音楽チートで世に絶望していたTS少女がSIDEROSの強火追っかけになる話   作:鐘楼

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3.雨上がりに咲く花

……この子、めちゃくちゃかわいいな。 なんて、はしゃいでる彼女を見ながら、私はぼんやりそんなことを考えていた。

 

「……ま、まぁ?こんなものかしら」

「凄い。ただ点数が高いだけじゃなくて、聴いてる人にメッセージを強く伝える力がある歌だった。声も芯から出てるし、普段からライブでバンドを引っ張ることを意識してるのが分かるよ」

「そ、そう?……ふーん、よく分かってるじゃない……」

 

今日、私は友達として大槻さんとカラオケに来ていた。よく一人で来ているようだが、それだけに内心浮かれているのがよく伝わってくる。

 

この前に連絡先を手に入れていたおかげで、この機会にありつけた。テストについての相談という目的で彼女を誘ったのだが、好意的に……というか食い気味で誘いに乗ってくれたのだ。

 

……やはり、私は彼女のバンドには入れない。今日は、それを伝える為の場所だ。

 

「ね、ねぇ?貴方も……ゆ、優菜も何か入れていいのよ?」

「……あー、私は良いかな。それより、もっと大槻さんのかっこいいところが見たいよ」

「そ、そう……?なら仕方ないわね……ふふ」

 

……当然、忌々しい私の才能は、歌唱もカバーしている。今世では自分の声を売り出した活動はしていないが、それは前世では歌とあまり縁がなかった名残だ。その気になれば、歌でも頂点を取れる。……だからこそ、彼女の前で歌いたくはない。

 

そのまま、大槻さんが歌い、私がただ褒めるという時間が続いた。なかなか素直に喜んではくれないが、嬉しいのが表情によく出てくるので、褒めがいがあって楽しい人だなと思う。今世で友達は作ってこなかったので、新鮮さも効いているのだろうか。……前世でも友人は少なかったし、その説はありうる。

 

「た、たまにはヒトカラじゃないのも良いものね……」

「他に一緒に来る人いないの?」

 

ピシリ、と大槻さんの表情が強張る。あんまり触れられたくないところだっただろうか。

 

「……うん。前のバンドメンバーも、なぜか私を誘ってくれないし……」

 

自分で誘ってたわけじゃないんだ……。

 

「仲良くしてくれるのは、廣井姐さんだけで……」

「廣井さんと仲良いんだ?」

「そ、そうなの!シャワーも貸してあげてるし!金欠で食べれない時はいつも私を頼ってくれるんだから……!」

「……え、えぇ……?それは仲が良いっていうか……その……」

「?」

 

……ダメだ。本気であの泥酔ベーシストのことを慕っているのだと、大槻さんの目が語っている。それにケチをつけることは、私にはできなかった。

 

「でも!これからは優菜がいるし……貴方がバンドに入ってくれれば……」

「……あー、その」

 

今だ。今、言わなければならない。

 

「……ごめんなさい。やっぱり私、大槻さんのバンドには入れないよ」

「…………そう……ま、まぁ……無理強いはできないしね……」

 

明らかに、気落ちした表情を見せる大槻さん。慌てて口を開く。

 

「で、でもね!私、前のSIDEROSのライブで、本当に感動したんだ。……だから、ずっと応援してる。大槻さんが一番になるまで、ずっと!」

「ほ、ほんと……?」

「そ、それに……大槻さんってオリジナル曲も作ってるんでしょ?実は私、そっちの方が専門だったりするから……いつでも相談に乗るよ」

 

……今更、ただのファンとバンドマンには戻りたくなかった。だから、作曲の相談をする相手としてのポジションを望む。……それくらいなら、良いだろう。

 

「そうなの……?じゃ、じゃあ……たまに頼らせて貰うわね……たまに……」

 

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それから、数ヶ月間、新たなバンドメンバーが見つかるまでの間、全くたまにではない頻度で私と大槻さんは会うようになった。

 

曲のアドバイスも、私が的確に、彼女の個性を尊重する助言をするものだから、彼女も私を有用だと思ってくれた……こともあるだろうが、きっと根本的に寂しがり屋なんだと思う。

 

「……ねぇ、貴方、本当に作曲は趣味止まりなの?それにしてはあまりにも……」

「い、いやその……まぐれだよ……」

 

『U7』。名前をもじっただけの活動名だが、動画サイトのチャンネル登録者数は500万ほどの、私の作曲家としての一面。もう更新しなくなってしまったが……当然、これも彼女には知られたくない。だって、大槻さんは何故だか数字へのこだわりが強く、前もトゥイッターのフォロワーとやらが五千の大台を超えたと自慢げに見せてきたのだ。

 

もちろん私の技量が露見してしまうというのもあるが……彼女が私の500万という数字を見たらと思うと、見せる気もなくなるというものだ。

 

そんなこんなで、私は新たなSIDEROSバンドメンバーが集まるまで、彼女を支え続けた。そして、今。

 

新生SIDEROS初ライブが始まろうとしていた。

 

当然私は最前列。何故か隣に陣取っている廣井さんも気にならず、前世含めても今までないくらいにワクワクしていた。

 

的確に、完璧に音を叩き、それでいて強烈に響くドラムは、長谷川あくびちゃん。大槻さんに付き合うよりも一人でゲームをしたいらしく、よく私に大槻さんを押しつけてくる困った子だ。私は全然構わないんだけど。

 

大槻さんにも負けない熱を持ったギター、本城楓子ちゃん。ふわふわした子で、私とも仲良くしてくれる良い子だ。

 

バンドの全てをまとめ、全体をまとめる技量を持つベース、内田幽々ちゃん。オカルティックなものが好きな不思議な子だけど、そもそもオカルトな方法で才能を手に入れた私はすんなりと受け入れられたから、よく話を聞いてあげたんだけど……多分、ちょっとは仲良くなれたと思う。

 

ともかく、その夢のようなライブはあっという間にすぎて……

 

全てのセットリストが終わって……あの日と同じように、私はしばらく動けなかった。でも、前とは違って……この日私は確かに、伝説が始まる音を聞いた。

 

 

 

 

 

 




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