音楽チートで世に絶望していたTS少女がSIDEROSの強火追っかけになる話   作:鐘楼

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A7.Relief

「ふ〜」

「お疲れ様です!ゆーちゃん先輩、やっぱりすごかったです!」

「ありがとふーちゃん」

 

自分の演奏を終えて、楽屋に戻ってきた。ステージには入れ替わりで結束バンドが立つ。軽く準備を終えたらMCを始めるだろう。……初めての箱でのMCは大変勇気がいるだろうが、頑張ってほしい。

 

「敵にアドバイスして何やってんだろ私……」

 

ぶつぶつと、ヨヨコちゃんが何か呟いている声。見れば、ヨヨコちゃんは隅でスマホをいじりながら萎れていた。

 

「……どうしたの?」

「ヨヨコ先輩、結束バンドのみなさんにアドバイスしてたんすよ」

「へ〜、偉いねぇ」

「でもやっぱりぼっちさんの数字を気にしてたみたいであれっす」

「あ〜」

 

ヨヨコちゃんのスマホを覗いてみると、たしかに『ギターヒーロー』について色々と調べてるみたいだった。

 

「後藤ひとり何者?十万って……で、でも優菜はその50倍だし……」

「ヨヨコ先輩、さすがに人の数字を借りるのはどうかと思うっす」

 

そんなやりとりを聞きながら、私もギターヒーローの適当な動画を一本、イヤホンで聴いてみることにする。結束バンドのMCが終わるまでに、一本くらいは見られるだろう。

 

「上手い……」

 

これは確かに後藤ひとりの演奏であると、所々のクセで分かる……が、普段の彼女とはレベルが違う。初めて生で結束バンドの演奏を見た時の、あの直感……後藤ひとりは本気を出せていないという私の直感は正しかったようだ。

 

やがて、結束バンドの演奏が始まるので、イヤホンを外してそちらに集中する。結束バンドは着実に成長している。それはすぐに分かった……が、後藤ひとりに限って言えば……やはりまだ、ギターヒーローの姿とは程遠いと感じた。

 

------------------

 

「「「「「メリークリスマス!」」」」」

 

グラスが当たる音と共に、そんな陽気な声が響き渡る。

 

「今日はStarryクリスマスパーティに集まって頂きありがとうございます!司会進行は伊地知と喜多が務めさせていただきます!」

「短い間ですが皆さん楽しんでくださーい!」

 

だが、そんな明るい雰囲気とは対照的に、私のいる場所の空気はあまりに暗かった。

 

「……クリスマスって誰かを弔う日でしたっけ?」

「逆のはずだけど」

 

伊地知さんと喜多さんが私達のテーブルを見ながらそんなことを話す。こちら側には私、ヨヨコちゃん、後藤さん、山田さんが座り、先程から一言も言葉が交わされていないくらいには空気が死んでいた。何故かポテトの減り方が異常だ。

 

ヨヨコちゃんは3人以上の集まりが苦手だから、無理に来なくてもよかったと思うんだけど、SIDEROSの皆が当然行く空気だったから流されちゃったんだろう。今もポテトを口に運びながらこの空気に耐えかねているように見える。こうなるんだったら、私が先に誘って二人きりになった方が良かったかも……クリスマスだし。

 

「……あれ?こんな所にトゥイッチが落ちてる。暇だし4人でゲームでもする?」

「いやいい」

 

痺れを切らしたヨヨコちゃんが、びっくりするくらいの棒読みでゲーム機を取り出し、不自然な流れで皆を誘うが、山田さんに見もせずあしらわれる。悲しすぎる……ちなみにあのゲーム機はさっき買ってきたものだ。後で私がいくらでも遊んであげよう。

 

「あっリョウ先輩は一人が好きな人で……あっ気にしなくて大丈夫ですよ……」

 

オロオロと、無言で怒りに震えるヨヨコちゃんを慣れなさそうにフォローする後藤さん。耐えかねていたのは彼女も同じだったのか、助けを求めるように私の方に俯きがちな顔を向けた。

 

「あっあの……池揉さん、凄いバイオリニストだったんですね……その……えと……」

「……ふふっ、ありがと」

「いや、優菜は……」

 

言いかけるヨヨコちゃんを手で制して、私は後藤さんの顔を覗き込む。全然目が合わないのはともかく、彼女には聞きたい事があるし、ちょうどいい機会だ。

 

「……ねぇひとりちゃん」

「ひゃいっ!?な……なんですか?」

「ひとりちゃんはギターヒーローなんだよね?」

 

……勢い余って仕事口調が剥がれたどころか名前呼びしてしまったが、まぁライブは終わったし、彼女は歳下だしセーフだろう。

 

「あっ……はい、で、でも私人見知りで……だからバンドだと上手く合わせられなくて……いっ今の私なんて全然ヒーローじゃないですよねすみません!」

「まだ何も言ってないけど……でも、どんどん良くなってるし、すごいじゃん。性格由来の欠点は、愚直に練習すれば治るものじゃないしね」

「……!」

 

私が褒めると、ニマァと表情が崩れるひとりちゃん。……若干顔の輪郭まで崩れている気がする。バンドマンとして心配になるくらいに気弱そうだけど、承認欲求が高じてバンドしてるタイプなのかな。ヨヨコちゃんみたいに。

 

「そっそう!演奏の出来と客の盛り上がりは関係ないから!」

 

そのヨヨコちゃんが、立ち上がって虹夏さんのフォローをしていた。あくびちゃんによると、結束バンドの出番前に「大丈夫!」と背中を押したらしいから、思うより盛り上がらなかったのが気まずいんだろう。

 

「でも本当に感謝しかないから。今の結束バンドが絶対出られないような場所でさせてもらったし……大人数の前でのライブの経験も積めたし、あとは曲数増やして練習をかさねるだけだね!」

「はい!」

「何かあるんすか?」

「未確認ライオットってフェスに出ようと思ってて……」

 

そんな会話を聞いて、何か考え込むヨヨコちゃん。それに流されたのか、私も昨日ヨヨコちゃんに言われたことを考える。

 

(『U7も含めて優菜の実力』か……)

 

その後も、雪まみれの廣井さんが乱入したりもしたけど、私はあまり集中できなかった。

 

---------

 

 

「結束バンド!」

 

パーティもお開きになった帰り道、ヨヨコちゃんが高らかに宣言する。

 

「私たちも未確認ライオット出場するから!今決めた!」

「えっ!?」

「書類選考で落ちるなんてダサい事されたくないし改善点まとめてあげたから!ありがたく読めば?」

「マネージャーですか?」

 

宣言したかと思えば、さっきいそいそと書き込んでいたメモを虹夏さんに渡すヨヨコちゃん。変なところでお節介なのだ。

 

「私ら聞いてないんすけど」

「相談はちゃんとしましょうよ!」

「あっ出ても……いいですか……?」

「イマイチ決まらない……」

 

そういう所で皆やめてくんですよ!、とふーちゃんに言われ、気まずそうに確認をとるヨヨコちゃん。

 

そんな彼女を見て、私も決めた。

 

結束バンドと別れた帰り道、私はおもむろに口を開く。

 

「ねぇヨヨコちゃん」

「なに?」

「もし未確認ライオットで、SIDEROSがグランプリ獲ったらさ」

 

立ち止まり、しっかりとヨヨコちゃんを見据える。息を吸って、その言葉を紡ぐ。

 

「U7の名前で集客して、ライブするよ」

「……っ!それって……!」

「まじすか」

 

それが……私とヨヨコちゃんにとって、その言葉が意味することは……私が、SIDEROSをU7の名前を含めた全力を以って挑むべきライバルだと認めるということ。

 

「あとボーカルも解禁するし、演奏動画とかもやってみようかな」

「結構飛ばしますね……」

 

そんな私の宣言に、ヨヨコちゃんは。

 

「なら、今から準備しておけば?なんたって……私達は絶対一番になるんだから!」

 

今日一番の笑顔で、そう言い切った。

 

 

 

 

 

 

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