音楽チートで世に絶望していたTS少女がSIDEROSの強火追っかけになる話   作:鐘楼

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A8.RAINBOW(後)

「あの……池揉さんって、バイオリンの人、ですよね……?」

「ライブだとそうだね。でも、今度ステージで歌う機会がありそうだから、軽く練習してるんだ」

「練、習……」

 

私が歌い終えると、なぜか二人の空気がおかしかった。喜多ちゃんの疑問に正直に答えると、前に会った時の底抜けの明るさは鳴りを潜め、俯いてしまった。横のひとりちゃんは何を言っていいのか分からないのか挙動不審だ。変な顔してる。

 

そんな空気を読むはずもなく、予約された曲が始まる。喜多ちゃんの番だ。ひとりちゃんは歌わないらしい。

 

マイクを持ってからも、喜多ちゃんの顔はどこか暗い。これは……私のせいか。

 

折ってしまったかもしれないと、久々に感じる罪悪感。私は、ヨヨコちゃんが見てくれる限り、もう自分を抑えることはしないと決めたとはいえ、さすがに迂闊だったかもしれない。

 

やがて、喜多ちゃんが歌い終わると、ヨヨコちゃんが口を開いた。

 

「……もしかして、今日はただ遊びに来ただけじゃないの?」

「実は練習に……」

 

暗い顔の喜多ちゃんが言うには、結束バンドのMVを何度も聴いているうちに、自分の声に違和感を覚えて、それで練習を重ねるべくひとりちゃんを連れてカラオケに来たらしい。

 

「……聞き返してるうちに違和感覚えて自信なくなっちゃって……でも何がダメなのかよく分からなくて」

「とりあえずもう少しお腹から声出したら?」

 

悩める喜多ちゃんに、ヨヨコちゃんは一切の遠慮なく言葉を続ける。……こういう時、ヨヨコちゃんはとりあえず現状の欠点をオブラートなしで言い放つ。無論、後でフォローも入れるつもりなのだろうが、そういうところで嘗てのバンドメンバーを失ってきたというのは否定できない。肝心のフォローも、ヨヨコちゃんなりの、が頭につくわけだし。

 

「あとカラオケが上手いからってレコーディングやライブも上手いとは限らない。カラオケ感覚でやってたら変なのは当然でしょ」

 

ヨヨコちゃんの言葉は、全て正しい。ライブとカラオケでは、喉の使い方が違うのだ。フロントマンとして、Aメロだろうがサビだろうがほとんどマックスの声量で歌わなければならない。当然、喉で声を出していてはやっていられない。あと、カラオケ気分で歌うボーカルは仲間の音を聴けていない……聴けるだけの耳を持っていないことが多い。それでは周りに合わせられずに歌声が突っ走る。まぁ、前のライブを見るところ、喜多ちゃんは合わせるのが抜群に上手いのでそこは問題ないだろうけど。

 

「バンドのボーカルはフロントマンだから、音程が合ってればそれでいいってわけじゃない。……まぁ、今の貴方には結束バンドのボーカルである必然性は感じられないわね。少し歌える程度じゃ……」

「……」

 

……まぁ、これを前置きのつもりで言っているにしても、やっぱり言い方はキツいものがある。今まさに悩んでいる喜多ちゃんには相当くるものがあるだろう。私はヨヨコちゃんのことを分かってるから全然気にしないけど、やっぱりちょっと注意した方がいいのかな。

 

「あっあの!!」

 

だが、私がやんわり口を挟もうとする前に、ひとりちゃんが立ち上がり、聞いたことのない大声を出していた。

 

「いっ言ってることは正しいのかもしれないけど……喜多ちゃんじゃなくていいなんて事はない……です!」

「ひとりちゃん……」

 

付き合いの短い私でも分かる、彼女は普通こんなことをするタイプではなく、相当勇気を出したんだろう。喜多ちゃんのために。

 

「私頑張るから!」

「あっはい……」

「ひとりちゃん、かっこいいところあるんだねぇ」

「そうなんですよ!」

「わっ」

 

なにか変なスイッチを押してしまったのか、矢継ぎ早に“カッコいいひとりちゃん”を語り始める喜多ちゃん。なんであれ、ひとりちゃんのおかげですっかり本調子だ。よかったよかった。

 

……それとは対照的に、ヨヨコちゃんは苦い顔をしている。あそこからアドバイスをするつもりだったのを遮られてしまったからだろう。ここはフォローしてあげよう。

 

「と、ともかく!喜多ちゃんはライブの経験少ないんでしょ? だったらライブ向きの声の出し方なんて知らないのも無理ないし、ヨヨコちゃんの言う通り、お腹を意識するのと、喉をもう少し開けるのを心がけて練習するのがいいと思う。それで大分変わるんじゃないかな」

「……はい! 参考になります!」

「……その優菜は初めてのボーカルで私の代役を完璧に果たしたわけだけど」

「……まぁ私のことは置いておいてね」

 

真っ当にアドバイスをしてみると、ヨヨコちゃんにジト目で口を挟まれ、半ば無理やり話を流す。さすがに私の話はノイズになってしまうだろう。

 

「……あー……私、昔から人に合わせるのが苦手で……中学の頃は浮いてて……曲作りを始めた時はその時の苛立ちとかを歌詞に込めてたの」

 

彼女なりのアドバイスをするのだろう、ヨヨコちゃんは辿々しく、けれど率直な思いを口にしだす。

 

「そういう曲って、凄く気持ちを乗せて歌えた……貴方も技術的な事だけじゃなくて、自分たちの曲がどういうものか、もう少し歌の内面的な所も考えてみたら?」

「大槻さんって優しいのね……」

「貴方達があっさり審査落ちたら姐さんが面倒なの!」

 

私はキライ!と突っぱねるヨヨコちゃんと、目を輝かせる喜多ちゃん。最後は素直になれなかったけど、とても良いアドバイスだ。

 

「結束バンドの曲って、作詞はひとりちゃんだよね?」

「えっ……あっはい……」

「よく分かりましたね!」

「なんとなくねー、じゃあ、ひとりちゃんが喜多ちゃんに歌詞の意図とか解説してあげればいいんだ」

「え゛っ」

 

私の言葉に、喜多ちゃんは目を輝かせてひとりちゃんに迫る。

 

「とってもいいアイデアね! ひとりちゃん、色んなお話聞きたいから、今週末お家に泊まらせて!」

 

キターン!なんて幻聴が聞こえてきそうな笑顔で、そう言った。ちなみにひとりちゃんの方はめちゃくちゃ嫌そうだった。断れないみたいだけど。

 

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解散して、二人と別れて、ヨヨコちゃんとの帰り道。

 

「……良いね〜、仲間ってかんじで……結束バンド、良いバンドだね」

「……そ、それなら……わっ私と優菜も……仲間みたいなものだし……だから……」

「……私が悩んだら、元気づけてくれるの?」

 

私のその言葉に、ヨヨコちゃんは表情を変えて一度黙った。

 

「……優菜はもう、悩まないかもね」

「あの時ヨヨコちゃんに背中を押してもらったばっかりだからね……だから、次にヨヨコちゃんに勇気を貰う機会があるとしたら……」

 

立ち止まり、しっかりとヨヨコちゃんと向き合い、言葉を紡ぐ。まるで宣戦布告のように。

 

「それは、ヨヨコちゃんが私を倒してからのお楽しみだね?」

「望むところ」

 

駅へ向かう道のりで、私たちはそんなことを話した。

 

「あっ、でもヨヨコちゃんが悩んだ時は私が年中二十四時間いつでも支えになるからね!」

「よ、余計なお世話……ではないかもしれないけど……!」

 

余談だが、今日この後私の曲の扱いについて調べたところ、動画サイトに二次利用動画は結構あった。どうやら一度も申し立てがないからなあなあになっているらしい。とりあえず、急いでチャンネル説明のところに動画サイト内での二次利用許可の旨を追加した。これがまぁ穏便だろう、多分。正直私の下位互換の動画がどれだけ増えても気にならないし。

 

あ、それで著作権管理の委託……は、後でやろう、後で。そんなに急ぎではないだろう……。

 




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