音楽チートで世に絶望していたTS少女がSIDEROSの強火追っかけになる話   作:鐘楼

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A10.SHOCK(後)

「いやいや、ありえないでしょ!だってU7の活動開始って10年くらい前……!その時あんたは」

「7歳でしたね。最初はタブレットについてたソフトで作曲してたんですよ」

「な……」

 

未だ信じられていないらしいぽいずんさんが、再びフリーズする。確かに、自分でも常軌を逸しているとは思うけど、本当のことだから仕方がない。

 

何回かさっきみたいなやり取りを繰り返した後、ぽいずんさんは何とか自身の中でU7の正体を受け止め、落ち着きを取り戻した。まぁ、そもそも確固たる証拠があるわけだし。

 

「……それにしても、意外ね。U7がバイオリニストだったなんて」

「私、弾けない楽器の方が少ないですよ」

「はぁ……?」

 

いや、まだ落ち着きは取り戻せていなかったようだ。またぽいずんさんが固まってしまった。

 

「……まさか、あのU7がこんなのだなんて……」

「なんかすみません」

「っていうか、あたしライターなんだけど。話して良かったの?」

「まぁ、記事になるほど大袈裟な秘密じゃないと思うので」

「そう思ってるの世界であんただけよ!」

 

いかにも頭が痛いという風に、こめかみを押さえるぽいずんさん。そんなに深刻な話でもないと思うのだが、気負いすぎではないだろうか。

 

「それで、記事にするんですか?」

「…………できないわよ」

「できない?」

 

私の聞き返しに答える代わりに、ぽいずんさんはスマホを操作してある画面を見せつける。そこには、『U7 正体』というワードでの検索結果が映っていて、相当な件数がヒットしていた。目立つのは過激な見出しのネット記事で……もちろん、全て心当たりがない。

 

「U7の正体なんてネタ、出尽くしてるの。知らないだろうけど、あんたの偽物、何度も出てきては炎上してるんだから」

「そうなんですか」

 

つまり、私の正体についての記事はセンセーショナルではあるものの、似たような記事が大量に存在する上、偽物だらけで読む側も食傷気味だから大した旨味がないと。

 

「証拠だってさっきの画面だけだし、そもそもあたし、ライターとしての信用が……あ、さっきのスクショして送ってくれたりは……」

「いや、記事にして欲しいわけじゃないので」

「だよねー……」

 

目に見えて落胆するぽいずんさん。「こんなネタが降ってくるならPV稼ぎのクソ記事なんて書かずにライターとして信頼を築いておくんだった……」なんて呟いている。この人、そんなに悪名高いライターだったのか。

 

「……はぁ、なんかさっきまでの話全部吹っ飛んだから、最初から話して欲しいんだけど」

「だから、もし未確認ライオットでSIDEROSが優勝したら、U7の名前でライブをするんです。FOLTで」

 

私が改めてそう言うと、ぽいずんさんは今日何度目かのフリーズに見舞われた。

 

「……ちょっと待って。U7の初ライブを、一介のライブハウスでやるつもりなの……?」

「そうですけど」

「ちょ、それは……チケットとかって……」

「え? いつも通りで……あ、常連さんを優先するかもしれませんね」

「あ、あたしの分も! 告知する前に買わせてくださいお願いします!」

「いや、まだやると決まったわけじゃ……」

「決まったらでいいから!」

 

固まったかと思えば、何か焦った様子のぽいずんさんに押され気味になる。まだやると決まったわけじゃないライブに、必死になりすぎではないだろうか。

 

「……っていうか、他人のフェスなんて関係なくやりなさいよ、ライブ」

「いや、これは約束なので……それに、ぽいずんさん風に言うと、私“ガチじゃない”ので」

「あんたよりガチにならなきゃいけない人間は音楽界に存在しないんだけど……?」

 

頭痛が増したのか、眉間を押さえていたぽいずんさんはふーっ、と息を吐くと、意を決した顔で私の方を向き、口を開いた。

 

「結束バンドにあんなこと言った手前、言い辛いけど……やっぱり言うべきだと思ったから言わせてもらう。……あんたは、U7はこんなところでアマチュアと遊んでいていい人じゃない。今すぐメジャーで、誰津や腱ドロを相手にしていくべきだと思う」

「……」

 

つまりは、ライブハウスで半ば遊びのライブをしている場合じゃなく、U7にはもっと相応しい場所があると、そういうことか。残念ながら、今の私にはその気がないというだけの話ではあるが。

 

けれど、ヨヨコちゃんは私がU7を含めた全てを以て活動することを望んでいる。もしSIDEROSが優勝してライブをすることになっても、まだ私はFOLTから出ようとはしないだろう。それは、ぽいずんさん的には怠慢と映るかもしれないが……やはり要らぬ心配だ。

 

「活動する場所は、そんなに問題じゃないと思いますよ。だって──」

 

私が、持てるあらゆる力を使って全力のライブをする。それならば。

 

「私が立つ場所が、メジャーになりますので」

「────前言撤回。やっぱあんたU7だわ」

 

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「……ところで、なんであんたの曲って有名所で配信されてないの?」

「あー、なんか面倒で……必要あります?」

「あるに決まってるでしょ……じゃ、じゃあ著作権管理を委託してないのは……」

「申請しようしようとは思ってるんですけど……ついつい……」

「J◯SRACに書類送るだけでしょーが! そんな適当な理由で配信してないって知られたらあんたのファン卒倒よ!」

「えー……そんなにですか?」

「当たり前でしょ! さっきのファンとしての心情みたいな話はなんだったのよ! あんたが一番ファンのこと考えてないじゃない!」

「えー、まぁ私のことは良くないですか」

「良くないわ!」

 

……その後、ぽいずんさんは親身に書類やら配信・サブスクサービスへの申請を手伝ってくれた。U7の曲は多すぎてめちゃくちゃ大変だった。悪かったのでバイト代を払った。

 

 

 




※日本のメジャー・インディーズには明確な定義があります
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