕張イベントホールと同じ」
「へー」
ふんす、と誇らしげにフォロワー数を語って胸を張るヨヨコちゃん。30分に一回はフォロワーの増減を確認して一喜一憂しているくらいに、彼女はその数字を誇っている。山田さんの微塵の興味もなさそうな相槌が酷い温度差を象徴している。
「私も、イソスタなら最近人気投稿に入ったみたいで一万五千人いるんですけど……」
「なっ!?」
「喜多ちゃん武道館じゃん!」
「〜〜っ!バンドマンなら演奏技術で勝負しなきゃだめでしょーが!」
「自分から言い始めたのに!」
誇りである数字で負けて、折り返しUターンで数字の話を流すヨヨコちゃん。
「こんな感じで大槻先輩がコミュニケーション下手なので人間関係上手くいかないだけです」
「なるほど」
「すぐ吠えちゃうわんこみたいで可愛いじゃん」
「……そう見えてるのは優菜先輩だけっす」
あんまり甘やかさないでください、と言いたげな、いつもの三割増しのジト目で私を見るあくびちゃん。でも、ヨヨコちゃんを甘やかすのは私の生きがいの一つだし……。
「池揉さんはソロの人なんだよね?シデロスとは……」
「マネージャーみたいになってますけど、元は熱心なファンですよ……自分達の、というより大槻先輩の、みたいな感じしますけど」
「ちゃんとみんなのことも追ってるよ?」
私がそう訂正すると、あくびちゃんは顔を背けて少し黙り、話題を変えた。
「……というか、先輩達二人で結束バンドのライブ行ってたんすよね……失礼がなかったらいいんですけど」
「あー……ヨヨコちゃんはピリピリしてたねぇ」
「いや池揉さんも……」
伊地知さんのジト目が私を刺す。あれ、あの日の私ってそんな目で見られるようなことしたかな……?流石にヨヨコちゃんのように真正面から喧嘩を売った覚えはないし、むしろフォローした記憶があるんだけど……。
「……あー、なるほど……」
「……無自覚なんだよね?」
「配慮がゼロか百かの人なんですよ……」
うちの先輩達が迷惑かけてほんとすみません、と言って、ぺこりと頭を下げるあくびちゃん。全然気にしてないよ、と慌てる伊地知さん。二人の間に、何故だか親近感のようなものが湧いているようにも見えた。なぜ……。
「ドーム2個分!?」
その時、ヨヨコちゃんの血を吐くような叫びが響いた。
「なになに?」
「すごいですよ〜、ぼっちさんのネットの別名義なんですって!」
ふーちゃんが見せてくれたスマホの画面には、“guitarhero”というチャンネルが映っていた。
「お〜、再生回数えぐいっすね」
あくびちゃんの言う通り、伸びているものでは相当な再生数を稼いでいた。見たところ全て普通のギターカバーをひたすら投稿しているようだが……それだけでここまで来れるのはかなり凄いこと……だと思う。私はあんまり数字に詳しくないからはっきりとは言えないけど。登録者も十万人超え……ヨヨコちゃんがダメージを受けたのはこのせいか。私の時も大分引きずってたし。
そうして画面をスクロールしていると、一つの動画で目が留まる。
「あ、一番伸びてるこれ、私の……」
「優菜先輩!そろそろ始まりますよ!トップバッターですよね?」
「あ……うん!すぐ準備するね!」
後藤さん、私の曲も弾いてるんだ。と、久々に自分の影響力の一端を感じながら、私は楽器を手に取った。